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完全復活。世界王者ロバンペラが、
ポルトガルで魅せた異次元の走り
WRCな日々 DAY45 2023.5.26
そんなに久々だったっけ? と、自分の記憶を辿り、改めてその事実を確認して驚いた。カッレ・ロバンペラにとって第5戦ラリー・ポルトガルは、チャンピオンを決めた昨秋のラリー・ニュージーランド以来の優勝だったのだ。
今季、ロバンペラは開幕戦ラリー・モンテカルロで総合2位に入って以降、3戦連続で総合4位と、表彰台にも立てていなかった。昨年は開幕4戦で3回も優勝していたことを考えると、少なくともリザルトに関してはやや心配になる序盤戦だった。雪道やグラベル(未舗装路)で、不利な出走順を担ったことが大きな足かせになっていた部分もあるが、それでも昨年ほどの爆発的な勢いが感じられなかったことは事実である。
しかし、ポルトガルでのロバンペラは、彼が現世界王者であることをハッキリと思い出させる、異次元の走りをしていた。競技初日金曜日の出走順は2番手。晴天続きだったため路面は多くのルースグラベル(滑りやすい砂利)に覆われており、出走順トップではなくてもグリップを得にくい状況だった。それでもロバンペラは朝から2ステージ連続で4番手タイムを記録。SS3では何とベストタイムをマークした。この時点でロバンペラは総合2位まで順位を上げ、出走順の不利を超越するスピードがあることを証明。午後のステージではさらに2本のベストタイムを追加し、SS5でついに首位に。以降、ロバンペラは最後までその座をライバルに譲ることはなかった。
不利な路面コンディションでの走行だったにも関わらず、首位に立ったロバンペラに、ライバルたちはほぼお手上げ状態だった。そして、出走順が7番手となった土曜日デイ2最初のSS9で、ロバンペラは相手の戦意を喪失させるような圧巻のベストタイムを記録。そこから4ステージ連続となるベストタイムで、総合2位ダニ・ソルドとの差を55.2秒まで拡げ、勝負をほぼ決めてしまった。ラリー終了後の記者会見で、2位ソルドは「自分が乗っていたのは違うカテゴリーのクルマだったのでは?」と、昨年までチームメイトだった3位エサペッカ・ラッピは「SSをフィニッシュした時にカッレのタイムを聞いて最悪の気分だったよ」と、ロバンペラの異次元ともいえる速さを素直に、そしてユーモアたっぷりに語っていた。
ロバンペラ自身は大差をつけた土曜日のデイ2よりも、出走順2番手ながら首位に立ったデイ1のほうが、アグレッシブな走りをしていたという。それでもコ・ドライバーのヨンネ・ハルットゥネンは「ラリーを通して危ないと思った瞬間はゼロだった」と証言。その言葉からも、今回のポルトガルでロバンペラがいかに「クルマに乗れていた」かが伝わってくる。実は、金曜日の午前中はセッティングが完璧にはあっておらず、大がかりなパーツ交換作業ができるミッドデイサービスも設定されていなかったため、ロバンペラは自力での微調整しか行なうことができなかった。ところが、その微調整が予想以上に奏功し、以降ロバンペラは100%に近い自信を感じながら走ることができたという。
「サルディニア島で行なった事前テストの時点で、既にクルマのフィーリングはとても良かった。いいクルマを用意してくれたチームに感謝するよ」と、ロバンペラ。昨年、GR YARIS Rally1 HYBRIDはグラベル路面が砂状で軟らかいラリー・イタリア・サルディニアで苦戦。それを改善しようと試みた仕様でアクロポリス・ラリー・ギリシャを戦ったが、それでもクルマは想定していたパフォーマンスを発揮できなかった。そこから、開発エンジニアたちは翌年のラフグラベルラリーに向けて全体を見直し、今年の第3戦ラリー・メキシコでダンパーなどに改良を施したパッケージを投入。そのクルマでセバスチャン・オジエは見事優勝を果たしたが、ロバンペラは不利な出走順もあってやや苦戦することになった。それだけに、今回のロバンペラの優勝は、TGR-WRTのエンジニアたちにとっても特別な意味を持つものだったに違いない。あとは、難関の次戦サルディニアでも速さを発揮することができれば、GR YARIS Rally1 HYBRIDはラフグラベルラリーにおけるスピードの課題も解決したことになるだろう。
