WEC

TOYOTA GAZOO Racing WECチームの横顔

第6回 ミシュランタイヤ エンジニア

TOYOTA GAZOO Racing WECチームの横顔 第6回 ミシュランタイヤ エンジニア

タイヤは、意外と見過ごされやすいが、クルマにとって極めて重要なパーツである。レーシングカーにおいては、大パワーをしっかり路面に伝え、長距離を走れる耐久性も必要だ。しかも高速走行でのタイヤのトラブルは、重大な事故にも繋がりかねない。そのタイヤに係わるエンジニアの責務はとても大きい。
ファブリース ヴルーは、ミシュラン社から派遣されTS050 HYBRIDが履くタイヤの管理を任されている。タイヤと同様に、普段はあまり目立たない彼の仕事ぶり。その内容と、仕事、チームへの思いを彼に聞いてみた。

第一は安全。そしてチームに最良のタイヤを提供する

チームに最適なセッティングをアドバイスする
 タイヤエンジニアである彼の仕事は何なのだろうか?
「ミシュランタイヤのパフォーマンスや耐久性などに関して、TOYOTA GAZOO Racingとミシュランの間で調整役をしています」と、ヴルーは教えてくれた。
 その言葉からは、確かに目立たない仕事のように思えるが、TOYOTA GAZOO Racingのピットを見ていると頻繁に路面の温度を測ったり、TS050 HYBRIDに装着されたタイヤの確認を行っていたりと、彼は忙しく動いている。
 そしてピット内ではチームのトラックエンジニアの傍らに控え、タイヤに関するデータをまとめ、タイヤ選択や使い方のアドバイスをしている。そこで、彼の仕事への信条を聞いてみた。
「なによりも安全の確保が一番の優先であり、大きな課題ですね。私は常にリスクなく安全にすべてが実施される事を第一にしています」
 レースに係わるスタッフだけに、パフォーマンスアップが最大の課題なのかと思いきや、何より"安全"が先に立つと言う。
 しかし、そのやりがいと問えば「タイヤによって最良の結果を出すサポートができた時、またレース中にチームが必要とする最良のタイヤを提供できた時ですね」と、やはりレースに係わる人らしい答えが返ってきた。

捨てられなかったモータースポーツへの情熱

チームスタッフとタイヤについて話し合う
 ピットで仕事をする彼の表情は真剣そのものだが、普段は間もなく48歳になる(10月生まれ)、子供の面倒もよく見る良き父親だ。
「休日は、屋外で時間を過ごすことが多いです。郊外で歩いたり、バイクに乗ったりして新鮮な空気を楽しんでいますよ」と、趣味であるオートバイを楽しんでいると言う。
 そんな彼がタイヤに係わる仕事に付いた一因は、そのオートバイと生まれ育った場所にあった。
「私が生まれ育ったクレルモン=フェラン(フランス)は、ミシュランの本社、テストコース、工場があるんです。それに元々モータースポーツが好きで、バイクのレースにも出ていたんです。そこでミシュランにも出会いました。当時は別の仕事をしていて、レースは趣味だったんです。
ですが、やはりモータースポーツへの情熱は捨てがたくて。ミシュランに転職して、1997年からタイヤフィッター(装着担当)とトラッキー(運搬要員)からこの仕事を始めました。
 もし、レースに係わる仕事をしたいという人、子供たちには言いたいですね。『あなたが成し遂げたいことを信じることで、成し遂げることができる。私は今やっている仕事の事を夢見ていました。少し時間はかかりましたが、私は今ここにいます!』と」

TOYOTA GAZOO Racingというファミリーの一員として

第6回 ミシュランタイヤ エンジニア ファブリース ヴルー  そして、ヴルーはTOYOTA GAZOO Racingの一員として、喜びも悲しみも皆と共有している。
「このチームでの思い出と言えば、やはり良い意味でも悪い意味でも、今年のル・マンでしょう。個人的な意見ですが、トヨタが成し遂げたことは勝利以上のことだったと思います。ただ、最後の2周は最悪でしたよ。また、事故も辛い。2012年のル・マンでのアンソニー(デビットソン)、去年のスパでの(中嶋)一貴のことは、嫌な出来事でしたね」
 そう言う彼がTOYOTA GAZOO Racingに寄せる思いは...。
「このチームにいる事をとても楽しんでいます。そしてチームが私を歓迎してくれている事に感謝しています。家族の一員になったような気持ちさせてくれる、それは私にとって特別でやりがいのある経験です」