モータースポーツジャーナリスト古賀敬介のWRCな日々

  • オジエとエバンスによるハイレベルなタイトル争い 2021年のWRCは強く記憶に残るシーズンだった

オジエとエバンスによるハイレベルなタイトル争い
2021年のWRCは強く記憶に残るシーズンだった

WRCな日々 DAY26 2021.12.21

12戦9勝。トリプルクラウン、しかも2年連続でドライバー/コ・ドライバー選手権1、2位を獲得。2021年のWRCを「数字」で振り返ると、TOYOTA GAZOO Racing WRTが選手権を席巻したようにも感じられるが、決して楽なシーズンだったわけではない。ライバルとの激戦を戦い抜いて獲得したポイントの、地道な積み重ねによって王座を掴んだのだ。

シーズン勝率7割5分という数字は、確かに圧倒的である。最多勝利は通算8回目のチャンピオンに輝いたセバスチャン・オジエの5勝だが、2年連続でドライバー選手権2位となったエルフィン・エバンス、そして20歳9ヶ月というWRC史上最年少優勝記録を打ち立てたカッレ・ロバンペラもそれぞれ2勝するなど、全ドライバーが複数回優勝していることに注目したい。過去にもシーズンを席巻したチームやマニュファクチャラーはあったが、その勝利の大部分を一人のエースドライバーが獲得するケースが多かった。つまり、今年のトヨタはそれだけ選手の層が厚かったということだが、それと同時にヤリスWRCが、どのようなドライバーが乗っても勝ちを狙える、総合力の高いクルマであったともいえる。オジエ、エバンス、ロバンペラはそれぞれドライビングスタイルも、得意なラリーも異なるが、それでも全員がパフォーマンスを発揮することができたのは、ヤリスWRCの懐の深さを証明するものである。

オジエは、とてもバランス感覚に優れたドライバーであるが、特にトリッキーなコンディションのターマックラリーを得意とする。その象徴が、今年通算7回目(WRC開催以外の大会も含めると8回目)の優勝を飾ったラリー・モンテカルロであり、雪やアイスバーンが混ざるこのターマック(舗装路)ラリーでは無敵に近い存在である。シーズン2勝目を飾った、WRC初開催の第3戦ラリー・クロアチアも、ターマック路面に多くの砂利が出ていて、やはり滑りやすくトリッキーだった。優勝でタイトルを決めた最終戦ラリー・モンツァも含め、今季5勝のうち3勝がターマックラリーで獲得したものだった。

一方で、超高速コーナーが多いラリーとの相性はそれほど良くなく、近年は特にその傾向が強い。2021年シーズンでいうと冬のラリー・フィンランド(アークティック)、エストニア、そして夏のラリー・フィンランドがそれにあたり、いずれもオジエは奮わなかった。さらに、WRC初開催のイープル・ラリー(ベルギー)、スペインというターマック2戦でも優勝争いに加わることができず、ここで挙げた5戦のみオジエは表彰台を逃したが、いずれも今年アベレージスピードが高かったラリーのトップ5である。それでも、デイリタイアを喫しポイントを逃したのはアークティックただ1戦のみであり、それ以外の11戦は全て総合5位以上という確実性の高さと、得意なラリーではしっかり勝つ盤石さが、オジエに通算8回目のタイトルをもたらしたといえる。

確実性という点では、エバンスも負けてはいなかった。トップ5フィニッシュを逃したのは2回だけで、ポディウムには7回立った。これはオジエ、そしてティエリー・ヌービル(ヒュンダイ)と並びシーズン最多であるが、優勝はオジエよりも3回少ない。また、シーズン中盤に4戦連続でポディウムを逃すなど、ややスランプ気味だったことも大きく響いた。とはいえ、昨年も今年もオジエさえいなければエバンスがチャンピオンになっていたことは事実であり、2年連続でエバンスは最終戦までオジエと激しくタイトルを争った。絶対的なスピードに関しては既にオジエとほぼ互角であり、とくに不得手なラリーもない。ハイスピードイベントも、ラリー・フィンランドで優勝するなど基本的には得意としている。エバンスはある意味、オジエ以上にバランス型のドライバーであるが、それでもタイトルには僅かに届かなかった。

