モータースポーツジャーナリスト古賀敬介のWRCな日々

  • WRCな日々 DAY50 - 天候に翻弄されたアクロポリスで見せた、若き王者ロバンペラの老練な走り

天候に翻弄されたアクロポリスで見せた、
若き王者ロバンペラの老練な走り

WRCな日々 DAY50 2023.9.27

「神々たちのラリー」と呼ばれるアクロポリス・ラリー・ギリシャは、今年もパルテノン神殿を見上げる首都アテネのアクロポリスの丘でスタート。気まぐれな神々たちに多くの選手が翻弄されたが、カッレ・ロバンペラは幾多の難関を切り抜け、2年ぶりのアクロポリス優勝を手にした。

ギリシャ神話の神々の王、ゼウスは宇宙や天候を支配する天空神である。その彼の采配によるものだろうか、8月から9月初旬にかけてのギリシャは極端な天気が続いた。まず、8月中は欧州南部を襲った強烈な熱波により、ギリシャ各地で連日気温が40度を越えた。その影響で森林火災も発生し、多くの方々が被害に遭われた。心からのお見舞いを申し上げたい。そのため、8月中に予定されていた各チームのギリシャでのプレイベントテストは延期や中止を余儀なくされたが、それは当然のことだろう。状況がやや好転したタイミングでテストは再開されたが、スケジュールが圧縮されたことにより、残念ながら勝田貴元はギリシャでのプレイベントテストを行なうことができなかった。

9月に入りラリーウィークがスタートすると、今度は大雨がラリーの舞台となる中央ギリシャのラミア周辺で降り続いた。その結果コースの事前下見走行であるレッキの時点でステージのグラベル(未舗装路)はぬかるみ、大きな水溜まりがいくつもできるほどの酷いコンディションになってしまった。車高を上げ、未舗装路にも対応できるラリータイヤを履いたレッキカーでさえも、何台もスタックするようなカオスな状況で、ラリー本番がドライコンディションとなる可能性も想定してペースノートを作成するのは至難の業。泥の中から次々と大きな石が掘り返され、路面の状態は刻々と変わっていった。しかし、もともと気温が高く、強い風が吹くことも多い地である。太陽が出れば路面は急速に乾き、コンディションは一変する。それを見越してペースノートを作るのは、ベテランドライバーでも難しい。

このように、今年のアクロポリス・ラリーはスタート前からタフな展開となることが予想されたが、木曜日の午前中に予定されていたシェイクダウンの中止が、それに輪をかけた。悪天候と、それによるスケジュールの遅れにより、主催者はシェイクダウンを中止するという苦汁の選択をせざるを得なかったのだ。その影響をもっとも大きく受けたのは勝田であり、結果的に彼はプレイベントテストも、シェイクダウンも行なえないまま、いきなりラリー本番を迎えることになってしまった。サーキットレースに例えるならば、サーキットに入り1周目の走行から全開でアタックしなくてはならないということ。セッティングを調整したり、レーシングスピードに身体を馴れさせる時間もないまま、タイムアタックを行なわなければならなかったのだ。つまり勝田は、これ以上ないほど大きなハンデを負って、今年のアクロポリス・ラリーに臨んだのである。

一方、降り続いた雨は、ロバンペラにとっては恵みの雨になる可能性もあった。グラベルの路面がぬかるんで泥状になれば、ルーズグラベルの掃除を担う出走順トップのハンデはなくなり、むしろ有利に働く可能性もあったからだ。しかし、グラベル初日の金曜日のステージはぬかるんでいるところもあれば、乾いているところもあるといった具合で、非常にトリッキーなコンディションだった。レッキ時とは路面が大きく異なり、泥や砂が雨で流され石が露出していたり、大きな窪みができていたセクションもあるなど、ドライバーたちにとっては非常にチャレンジングな状況であった。特に、2本目のSS3では何人かのドライバーが大きな窪みではね飛ばされてコントロールを失い、危うくクラッシュしそうになっていた。ロバンペラもそのひとりであり、そこでラリーが終わってしまったとしても不思議ではなかった。

ただし、ロバンペラにとってこの週末のビッグモーメントはその瞬間だけで、それ以外は非常に安定した走りで戦いを進めていた。ドライでルーズなコンディションでは遅れを最小限に留め、攻められるところではタイムを詰めていく。そのようなメリハリのある走りを続けた結果、金曜日が終了した時点でロバンペラは総合3位につけていた。出走順トップでグラベル初日に臨んだことを考えれば、大健闘の順位であり、首位のティエリー・ヌービル(ヒョンデ)とは25・5秒差、総合2位のチームメイト、セバスチャン・オジエとは22・7秒差と、十分に優勝を狙える位置である。

グラベル2日目のデイ3は前日以上に荒れた展開となり、特に午後の再走ステージでは多くのドライバーがラフな路面で戦列を去った。オジエと激しく首位を争っていたヌービルもそのひとりで、大きな穴で足まわりを破損しリタイアに。これでオジエが首位に立ったが、そのオジエにも最後のステージで大きなドラマが待っていた。彼はステージの途中でストップ。タイヤとサスペンションにダメージを負ってしまったのだ。何とかステージを走りきり自力での修理を試みたものの、予想以上にサスペンションのダメージは大きく、自走でサービスパークに戻ることはできず。デイリタイアを喫することになった。アクロポリスでの優勝経験があり、荒れた路面のグラベルラリーを得意とするオジエの技術と経験を持ってしても、土曜日午後のステージを乗りきることはできなかったのである。

