モータースポーツジャーナリスト古賀敬介のWRCな日々

  • WRCな日々 DAY73 - 思いも寄らぬ結末で勝田が2連勝 今年のWRCはまったく予想がつかない!

思いも寄らぬ結末で勝田が2連勝
今年のWRCはまったく予想がつかない!

WRCな日々 DAY73 2026.05.25

WRC第4戦から6戦にかけての欧州ラウンドは、WRCの、ラリーの面白さと残酷さを改めて強く感じさせた3戦だった。予想を裏切るような結末。各ラリーの週末に最も速かったドライバーが表彰台の最上段に立ったわけではないが、それもまたこのスポーツならではのこと。歓喜と失望の3戦を振り返る。

第4戦クロアチア・ラリーは、WRCの中で最も「トリッキー」なターマック(舗装路)ラリーとして知られる。路面の舗装コンディションが目まぐるしく変化し、グリップレベルが一定ではないからだ。加えてコーナーをインカット可能な場所が他のターマックラリーより多く、クルマが走れば走るほど路肩から掻き出された泥や砂利によって路面は汚れていく。知らない人が見たら「ここは未舗装路?」と思うくらい、道全体がグラベルで覆われてしまうようなコーナーもある。加えて、今年のルートは2年前の前回と大きく異なり、多くのドライバーにとって未知なる道での戦いになった。

そのような状況であるが故に、TGR-WRTはある程度保険をかけた戦略をとった。今シーズン、ここまで全戦でマニュファクチャラー登録出場をしているエルフィン・エバンスとオリバー・ソルベルグのふたりを自由に戦わせ、第2戦スウェーデン以来となるマニュファクチャラー登録出場の勝田貴元に対しては、確実性を最優先するよう求めたのだ。勝田によると、それはシーズン開幕時から既に伝えられていたオーダーであり「エルフィンとオリバーに何かあった時、既に貴元がいないという状況だけは避けたい」という理由だったそうだ。

前戦サファリ・ラリー・ケニアで悲願のWRC初優勝を達成した勝田だが、クロアチアはこれまで、どちらかと言うと相性がそれほど良くないイベントだった。しかも、今年はセバスチャン・オジエが出場をスキップしたため、体制面でやや盤石さを欠く。勝田はチームの方針を理解し、クロアチアではバックアップ的な仕事に徹することを決意していた。果たして、チームは何か災いを予感していたのだろうか? ラリー開始直後のSS1で、いきなりソルベルグがコースアウトを喫しデイリタイア。さらには、エバンスまでもがSS3でコースアウト。何と最初の3ステージで、マニュファクチャラーズポイントの獲得も期待されていた、優勝候補ふたりが姿を消したのだ。一方、去年のラリージャパンで3位に入り初表彰台を獲得したパヤリは、初日のデイ1でトップに立った。もちろんTGR-WRTとしては非常に喜ぶべきことであるが、彼のエントリーはTGR-WRT2から。優勝したとしても、メインチームであるTGR-WRTにマニュファクチャラーズポイントがもたらされるわけではない。

そこで一気に重要な役割を担うことになったのが、勝田である。ポイントゲッターとして、リタイアすることだけは絶対に許されず、しかしWRCウイナーとしてはあまりにも抑えた走りはできない。ミスをしない中でも確実に上位につけなければならないという、難しい立ち位置となった。勝田は、これまでとは異なる大きなプレッシャーを感じながら、自分が果たすべき仕事を実行。確実性を重視した走りを続けながらもパヤリ、そしてティエリー・ヌービル(ヒョンデ)と首位争いを演じた。残念なことに、デイ2でパヤリと勝田は共にパンクで大きくタイムを失い、首位パヤリは総合3位に後退。勝田はスローパンクチャーだっただけに少々アンラッキーではあったが、首位に立ったヌービルと1分14.5秒差の総合2位でデイ2を終えた。この1分以上の差を走行距離が短い最終日に逆転することは、通常であれば不可能に近い。そのため勝田は、最終日はしっかりと順位を守り抜き、自分自身とチームのためにできるだけ多くのポイントを獲得する戦いをすると心に決めた。

最終日、勝田は確実性の高い走りでステージを重ね、あとは最終のパワーステージを走り切るばかりとなった。バックアップ役を求められたラリーで総合2位ならば、上出来である。勝田は安定した走りでパワーステージを走破し、第2戦スウェーデンから3戦連続となるポディウムを確定した。しかし、勝田が立ったのは表彰台の2段目ではなく、またしても最上段。何と、大差をつけ首位を独走していたヌービルがコースオフ。クルマの右フロントに大きなダメージを負い、久々の優勝目前でリタイアとなってしまったのだ。

