"聖地に残した爪痕"
第7戦 ル・マン24時間レース
2020年9月16日-20日
フランス・サルト・サーキット
TGR WECチャレンジドライバーの山下健太が、9月16日(水)から20日(日)にかけて行われた、FIA世界耐久選手権(WEC)第7戦ル・マン24時間レースに、LMP2クラス・ハイクラスレーシング(デンマーク)から参戦。自身初めての参戦となる伝統の24時間レースで、予選トップ4、決勝でもトップ争いとエースドライバーとしての走りを披露しました。
9/17(木)公式練習&予選
猛者揃いのLMP2クラス。初走行でいきなりのトップタイムを叩き出す
今年で88回目を迎えたル・マン24時間レース。これまでは事前車検から決勝レースまで1週間かけて行われてきましたが、今年はコロナ禍の開催となり、その期間が大きく短縮され、木曜日にフリー走行3回+予選、金曜日にフリー走行+ハイパーポール、そして土曜日から日曜日にかけてウオームアップ+決勝レースという過密スケジュールで開催されました。
木曜朝10時から始まったフリー走行1回目は、まずチームメイトのフィヨルドバッハ選手が最初にコースイン。8周を走行してクルマとコースを確認した後、山下、パターソン選手の二人がそれぞれコース習熟のため6周ずつ走行。その後クルマのセッティングを変更して再び山下が走行。山下はセッション終了間際にトップタイムを出しチームを驚かせました。
「初めての走行でトップタイムを出せたのはとても驚きでした。前回のレースと比べてクルマはすごく良くなっていると感じています」
1時間の休憩時間の後、午後2時からフリー走行2回目がスタート。このセッションは山下、フィヨルドバッハ選手、パターソン選手の順で走行し、レースに向けたクルマづくりをした後、最後に再び山下が乗り込んで、予選に向けた車両バランスを確認しました。
続く予選はフリー走行終了から15分のインターバルで開始。山下がまず1セット目の新品タイヤでタイムアタックを行い3分27秒611の好タイムをマークし、その時点でクラス4番手に付けます。その後フィヨルドバッハ選手が同じタイヤでアタックしたあと、山下は2セット目の新品タイヤで再度アタックに出ますが、トラフィックにひっかかりアタックを中止してピットインしました。しかし山下の1回目のタイムがクラス6番手となり、翌日のハイパーポール進出が決まりました。
午後8時からはこの日4回目となるフリー走行3回目。夜間走行となるこのセッションでは、ドライバー全員が最低5周ずつ走行する必要があります。パターソン選手、フィヨルドバッハ選手、山下の順でこの義務を消化したあと、ロングランを行いタイヤの摩耗具合を確認して、長い1日を終えました。
9/18(金)ハイパーポール
ハイパーポールを任され4番グリッドを獲得。今やチームのエースに
続く金曜日は朝10時から1時間のフリー走行。そして11時30分から各クラス上位6台ずつによるハイパーポールが行われました。フリー走行では山下、パターソン選手、フィヨルドバッハ選手の順でレースに向けたセッティングの最終確認を行い、インターバルの間にクルマを予選用に戻して、山下がハイパーポールを担当。1回目のアタックで3分25秒896、2回目のアタックで3分25秒426をマークし、強豪チームに割って入るクラス4番手を獲得する大健闘をみせました。「ハイパーポールでは予選からふたつ順位をあげてフィニッシュすることができました。明日からのレースは24時間なので色々なことがあると思いますが、とにかくミスをせず安定して走ることが大切なので、そこをターゲットに最後まで頑張りたいと思います」
9/19(土)-20(日)決勝
初のル・マンで魅せたトラフィック捌きとバトルで、公式映像も注目するトップ争いを繰り広げる
金曜夜から土曜朝にかけて雨が降り、10時30分から15分間のウォームアップ走行はウェット路面で始まりました。このセッションはレーススタートを担当する山下ひとりだけが担当し、ウェットタイヤを履いてクルマの最終確認を行いました。路面はセッションの最後には乾き始めており「最後はドライタイヤでもいけたと思います。クルマ自体はウェットタイヤでも悪くないと思います」
そして午後2時30分、ついに決勝レースがスタートします。
スタートドライバーを務めた山下は3スティントをタイヤ無交換で走る戦略。スタートでふたつポジションを落としたものの序盤はタイヤを温存しながら走行。7周目にはGT勢のトラフィックをうまく使ってオーバーテイクし4番手にポジションアップします。そして8周目に1回目のピットイン。ここでピット作業を給油だけに短縮したことで2番手に浮上。続く第2スティントでは今度はGT勢を使ってポジションを守るなど、攻守に長けた走りを披露します。
続く第3スティントでも山下は三つ巴のトップ争いを演じてみせます。27周目のインディアナポリスからアルナージュコーナーで2番手のクルマに仕掛けるシーンもありました。
山下の奮闘ぶりは海外のメディアからも注目され、国際映像でも山下の走行シーンが何度も中継されました。そして28周目にピットインしバターソン選手に交代します。
「スタートではエンジンの水温が上がりすぎてエンジンがセーフモードに入ってしまい、リミッターがかなり低い回転数で効いたせいで2台に抜かれてしまいました。あれがなければもうちょっと早くにトップを捉えられていたかもしれません。とにかく24時間レースなので無理をしないことを心がけて走りました」
この日はパターソン選手も好調でブロンズドライバー勢では上位のタイムで周回を続けます。しかしパターソン選手の走行中からシフトチェンジに問題が発生し、フィヨルドバッハ選手が運転を引き継いだ直後にその症状が深刻化。6速から変速できなくなってしまいました。なんとかコースを1周して戻ってきたクルマを、午後7時17分、チームはガレージに入れて修復作業を始めました。
ギヤボックス、油圧システム、電子制御システムなど全てを新品に交換しただけでなく、ガレージには車体、ギヤボックス、電子制御を製造する各メーカーのエンジニアも集りトラブル解決にあたります。山下、パターソン選手、フィヨルドバッハ選手の3名は、チームからのリクエストで何度か症状を確認するためコースに出ますが、問題は解決できていませんでした。そして午前2時4分、このままでは各ドライバーの最低搭乗時間を満たすことができないと判断しチームはリタイアを決断しました。午前3時過ぎにホテルに帰った山下は、翌朝サーキットに戻りチームメイトたちとチェッカーを見届けました。
「チームはなんとかトラブルを修復しようとしてくれていたので、リタイアは残念でした。レース結果をみると、もしあのまま走ることができていたらトップ5に入れていたのではと思います。こちらのクルマにそれだけのペースはあったと感じています。
個人的には走行時間が短くなってしまったとはいえ、初めてのル・マンでトップ争いができたことはとてもよかったと思います。チャンスをくれた皆様に本当に感謝しています。もし次回があるのなら、最後までしっかりと戦いたいです。引き続き応援よろしくお願いいたします」