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悪条件こそチャンスと攻め切った
若き勝負師ロバンペラの技量と胆力
WRCな日々 DAY33 2022.7.28
ラリー・エストニアは2020年に初めてWRCの一戦として開催されたが、それ以前から多くのWRCトップドライバーが積極的に出場していた。彼らの目的は、夏季に行なわれるWRCラリー・フィンランドに向けての準備。超高速グラベルラリーでの走行感覚を掴み、クルマのセットアップを進める上でエストニアは、フィンランドに向けての「予行演習」として最適なラリーだった。フィンランドとエストニアは地理的に近く、森や丘陵地帯を駆け抜ける高速グラベルステージが大部分を占めるなど、共通点が多くある。
一方で、エストニアには人工的に処置されたビッグジャンプが多くあり、その着地の衝撃で身体にダメージを負ったドライバーやコ・ドライバーは少なくない。エルフィン・エバンスはTOYOTA GAZOO Racing WRTに加入する前の2019年、ジャンプの着地で背中を痛め、フィンランドを含むWRC3戦の欠場を余儀なくされた。また、勝田貴元は昨年のエストニアで総合3位につけながらも、ジャンプの着地でコ・ドライバーのダニエル・バリットが首に違和感を覚え、大事をとってリタイアを選択した。彼ら以外にも身体にダメージを負った選手は少なくなく、デンジャラスなジャンプが多いラリーとして知られている。
路面もフィンランドと比べるとかなり軟らかい。そのため、エストニアの未舗装路はかなり掘れやすく、同じステージを2回目に走行する際は、1回目の走行により刻まれた深い轍(わだち)により、ステアリングが効かなくなることさえある。特に今年は、降雨により路面が例年以上に軟らかくなっていたため、非常に深い轍が刻まれたセクションが多くあった。さらに、局地的な豪雨で轍に大量の水が溜まり、泥水のプールのようになったコーナーがドライバーたちを苦しめた。今年のエストニアは1日に何度も強い雨が降り、路面コンディションが頻繁に変化。「信じられないくらい滑った」「突然グリップを失った」「まるでスケートリンクのようだった」と、多くのドライバーがステージエンドでその難しさを訴えていた。
そのような非常にトリッキーなコンディションで、抜群の速さを発揮したのは21歳のカッレ・ロバンペラだった。昨年、ラリー・エストニアで記念すべきWRC初優勝を飾ったロバンペラは、今シーズンの第6戦サファリ・ラリー・ケニアまでに4勝を挙げ、ドライバー選手権を大きくリード。シリーズリーダーとして思い出の地エストニアに帰ってきた。フルデイ初日となる金曜日は出走順1番手でステージを走行し、ドライコンディションの路面が多かった午前中は「砂利道の掃除役」として、今回もまた滑りやすい路面での走行を強いられた。しかし、ロバンペラは出走順の不利をあまり感じさせない力走で2、3番手の好タイムを刻み続け、総合2番手のポジションをキープした。
一方、シーズン序盤の不調を脱し、本来の速さを取り戻しつつあるエバンスは、金曜日のSS2からSS6にかけて5ステージ連続でベストタイムを記録。ロバンペラより遅い6番手の出走順だったとはいえ、その走りは自信に満ち、GR YARIS Rally1 HYBRIDを完全に乗りこなしていた。SS6が終了した時点で2位ロバンペラとのタイム差は19.9秒に開き、久々にエバンスが表彰台の中央に立つ姿を見ることができるかもしれないと、期待が高まった。
しかし、午後になって降り始めた雨により、状況は大きく変わった。エバンスは雨でも速さを失わなかったが、ロバンペラは雨を味方につけペースアップ。トリッキーなコンディションで3ステージ連続ベストタイムを記録し、最終ステージでエバンスを抜き11.7秒差をつけてトップに立ったのだ。出走順1番手のロバンペラが、雨脚が強くなる前にステージを走りきり、エバンスよりも良いコンディションで走ることができたのは事実である。しかし、単に天気の巡り合わせが良かっただけではない。最後のステージで、ロバンペラは勝負に出たのだ。出走順が後になればなるほど雨が強まり、不利な条件となる。ある程度リスクを冒してでもプッシュすれば、大きなタイム差をつけられるはずだとロバンペラは考え、フルアタックを敢行。2番手タイムのティエリー・ヌービル(ヒョンデ)に、約14秒という大差をつけるベストタイムをマークした。対するエバンスは、大雨で轍に水が溜まるほど酷いコンディションとなったステージでコースを外れ、20秒以上を失い首位をロバンペラに明け渡した。