予想もしていなかった勝利。前戦サファリに続く2連勝により、勝田は日本人として初めてドライバー選手権で首位に立った。本来ならば喜びを爆発させても良いシーンであるが、勝った勝田は微妙な表情だった。WRCドライバーの多くは、ライバルがアンラッキーなミスやトラブルで勝機を逃した時、「気の毒だった」と相手に寄り添う。勝田もその一人であり、ヌービルとは戦いの場を外れれば良き友人でもある。その昔、勝田がWRC2スウェーデンで初めて優勝した時、既にトップドライバーだったヌービルは、わざわざ勝田を祝福しに彼のもとを訪れた。そして、前戦サファリで勝田が初優勝した時も、ヌービルはまるで自分のことのように喜んでいた。

そのような間柄であればこそ、相手の不運で自分が優勝したことを、素直には喜べなかったのだろう。それでも勝田は、チームに求められた仕事をやり遂げ、2連勝を達成し、ランキングリーダーにもなった。「タナボタ優勝」だったと思う者もいるかもしれないが、優勝の権利がある場所にしっかり最後までいたからこそ、勝利が舞い込んできたのだ。今回に関しては、クレバーなマネージメントが呼び寄せた優勝だと言える。それにしても、これまで何度も自力で優勝争いに加わり、それでもなかなか勝てなかった勝田が2連勝とは……。一度優勝すると全てがうまく転がるようになるとは、昔からモータースポーツの世界で言われてきたことではあるが、まさにそれを今、勝田は実感しているに違いない。

続く第4戦ラリー・イスラス・カナリアスでは、今季3戦目の出場となったオジエのもとに幸運が舞い込み、最終日まで激しく優勝争いをしていたソルベルグが不運に見舞われた。もっともカナリアスに関しては、巧者オジエの術中にソルベルグがはまったとも言えるが。カナリアスでは、昨年のターマックラリーから続いている、GR YARIS Rally1の無双ぶりがライバルチームを絶望させた。本格的な山岳ステージが始まったデイ2と、翌日のデイ3はGR YARIS Rally1のドライバーがトップ5を独占。最大の見物は、首位オジエと、彼を猛追するソルベルグの非常にタイトな優勝争いだった。

ソルベルグは、積雪路も多かったとはいえ、基本的にはターマックラリーである開幕戦モンテカルロで、圧倒的な速さを発揮し優勝した。その異次元ともいえるスピードには「モンテの帝王」オジエもついて行けず、かなり意気消沈していたと聞く。それもあってソルベルグはターマックラリーへの自信を深め、クロアチアでは残念な結果に終わるも、カナリアスでは再び優勝を争う速さを見せていた。しかし、デイ2で首位オジエとの差をジワジワと詰めていくスリリングな戦いを見ながら、僕は少し嫌な予感がしていた。これは、オジエの罠ではないかと?

僕は、オジエが過去何度もライバルを引きつけながら少しずつ危険な領域へと誘導し、相手を自滅させるシーンを見てきた。ライバルは、もう少しだけリスクをとって攻めれば逆転できる! と、知らず知らずのうちにペースが上がりすぎ、ほんの僅かなミスで全てを失った時、初めてオジエの術中にはまっていたことに気がつくのだ。そして残念ながら、カナリアスでは若きソルベルグが、老獪な世界王者の犠牲者となってしまった。

ラリー最終日、ソルベルグは首位オジエとのギャップをさらに詰め、差はついに2.2秒に。そこまでの勢いを考えれば、ソルベルグは「これは行けるだろう」と確かな手応えを感じたはずだ。しかし、直後のステージでソルベルグはクラッシュ。リタイアとなってしまった。彼がガードレールに激突した右コーナーの直前には小さな起伏があり、ウェットだった1本目は難なくクリアしていた。ところが再走の2本目はドライコンディションとなり、1本目よりも高いスピードで起伏をジャンプ。そのため着地がやや奥になり、右コーナーを曲がり切れなかったのだ。もちろん、Rally1カーの経験不足もあっただろうが、オジエにここまで迫っていなかったら、そのようなリスクは冒していなかったに違いない。

