TOYOTA GAZOO Racingは、2017年のFIA世界耐久選手権(WEC)を戦う、全面改良したTS050 HYBRIDを発表した。
3月31日、北イタリアのモンツァ・サーキットにおいて、2017年を戦う改良型TS050 HYBRIDが、チームの代表者と、今季3台のTS050 HYBRIDをドライブするドライバーによって紹介された。
今季のTOYOTA GAZOO Racingは、マイク・コンウェイ、小林可夢偉、ホセ・マリア・ロペスの3名が#7号車、セバスチャン・ブエミ、アンソニー・デビッドソン、中嶋一貴の3名が#8号車でWECのフルシーズンを戦い、ステファン・サラザンと、新たに加わる国本雄資、ニコラス・ラピエールの3名が駆る#9号車が第2戦スパ・フランコルシャン6時間と第3戦ル・マン24時間レースに参戦する。
チームの最大の目標は明確であり、2016年にあと一歩というところで逃がしたル・マン24時間レースの勝利だ。そのために、トヨタ東富士研究所とケルンのトヨタモータースポーツGmbH(TMG)の技術陣が一丸となって開発を進め、TS050 HYBRIDのあらゆるコンポーネントに至る全面改良が進められた。
2017年仕様のTS050 HYBRIDは改良設計された2.4リッターV6ツインターボ過給ガソリンエンジンに、8MJ対応のハイブリッド・システムを組み合わせる構成。東富士研究所によって開発された新型エンジンは、最適化された燃焼室に伴い、シリンダーブロック、シリンダーヘッドなどの主要部品を全面改良し、圧縮比が高められ、更なる熱効率の向上が図られている。
加えて、ターボチャージャーのサイズ見直しと共にインペラ形状が改良され、応答性と過渡特性の改善によってターボラグは減少。また、インタークーラーは、熱効率の改良により、高温域での性能が向上された。
ハイブリッド・システムもまた全面改良された。モーター/ジェネレーターユニット(MGU)は更に小型化され、改良された高出力型リチウムイオン・バッテリーと共に軽量化にも貢献している。こうして進化した高度なハイブリッド技術は、市販車にフィードバックされ、一般のお客様へ展開されると共に、将来にわたっての「もっといいクルマづくり」に繋げられる。
更に、競争力向上を果たすべく、今シーズンのTS050 HYBRIDのシャシーの対しても、トヨタ東富士研究所とTMGの技術陣は、多岐にわたる改善を行った。
今年、変更されたレギュレーションの目的は、安全性向上のための速度抑制にあり、空力効果を制限することで、ル・マンでの数秒のラップタイムダウンを目指している。具体的には車両フロントの空力部品(スプリッター)の高さを15mm上げると共に、リアのディフューザー幅が大幅に狭められた。
これに対し、コンピュータによる計算流体力学(CFD)と風洞試験により、TOYOTA GAZOO RacingはTS050 HYBRIDの空力的コンセプトを見直すことで、性能改善するという難題に挑んだ。高くなったフロントノーズと特徴的なサイドポンツーン形状などが主な改良点である。
昨年は1チーム1シーズンあたり3種類の空力パッケージを使用出来たが、今年は2種類に制限された。今回の発表会にTOYOTA GAZOO Racingは、低ダウンフォースパッケージを持ち込んでいる。また、タイヤの使用セット数も削減される。今季は車両毎に4セットプラス2本のスペアタイヤのみで、予選と6時間の決勝レースを戦うこととなる。チームとミシュランとの協力体制により、新しいコンパウンドと構造を持つタイヤでこの新規定に対応すると共に、サスペンションジオメトリの最適化も進めることで、タイヤ摩耗の低減を行う。
その他の規則変更点としては、更なる安全対策があり、サイドミラーの後方視界検査が課された。また、ハイブリッドカーにはパワートレーンの状態を示すインジケーターの装着が義務づけられ、レース中に正常を表す緑のライト以外が点灯した場合、その車両はピットで修理を行わなくてはならない。
2017年仕様のTS050 HYBRIDは、今季既にポールリカール(フランス)、アラゴン(スペイン)、ポルティマオ(ポルトガル)での合計5回のテストで30,000km以上を走破しており、この中では4回の30時間連続耐久走行テストが行われている。
