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川井ちゃん、右京さん、これがWECで戦っているクルマ(TS050 HYBRID)なんですよ! 前編「TS050 HYBRIDを囲んでF1やル・マンを語り合う」

川井ちゃん、右京さん、これがWECで戦っているクルマ(TS050 HYBRID)なんですよ!
前編「TS050 HYBRIDを囲んでF1やル・マンを語り合う」(1/2)

川井一仁さんと片山右京さん、中嶋一貴選手と小林可夢偉選手の4人が集まったのは、東京・お台場にあるトヨタ シティショウケース「MEGA WEB」。

MEGA WEBに展示されていた今シーズンのWECを戦うクルマ「TS050 HYBRID」を囲んだ座談会が始まります。

川井さんはあちこち興味深く覗き込み、片山さんにはコクピットにも座ってもらいました。

前編では、川井さんがTS050 HYBRIDについて2人のドライバーに切り込み、片山さんはご自身がドライブしたTS020との比較をしたりと、大いに盛り上がりました。

TS050 HYBRIDのファーストインプレッション

―― 皆様、こんにちは。
昨年に引き続き、「F1」という共通点のある4人にお集まり頂きました。

まずは、F1のTV中継などでおなじみの川井一仁さん。
そして6シーズンに渡ってF1に参戦し、ル・マン24時間レースでも活躍された片山右京さん。
最後にTOYOTA GAZOO Racingの中嶋一貴選手と小林可夢偉選手です。

今回は、実際にWECを戦っているクルマ、TS050 HYBRIDを囲んでお話しましょう。

川井一仁氏(以下、川井) 早速だけど、これって今年のクルマなの?

中嶋一貴(以下、一貴) 今年のクルマです。ル・マンで走ったロー・ダウンフォース空力仕様ですね。

TS050 HYBRIDを見ながら話し込む川井一仁さんと片山右京さん

―― 右京さんは、先程TS050 HYBRIDのコクピットに座られてましたが、印象はいかがでしたか?

片山右京氏(以下、右京) なんて説明したらいいかなあ。
パッと座ってみて、もちろんレーシングカーだから、実際にこうやって走っているだろうなって想像できる部分もある。
タイヤは4つで、ハンドルはひとつだからね(笑)
でも僕が乗っていた頃のクルマよりもいろいろな所がブラッシュアップされていて、スイッチなど細かいところも違うよね。
それから僕がル・マンを戦っていた頃に比べて、最高速は落ちてるんだけど、タイムが15秒以上速くなっている。とてつもなくコーナリングスピードが上がってるってことだよね。乗ってみてそんな緊張感が伝わってきた。
「このクルマを運転するのは本当に大変だな・・・」と感じたから、写真撮影のとき「笑顔でお願いします!」と言われたけど、あんまり笑えなかった(苦笑)

  • TS050 HYBRIDについて語り合う川井一仁さんと中嶋一貴
  • TS020のコクピット

右京 あと、エアコンがないとかもおもしろいなと思ったよ。

小林可夢偉(以下、可夢偉) 右京さん、エアコンがないのはトヨタだけです(笑)
ポルシェもあるし、LMP2クラスは今年からエアコン搭載が義務付けられてるので・・・。

右京 あれ!?そうなの?(笑)

一貴 エアコンがないのは僕たちだけですけど、WECはコックピット内の温度がルールで決まっているので、ある程度ドライバーは守ってはもらっているなと思います。そういうルールがないと、コックピット内はサウナ状態になってとことん暑くなるので。

右京 そうなんだ。僕は今、SUPER GTのGT300クラスのチームで監督やってるけど、監督目線でも見てもWECは大変だなと思ったよ。外気温によっては連続で80分以上運転してはいけない、とかね。

―― 川井さんのTS050 HYBRIDの印象はいかがでしたか? 最近のWECのクルマをご覧になるのは初めてと伺いましたが?

