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初タイトル獲得目前のロバンペラが
アクロポリスで味わった試練とは?
WRCな日々 DAY36 2022.10.17
10年ぶりに開催されたラリー・ニュージーランドでは、カッレ・ロバンペラが今季6勝目を飾り、22歳と1日というWRC史上最年少記録でワールドチャンピオンに輝いた。しかし、ニュージーランドのひとつ前のイベント、アクロポリス・ラリー・ギリシャでのロバンペラは全く速さがなく、デイリタイアを喫したイープル・ラリー・ベルギーを除けば今季ワーストとなる総合15位に終わった。同じグラベルラリーながら、圧巻の速さを示したニュージーランドと、スピード不足に悩んだギリシャでは一体何が違ったのだろうか?今回はタイトル獲得ストーリーの前編として、ロバンペラがギリシャで苦戦した理由について、関係者の証言をもとに分析したいと思う。
ギリシャが終わってから随分と時間が経ってしまったが、ラリー後の取材により、様々な要素が重なった結果として苦しい戦いになったことが分かった。まず最初の要素としては、クルマのセッティングがギリシャのグラベル路面にマッチしていなかったことが挙げられる。ギリシャでの戦いを振り返ったロバンペラは「とにかくタイヤのグリップが全く感じられなかった。もちろん土曜日に自分がミスをして大きくタイムを失ってしまったのもあるが、出走順がトップだった金曜日の時点で、どう頑張っても遅れを少なく留めることは不可能だった」と述べた。
グリップ不足に関しては、ロバンペラだけでなく、エルフィン・エバンスや勝田貴元も訴えていたことからも、GR YARIS Rally1 HYBRIDのサスペンションセッティングが、今年のギリシャの路面にマッチしていなかったことは明らかであり、チームのエンジニアもそれを認めている。ラリーの直前に、チームはギリシャでプレイベントテストを行なったが、複数名のドライバーがアクシデントにより走行距離を伸ばせなかったことと、降雨によりドライコンディションで十分なテストができなかったことも大きく響いた。年間のプレイベントテストの日数はレギュレーションで厳しく制限されており、現状では1回のラリーにつき各ドライバーは一日しかテストをすることができない。アクシデントがあったり、天候が良くなくてもやり直しはできず、ラリー本番への影響は避けられない。
ギリシャの路面はグラベルで、WRCの中ではラフグラベルに分類される。ポイントは道のベース部分が非常に固く、その表面が砂や細かな砂利に覆われていることだ。他のラリーではサルディニア(イタリア)の路面に比較的似ているとドライバーは言うが、改めて振り返ってみればイタリアでもGR YARIS Rally1 HYBRIDはグリップ不足に苦しみ、ロバンペラの総合5位が最上位だった。今シーズン、トヨタが表彰台を逃したのはイタリアとギリシャの2戦のみであり、いずれも固い岩盤を砂が覆っている路面である。
ギリシャの路面について、GR YARIS Rally1 HYBRID最上位の総合6位でフィニッシュした勝田は次のように説明する。「例えるならば、固いタイルの上に散らばったビーズの上を走るようなイメージです。出走順が早いドライバーはビーズの上を走るため、タイヤが全くグリップしません。しかし数台が走ると下から固い岩盤が出てきてグリップが上がります。他のグラベルラリーでも基本的には出走順が遅い方が有利ですが、ギリシャはその差がもっとも大きく出る路面だと思います。例えば、やはりルーズグラベルが多いポルトガルの道は、何台か走ると路面が掘れていきます。それはつまりタイヤが路面に噛んでいるということですが、ギリシャの路面はなかなか掘れず、そのことからもグリップが得にくい路面であることが分かります。ヘアピンひとつで簡単に1、2秒遅れてしまうくらいのレベルで、ハンデはサルディニア以上でした」
グリップが低い路面でタイヤをしっかりと接地させるためには、通常サスペンションのセッティングを軟らかめにする。しかし、そこで問題となるのは、ギリシャの路面は荒れていて凹凸がかなり激しいということだ。「クルマをグリップさせるためにサスペンションを軟らかくしていくと、凹凸を乗り越えるような時にクルマが踏ん張らなくなり、それによって逆にグリップを失ってしまい、挙動が破綻してしまうんです。グリップとサポート(踏ん張り)という、相反する要素のバランスをとらなくてはならないのですが、今回はそれが上手くできていなかったように思います」と勝田。