全面改良された車両と、世界チャンピオン経験者やWECの優勝経験者、そして2人の有望なルーキーという、ドライバーラインナップと共に、TOYOTA GAZOO Racingは勝利を目指して4月16日のイギリス・シルバーストーンでの開幕戦に臨む。もちろん、今シーズンは、いずれのサーキットにおいてもライバルの強豪ポルシェ・チームとの激戦になることは間違いない。
佐藤俊男 TOYOTA GAZOO Racing代表:
WEC合同テストを迎えるにあたり、チーム全員が士気を上げ、今シーズンへの決意を固めています。勝利を目指す我々の気持ちには疑いの余地がありません。しかし、強豪ポルシェチームとの戦いは、今年も厳しいものになると認識しています。トヨタ東富士研究所とTMGで構成される我々のチームは、オフシーズンの間に全力を尽くしてTS050 HYBRIDの全面改良を行い、初テストから良い手ごたえが確認出来ています。今シーズン、ル・マンに向けて3台体制で臨むことは、新たな試みであり、我々のル・マン参戦を応援して頂ける皆様方にワクワクする接戦をお届けする絶好の方策でもあると思っています。昨年の衝撃的な結末で経験したように、ル・マンで勝つことは本当に難しいことですが、これこそが我々の目標です。車両の競争力だけでなくチーム、ドライバー全てが目標に向かって確実に仕事をすることが求められ、皆が全力を尽くした末に必ず結果は見えて来ると信じています。
村田久武 レーシングハイブリッド・プロジェクトリーダー:
"TS050 HYBRID"の名称こそ昨年と同じですが、パワートレーンの全面改良とあらゆるコンポーネントの効率向上を行い、今シーズンの車両は大幅な性能向上を遂げました。TOYOTA GAZOO Racingの最大の目標はル・マン優勝です。トヨタ東富士の開発スタッフは、昨年のル・マン24時間以来、不眠不休とも言うような頑張りを続け、毎ラップごとでも、レース全体を通してでも先頭争いをする性能を発揮できるパワートレーンの開発を行って来ました。本日、ここに、改良ターボチャージャーを搭載した2017年仕様の新しいエンジンと新M/G(モーター/ジェネレーター)ユニット、新バッテリーユニットをご紹介いたします。初テストはとても期待が持てる内容でしたが、更にコンポーネントの最良の適合を継続して万全の準備を整えます。
パスカル・バセロン テクニカル・ディレクター:
我々のTS050 HYBRIDは今年も全面的なアップデートを果たしました。唯一変更が無かったのはモノコックくらいです。昨年は、幾つかのレースでTS050 HYBRIDのポテンシャルの高さを示すことが出来ました。しかし、我々の目標は更に高いところにあり、そのために大きな空力諸元の変更、性能と重量の点であらゆるコンポーネントの最適化を図りました。昨年のル・マン24時間レースで起きた衝撃は、反面、我々にとって、更なる品質管理の意識向上をもたらしました。リスクをゼロにすることは不可能ですが、今年はリスクの低減を目指しました。オフシーズンテストはまずまずで、パフォーマンスと信頼性の面で満足行く結果を得ていますが、ライバルは強敵であることはよく分かっています。
ロブ・ルーペン チーム・ディレクター:
今年はWECにおけるTOYOTA GAZOO Racingにとってとても重要なシーズンになりますが、チームはその挑戦へ向けた準備が出来ていると思っています。開発を行ったトヨタ東富士研究所とTMGの技術陣は一丸となってTS050 HYBRIDのあらゆるコンポーネントの改良を図ると共に、第2戦スパと第3戦ル・マンへ向けて3台体制での出場というチャレンジへ向け準備をしてきました。我々の目標は今年も明確です。上位を争うこと、そして最大の目標であるル・マン24時間レースでの勝利と、WECのタイトル獲得です。それは強豪ライバルチームの存在によりとても高い目標であり、ミスも弱点も無く完璧なレベルで戦わなくてはならないことは分かっています。我々は2位になるためにレースを戦うのではなく、勝つためにレースに挑んでいます。困難な挑戦ですが、チーム一丸となって戦えば、絶対にチャンスは来るはずです。
小林可夢偉 (TS050 HYBRID #7号車):
昨年は幾つか残念なレースがありましたし、何よりもル・マンでの勝利という最大の目標が果たせませんでした。もしル・マンで勝てていれば、WECのタイトル争いでも大きなチャンスでした。その両方が私の目標です。冬季オフシーズンを終えて、またレースに戻ることが出来て嬉しく思います。2017年仕様のTS050 HYBRIDは見た目もカッコ良いですし、バランスはニュートラルで素晴らしいです。レギュレーションが変更されましたが、大きく損なわれたものはないようで、ホッとしています。現時点で良いパッケージングが出来ていると感じています。