川井 コックピットとか、色んな場所を覗き込んで見させてもらったけど、このクルマは、本当にエネルギーマネージメントをしながら走るんだな、と思った。ステアリングのディスプレイの数字とか全部そうだから。
あとはピラーに貼ってある、たとえばタイヤの空気圧と速度の指示などもおもしろいよね。

2017年型 TS050 HYBRIDのコクピット内

可夢偉 (まじまじとクルマを見て)これ、展示用のクルマですけど、たぶんレースとかテストで実際に使ってたパーツが結構使われてると思います。川井さんが言ったコックピットの指示とか、フロントカウルとか・・・どこで使ったやつかはわからないけど。

  • TS050 HYBRIDについて語り合う川井一仁さんと中嶋一貴
  • TS020のコクピット

―― このTS050 HYBRIDは、富士6時間レースのイベントブースで、ファンの皆さん向けの搭乗体験に使われる予定です。実際に走っていたクルマのパーツが使われているなんてすごいですね。

一貴 そういえば小耳に挟んだんですけど、去年の富士6時間レースのとき、イベントブースに展示してあったショーカーに、メカニックがパーツを取りに行く・・・ということがあったらしいです。富士の前にあったレースで、クラッシュがあった影響でスペアパーツが足りなくなったらしくて。

川井 ホントに!?じゃあ、相当実車に近いんだろうね。シーズン中に現役で走っているクルマに乗ることができるなんて、なかなかできないよ。
ファンの皆さん、WEC富士に行ってTS050 HYBRIDの搭乗体験したほうがイイですよ(笑)それだけでも富士に観戦に行く価値はあると思う。

可夢偉 今年もスペアパーツが足りなくなって、メカニックが展示車からパーツをはぎ取りに行くかもしれないので、早めに搭乗体験されることをオススメします(笑)

昨年のWEC富士でのTS050 HYBRIDの搭乗体験の模様 昨年の搭乗体験の模様。
今年のWEC富士では今シーズン仕様のTS050 HYBRIDに乗り込むことが出来る予定。

4輪駆動のレーシングカーの速さの秘密

―― WEC富士の宣伝ありがとうございます(笑)
川井さん、今年からF1はタイヤが幅広になるなど、クルマが大きく変わりました。実際にTS050 HYBRIDを間近でご覧になって、F1とWECのクルマの違いについてはいかがでしたか?

川井 親しみやすさを感じる。こちらの方が。
高速コーナーとかは、もちろんF1の方が速いんだけど、このクルマがタイトコーナーではF1より速いのにビックリする。F1よりも150kg以上重いのに。

右京 F1よりも重いのに、スパ・フランコルシャン(の名物コーナー)ではオー・ルージュが全開、ブランシモンも全開、本当に凄いクルマだよね。

オールージュを駆け上がるTS050 HYBRID ベルギーのスパ・フランコルシャンの名物コーナー「オー・ルージュ」を走行するTS050 HYBRID

可夢偉 一番の理由は4輪駆動だからだと思います。

川井 そうだね。リアだけじゃなく、フロントでもいく(駆動する)から、トラクションリミテッド※1になりにくいからね。

一貴 ドライバーからも「トラクションが悪い」って文句はあまりでないですね。

可夢偉 あと(このクルマの特徴として)アクセルを踏むときは、ゼロか100が基本です。

一貴 エンジニアからは「(アクセルを)ドンって踏め」と言われますね。

川井 へぇ〜そうなんだ。それはなんで?

