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グランツーリスモSPORTで可夢偉のタイムにチャレンジ! | リアル&ヴァーチャルレーシングの今とこれから 後編

リアル&ヴァーチャルレーシングの今とこれから
後編「グランツーリスモSPORTで可夢偉のタイムにチャレンジ!」

小林可夢偉選手と山内一典プロデューサーの対談もいよいよ後編です。

グランツーリスモのリアリティの追求の凄さ、そして今年のル・マン24時間で小林選手が獲得したポールポジションについて、2人で語り合います。

そこで垣間見えるのは、小林選手とグランツーリスモの"凄さ"です。

そして、目前に迫ったWEC富士への抱負、そしてサーキットに登場する世界初公開"グランツーリスモSPORT"の試遊台設置の情報もお見逃しなく!

グランツーリスモSPORTは
F1のシミュレータに近いレベル

小林可夢偉(以下、可夢偉) 実は僕、トヨタがF1に参戦していた時代に3年くらいシミュレータの開発ドライバーをやってたんです。
それで思ったのは、シミュレータにはやはりシミュレータのステアバランス(操縦特性)というのがあって、(操縦特性が)ニュートラルのクルマを作るのは非常に難しい。そこを追求すると、ちょっとオーバーステアになっただけですぐスピンしちゃって誰も1周まともに走れなくなっちゃうんです(※)

※「オーバー」とはオーバーステアのこと。限界スピードでステアリングを切るとリアからスピンしそうになる状態。その逆はフロントが曲がっていかないアンダーステア。理想はニュートラル(中間)ステアだが、人間がドライビングする際は、オーバーステアかアンダーステアのどちらかに少し振った方がコントロールしやすい。だが、シミュレータではその加減が難しいようだ。

山内一典氏(以下、山内) クルマの動きを認知して判断して操作する。
操作をした結果、クルマの次のリアクションになっていく。
そのリアクションをまた認知して、という繰り返しの中で何が起きるか。
クルマの向きが変わって、そこからタイヤが力を出してそれがサスペンションに伝わってダンパーに伝わってシャシー、ボディに伝わって、初めてクルマは運動を始めるわけで、そこに遅れが生じてしまうんですね。

グランツーリスモSPORTは、すべてをリアルにすればよいだけではなく、様々なノウハウを元にヴァーチャルでリアルを再現している。その難しさを語る山内一典氏。

グランツーリスモSPORTは、すべてをリアルにすればよいだけではなく、
様々なノウハウを元にヴァーチャルでリアルを再現している。その難しさを語る山内一典氏。

可夢偉 現実のクルマなら、限界に来たときには僕ら、考える前に身体で感じるからリアクションができるんです。
でも、シミュレータは基本、画面とステアリングからしか情報が入ってこないので、クルマの微妙な状況を感じ取れずに遅れてしまうんですよ。気づいたときにはもう手遅れになっちゃう。
クルマって不思議なもので身体が気づくからそれに自然に合わせることで走るんですね。

山内 視覚的な変化やG(※)の変化、いろいろな形で情報が入って来るわけです。
その時、人間の身体にも遅れがあって、目から入ってきた情報が脳に届くまでの遅れあるいはGの感覚を知覚してから脳に届くまでの遅れを考えていくと、レーシングドライバーたちは(その遅れを補完するために)脳と筋肉が連係プレーで、物事を考えて決断する前にコントロールを始めるんですね。
自分の知らない誰か別の人がいて、勝手にクルマの状態に対してリアクションを始めている。僕らの「グランツーリスモSPORT」ではそれを再現するために、たとえばステアリングのフィードバックが、実は画面よりも早くやってくるようになっているんです。
今のコンピュータのアーキテクチャーの制約もあるのですが、内部で計算が行われて実際に次の世界がどうなるのかが画面の上に表示されるまで0.05秒の遅れが出ます。

※「G(ジー)」とは重力加速度を表す記号、単位。通常、何もない状態で物体を地面に落とした際の加速度を1Gとする。クルマなどでコーナーを高速に走ると遠心力で横方向にGが掛かる状態を「横G」と言う。