マイク・コンウェイ (TS050 HYBRID #7号車):
新しいTS050 HYBRIDをとても気に入っており、現時点での感触はとても良いです。今はライバルがどのレベルにあるのかを知る必要があります。シーズン開幕へ向け、チームやスタッフとの関係も良好です。2015年と2016年に、このチームと共に戦ってきたことで、私は多くを学びました。今年は全戦で表彰台を争うべく、#7号車と共に全力を尽くします。今年は面白いシーズンになるはずですし、新たに#7号車のチームメイトとなるホセも歓迎します。今年が良いシーズンになること、特に最大の目標であるル・マンでの好成績を願っています。
ホセ・マリア・ロペス (TS050 HYBRID #7号車):
今年の最大の目標は、可能な限り早く学び、チームと共に最善を尽くすことです。耐久レースでのドライビングは初めてですし、特にコース上の混雑は全く経験したことがないものです。それらの全てが私のチャレンジになり、とても楽しみにしています。シーズンが始まる前に語るのは難しいですが、勝利のために全力を尽くしたいと思っています。今年のTS050 HYBRIDはとても好印象で、LMP1-H車両をドライブするのはとても楽しいです。特にハイブリッド・システムが作動したときはとてつもなくパワフルです。
中嶋一貴 (TS050 HYBRID #8号車):
2017年仕様TS050 HYBRIDの第一印象はとても良好でした。実際に、新型車両は特性的にも改良されているように感じられました。タイトルを争えるレベルだと思っていますが、現時点でライバルがどのレベルにあるのか分かりません。我々は昨シーズンもしっかり戦ってきたと思っており、今年もそれを継続し、常に可能な限り最高の結果を出すために戦っていかねばなりません。昨年は結果だけ見ると厳しい1年でしたが、新たなシーズン開幕を前にして、士気は更に高まっています。
セバスチャン・ブエミ (TS050 HYBRID #8号車):
新型TS050 HYBRIDの感触は最高です。今年の車両は「進化」と言えます。昨年は「革命」でした。レギュレーションの変更により、多くのダウンフォースを失うこととなりましたが、チームはその影響を最小限にすべくハードワークで対処してくれました。ドライブした印象は良く、シーズン序盤の現時点では、予想以上のレベルにあると思います。今年の目標はル・マンでの優勝しかありません。それだけにとても期待していますし、この冬季オフシーズンでの我々のハードワークが報われ、それぞれのレースで勝利を争えるだけの充分に正しいパッケージであることを願っています。
アンソニー・デビッドソン (TS050 HYBRID #8号車):
いつでも新型車に接するときは心がときめきます。レギュレーションの変更がとても大きかったこともあり、車両のパフォーマンスにも影響がありました。その変更が大きかったのが、主に空力面ですが、ここまでエンジニアが素晴らしい仕事をしてくれたおかげで、昨年の車両と比較しても感触は大きく変わっておらず、それは良い状況だと思います。この車両でレースを戦うことを考えるととても興奮します。特にル・マンでどれだけのパフォーマンスを見せられるか楽しみです。今季のLPM1-Hクラスは強豪ライバルとの一騎打ちの戦いとなりますが、我々は勝利を目指してベストを尽くすだけです。
ステファン・サラザン (TS050 HYBRID #9号車):
今年も昨年のル・マンでの競争力を再現出来ることを望んでいます。我々はあの時、最速の車両でした。私の願いは再び力強く、勝利のために戦うことです。我々は良いチームスピリットを今も保ち続けていますし、それこそが重要です。我々は3台、別々の車両のクルーではなく、ひとつのチームとして全員で共に戦います。ニコラスと再び共にレースを戦えること、そして新たに雄資というチームメイトを迎えることも楽しみにしています。私は自分の経験を可能な限りチームメイトの全員と共有していくつもりですし、それが目標達成のための最高のチャンスを与えてくれると思っています。
国本雄資 (TS050 HYBRID #9号車):
