川井ちゃん、僕たちル・マンで優勝しましたよ! 後編「川井ちゃんが聞く24時間レースの裏側」

川井ちゃん、僕たちル・マンで優勝しましたよ!
後編「川井ちゃんが聞く24時間レースの裏側」

24時間という長い時間を走るル・マンですが、3人のドライバーがいるので常に走っているわけではありません。

そんな合間の過ごし方や食事など、スプリントのF1とは違う部分に川井さんは興味を持ったみたいです。

また。WECとフォーミュラレースの両方に参戦する難しさなども聞いていきます。

そして、アロンソ選手にはレース後の心境をじっくり語ってもらいました。

WECとフォーミュラレース。
同じ部分と違うこと

川井一仁氏(以下、川井)ちょっとル・マンの話題から離れるけど、WEC以外にも3人それぞれにフォーミュラレースに参戦しているよね。クルマの乗り分けで苦労はしないものなの? 特にフェルナンドはF1に出て、次はTS050 HYBRIDに乗ってと大変じゃない?

フェルナンド・アロンソ(以下、アロンソ)みんな一緒だと思うよ。一貴もSUPER GTやスーパーフォーミュラをやっているし、セブ(ブエミ)はフォーミュラEに乗っている。確かにレーシングカーごとにテクノロジーも違うし、ドライビングスタイルも違う。でも、時には燃費も気にしなきゃいけないし、時には全開でプッシュし続けなきゃいけない。レースという意味では同じだよ。

WECとフォーミュラレースの違いについて語るセバスチャン・ブエミ、中嶋一貴、フェルナンド・アロンソ

川井でも、WECとフォーミュラカーじゃクルマもずいぶん違うし、クルマの操作で混乱したりしないの? 僕はレンタカーとかでウインカー点けるつもりがワイパーを動かしてしまったりするんだけど。

セバスチャン・ブエミ(以下、ブエミ)環境がまったく違うから問題がないよ。例えばWECの時は、コースについたら頭の中はWECのことだけになる。それはフォーミュラEも同じ。確かに最初の数周は違和感が出ることもあるけど、すぐに慣れるよ。どこか1戦だけ出るなら混乱もするかもしれないけど、僕は両方ともシリーズで参戦しているから、それほど難しい問題に感じたことはないな。

サルト・サーキットを走行するTS050 HYBRID 8号車

走っていない時の24時間レース。
ドライバーの備えと食事

川井さすが、みんなレースキャリアが豊富だね。ル・マンの話しに戻るけど、24時間のレース中は、ドライバーってどんな準備、時間の使い方をしていたのかな? 例えば、フェルナンドは24時間レースの経験は少ないでしょ?

アロンソ間違いなく、ル・マンは僕にとって新しい体験だったね。冬のテストから準備が始まったけど、耐久用のテストをするのではなく、まずはクルマの走らせ方に慣れるためにシミュレーターで感覚をつかむところからスタートした。
ル・マンのコースで実際に走れる機会は限られていたけど、チームもプロフェッショナルで僕より経験が豊富だ。そこに助けてもらいながら、レースを迎えたんだ。

ドイツのケルンに本拠を置くTMG(トヨタモータースポーツ有限会社)にあるシミュレーター
ドイツのケルンに本拠を置くTMG(トヨタモータースポーツ有限会社)にあるWECのシミュレーター

川井ル・マンでは1回クルマに乗ると、だいたい2時間半くらい乗ることになるね。

中嶋一貴(以下、一貴)そうですね、もう少し長くなる場合もあります。セーフティカーが入ったりとかして。

川井一仁氏

川井そうすると、自分が担当しない時間で休息が取れるのは4時間強ぐらいだね。実際にどう過ごしているの?

一貴まずはシャワーを浴びて、食事。その後マッサージを受けるので、寝られたとしても最大3時間ですね。

アロンソ起きてからも、自分が乗るまでに準備を整えなきゃいけないから、休憩は3時間もないかな。でも、クルマに乗った後はテンションがハイになっているから、なかなか寝付けないんだ。ちゃんと3時間寝ていたのは一貴くらいだと思う(笑)。

一貴いやいや(笑)。昨年までは夜はちゃんと寝られたと思います。セーフティカーなどで各ドライバーの持ち時間が前後するから、休憩時間が長くなってよく寝られました。今年は全然寝られなかったですね。1時間とか......そんな感じです。

ル・マン24時間レース中は、ホスピタリティブースに用意されたドライバー専用の個室で仮眠をとるなど体を休めている
ル・マン24時間レース中は、ホスピタリティブースに用意されたドライバー専用の個室で仮眠をとるなど体を休めている

ブエミ今年は、ちょうど夜に問題が起きて。僕がペナルティを受けてバタバタしてしまった。チームメイトの睡眠を邪魔する形になって申し訳なかった。そんな風に、レース展開によって寝られたり、寝られなかったりする。実際、僅差でトップ争いしていると、落ち着いて寝られないよ。

川井寝るの次は、食事が気になるな。みんなの食事をサポートしてくれるスタッフが待機していたりするの?

アロンソそうだね。6、7人のグループで、食事や飲み物の用意やマッサージをしてくれたりする。

川井どんなものを食べるのかな?

