フェルナンド・アロンソ。
スペイン・アストゥリアス州オビエド出身の36歳。
F1で2度のワールドチャンピオンとなった世界最高のドライバーの1人と評される男だ。
世界三大レースのひとつ、ル・マン24時間レースに初めて挑戦するアロンソに
F1とWECの違いやその難しさや子供のころからの夢、
初めて共に戦うTOYOTA GAZOO Racingの印象を聞いた。
母国の英雄を通じて知ったトヨタの存在
ワールドチャンピオンがTOYOTA GAZOO Racingにやってきた。
2018年1月30日、TOYOTA GAZOO RacingはF1世界選手権(以下F1)で2度のワールドチャンピオンとなったスペイン人ドライバー、フェルナンド・アロンソがル・マン24時間レースを含むWEC(FIA世界耐久選手権)の2018-19シーズンに出場することを発表した。
「ル・マン24時間レースに初めて参戦できる事をとても嬉しく思っています。ル・マンは以前から参戦を夢見てきたレースです。耐久レースは、F1のようなスプリントレースとは違いますが、デイトナ24時間レースではその一端を経験し、本当に楽しむことができました。耐久レースで豊富な経験を持つセバスチャン(・ブエミ)、(中嶋)一貴の2人から学びながら、ともにレースをするのが楽しみです。短時間で学ばなければいけないことも多いでしょうが、心の準備は出来ています。」
ルノー、マクラーレン、フェラーリ、ホンダ・・・アロンソは、さまざまなメーカーとともにレースを戦ってきたがTOYOTA GAZOO Racingとともにレースに参戦するのは初めて。
アロンソが、初めて「トヨタ」を意識したのは子供の頃だったという。
それはアロンソの母国・スペインの英雄がWRC(FIA世界ラリー選手権)でドライブしたトヨタ セリカだった。
WRC CELICA GT-FOUR ST165(1990年)
「スペイン人として、また1人のモータースポーツファンとして、カルロス・サインツがトヨタ セリカをドライブしてWRCでチャンピオンを獲得したことはよく覚えています。それが僕のトヨタの最初の思い出ですね。」
カルロス・サインツはセリカで2度、WRCチャンピオンを獲得。
スペイン人として初のWRCチャンピオンに輝いた。
スペイン人として初のWRCチャンピオンに輝いたカルロス・サインツ
奇しくもアロンソ少年が憧れたサインツが、セリカでWRCに参戦していた頃、トヨタのWRCチームの運営を行っていたのは、現在WECチームを運営しているTMG※1だ。
四半世紀以上のときを経て、母国の英雄がワールドチャンピオンとなったチームからアロンソは夢のル・マンに挑む。
※1 当時のチーム名はTTE(トヨタ・チーム・ヨーロッパ)
豊田章男社長に感謝。早く会って話をしてみたい!
TOYOTA GAZOO Racingにとってもアロンソと共にレースを戦うのは初めて。
新加入したアロンソに対して、モリゾウこと豊田章男 トヨタ自動車社長からメッセージが届けられた。その一部を紹介する。
LMP1のクルマに乗ってみたい...、そしてル・マンを走りたい...勝ちたい...。その想いを叶えるためのパートナーとして、トヨタを選んでくれてありがとう。
今まで数々のレースを戦い、我々の誰もが経験したことのない景色を見てきたアロンソ選手がトヨタガズーレーシングのクルマに乗ることにとてもワクワクしています。彼がクルマに乗ることで、我々のクルマが更に鍛えられていくと思います。
そして、ドライバーやチームメンバー全員が耐久レースで今まで学んできたことに、彼の経験から学びとれることが加わるとトヨタガズーレーシングがどう成長できるのか...、私自身、本当に楽しみですし何より、メンバー全員がその成長を楽しみにしています。
名誉と感謝。豊田社長からのメッセージを受け取ったアロンソの心の中にはその2つの言葉があった。また自身と同じレーシングドライバーである豊田社長と早く会える日が来るのを楽しみにしている。
「豊田章男社長からの『トヨタを選んでくれてありがとう』というメッセージを読んでとても名誉に思っています。TOYOTA GAZOO Racingでル・マン24時間レースを戦うことを許可してくれた豊田社長には感謝の意を伝えたいです。また豊田社長自身もレーシングドライバーだと聞いているので、早くお会いしていろいろな話をしたいと思っています。きっと共通の話題がたくさんあると思いますよ。」