チームのエンジニアはギリシャ終了後、グリップ不足の原因を分析したが、例えばダンパーなどひとつの部品がマッチしていなかったというわけではなく、トータルでのバランスが良くなかったという結論に至ったという。スプリングとアンチロールバー(スタビライザー)のバランス、ジオメトリー、ロールセンターにも影響を与える車高バランス等々、いくつものファクターをギリシャの道に合わせ込めなかったことで予想以上にタイムを失ってしまったというのだ。過去を振り返ってみれば、やはり同じような路面コンディションだったラリー・トルコでもチームはあまりいいパフォーマンスを発揮できていなかった。クルマはWRカーからRally1へと変わったが、ベースが固く表面が砂で覆われているような路面に関しては、それほど相性が良くない。この後、今シーズンはターマックラリー2戦で終了し、来年はターマック&スノーのラリー・モンテカルロでシーズンが始まり、スノーのラリー・スウェーデンがそれに続く。つまり、しばらくラフグラベルラリーはないが「ギリシャでの経験をもとに、既に改善作業を始めています。きっと、色々な部分を見直すことになるでしょう」とエンジニアは言う。
不振を招いたふたつめの要素は、出走順だ。昨年のギリシャで、ロバンペラは初出場にも関わらず優勝しキャリア2勝目を飾った。そのことからも、ギリシャのようなステージを不得手としているわけではないことは明らかだ。では、昨年と今年で何が違ったのかといえば、グラベルステージ初日の金曜日の出走順である。昨年、ロバンペラは4番手でスタート。路面は今年と同じくドライコンディションで、ロバンペラは途中前走者の2台がトラブルに見舞われたことで2番手スタートとなったが、それでも先頭スタートは免れて金曜日に首位に立ち、優勝へのはずみをつけた。
4〜2番手スタートだった昨年は金曜日に首位に立ち、先頭スタートの今年は特にトラブルはなかったにも関わらず、約1分8秒遅れの総合9位に沈んだ。ステージは違ったとはいえ、出走順によってこれだけ大きな違いが生じたのである。金曜日に総合9位となったロバンペラは、土曜日は出走順が4番手とそれほどは改善されず、遅れを少しでも取り戻そうとした結果コースを外れ、クルマのリヤを破損。幸いにも走り続けることはできたが、そこで挽回不可能なほど大きく遅れてしまい上位フィニッシュのチャンスを失った。
もうひとつ、ロバンペラにとってネガティブな要素となったのは、金曜日の6本のステージのうち、4本が1回しか走らない構成だったことだ。その結果、ロバンペラは5本のステージでもっとも不利な先頭スタートを担うことになり、他のドライバーたちのために路面の「砂利掃き役」を担うことに。他のグラベルラリーの金曜日以上に、大きなハンデを負うことになった。さらに、そのステージ構成はタイヤ選択にも大きな影響を及ぼした。グラベル用のタイヤはハードとソフトの2種類のコンパウンドから選ぶことになるが、気温が高く、路面が荒れているギリシャでは、ドライコンディションの場合耐摩耗性に優れるハードがファーストチョイスとなる。ところが、出走順が早い場合はルーズグラベルでもしっかりとタイヤをグリップさせる必要があり、そのためにはソフトを選択肢に含めなくてはならない。実際、ギリシャの初日はロバンペラを含む出走順が早いドライバーたちはスペアも含めてハード4本、ソフト2本を選んだ。一方、ルーズグラベルが掃き飛ばされ、グリップが高い岩盤の上を走ることができる出走順後方のドライバーたちは、ハード6本を選択。ロバンペラの担当エンジニアは「ハンドリングや耐摩耗性を考えるともちろんハードの方がいいのは分かっていたが、先頭スタートの場合ソフトを履かないわけにはいかない。結果、タイヤが摩耗しやすく、パフォーマンスを維持することはできなかった」と証言する。
金曜日の結果を受けて、土曜日もまた出走順が前方だったことから、ロバンペラは土曜日もソフトタイヤを2本混ぜてステージに臨まなくてはならなかった。他にソフト2本を混ぜたのはヒョンデのオィット・タナックだけであり、ハード5本のドライバーが大多数を占めた。金曜日の出走順、ステージ構成、天気がタイヤ選びにも大きく影響を及ぼしたのである。ただし、金曜日の出走順がロバンペラに次ぐ2番手だったタナックが、総合2位でフィニッシュしたことには注目する必要がある。トップ3をヒョンデが占め、Mスポーツ・フォードが4、5番手という結果を見れば、やはり今年のクルマのセッティングがギリシャの道にマッチしていなかったことは明確だ。唯一、金曜日の出走順が7番手と後方だったエサペッカ・ラッピは好調を保ち、土曜日の中盤まで総合2位につけていた。しかし、燃料供給系のトラブルによりデイリタイアとなり、残念ながら表彰台フィニッシュのチャンスを失ってしまった。
以上のように、ロバンペラは多くのディスアドバンテージを負って走ったことで、ギリシャでは予想を大きく下回る総合15位という結果に甘んじたのだ。ベルギー、アクロポリスと2戦連続でポイント獲得圏外のリザルトとなってしまい、シーズンはあまり良くない流れに。その時点で21歳と若いロバンペラが不安を募らせてもおかしくない状況だった。ところが、ロバンペラは強い精神力を保ち、次なる戦いの場であるニュージーランドに泰然自若とした態度で挑んだのだった。
古賀敬介の近況
秋は毎週のようにモータースポーツの取材があり各地を放浪しています。WRCアクロポリス・ラリー・ギリシャの開催週は久々にWECの富士戦もあり、悩みに悩んだ末、富士に行きました。昼はWEC、夜はオンラインでWRCの取材と大変でヘロヘロになりましたが、とても刺激的な週末でもありました。WRCとWEC、来年はカレンダーが重ならないことを願っています。