ラリー車両解説
ヤリスWRC
ワールドラリーカーは、ラリー競技を戦うために開発されたWRCのトップカテゴリーマシンである。ラリーで最大の性能を発揮するために大幅な改造が施されてはいるが、ボディのベースは市販車に準拠している。あくまでも市販車の延長線上にあるマシンであり、ナンバープレートが装着されているため公道を走行することも可能だ。
ワールドラリーカー規定は1997年にWRCに導入され、初期は2リットルのターボエンジンを搭載していた。しかし技術の進化により少ない排気量でも同等の性能を発揮できるようになった結果、2011年より1.6リットルの直噴ターボエンジンが搭載されることになった。そして2018年にマシンのパフォーマンスをさらに引き上げるべくレギュレーションが大幅に改訂され、エンジンの吸気量を制限するエアリストリクターのサイズは33mmから36mmに拡大。その結果、エンジンの最高出力は従来の320馬力以上から、380馬力以上に高まった。そのビッグパワーは、アクティブセンターデファレンシャルを備えたフルタイム4WDシステムによって、効率的に4輪に伝えられる。また、ボディに関しては以前よりもエアロパーツ等の設計自由度が広がり、空力効果の高い大胆なエクステリアデザインへと進化した。
2019年の進化
ヤリスWRCは2017年の新ワールドラリーカー規定に基づいて開発され、高いエンジン性能、インテリジェントな4WDシステム、磨き抜かれた空力性能により、世界中のあらゆる道を安全に、速く走ることが可能なラリーカーに仕上がっている。2019年仕様に関しては、前年の車両をベースに各部を改善。2017年のWRC復帰から2シーズンを戦い抜き、その過程で得た多くの経験とノウハウを生かし性能および信頼性のさらなる向上を図った。
各路面に対応する
3種類のタイヤ
グラベル用とターマック用ではタイヤのホイールサイズが異なる。グラベルでは15インチ。一方ターマックでは18インチタイヤを装着する。1大会で使用できるタイヤの本数は規定で決められており、いつタイヤを交換するかも重要な戦略のひとつとなる。
大会やSSごとに違う
セッティング、装備
クルマの仕様やセッティングは参戦するイベントごとに異なる。グラベル、スノー、ターマックの各ラリーでは使用するタイヤが違い、ブレーキやサスペンションも大きく異なる。スムーズな路面を走行するターマックラリーではぎりぎりまで車高を低め、荒れた路面のグラベルラリーではクルマが路面と接しないように車高を高める。また、降雨など路面コンディションの変化に応じて、随時サスペンションや駆動系のセッティングを変更する。夜間の走行時には、ボンネットにライトポッドと呼ばれる補助灯を装着して視認性を高める。
サービスパークでの作業は
時間との戦い
サーキットレースではピットでクルマの整備および修理をするが、ラリーではサービスパークで作業を行う。競技がスタートすると作業をできる時間やタイミングは限られ、通常は朝のスタート前に15分、日中に30分、そして夜に45分作業する事ができる。また、1回のラリーでグラベルとターマックの2種類の路面を走行するスペインでは、クルマをグラベル仕様からターマック仕様に大幅変更するため、特別に75分の作業が夜のサービスで認められている。なお、夜のサービスを終えたクルマはパルクフェルメと呼ばれる車両保管場に入れられ、翌朝のサービスまで整備作業を行なうことはできない。
主要諸元
エンジン | |
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形式 | 直列4気筒直噴ターボエンジン |
排気量 | 1,600cc |
最高出力 | 380馬力以上 |
最大トルク | 425Nm以上 |
ボア×ストローク | 83.8mm x 72.5mm |
エア・リストリクター | 36mm(FIA規定による) |
トランスミッション | |
ギアボックス | 油圧式6速シフト |
駆動方式・差動装置 | 4WD、機械式ディファレンシャルx2、アクティブ・センター・ディファレンシャル(トルクスプリットオプション) |
クラッチ | 焼結ツインプレート・クラッチ |
シャシー/サスペンション | |
フロント/リア | マクファーソン・ストラット |
サスペンションストローク量 | 非公開 |
ステアリング | 油圧式ラック&ピニオン |
ブレーキ・システム | ・グラベル用:300mm(空冷および水冷) ・ターマック用:370mm(空冷および水冷) |
寸量および重量 | |
全長/全幅/全高 | 4,085mm(空力パーツ込)/1,875mm/調整可能 |
トレッド幅 | 調整可能 |
ホイールベース | 2,511mm |
最低重量 | 1,190kg |
性能 | |
加速性能 | 非公開 |
最高速度 | 201kph(理論値) |