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WEC 参戦記 2017 小林可夢偉編 vol.1
「今回の成績は残念でしたが、最大の目標はル・マンの勝利」

WEC 参戦記 2017 小林可夢偉編 vol.1 「今回の成績は残念でしたが、最大の目標はル・マンの勝利」

僕がTOYOTA GAZOO Racingに参加して2年目のシーズンが始まりました。1年目の昨年は学ぶことが多かったですが、今年はチームを引っ張って行くドライバーのひとりとして、責任のある立場にあると自覚しています。
今年は#7号車で僕が組むドライバーに変化がありました。昨年まで一緒だったステファン(サラザン)に代わり、ホセ・マリア・ロペスが加わりました。マイク(コンウェイ)と3人体制です。ロペスはアルゼンチン出身の実力のあるドライバーです。FIA世界ツーリングカー選手権(WTCC)で2年連続チャンピオンを取っていますし、フォーミュラEでも活躍しています。ラテン系なのでノリが良く、すぐに打ち解けました。冬のテストでは初めての最先端ハイブリッドレース車両に少してこずっていたようでしたが、最初からスピードはありました。あとは慣れでしょうね。

3月のモンツァの合同テストでは、我々はロー・ダウンフォース空力仕様のTS050 HYBRIDで走ったのですが、開幕戦シルバーストーンにはハイ・ダウンフォース空力仕様を持ちこみました。このコースは高速コーナーが続いていて、そこをスムーズに走るにはどうしてもより大きなダウンフォースを付けてグリップを上げないと駄目なんです。ただ、第2戦、第3戦と高速コースが続きます。特に第3戦ル・マンは我々がどうしても勝ち取りたいレースで、そこはロー・ダウンフォース仕様のクルマでないととても勝てません。そのル・マンに向けての準備ということであればここシルバーストーンもロー・ダウンフォース仕様を試した方が良かったのかもしれませんが、ル・マンはもとよりシーズンを通して全てのレースを勝ちにいきたいので、シルバーストーンには勝てるパッケージのハイ・ダウンフォース仕様を持ちこんだのです。方やライバルのポルシェはロー・ダウンフォース車を持ちこんで来ましたね。

予選は土曜日に行われましたが、とても順調だったと思います。予選はマイクと2人でアタックしました。僕が走った時には遅いクルマにも邪魔されず、きれいなクリアラップが取れました。タイムはマイクとの平均値で1分37秒304です。僕が1分36秒793で全体ベストタイムを出すことができたのですが、全てチームワークですので、自分のためというよりもチームのために良かったと思います。 予選では僕たちの#7号車は、#8号車に比べてより高速コーナーに合わせたセッティングを仕上げていたからですね。例えば#8号車はコーナーで少しアクセルを戻さなくては曲がれないところを、僕たちのクルマは全開で曲がれちゃうんです。そういう仕様にセットアップしていたんです。そのおかげで予選の1ラップは非常に速かったです。

でも、逆にレース本戦は厳しかったです。ダウンフォースが大きいので直線のスピードが伸びませんでした。これは予選の時から予想されたことで、エネルギーもかなり消費するので回生が不十分になる場合もありました。

我々の#7号車と#8号車のセッティングが異なったのは、車両個体差の問題でしょうか。同じセットアップでも#8号車と同じ結果にならず、土壇場でバタバタというわけにも行かなかったんです。これは予選の時から分かっていて、正直、決勝レースに重点をおきたかったので残念には思っていました。#8号車とはまともに戦えないだろうということは分かっていましたが、ただ、ポルシェとの対決はどうなるか分かりませんでした。

結果的にはご存じのように中盤過ぎにロペスがクラッシュして、勝負は出来なくなりました。序盤は予想以上に良いペースで走ることが出来、可能性を感じていました。しかし、レースが半ばを過ぎた頃、リヤサスペンションのアンチ・ロールバーに不具合が生じ、クルマが思ったように走ってくれませんでした。マイク(コンウェイ)が僕にステアリングを渡してくれるとき、「クルマの後ろが不安定だから気をつけて」と言ってくれました。乗ってみるとその通りで、特にコーナーの出口などはよほど慎重に走らないとステアリングを取られてしまいそうでした。ロペスにもそのことは伝えましたが、雨が落ちてきて路面が濡れたせいもあって、彼は運悪くコースアウトしてクラッシュしました。チームからの無線指示で何とか壊れたクルマをピットまで持ち帰って修理しましたが、当然ながら大幅に遅れてしまいました。

今回の成績は残念でしたが、今年のTS050 HYBRIDは本当に良いクルマに仕上がっており、これから先のレースでおおいに期待できます。最大の目標はル・マンの勝利。昨年は2位でしたから、今年は是非表彰台の中央に立ちたいと思います。ライバルは同じチームの#8号車になると思っています。もちろん、その前に次のスパのレースも勝ちにいきます。皆さんの応援を宜しくお願いします。

  • タイヤ交換をするTS050 HYBRID
  • シルバーストーンを走るTS050 HYBRID
  • 小林可夢偉
  • TOYOTA GAZOO Racingのピット
  • 予選でポールポジションを獲得したTS050 HYBRID 7号車
  • 車検を受けるTS050 HYBRID
  • 小林可夢偉
  • シルバーストーンを走るTS050 HYBRID

小林可夢偉編

      中嶋一貴編

          国本雄資編