WEC

中嶋一貴×小林可夢偉 前編(2/2)

"ハイブリッドカー"はまったく違う走り方を求められる

ナイトセッションのTS050 HYBRID 5号車

2人にとってWECやル・マン24時間レースとは?

WECとフォーミュラ、
頭の中を180度変えなければならないぐらい違う中嶋一貴

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おふたりは以前F1で戦い、現在はWECと並行してスーパーフォーミュラにも参戦しています。トップフォーミュラとTS050 HYBRIDでは、ドライビングに違いはありますか?

小林

もう全然違いますね。WECはエネルギー回生のための特殊な走り方が必要なんです。
フォーミュラの場合は、基本的にブレーキをコーナーの奥でドンと踏んで、向きを変えるのが普通なんですけど、このクルマでそういう走りをすると、大体「効率的なブレーキングで回生エネルギーを貯めろ」と、無線で指示される。小さい頃からやってきた、クルマを速く走らせる方法とは全然違う走り方を求められるんです。だから、いろいろなことを考えながら走らないといけない。

中嶋

本当に難しいですよ。とにかく運動エネルギーの回生が重要なので、可夢偉が言うように、特別なブレーキングが要求されます。耐久テストで最初に走り出した時とかは、何周かすると「回生が足りない」と言われたりすることがあります。頭の中を180度変えなければならないぐらい違うので、とにかく大変です。

小林

あと、フォーミュラでは予選とか一発のラップタイムの速さがかなり重要になりますが、WECは耐久レースなので予選順位はそれほど重要ではない。それよりも、レースでいかに速いペースで安定して走り続けることができるかが大切。タイムの評価の仕方が、例えば30周走って30周のアベレージなんですよ。だから1周、2周バーンと失敗するとアベレージがめちゃめちゃ遅くなる。そして、それが自分の評価になってしまうから、30周だったら30周びたーっと失敗なく走らないとダメ。精神的にも体力的にもかなり大変です。

  • 中嶋一貴がスーパーフォーミュラで今シーズン、ドライブするフォーミュラカーのSF14
  • 中嶋一貴がWEC、ル・マン24時間レースで今シーズン、ドライブするハイブリッドカーのTS050 HYBRID 5号車

30周びたーっと失敗なく走らないとダメ。
精神的にも体力的にもかなり大変小林可夢偉

小林

多分、テストの時が1番辛いです。テストでは、1回のスティント(燃料満タンでスタートしてから給油までの一連の走行)で大体30周以上走り、それをダブルでやるとなると1回乗り込んで60周以上走ることになるから。

中嶋

今年春の耐久テストでは70周走りました。

小林

正直ね、5周目ぐらいで「もういいやろ、もういいやろ」と思うんですよ。そこからが長くて、あと何周するとか数えたら絶対にアカン。何度も心が折れそうになります(苦笑)。

中嶋

耐久テストは本当に大変ですね。30何時間、クルマが壊れなければ延々と走り続けなければならないから。寝る時間、起きる時間もバラバラで、いつ起きるかはテストの進み方次第なので辛いですね。耐久テストは、修行です。精神的な修行です。

小林

僕は、WECというシリーズのミソは耐久テストではないか思っています。

中嶋

レースと違ってただひたすら1人で走り続けるというのも辛いし、やはりテストが1番キツいです。間違いなく。

  • 耐久テストで夜間走行中のTS050 HYBRID 5号車
  • インタビューをうける小林可夢偉

ル・マン24時間レース自体より辛いと言う"30時間"耐久テスト・・・
フォーミュラカーとWECのハイブリッドレーシングカーの走り方の違い・・・など、
WECを戦うには、様々な試練があります。

次回の後編では、TOYOTA GAZOO Racingの内側へ、さらに切り込みます。

チームメイトのこと、中嶋一貴と小林可夢偉がお互いをどう見ているか。
そして、今季のル・マン24時間レース、WECへの気持ちなどを語ります。