可夢偉 0.05秒って大体、シフトチェンジの間隔(※)ですよね。

※レース用のセミオートマチックシフトのギアチェンジのスピードのこと。

山内 画面は0.05秒遅れるんですが、僕らとしては、出せる情報はなるべく早く出したいので、ステアリングのフィードバックは0.016mm秒くらいで返します。音もそうです。少しでも早く情報を戻せるようにという工夫をしています。
それが(実感のある)ソフトウェアを作る上でのノウハウです。僕らはそういう遅れを意図的に増やすことができるので、いろいろテストをしてみると、あるところからまったく運転ができなくなったりしますね。

可夢偉 レーシングカーはいろんな感覚を受け取って初めて運転できるんだなって思いますね。自分が意識しない身体のどこかの筋肉が勝手に何かを感じて反応しているから走れる。
ゲームの限界は画面とステアリングとペダルの3つしか感じ取るインターフェースがないってことですよ。市販ゲームソフトとしてそれがない中で、いかにリアルにしようかという工夫をしているグランツーリスモは、何億円と費用をかけたF1のシミュレータに近いレベルのリアリティを実現していますね。
F1のシミュレータは多少なりとも(筐体が)動いてGは出せるんですが、グランツーリスモは動かなくてもそのレベルで実感があります。

TMGにあるシュミレータ。グランツーリスモSPORTはこのシミュレータに近いレベルであると小林可夢偉選手は語っている。

TMGにあるシュミレータ。
グランツーリスモSPORTはこのシミュレータに近いレベルであると小林可夢偉選手は語っている。

レコードでのル・マンポールポジション。正直、驚きました

山内 今年のル・マン24時間レースは、1人のモータースポーツファンとして眺めていました。TS050 HYBRIDは惜しくも勝てませんでしたが、僕の印象としては、目指していたテクノロジーの志の高さでポルシェを上回っていたのではないかなと思うんですよ。システム的にポルシェはあれ以上速くすることはできないと想像します。TS050 HYBRIDに搭載されているシステムの方が伸びしろは大きいと僕は思っています。
それから可夢偉さんのポールポジション(タイム)は、正直、驚きました。

可夢偉 ポールポジションを獲ったラップは、そんなに攻めていたわけではありませんでした。実は、あの日(クルマに)飛び乗って、最初のラップだったんです。
「大丈夫かなぁ」と思いながら走ったセクター1は、まあ普通。セクター2でペースが上がって、セクター3でどーんと上がった。
本当に全く同じコンディションでもう1ラップ走行出来たとしたらセクター1でもタイムを上げられて、もっと良いタイムが出ていたと思います。
コントロールラインに向かっているときは『このままの状態で走りきりたい』という気持ちでいっぱいでした。自分なりに失敗なく1周をまとめたかった。
後から考えれば、あのときこうしていたらもっと、とは思いますがレースなんでそんなことばかりですよ。

山内 最後の最後の瞬間、コントロールラインを通過する0.5秒くらい前の段階で電気(バッテリーの出力)が切れたでしょう?

可夢偉 そんなことまでわかるんですか!?

山内 あれ、きれいに電気を使い切ったなぁと思っていたんですよ。それで少し失速するんですよね。

可夢偉 そうです。きれいに使い切りました。そこもうまくいきました。
結果は嬉しいですよ。
ハイブリッドカーでコースレコードを作ったことも嬉しいし、あのタイムは当分抜かれないと思います。何かすごいことをやったんだなあと思いますね。まあ、それが来年あっさり塗り替えられちゃったりするんだけど(苦笑)
でも路面コンディションや風向きとか、いろいろあるけど全部がうまくいかないと、あのタイムは出ません。ル・マンは、1周すると絶対に渋滞に引っかかるんですよ。それだけのいろんな巡り合わせがうまくいくとは思えませんけどね。

今年のル・マン24時間レースより。小林可夢偉選手がマークしたレコードタイム「3:14.791」は、世界中の誰もが驚愕した。山内一典氏もその1人だったという。

今年のル・マン24時間レースより。小林可夢偉選手がマークしたレコードタイム「3:14.791」は、
世界中の誰もが驚愕した。山内一典氏もその1人だったという。

WEC富士で、世界で最初の製品版
「グランツーリスモSPORT」を体験してください

山内 今年のWEC富士が終わった直後の10月19日が、ちょうど新しい"グランツーリスモSPORT"の発売日になります。
この4年くらい、水深4000mくらいの深海に潜っているような気分で(笑)ずっとグランツーリスモSPORTを作ってきました。それが一区切りつくので、久しぶりにレースをちゃんと見たいなと思います。
去年は可夢偉さんがWEC富士で優勝しているわけですけれど、今年はどうですか?