エバンスは、今年少なくとも2回はオジエに勝つチャンスがあった。それは第3戦ラリー・クロアチアと、最終戦ラリー・モンツァであり、いずれも最終盤に競り負け僅差で勝利を逃した。ただし、その2戦でのふたりの戦いは異常なほどハイレベルであり、限界を越すか越さないかのギリギリの戦いだったが、エバンスは最後に小さなミスを冒し僅差で勝利を逃した。その2戦ではオジエもまたノーミスではなく、リタイアしてもおかしくないようなシーンもあったが、それをサバイブする能力と、天賦としかいいようがない運にも恵まれ、辛くもエバンスを退けた。

エバンスは、これで2年連続でオジエに競り負けたことになるが、長いスパンで考えれば、失ったものよりも得たものが大きい2年だったのではないだろうか。WRC史上最高のドライバーのひとりであるオジエと、同じチームの同じクルマという完全な同条件で戦い、最後の最後までタイトル争いを繰り広げたのだから。チームに加入する前と比べれば、実力も精神的な強さも格段に向上した。オジエという伝説的なドライバーと真正面から戦い続けた2シーズンで、エバンスはチャンピオンとなるに相応しい力を持ったドライバーに成長したのだ。

ロバンペラのWRC史上最年少優勝、そして2勝という記録はもちろん大変素晴らしいものだが、彼のナチュラルスピードの高さを知る者にとっては、特に大きな驚きではなかった。それくらい、圧倒的なパフォーマンスを備えたドライバーであり、トップカテゴリーに駆け上がり優勝を手にするまでのスピードは、元9年連続王者であるセバスチャン・ローブや、彼に次ぐタイトル獲得回数を誇るオジエに全く見劣りしない。改めて、ロバンペラは近い将来のチャンピオン候補であると実感した1年だった。とくに、総合2位を得たアークティックや、初優勝を飾ったエストニアといったハイスピードなラリーでの速さは既に全WRCドライバーの中でも1、2を争うレベルにあり、彼の最大の強みである。

一方で、多くの課題が見えた一年でもあった。ハイスピードなラリーが得意であるにも関わらず、地元開催でもっとも期待されていた夏のフィンランドでは総合34位に終わった。コースオフによりデイリタイアを喫したことが最大の理由であるが、純粋にスピードも足りていなかった。その原因はドライビングだけではなく、クルマのセットアップにもあり、事前のテストで彼が仕上げたクルマが、ラリー本番の非常に滑りやすいコンディションのグラベル(未舗装路)には合わなかったのだ。エバンスが低いグリップの路面に対応できるセットアップも用意し、それを活用して優勝を掴んだことと比較すると、ロバンペラは事前の準備が十分ではなかったといえる。

ドライビング面に関しては、非常にアグレッシブにクルマを駆るスタイルが、プラスに働いたときもあれば、マイナスに作用したときもあった。後者に関しては、クルマを振り回すようなドライビングによってタイヤが磨耗しやすく、ステージ上でパフォーマンスが最後まで保たれないシーンが多く見られた。特に、ソフトタイヤを使わなければならないステージでその傾向は顕著であり、タイヤに非常に優しいドライビングのオジエと大きな差がついた。シーズンを通して安定して速く走るためには、もう少しタイヤの磨耗を抑制する優しいドライビングをするか、セットアップを見つけるしかないだろう。ただし、クルマを自然に曲げるために有効な「アクティブセンターデフ」がレギュレーション変更によって禁じられる2022年シーズンは、今までよりもクルマを積極的に曲げていくドライビングが有効になるかもしれないと、チーム代表であるヤリ-マティ・ラトバラは予想する。ラトバラ代表も現役時代はクルマを振り回すようなドライビングスタイルで、アクティブセンターデフがなかった時代でもクルマを上手に曲げていた。もしかしたら、2022年はロバンペラがその強みをフルに発揮できるようなシーズンになるかもしれない。

以上のように、3人のドライバーの戦いを駆け足で振り返ったが、最終年を迎えたヤリスWRCは熟成が進み、その戦闘力は非常に高かった。しかし、ライバルもまたパフォーマンスを大きく高め、とくにヒュンダイi20クーペWRCは、ヤリスWRCに匹敵する速さがあったように思う。それでも彼らがシーズン3勝に留まったのは、クルマのトラブルと、ドライバーのミスの両方が多かったからだ。言い換えればそれは、ヤリスWRCの信頼性が高く、ドライバーのミスも少なかったということであり、パフォーマンスと信頼性の両方を高い次元に引き上げたフィンランドおよびドイツのエンジニアリングチームは、素晴らしい仕事をした。もちろん、トラブルは皆無ではなかったが致命的なものは少なく、総じてクルマの信頼性は高かった。完全なリタイアはクロアチアでの1回のみであり、それもロバンペラのコースオフによるものだった。5シーズンを戦い抜いたヤリスWRCは、速く、そして強いクルマに成長し、ワークスカーとしての役目を終えたのである。