2017年に初めてサルトサーキットを訪れたモリゾウこと豊田章男 トヨタ自動車社長
子供の頃から憧れのル・マン
「ル・マン24時間レースに参戦するという夢が叶いました。」
アロンソにとってル・マン24時間レースはF1に参戦するよりもはるか以前、子供の頃からの憧れだったという。
「子供の頃から世界的に重要なレースとしてル・マン24時間レースを見てきました。スペインでは子供の頃からこのビックレースを見て育つんです。」
アロンソは2014年にル・マンを訪れ、24時間レースのスタートフラッグを振っている。実際にル・マン24時間レースへの参戦を意識しはじめたのは、その頃からだったようだ。
「ル・マンで戦いたいと思ったのは数年前。フェラーリからF1に参戦していた2014年にル・マンを訪問し、スタートフラッグを振りました。フェラーリにいた際にル・マンで戦えるかもしれないという機会が数回あったけれど、フェラーリは僕が他のブランドからル・マン24時間レースに参戦することに熱心ではなかったんです。でも昨年末、ル・マンに出場できる可能性があるかもしれないと思って、TOYOTA GAZOO Racingと話をしたんです。」
F1とWECとの違い
スプリントレースのF1。
耐久レースのWEC。
両カテゴリの大きな特徴をあげればこの2つになる。
今シーズン、両カテゴリからレースに参戦するアロンソの目にはその違いはどう映っているのだろうか。
「F1は毎周コンマ1秒を削るために全力でアタックすることに尽きます。WECではゴールまできちんと辿り着けるように毎周、効率と燃費を意識した運転になります。」
「LMP1-Hの技術はどんどん洗練されていっていると思います。なぜならレギュレーションによって、トラクションコントロールや4輪駆動など多くの技術の使用が許されているから。これらの技術の多くが禁止されているF1と比べたらLMP1-Hははるかに洗練されていると思いますよ。」
アロンソは今年の始めに北米・IMSA WTSCの伝統の一戦、デイトナ24時間レースにも出場。既に24時間の耐久レースを経験している。デイトナでもF1とは異なる耐久レースの難しさを感じたようだ。
「F1では通常、毎周ほぼ同じコンディションで走りつづけますが、耐久レースは毎周ごとに違うシチュエーションで、同じ周回は1つもありません。WECの最大の特徴はトラフィック(コース上の渋滞)。1周の間に多くのGTカーに遭遇するし、夜走ることもあれば、気温30度になることもあるので、毎周ごとの違いに適応しなければなりません。だからドライバーの集中力が何よりも重要で、極めて厳しい挑戦です。」
世界で2人目の偉業への挑戦
近年、アロンソほど世界中を旅しながら、数多くのレースに参戦しているドライバーはいないであろう。
今年1年間52週のうち、なんと半分以上の27週でレースを行うことになる。
とにかくアロンソはレースが好きなのだ。
そしてその先にある究極の目標・・・それは世界三大レース制覇だ。
世界三大レースとは・・・
F1モナコGP
インディ500
ル・マン24時間レース
の3つの伝統レースのことを意味する。
歴史上、たった1人しか成し遂げていない偉業※2への挑戦。
F1モナコGPでは既に優勝(2006年、2007年)を飾り、昨年インディ500にも初参戦を果たした。アロンソは今年、ル・マン24時間レースに初めて挑戦し、その偉業へむけた新たな1歩を刻むことになる。
※2 1960〜70年代に活躍したイギリス人ドライバーのグラハム・ヒルが唯一世界三大レースを制している
2週間連続での日本のレース
日本のファンを笑顔にしたい!
少し気が早い話であるが、アロンソは10月に日本で2週連続でレースを行う。
F1日本GP(10/7決勝)とWEC富士6時間レース(10/14決勝)だ。
「日本は食事、雰囲気、人々、滞在して本当に楽しいところです。だから10月に僕のお気に入りのサーキットである鈴鹿とTOYOTA GAZOO Racingのホームサーキットである富士スピードウェイで2週連続日本でレースができることがとても嬉しいです。」
「富士6時間レースに初めて参戦するのをとても楽しみにしています。いままでTOYOTA GAZOO Racingが富士スピードウェイで強いことは知っていますから、日本のファンを笑顔にできたらと思っています。」
「日本のファンのみなさま、応援してくれてありがとう!さぁ勝利に向かってともに戦いましょう!」