可夢偉 富士では勝つしかないですよね。気持ちは勝っているんですけど、でもレースですから行ってみないとわかりません。僕自身は去年富士で優勝して、今年の富士については自信を持って臨みます。
今年はル・マンであれだけのタイムを出してレースも走っている間はぶっちぎって何もなければ勝てるかなという状態へ持ち込めたのに、勝てませんでした。その後もまだ勝てないままですが、なんとかこの富士で優勝して悪い流れを断ち切りたいと思います。

山内 私自身、観戦にできる限り駆けつけたいと思っています。でも富士スピードウェイでタイムを出すのは本当に大変ですよね。

可夢偉 そうなんです。大変なんですよ。特に最後のセクターがね。
第1セクター、第2セクターとうまくいくと、第3セクターで守りに入ってタイム出なくなるんです(笑)
思い切って行かないとダメだけど、思い切って行くとその分、えらい失敗をするんです。

山内 第3セクターは本当に難しいですね。

富士スピードウェイで難しいとされる「第3セクター」。写真は昨年のWEC富士6時間レースより。

富士スピードウェイで難しいとされる「第3セクター」。
写真は昨年のWEC富士6時間レースより。

WEC富士で『僕のタイムを抜いてみろ!』
と言っておきましょう(笑)

山内 実は今回、WEC富士の会場には、グランツーリスモSPORTを体験できる試遊台を用意して、来場したファンの皆さんに体験していただけるようにします。
最終版の"グランツーリスモSPORT"は、WEC富士が世界初のお披露目なんですよ。

可夢偉 今日、山内さんにお会いする前に(WEC第4戦の舞台だった)ニュルブルクリンクでタイムアタックをしたんですが、そのデータを富士では用意をしてくれるそうです。
皆さん、そのタイムを目標に試してみてください。『僕のタイムを抜いて見ろ!』と言っておきましょう(笑)
ファンの皆さんには「レースはオマケだと思って(笑)」、ぜひ新しい"グランツーリスモSPORT"を試しに来るつもりで、ぜひ富士スピードウェイへ来ていただきたいですね。

小林可夢偉選手と山内一典氏

<後編 後書き>
いかがでしたでしょうか、リアルのWECドライバーである小林可夢偉選手と、世界で評価されるグランツーリスモをプロデュースする山内一典さんのトップ対談。レースとゲーム開発、舞台は違えども凄い技術と努力をしていることが分かって頂けたかと思います。このお話を聞いて、10月13〜15日に富士スピードウェイで開催されるWEC富士がさらに楽しみになったのではないでしょうか。
皆さんも、WEC富士では小林可夢偉選手とTS050 HYBRIDにぜひエールを送ってください。そしてWEC富士にお越しの方は、"グランツーリスモSPORT"もぜひ体験してみてください。またWEC富士でグランツーリスモSPORTをプレイされる前にぜひ下記の動画もご覧ください。

ル・マンのレコードホルダー、小林可夢偉が
グランツーリスモSPORTでニュルを本気アタック!

小林可夢偉が「グランツーリスモSPORT」でニュルブルクリンクを本気アタック!
タイムは、昨年の予選で自らマークしたタイム(1:40.571)を上回る「1:40.186」をマーク!ル・マンのレコードを塗り替えた小林可夢偉選手の「グランツーリスモSPORT」での本気アタックをご覧ください。
またWEC富士のTOYOTA GAZOO Racing PARK(TGRP)ではぜひこのタイムに挑戦して下さい!

ニュルはTS050 HYBRIDではこう走れ!
小林可夢偉 解説ムービー

小林可夢偉選手がマークしたタイム「1:40.186」を上回るために、ニュルブルクリンクのTS050 HYBRIDでの攻略法を可夢偉選手自らが解説します。WEC富士のTOYOTA GAZOO Racing PARK(TGRP)で「グランツーリスモSPORT」を体験する前にしっかり可夢偉選手の走りを予習しよう!

TS050 HYBRID ビューティショットムービー

グランツーリスモSPORTに収録されるTS050 HYBRID。
圧倒的な美しさで本物と見間違えるクオリティの高さです。
また、現実ではありえない一般道を走るTS050 HYBRIDもぜひご覧ください!