アロンソ3、4時間後にはまたクルマに乗らなきゃいけない状況だから、とにかく消化のいいものを食べるようにした。フルーツとかパスタを食べていたよ。

一貴スティント(走行時間)の間に食べるものは毎年同じにしています。ご飯とチキン、マッシュルームソースも用意してもらいます。あとフルーツですね。でも、今年はケータリングの会社がいつもと違って、ちょっと味が違いましたね(笑)。

ル・マン24時間レース中の食事。野菜やフルーツなども多く、バランスのとれた食事を摂ることができるル・マン24時間レース中の食事。野菜やフルーツなども多く、バランスのとれた食事を摂ることができる

ブエミ僕は正直、スティントの間はたくさん食べたい方なんだけど......。基本的にはパスタかな。

川井F1の予選前は体重が増えるからあまり食べないと聞くけど、ル・マンの場合はその辺は気にしないのかな?

アロンソ食事はしっかりとるね。もちろんクルマの重量が変わると変化する部分はあるけど、スティント1回のドライブでものすごいエネルギーを消費して汗もたくさん出ている。だから、次のスティントまでに回復しておかないと。スティントの間はできるだけ水分補給や食事はとるようにしているよ。

セバスチャン・ブエミ

ブエミ耐久シミュレーションをやった時、あまり食べずにやったらやはりエネルギーがなくなったな。深夜にたくさん食べるのは普通ではあまりないけど、自分自身の集中力を高めたりパワーを出すためには重要なことだと思ったよ。

7号車とのバトル。
アロンソが感じたル・マン優勝とは

川井今年はずっと7号車とトップ争いをして、最終的にワン・ツー・フィニッシュで終わったけども、8号車の心境としてはどうだったのかな?

アロンソ僕たちと一番近いところでレースをしたのは、常に7号車だった。(ドライバーなど)違いもあるけど、クルマのポテンシャルは同じ。そして18時間まではお互いに全力で走っていた。そこからはリスクを避け、ミスをしないようにしてチェッカーを着実に受けたんだ。

2018-19年 第2戦 ル・マン24時間レースでワンツーフィニッシュを飾ったTS050 HYBRIDの2台
2018-19年 第2戦 ル・マン24時間レースでワンツーフィニッシュを飾ったTS050 HYBRIDの2台

川井そういう意味では、今回の勝利は8号車だけでなく、7号車も含めTOYOYA GAZOO Racingのみんなでシェアをしたことになるけど、フェルナンドはそれをどう思う?

アロンソル・マンすべての瞬間を共有していたと思う。チームのみんなと勝利を分かち合った時は、本当に特別な時間だった。これは僕個人のレースではなくて、チームスポーツだから、もし2番手にならなければいけなくてもOKだった。その中でもベストは尽くすよ。
F1は1時間30分ひたすらプッシュするだけだけど、ル・マンは違う。いろんな状況や要素が複雑に絡み合うレースだから、勝つためにはそれらが上手く揃わないといけない。もちろん運も必要になってくる。
ガレージに戻った後が、個人的には印象的だったね。レース後、エンジニアやメカニックに会ったのが、それが最初だったから。レース後は表彰式や記者会見などで2時間もチームのみんなに会えていなかったから、ガレージに戻った時はとにかく嬉しかった。とにかく、みんな一生懸命だったから。メカニックも寝ないでクルマの準備をしてくれて、パーフェクトに仕上げてくれたし、ピットストップも完璧だった。
この日の僕はハッピーだった。2台のTS050 HYBRIDがワン・ツーでちゃんとチェッカーフラッグを受けることができて、速さも見せることができたから、本当に良かったと思うよ。

ガレージでル・マン初優勝を喜ぶTOYOTA GAZOO Racingチームスタッフ
ガレージでル・マン初優勝を喜ぶTOYOTA GAZOO Racingチームスタッフ

川井ところで、表彰式が終わった後にはパーティとかやったの?

一貴特にはやってないですね。

ブエミ僕はすぐに家に帰ったよ。今年はテストとかも多かったし、ル・マンのウィークも長いから家を空けることも多かった。チームスタッフの何人かは1ヶ月くらいル・マンに滞在していたんだよ。とにかく、終わったら早く家に帰りたいって気持ちが強かった。そう子供が待っているからね。

川井え、もう終了の時間! ちょっと早くない? でも、おもしろい話しがいっぱい聞けて楽しかった。改めて優勝おめでとう! ところで、ル・マン初優勝の3人にサイン、もらっていいかな?

3選手もちろん!(笑)

川井一仁氏、セバスチャン・ブエミ、中嶋一貴、フェルナンド・アロンソ

<後編 あとがき>
いかがでしたでしょうか? ル・マン24時間の8号車トリオは、すでにいろいろなメディアでレースや優勝の話をしていますが、“F1の川井ちゃん”の視点はまた違っていて、新たな裏話も出てきてとても楽しかったですね。今季のWECは年をまたぎ、最終戦は来年6月のル・マン24時間となります。そのレース後も川井さんとTOYOTA GAZOO Racingのドライバーたちが楽しい対談ができればいいですね。