一方、ロバンペラ以外のふたりは初日にアクシデントとトラブルに見舞われた。前戦のラリー・クロアチアで約1年半ぶりに優勝したエルフィン・エバンスはコースオフでリタイア。かなり大きなクラッシュだっただけに、エバンスとコ・ドライバーのスコット・マーティンが無事だったのは良かった。エバンスは、選手権リーダーとして不利な出走順1番手でステージに臨んだこともあったが、それを差し引いてもクルマに上手く乗れていなかった。クルマに本当にいいフィーリングを感じられている時はそれほどプッシュしなくてもいいタイムが出るが、自信を持てない時はどう頑張ってもタイムは伸びず、ミスをする確率が一気に高まる。スタートからSS6までのエバンスのコメントを聞いても、彼は相当苦しんでいたようだ。今回のことは忘れ、出走順8番手で臨むことになるであろう次戦サルディニアで、再び表彰台争いに加わってほしい。
気の毒だったのは、ワークスノミネート2戦目の勝田だ。過去2回総合4位に入り、昨年は最終ステージまで激しい3位争いをしたポルトガルは、勝田がシーズン中もっとも自信を持っているラリーのひとつである。それもあってスタート前から「目標は最低でも表彰台」と言い切り、高いモチベーションでラリーに臨んだ。その気持ちはタイムにも表れ、SS1で5番手、SS2で3番手のタイムを記録し、ロバンペラと並ぶ総合4位につけていた。その時点で、間違いなく表彰台に立てるパフォーマンスはあった。ところが、SS3に向かうリエゾンで、実はSS1の時点から不具合が出ていたオルタネータが破損。結果、バッテリーに電気が充電されない状態となり走行不能に。勝田の表彰台チャレンジは、あまりにもあっけなく終わってしまった。
「次の日は気持ちを切り替えて走ろうとしましたが、非常に気合いが入っていただけに、かなり落ち込みました」と勝田。TGR-WRTの春名雄一郎プロジェクトディレクターは「トラブルを出してしまって、勝田選手に申し訳なく思います。しかし彼は、翌日からも素晴らしい走りをしてくれました。我々としては、総合4位に入った過去2回のポルトガル以上にいいラリーを戦ったと評価してます」と述べる。勝田は修理されたクルマで臨んだデイ2を、不利な出走順トップで走行。SS11ではスピンを喫したが、それでも大部分のステージを5、6番手タイムで走行し、タイムも出走順トップであることを考えれば決して悪くなかった。そして、1日の最後のスーパーSSでは2番手タイムを記録。大観衆から喝采を浴びた。
最終日のデイ3はさらに調子を上げ、出走順は依然1番手だったにも関わらず、オープニングのSS16で堂々ベストタイムを記録した。その時点で総合順位は34位だったが、実はマニュファクチャラーズポイントを巡り、総合33位のピエール・ルイ・ルーべを勝田は激しく追っていたのだ。デイ2終了時点で差は1分16秒以上ひらいていたが、SS16でのベストタイムにより一気に約54秒まで縮まった。勝田はなおも攻めのアタックを続け、SS17で4番手タイム、SS18で3番手タイムを記録。最終のパワーステージを前に29.8秒差にまで迫っていた。3本のステージで、47秒近くも差を縮めたのだ。そして迎えたステージは、ボーナスポイントがかかる最終のパワーステージ。上位選手の多くは、順位がほぼ確定しているような状況だったため、パワーステージに向けてタイヤを温存していた。一方、勝田はルーべを激しく追っていたこともあり、タイヤはそれなりに消耗。ボーナスポイントが得られるトップ5を狙うには、かなり不利な状況だった。
ところが、勝田は最終ステージでも素晴らしい走りをした。大観衆が集った有名な「ファフェ」のステージを勝田は全開で攻め続け、4番手タイムを記録。総合では25.8秒差とルーべを逆転することはできなかったが、ワークスノミネートドライバーとしては6番手フィニッシュを果たし8ポイントを獲得。さらに、ボーナスのパワーステージポイントを2ポイント獲得したことで、合わせて10ポイントをTGR-WRTにもたらした。クルマのトラブルにより大きなビハインドを負いながらも、エバンスのリタイア後をしっかりフォローしポイントを獲得した。3人目のワークスドライバーとして、今回の勝田は完璧に近い仕事を遂行したといえる。
個人的には、もしトラブルに見舞われなかったら、どんな順位でフィニッシュしていただろうかと、思わず妄想してしまう。優勝したロバンペラは別格のスピードだったが、勝田も表彰台には立てていたのではないかと思う。それくらい、ポルトガルでの勝田はいい走り、いい戦いをしていた。有利な出走順で挑むことが可能な次のサルディニア、そして過去2回表彰台に立っているサファリ・ラリー・ケニアでどんな戦いをしてくれるのか、期待が膨らむ。しばらく続くグラベル連戦での、勝田の走りに注目し続けたいと思う。
古賀敬介の近況
ポルトガルでロバンペラの優勝に立ち合った翌週、日本のエビスサーキットで「フォーミュラドリフト・ジャパン」を取材。レッドブルGRカローラで出場したロバンペラが、2週連続で表彰台のてっぺんに立つ姿を撮影しました。いやいや、それにしてもドリフトでも圧巻の走りでしたよ!