TS050 HYBRIDは運転がとても楽しいレースカーです。昨年の車との比較はできませんが、とても衝撃的だったのは加速とダウンフォースでした。この車両でレースを戦うのが待ちきれません。今はLMP1-Hカーと、新たな経験となるヨーロッパでのレースについて一歩一歩学んでいるところです。毎日がとても刺激的ですが、これからの数週間でやるべき準備がたくさんあることは分かっています。しかし、ステファンとニコラスという、ル・マンでの経験豊富な2人と組めるというのは私にとってとても有意義ですし、素晴らしいことです。
ニコラス・ラピエール (TS050 HYBRID #9号車):
TOYOTA GAZOO Racingの一員に戻れるのは最高の気分で、本当に楽しみです。既に多くの温かい歓迎をチーム全員から受けています。懐かしい顔ぶれや新たに加わったメンバーと共に再びレースを戦えるというのは嬉しいことです。#9号車は他の2台とは異なるスケジュールで、最初のレースとなる第2戦スパ、そして第3戦に向けて、集中して準備をしていきます。LMP2クラスで、2年連続のル・マン24時間レース優勝を飾れたのは素晴らしい経験でした。それだけにTS050 HYBRIDと共に今年も続けて表彰台を狙います。
ドライバープロフィール
小林可夢偉
- 誕生:
- 1986年9月13日 日本
- ル・マンデビュー:
- 2013年
- ル・マン出走回数:
- 2回
- ル・マン最上位:
- 2位(2016年)
- WEC出場戦数:
- 17戦
- WEC勝利数:
- 1勝
- WECシーズン最上位:
- 3位(2016年)
マイク・コンウェイ
- 誕生:
- 1983年8月19日 イギリス
- ル・マンデビュー:
- 2013年
- ル・マン出走回数:
- 3回
- ル・マン最上位:
- 2位(2016年)
- WEC出場戦数:
- 28戦
- WEC勝利数:
- 2勝
- WECシーズン最上位:
- 3位(2016年)
ホセ・マリア・ロペス
- 誕生:
- 1983年4月26日 アルゼンチン
- ル・マンデビュー:
- 2017年
- ル・マン出走回数:
- 0回
- ル・マン最上位:
- -
- WEC出場戦数:
- 0戦
- WEC勝利数:
- -
- WECシーズン最上位:
- -
中嶋一貴
- 誕生:
- 1985年1月11日 日本
- ル・マンデビュー:
- 2012年
- ル・マン出走回数:
- 5回
- ル・マン最上位:
- 4位(2013年)
- WEC出場戦数:
- 28戦
- WEC勝利数:
- 2勝
- WECシーズン最上位:
- 7位(2015年)
セバスチャン・ブエミ
- 誕生:
- 1988年10月31日 スイス
- ル・マンデビュー:
- 2012年
- ル・マン出走回数:
- 5回
- ル・マン最上位:
- 2位(2013年)
- WEC出場戦数:
- 34戦
- WEC勝利数:
- 5勝
- WECシーズン最上位:
- チャンピオン(2014年)
アンソニー・デビッドソン
- 誕生:
- 1979年4月18日 イギリス
- ル・マンデビュー:
- 2003年
- ル・マン出走回数:
- 9回
- ル・マン最上位:
- 2位(2013年)
- WEC出場戦数:
- 33戦
- WEC勝利数:
- 5勝
- WECシーズン最上位:
- チャンピオン(2014年)
ステファン・サラザン
- 誕生:
- 1975年11月2日 フランス
- ル・マンデビュー:
- 2001年
- ル・マン出走回数:
- 15回
- ル・マン最上位:
- 2位(2007年、2009年、2013年、2016年)
- WEC出場戦数:
- 41戦
- WEC勝利数:
- 3勝
- WECシーズン最上位:
- 3位(2013年、2016年)
国本雄資
- 誕生:
- 1990年9月12日 日本
- ル・マンデビュー:
- 2017年
- ル・マン出走回数:
- 0回
- ル・マン最上位:
- -
- WEC出場戦数:
- 0戦
- WEC勝利数:
- -
- WECシーズン最上位:
- -
ニコラス・ラピエール
- 誕生:
- 1984年4月2日 フランス
- ル・マンデビュー:
- 2007年
- ル・マン出走回数:
- 9回
- ル・マン最上位:
- 3位(2014年)
- WEC出場戦数:
- 28戦
- WEC勝利数:
- 6勝
- WECシーズン最上位:
- 3位(2012年)、LMP2クラスチャンピオン(2016年)