翌日の土曜日、ロバンペラは圧倒的なスピード差を見せつけた。全9ステージのうち、7ステージでベストタイムを刻んだのだ。1本目のSS10は全体的にドライコンディションで、そこではエバンスがベストタイムを刻み差は僅かに縮まった。しかし、SS11で雨が降り始めると、ロバンペラはまるで水を得た魚のようにスピードを上げ、7ステージ連続でベストタイムを記録。エバンスとの差を29秒以上に拡大した。午後の再走ステージは轍が深く、一部路面は雨でぬかるみ非常に難しいコンディションだったが、そこでベストタイムを並べたロバンペラは、エバンスをはじめとするライバルたちの心を折るようなコメントを残している。「ごく普通に走っただけなのに、いいタイムが出た」と。
ロバンペラの戦いを見守ってきたチーム代表のヤリ-マティ・ラトバラは「どうやらカッレはコンディションが悪くなればなるほど、強さを発揮するようだ」と分析する。たしかにその通りだ。今回に限ったことではなく、どのようなラリーでも、ライバルが躊躇するようなトリッキーな路面でとんでもないタイムを出す。それも、涼しい顔でさらりと。条件が良くない路面で速く走れる、アクセルを踏めるというのは、彼がクルマのコントロールに絶対的な自信を持っているからであり、ブレーキング時でもアクセルを同時に少し開けて駆動系に力を与え、クルマの挙動を安定させるなど、特殊なドライビングテクニックをいろいろ駆使しているようだ。
6本のステージが予定されていた最終日の日曜日、ロバンペラはオープニングから駄目押しともいえる3ステージ連続ベストタイムを記録し、2位エバンスとの差を40秒以上に拡大した。優勝だけを考えればそれ以上攻める必要は全くない状況だったが、ボーナスポイントがかかる最終のパワーステージで、ロバンペラはリスクを承知でベストタイムを狙いにいった。パワーステージは大雨に見舞われ、大きな水溜まりがいくつもでき、路面は泥状で非常にグリップが低く、普通に走ることさえ難しいような悪コンディションに。先にスタートしたWRC2のRally2カーが刻んだタイムを、パワーで大きく勝るRally1勢はなかなか上まわることができなかった。それを最初にブレイクしたのはエバンスだったが、続いてスタートしたロバンペラは、何とエバンスより22.4秒も速いタイムを全長約16kmのステージで刻み、パワーステージを制覇。今シーズン5勝目をパーフェクトな形で締めくくった。ロバンペラのパワーステージ優勝は今年4回目、ボーナスだけで28ポイントも稼いだ計算となる。優勝を失ってしまうかもしれないリスクを冒してでも、攻めの姿勢でボーナスポイントを獲りにいく。若き勝負師ロバンペラの胆力には、感嘆するしかない。
開幕から7戦を戦い、はやくも5勝目を獲得するなど、ロバンペラの圧倒的な強さは全盛期のセバスチャン・ローブや、セバスチャン・オジエに勝るとも劣らないレベル。グレートチャンピオンへの道を突き進んでおり、あと3戦程度で初タイトルが決まりそうな勢いだ。日本のマニュファクチャラーから史上最年少チャンピオンが誕生するその歴史的な瞬間を、僕たちは一体どのラリーで目にするのだろうか? 今から楽しみで仕方がない。
古賀敬介の近況
WRCは後半戦に突入し、この後はグラベルのフィンランド、ターマックのベルギー(イープル)とハイスピードラリーが続きます。1、2週間おきにラリーがあるので選手やチームはとにかく大変ですが、僕も現地で取材をするので、とにかく体力勝負。原稿書きでしばらく不摂生な日々が続いていたので「少しだけ」食事に気をつけて、適度な運動をしながら約1ヶ月間の取材に臨みたいと思います。