一貴 (アクセルをドンって踏んだ方が)クルマの(電子)制御がしやすいみたいです。

(※1)・・・トラクションリミテッド:2輪駆動の場合は、駆動力(トラクション)を路面に伝えられるのが、2輪(例えばF1だとリアタイヤ)だけなので、駆動力の制限(リミテッド)が早めに来てしまう。簡単に言えば早くホイール・スピンを起こす。ところが4輪駆動なら、4輪全部に駆動力を振り分けられるので、前輪の駆動力で2輪駆動以上の加速ができる。

―― 一貴選手と可夢偉選手は、スーパーフォーミュラにも参戦されています。
WECとスーパーフォーミュラでは、運転の仕方がかなり違うようですが、スーパーフォーミュラでレースをした後に、TS050 HYBRIDに乗るとき、1周目からあわせられるものなんですか?

一貴 僕はあんまり(苦笑)。
乗り始めとかは、つい(ゼロか100を忘れて)パーシャル※2を使っちゃいますね。

可夢偉 僕は得意な方。むしろゼロか100が一番得意かも。
どっちかしかしないし(笑)
データを見て、たまに他のドライバーがパーシャルで走って速いところをみつけたら、パーシャルも使うけど、基本ゼロか100のほうがいいですね。

川井 パーシャルが速いところって?

可夢偉 ターボエンジンなので、ターボ車特有の、ターボラグの部分ですね。大体は。

右京 ハイブリッドレーシングカーって、普通のレーシングカーと運転の仕方が随分違うんだね。

(※2)・・・パーシャル:アクセルをオンとオフの間の一定の開度で維持すること。安定したスピードでコーナリングをしたい時などに使われるテクニック。

TS050 HYBRIDについて語り合う片山右京さん、川井一仁さん、中嶋一貴、小林可夢偉

可夢偉 F1とか、GTとか、いろいろなクルマに乗ってから、WECのクルマに乗って思ったのは、間違いなく4輪駆動の方が速いということ。絶対に速い。
そもそも考え方が違う、走らせ方の。
クルマをオーバーステア※3に作っていって、クルマの向きさえ変えたら、あとはアクセル全開。
リア駆動のクルマだとリアのトラクションがほしいから、ニュートラルとかアンダーステア※4になるようにクルマを作っていくけど、その必要はない。リアタイヤが滑って真っ直ぐに行かないようなときでも、前のタイヤが引っ張ってくれるから。理論的にはクルマの向きさえ変えられたらいい。
ポルシェはそれがすごくて、普通はリアタイヤから出るはずのタイヤマークが、前のタイヤから出るからね。後ろを走っているとき「なんなんだこれは!」って思いましたよ。

(※3)・・・オーバーステア:ハンドルを切った以上にクルマが曲がっていく状態。
(※4)・・・アンダーステア:ハンドルを切ってもクルマが曲がっていかない状態。

右京 未来的なレーシングカーだね!

川井 1周の中で、前後の回生パワーのブーストは変えられるの?

一貴 レースやテストの現場では、クルマのセッティングはエンジニアに「ここと、ここを直しておいて」とお願いして、あとは制御のエンジニアにまかせています。

可夢偉 ほぼ、制御担当のエンジニアに頼みます。彼ら次第のところがありますね。

川井 ドライバー自身が、コックピットからブーストを変更できたりするの?

可夢偉 できます。でも、あまりにも細かくて・・・ちょっとした風向きでも変わってくるぐらいですから。
エンジニアの方で、すごく細かい調整をやってくれているんで、ドライバーが変更するのはけっこう大変です。

右京 繊細なんだね。

可夢偉 レース中、最悪の場合はマニュアルで操作しろって言われるんだけど、なかなか難しい。相当ドライバー本人に余裕がないとだめで、レースをしながらでは大変ですね。

一貴 レース中は「ここと、ここがこうなんだけど?」と伝えて、あとはエンジニアに考えてもらって「じゃあこうやって」というほうが多いです。エンジニアが解釈して、やってもらわないと、ドライバーひとりだけの判断では難しいですね。

TS050 HYBRIDについて語り合う片山右京さん、川井一仁さん、中嶋一貴、小林可夢偉 エンジニアと話す中嶋一貴選手。
クルマを速くするためにはエンジニアとコミュニケーションが不可欠。