WEC

世界と戦うジャパンパワー 中嶋一貴編 vol.7

いつも通り全力で戦って、地元日本で勝ちたかった

世界と戦うジャパンパワー 中嶋一貴編 vol.7 いつも通り全力で戦って、地元日本で勝ちたかった

こんにちは、中嶋一貴です。10月になると今シーズンも残り少なく感じますが、この時期に日本では世界選手権を初めとするビッグレースが立て続けに行われ、モータースポーツファンには最高の季節到来ですね。F1グランプリ、WEC、Moto GPと結構濃い内容です。
僕は鈴鹿のF1ではトークショウのようなものをやらせていただきました。F1に乗らなくなってもうかなり時間が経ちますが、やっぱりF1はいいですね。走っていたときのことを思い出しました。

あっ、F1の話じゃなく、WECでしたね。そう、富士スピードウェイで開催された第7戦・日本ラウンドの富士6時間レース。地元のレースです。本命はこちらでした。
この富士のレース、僕は2012年、13年と優勝し、14年には2位。いい想い出のあるレースです。もちろん今年も優勝を狙って戦いました。今年はこれまであまり良い成績を残せていないので、地元日本では勝って流れが変わればいいなあと考えていたんです。

実は、僕は日本のレースだからといって特別に感じるものがあるかといえば、それが余りないんです。レースを仕事として捉えているからか、どこのレースでも同じような気持ちで臨み、同じように戦うのが常になっています。富士では優勝を狙って戦ったと言いましたが、もちろんその前のオースチンもメキシコも同様です。勝ちに行かないレースはありません。でも、日本は応援も多いし、僕の気持ちだって盛り上がるんじゃないかと皆さん考えていらっしゃるようで、メディアの方もそんな質問を多くしてきます。でも、正直な話、僕には日本のレースも海外のレースも比重は同じで、どこのレースも頑張っています。日本だけが特別と言うことはないんです。そう答えると、メディアの人は少し残念そうな顔をしたり、クールだねえって言われることがありますが、自分ではクールだと思ったことはないですね。いつも通り全力で戦いに行きました。

少し違うなと思ったのは、トヨタ社内の雰囲気です。レースを控えて僕たちドライバーやチームの主要メンバーはトヨタ自動車本社や東富士研究所を表敬訪問しました。本社では社長室に招き入れられ、豊田章男社長から激励を受けました。今年少し違うなと思ったのは、トヨタの社員の方々が富士のレースに対して凄く高い関心を抱いてくれているように感じた事です。恐らくル・マンのレースを皆さんが関心を持って見て下さり、ゴール寸前で勝利を逃すという結果に皆さんが凄く悔しい思いをしたのではないでしょうか。その皆さんの悔しい思いを、トヨタを訪問したときに肌で感じました。そこで富士では勝たなきゃいけないというエネルギーを貰いました。

さて、そうして迎えた富士6時間レースの週末。金曜日から走行が始まりましたが、午前中の公式練習1回目ではどうもタイヤの調子がいまひとつでした。ここではクルマの基本的なセッティングをするのですが、タイヤがグリップしなくてペースが掴めませんでした。タイムはトップから0.8秒差の1分25秒885で4番手。タイヤ以外は大方順調でした。続く午後の公式練習2回目は少しタイムアップ出来ましたが、ライバルもタイムを上げてきたのでトップから0.6秒差で5番手の順位でした。

土曜日には公式練習3回目と予選が行われましたが、公式練習3回目では僕らのクルマはベストな状態で、走り出し早々、僕が1分24秒078までタイムを詰め、タイムシートのトップにつけました。このセッション、僕らの#5号車はバランスもよくタイヤも前日のようなことはなく、しっかり路面を掴んでくれていたので好タイムが出せたと思います。でも、後で考えるとこの公式練習3回目が僕らのピークだったような気がします。夕方になって、予選が行われましたが、僕とセバスチャン・ブエミの2人のアベレージタイムで1分23秒739まで縮めることはできたのですが、いまひとつリズムが掴めず、予選グリッドは3番手に甘んじました。ポールポジションはアウディ#8号車。僕らとの差は0秒167だけだったのですが、残念ながら追いつけませんでした。この0秒167はここ数レースの中では僅差でしたが、負けは負けです。我々にあとほんの少し何かが必要だったのでしょう。
チームメイトの#6号車は僕らのすぐ後ろ4番手のタイムでしたが、TOYOTA GAZOO Racingの2台のTS050 HYBRIDが揃って2列目グリッドに並ぶ事が来たのは幸運でした。とはいえ、彼らも僕たちにとっては仲間でもありライバルでもある存在です。正々堂々と勝負です。

決勝レースは日曜日の午前11時にスタート。前戦のオースチンのレースは午後5時スタートだったので、朝から夕方まで時間潰しに疲れましたが、午前11時のスタートは1日が効率良く使えて歓迎です。観客の方々にとっても良かったんじゃないでしょうか。
レースの方は少しフラストレーションの溜まる結果になりました。スタートからのペースは悪くなかったと思います。といっても絶対的なペース、つまり自分たちで想定していたペースで走ることは出来たということです。ただ、ライバルに対しては、特にアウディに対しては少しペースが遅かったように思います。しかし、レースではタイヤもまずまずいい仕事をしてくれて、トップ争いから大きくは離されることもありませんでした。全体的なペースは良かったと思います。しかし、結果は4位。あと少しのところで表彰台を逃しました。理由のひとつはどういうわけかタイミングが悪く、コース上の渋滞に引っかかり過ぎたことでしょうか。
でも、今年はなぜか流れが来ませんね、僕らに。クルマが合っていないのか、自分たちが何か足りないのか、それとも運が悪いのか分かりませんが、結果がついてきません。レースは結果がすべてのところがありますから、僕らがやれることは全てやっていても、結果が良くないと残念に思います。まあ、それが次のレースへのモチベーションにもなりますが。
あ、それからひとつ。富士のレースは今年初めて週末を通して僕らのチームに何も問題がなかったレースです。これまでは車両のトラブルが発生したりしましたが、今回はそういったトラブルは一切無かったので、その点は、良かったと思います。

ホームレースが終わって1週間たちましたが、いまは次のスーパーフォーミュラのレースに向けて気持ちを切り換えています。タイトル争いに絡むことができているので、なんとしても良い成績を収めたいと思っています。そのレースが終われば次は上海6時間です。今年も残り少なくなってきましたが、悔いのないレースを戦いたいと思います。応援、よろしくお願いします。

  • 豊田章男社長を訪問したTOYOTA GAZOO Racingのドライバーたち
  • 応援フラッグの前で記念撮影をする中嶋一貴
  • TS050 HYBRID 5号車に乗り込む中嶋一貴
  • モニターを見つめる中嶋一貴
  • TS050 HYBRID 5号車
  • エンジニアと話す中嶋一貴
  • 決勝レースを戦うTS050 HYBRID 5号車
  • 決勝レースを戦うTS050 HYBRID 5号車

中嶋一貴編

小林可夢偉編

エンジニア編