最後に、WRCチャレンジプログラムの勝田貴元の2021年についても記したい。彼にとってはヤリスWRCでのシーズン参戦2年目だったが、2020年は新型コロナの影響もあって5戦しか出場することができなかった。つまり本当の意味でのフル参戦は2021年が初年度だったのだが、予想以上に大きな進歩を果たし、素晴らしい結果も残した。とくに良かったのはシーズン前半の6戦で、第6戦サファリ・ラリー(ケニア)での2位初ポディウム獲得はそれを象徴するものである。しかし、そこに至るまでも開幕から全ラリーで6位以内に入り、ラリー・ポルトガルとラリー・イタリア・サルディニアでは総合4位でフィニッシュ。続くサファリでの初表彰台獲得に弾みをつけた。

シーズン後半は、最終戦モンツァでの総合7位が最高位であり、失速した感は否めないが、彼が厳しい状況で戦っていたことは考慮する必要がある。これまで一緒に組んできたコ・ドライバーのダニエル・バリットが、エストニアのジャンプの着地で首を痛め途中棄権。続くイープル(ベルギー)は、バリットの代役出場のキートン・ウイリアムズと初めて組んだがコースオフによりリタイアとなった。そのキートンはイープル終了後、家族の事情でラリーに出場することができなくなり、勝田は次のアクロポリスへの出走を断念。フィンランドで再びコ・ドライバーを変更し、アーロン・ジョンストンと初めてコンビを組んだ。彼は若く非常に才能のあるコ・ドライバーではあったが、やはり完全にリズムが合うまでには少し時間がかかる。ジョンストンはとてもいい仕事をし問題は何もなかったと勝田はいうが、走りだけに集中できなかった部分は少なからずあったに違いない。勝田は2戦連続でクラッシュによりデイリタイアを喫し、不本意な結果でラリーを終えた。

ドライバーにとって、コ・ドライバーは、テニスに例えるならダブルスのパートナーのような存在だ。ペアを組む相手の能力がどれくらい高くても、「あうんの呼吸」となるまでには時間がかかる。トップドライバーがコ・ドライバーを変える状況をこれまで何度も見てきたが、コンビが完全に軌道に乗るまでには数戦かかっていた。しかし、勝田とジョンストンは3戦目にして関係を大きく改善し、最終戦ラリー・モンツァでは最終ステージで2番手タイムを刻むなど、非常にポジティブな形でシーズンを終えた。来季もジョンストンとのコンビを継続することが決まり、いい形で新しいシーズンを迎えることができそうだ。

勝田をサポートするエンジニアによると、勝田はとにかく勤勉で努力を怠らないという。レギュラードライバーの3人に比べると、どうしてもクルマをテストする時間は少なくなってしまうが、限られた時間を有効に使い、自分がクルマに乗らない時でも他のドライバーのテストに帯同するなどして、何か学べることはないか、何か改善できることはないかと、非常にどん欲だという。もともとドライビングのセンスは高く評価されており、とくに高速コーナーでのスピードはレギュラードライバーに匹敵する。課題は比較的スピードが低いコーナーでのブレーキングであり、その部分さえ改善することができれば、もはやドライビングに関してはトップドライバーに見劣りすることはないとエンジニアは言う。勝田にとって、世界チャンピオンのオジエを筆頭に、タイトルを狙えるドライバーが身近に3人もいることは大きなアドバンテージである。そして、彼らと互角の走りをできるようになったとしたら、それはチャンピオンを目指すことができるということだ。クルマが大きく変わる2022年、勝田には今シーズン以上の活躍を期待したい。

古賀敬介の近況

WRC最終戦モンツァの取材を終えて帰国し、そのままウイークリーマンションで2週間弱の隔離生活を送りました。そして、隔離明けの翌日からは毎日のように取材と原稿書きがあり、しばらくじっとしていたのであまりの忙しさに目が回りそうです。気がつけば、もうすぐ2022年シーズンが開幕し、ラリー・モンテカルロが始まります。僕もそうですが、チームや選手もオフはほとんどないですね。せめて、お正月だけはのんびり過ごしたいと思っています。

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