ラリー後、オジエは「たしかに差を詰められてはいたが、自分にはまだ余裕があった」とコメント。まったくもって恐ろしい男である。スピードに余裕があればこその高等戦術であるが、このような戦いかたは、オジエと同郷で同じく9度の世界王者であるセバスチャン・ローブも得意としていた。フレンチ・トラップには要注意である。残念ながらソルベルグは表彰台目前で姿を消したが、オジエを筆頭にエバンス、パヤリ、勝田とGR YARIS Rally1は前年大会に続きトップ4を独占。もちろんドライバーたちが素晴らしい走りをしたことは言うまでもないが、クルマが今回もターマックラリーで圧倒的なパフォーマンスを発揮していたことも事実である。次なるターマックラリーにして今シーズン最後、そして現行Rally1最後の舗装路戦となる第7戦ラリージャパンで、GR YARIS Rally1がどのような戦いをするのか、非常に楽しみである。

第3戦サファリ以来、そしてヨーロッパ大陸では今季初のグラベルラリーとなる、第6戦ラリー・ポルトガルでは、最後まで戦いを有利に進めていたオジエがパンクの不運に泣いた。また、5戦連続となる表彰台は確実と見られていたパヤリもパンク。総合2位でオジエを追っていたヌービルとヒョンデが今シーズン初優勝を達成し、TGR-WRTの開幕6連勝にストップをかけた。ターマックでは苦戦が続いていたヒョンデだが、グラベルでのパフォーマンスはもともと高い。そしてポルトガルでは、エンジンなどをアップデートして戦いに臨んだ。たしかに、オジエはラリーの大部分を支配していたが、序盤は彼もサスペンションのセットアップが決まらず苦戦していた。それを調整により劇的に改善できたからこそトップに立てたのであり、ポルトガルに関してはGR YARIS Rally1とヒョンデi20N Rally1のパフォーマンスは互角に近かったのではないかと思える。シーズン後半の7戦はすべてグラベルラリー。その時々の出走順次第ではあるが、興味深い戦いになるかもしれない。

去年の最終戦サウジアラビア以来の優勝を手にしたヌービルにとっては、第4戦クロアチアで失った勝利と自信を取り戻したような気分だったに違いない。また、2戦連続で自滅したソルベルグも、厳しい戦いの中でも一時首位に立つなど速さを発揮。それでもパンクなどにより総合4、5位まで順位を落としていたが、最終日にオジエとパヤリがパンクで涙を呑んだことにより、総合2位でフィニッシュした。チームメイトふたりの脱落によってもたらされた結果に、ソルベルグは複雑な表情だったが、それでも、ようやく負の連鎖を立ち切り表彰台に戻れたことで精神的に救われたことだろう。どのような路面でも優勝争いをできる速さを備えていることは、既に証明している。あとは経験を積み重ね、確実性を着実に高めていけば、これからタイトル争いの有力な候補となっていくはずだ。もっとも、そのためにはエバンス、勝田、パヤリという、非常に手堅い戦いをするチームメイト3人に打ち勝たなければならないが。

クロアチアでは珍しくミスでデイリタイアを喫したが、それでもエバンスは今年も高いレベルでの確実性を維持している。ドライバー選手権首位による一番手スタートにより、グラベルのポルトガルではスピードを大きく削がれたが、それでも総合3位を獲得しランキング首位を守った。勝田もまた、カナリアスではクルマの持ち込みセッティングを外し、本来の速さを発揮できなかったが、しっかりと総合4位を獲得。エバンスと同様、不利な出走順を担ったポルトガルでも総合5位でポイントを積み重ねた。その結果、勝田は首位エバンスと12ポイント差の選手権2番手でラリージャパンに臨むことになる。今年の勝田は2勝しただけでなく、例年以上に安定した戦いを続けている。その背景には「兄貴分」であるオィット・タナックの献身的なサポートもあるのだが、それについてはまた改めてお伝えしたい。

開幕6戦が終了した時点でTGR-WRTは、マニュファクチャラー選手権で2番手のヒョンデに93ポイントという大きな差をつけ首位に立っている。また、ドライバー選手権でもエバンスを筆頭に、トップ6に5人のドライバーがつけている。ここまでのところ、非常に有利にチャンピオンシップを戦い進めていることは間違いないが、シーズンはまだ前半戦が終わろうかというタイミング。この厳しい戦いの世界では一瞬の停滞が大きな遅れに繋がり、パワーバランスが劇的に変わることも珍しくない。次戦ラリージャパンでは、ターマックステージでの優位性が保たれるかどうかに注目したい。

古賀敬介の近況

既にWRCはシーズン中盤戦ですが、日本国内のレースもこの時期は目白押しで、毎週末のように取材をしています。5月はスーパーフォーミュラ鈴鹿戦、からのラリージャパン直行。2週間分の荷物を持って鈴鹿に向かっています。初の5月開催となるラリージャパンが一体どのような展開になるのか、今からとても楽しみです。

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