ヌービル、オジエと相次いで優勝争いのライバルが姿を消した結果、ロバンペラは一気に楽になった。その時点で総合2位に浮上していたダニ・ソルド(ヒョンデ)との差は2分以上もあり、その大量リードを活かしてロバンペラは最終日の日曜日を抑えたペースで走行。ボーナスポイントがかかる最終のパワーステージにベストなコンディションのタイヤで臨み、ベストタイムで優勝に華を添えた。その結果、パワーステージのボーナスも加算し満点の30ポイントを獲得。ホームイベントの前戦、ラリー・フィンランドでのリタイアとノーポイントという悪夢を払拭し、ドライバー選手権におけるリードを33ポイント差に拡げたのだった。

ロバンペラにとっては、オジエと優勝を争いたいというホットな気持ちと、選手権を考えて確実に戦わなければならないというクールな自制心に葛藤しながらの戦いだったようだが、それがこのサバイバルラリーでは奏功したともいえる。今回もまた22歳とは思えぬような老練なラリーを戦い、17歳も年が離れている元絶対王者オジエに競り勝った。今季、オジエとのチーム内バトルを続ける中でロバンペラは確実にパフォーマンスを底上げしている。自身のチャンピオンシップを考えれば、スポット出場で優勝争いに絡んでくるオジエはきっと目の上のたんこぶのような存在だろうが、そのオジエの手荒いレッスンが、ロバンペラをさらに強力なドライバーに成長させていることは間違いない。

一方、前戦ラリー・フィンランドで完全優勝を果たしロバンペラとの選手権ポイント差を25ポイントまで縮めたエバンスは、タフなラリーを走り抜き総合2位でフィニッシュ。優勝を逃し再びポイント差が拡がってしまったのは彼としては残念なことだろうが、今回は完走できただけでも幸運だったと思うべきかもしれない。土曜日午前中の最後のステージでエバンスはラジエターにダメージを負い、オーバーヒートの発生によりエンジンを止めた。そして残るステージを、ハイブリッドシステムのモーター&バッテリーのみで何とか走りきり、1分以上もタイムを失ってしまったのだ。応急処置を施して何とかサービスに戻ることはできたが、エンジンがダメージを受けている可能性もあり、また30分という短いサービス時間で冷却系を修理しなければならなかった。しかし、TGR-WRTのエンジニアとメカニックは最高の仕事でクルマをほぼ完璧に直し、エバンスはペナルティタイムを課せられることなく午後のステージに復帰。ヌービルとオジエのリタイアもありはしたが、総合3位まで順位を挽回して土曜日を終えた。

そして迎えた最終日は、前を走るソルドを捕え、総合2位に浮上。ロバンペラとの差は既に1分半以上もついていたため優勝の望みはほぼなかったが、最終のパワーステージでは2番手タイムを記録し速さを示した。前日のトラブルを考えれば、総合2位は望外のリザルトといえるだろう。ここ数戦の戦いを見る限り、強く、しぶといエバンスが戻ってきたように思える。一発の速さ以上に、確実にポイントを積み重ねていく粘りの戦いがエバンス本来の持ち味であり、そのようなアプローチで過去にはオジエとシーズンの最後までタイトル争いを繰り広げた。依然ロバンペラが有利であることは間違いないが、ロバンペラはエバンスの復活を少なからず不気味に感じているだろう。

プレイベントテストも、シェイクダウンも行なえないまま本番に臨んだ勝田は、昨年大会と変わらぬ総合6位でラリーを終えた。セッティングを確認するチャンスもないままいきなり全開で勝負をするのは現実的ではなく、リスクも非常に大きいことから、勝田はグラベル初日の金曜日午前中をテストのようなものと捉え、午後からペースアップ。そこからの走りは決して悪くなく、総合6位で金曜日を終えた。しかし、土曜日のオープニングステージでスピンを喫して30秒以上を失い、さらにはSS11での2本のパンクによりタイヤ交換を強いられ約4分以上を失ってしまった。スピンとパンクはもちろん勝田のミスであるが、上位を狙っての攻めた走りだったことを考えれば仕方がないともいえる。金曜日が終了した時点で勝田はソルドよりもひとつ上の順位につけていたが、最終的にソルドは総合3位でフィニッシュした。勝田もタイム的にはソルドと遜色なく、大きなミスなく最後まで戦い抜くことができていたとしたら、表彰台に立っていたかもしれない。このサバイバルラリーでふたりの明暗を分けたのは、経験値の差と、プレイベントテストをできなかった勝田のハンデだといえるだろう。それでも、不利な状況ながら腐ることなく攻めの姿勢でラリーを戦い、総合6位という結果を手にしたことは勝田にとって大きなプラスになったに違いない。

勝田の次戦は、過去2019年の大会でWRC 2カテゴリー2勝目を飾ったラリー・チリ。前回とはコース設定がかなり大きく変わってはいるが、中高速のスムーズなグラベルステージは勝田が得意とするもの。同じようなスムーズな路面のラリー・フィンランドで確立した新しい走り、新しいセッティングでどこまで上位争いに食い込むことができるのか、非常に楽しみである。

古賀敬介の近況

9月の第2週目は惑星直列のような週末に。WRCアクロポリス、WEC富士、そしてラリー北海道がすべて重なっていたのです。自分にとっては全て取材したいイベントなので散々悩みましたが、ヤリ-マティ・ラトバラ「選手」がGR YARIS Rally2コンセプトを日本の道でどのように走らせるのかをどうして見たく、ラリー北海道に行きました。そのためWRCアクロポリスはオンラインでの取材に。日中はラリー北海道、夕方からはアクロポリスと、フル稼働の週末になりました。

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