モータースポーツに限らず、スポーツの現場には多くの感動がある。その瞬間を切り取って伝える役目を担うのが、フォトグラファーだ。一般的にはカメラマンという職業名で呼ばれるが、単にカメラで撮る作業をするだけでなく、より良いシーンを記録するという意味も含め"フォトグラファー"という職種に誇りを持つ人も多い。
TOYOTA GAZOO RacingのWECチームにも、その活躍と感動を伝えるために専属のレーシング・フォトグラファー、ジェームス・モイがその任に就いている。彼のレースウィークを追いかけてみよう。
休む間もなく動き回るレースウィーク
「木曜日の朝から働き始めます。コース上で車両とチームが揃う機会ですし、取材を受けているドライバーも撮影します。また、コースの撮影場所の確認もして。走行が始まる金曜には、ガレージ、ピットレーン、コースサイド、いろいろなコーナーに行きます。土曜はとても忙しい。練習走行3はたった1時間しかなく、予選も短時間ですからね」
レースの写真を撮るだけなら、土曜、日曜だけでいいのかもしれないが、チーム専属となれば木曜からあれこれと仕事がある。そして、本番の決勝がある日曜は......。
「レース日は一日中ずっと撮影です。午前のサイン会から始まって、グリッドを撮った後、スタートを撮れるポジションに移動。その後90分ほどでメディアセンターに戻り、写真をPR担当者にネット投稿してもらいます。それでコースサイドに戻って...」
WECのレースは通常でも6時間。ル・マンに至っては24時間だ。その前後も考えればドライバー以上にきつい仕事かもしれない。だが、良い面もあるという。
「6時間レースでは夕陽の風景など、変わりゆく環境も撮影することができます。このすばらしい雰囲気を伝えられる写真を撮れるよう努めています」
さらに仕事で心掛けることを聞くと、39歳のイギリス人は、「TOYOTA GAZOO Racingが勝つことを願いはしますが、私の仕事が結果に直接影響を与えることはできません。結果がどの様であれ、みんなに喜んでもらえる良い写真を撮りたいと思っています」と語った。
喜びも悲しみもその瞬間を切り取って伝える
TOYOTA GAZOO Racingの写真を撮り続けて来た彼にとって、印象に残っていることはなんだろうか?
「2014年のマニュファクチャラーズチャンピオンを獲得した時。あんなハッピーな瞬間を撮影するのはとても嬉しかった。あと、新型車を最初に走らせる時。こういったときはプライベート(非公開)なテストだから、コースサイドで撮影するのは僕ひとり。役得ですね(笑)」
しかし、レースには辛い瞬間もある。
「今年の第3戦ル・マンの終了間際。あの時、私は『ついにやった!』と思ってピットウォールを登って、チームの歓喜の瞬間を待っていました。だけど、中嶋一貴選手がスタート/フィニッシュラインで、私の目の前で止ってしまった。ファインダー越しに彼と目があって......。正直言うと、今でもあの時の事を思い出すと気持ちが沈むんですよ」
だが、その瞬間の写真があったからこそ、TOYOTA GAZOO Racingが本気でル・マンに挑戦していたという"事実"が多くのファンに伝わった。
では、今後はどんな写真を撮っていきたいのか?
「表彰台や勝利の瞬間をもっと撮りたいですね。やっぱり勝利して皆が幸せに微笑んでいるほうが、良い写真が撮れるんですよ」
WEC富士では一緒にベストショットを狙いましょう!
目前に迫ったWEC富士。カメラを手に富士スピードウェイに行くことを楽しみにしているファンも多いことだろう。そこでプロであるモイにモータースポーツ撮影のアドバイスをしてもらおう。
「まずは、いろいろな場所からの撮影を試してみること。グランドスタンドも上に行ったり下に行ったり、コーナーもいろいろ回ってみましょう。そしてカメラの使い方や光をどう活用するか学んでください。あとはトライ&エラーあるのみ。失敗を恐れないで!」
WEC富士の当日、モイ自身もベストショットを求めて、富士スピードウェイの各所を精力的に動き回っている。皆さんがその姿を見ることも、きっとあるはずだ。
「僕もチームのみんなも、富士スピードウェイで皆さんに会えるのを楽しみにしています。日本のファンは本当に情熱的で、写真を撮るのが好きですね。いつも富士では多くの方が大きなカメラとレンズを持って、撮影を楽しんでいるのを見かけます。当日はぜひWECと撮影をめいっぱい楽しんでください。僕もベストショットが撮れるようがんばります。では、富士のコースサイドで会いましょう!」