WEC

TOYOTA GAZOO Racing WECチームの横顔

第5回 スペアパーツ管理

TOYOTA GAZOO Racing WECチームの横顔 第5回 スペアパーツ管理

WECのLMP1に参戦するチームは多くのスタッフによって組織的に運営され、メカニックも「シャシー担当」「電気系担当」と専門分野が割り振られている。
この中で「シャシー担当」なら仕事内容は、皆さんも想像がつくであろう。だが「スペアパーツ管理」がどんな作業であるかを知る人は少ないはず。今回は、このスペアパーツ管理を務めるメカニック、ルディ・クラッグにその仕事内容などを教えてもらおう。

その仕事はパーツの寿命を厳密に管理すること

その仕事はパーツの寿命を厳密に管理すること
 早速、クラッグにスペアパーツ管理という仕事について尋ねてみた。
「私の仕事は"ライフィング(寿命)コーディネーター"とも言われています。TS050 HYBRIDに使用されるパーツのすべては、寿命管理を行うシステムによりデータ化されています。意外に思われるかもしれませんが、どんなパーツも永遠に使えるわけではありません。レースでの使用にあたっては、パーツ毎に寿命が決められています。その寿命を超えて使用されることのないよう厳密にパーツを運用するのが、私の仕事です」

 極限で走行するレースカーは、時に思わぬ原因で壊れることがある。その修理で交換した予備パーツが古くて寿命の短いものであったら、また不要なトラブルを呼んでしまう。それでレースに負けたら、いやドライバーに危険が及んだら......。パーツの管理は地味ながら、とても重要な仕事である。
「レースウィークは、通常水曜日から設営を始めます。そこではパーツを積んだトラックをレースの現場で使いやすいよう配置して、使用頻度などを考えてスペアパーツの準備をしておきます。木曜は車検日なので、車検に通過できるようにレース車両を整備します」
 このように彼の仕事は、パーツを通じてのレース車両の管理と準備なのだ。

レースにおいては5号車の給油作業も担当する

レースにおいては5号車の給油作業も担当する
 そして走行の始まる金曜からは、彼のもうひとつの仕事が始まると言う。
「コースでの走行が始まると、私は5号車の燃料補給を担当します。レース中はシステムすべてが正常であり、車両や作動状況、そしてもちろんピットストップが問題なく行えるように気をつけています」
 彼が担当する車両への燃料補給作業。フルフェイスのヘルメットを被り、給油ノズルをグッと車両の給油口に差し込む。簡単な作業のようだが、ノズルをしっかり挿入するにはコツが必要で、また給油量(時間)の指示や他の作業をするスタッフとの連携も重要だ。もしノズルが抜けなくなれば貴重な時間をロスし、時には車両の損傷や火災にも繋がる。また周囲とのタイミングが狂うと作業違反を招き、ペナルティを課されることもある。こちらも地味ながら、極めて重要な仕事になる。

「モータースポーツの一番素晴らしいことは、いつもチームで団結して戦えること。そして一緒に勝って、一緒に負けることです」
 この仕事のやりがいをそう話してくれたクラッグにとって、最高の思い出は「2014年にワールドマニュファクチャラーズチャンピオンを獲ったこと!」。そして、最も悔しかったのは「それは絶対に今年のル・マン!」と、どちらも即答だった。やはり、チームとの一体感があるのだろう。

今後もひとつでも多くのトロフィーを持って帰る

スペアパーツ管理 ルディ・クラッグ 「子供のころから、モータースポーツの仕事をとてもやりかったんです」
 そう言う彼にとって、今はまさに充実した日々なのだろう。48歳の良き父であるドイツ人は「趣味はモータースポーツ。休日は息子とモトクロスをするのが楽しみなんですよ」と笑う。

 2016年シーズンも終盤戦。彼に今後の目標を聞くと、
「残りのレースで、ひとつでも多くのトロフィーを持って帰ることですよ。そして2017年はル・マンで優勝すること!」と、ここでもモータースポーツに人生を捧げている男らしい答えだった。

 最後にTOYOTA GAZOO Racingを日本から応援しているファンに向けてのメッセージはあるかと、クラッグに尋ねた。すると、これも簡潔に力強く言った。

「私たちはどんなときも最後まで諦めません! 見ていてください」