3連勝を飾ったパヤリと復活優勝のソルベルグ
ふたりの若者たちがタイトル争いを面白くした!
WRCな日々 DAY75 2026.09.29
サミ・パヤリとオリバー・ソルベルグ。2026年のWRC後半戦は、TGR-WRTの才能溢れるふたりの若き俊英が、持てる力を最大限に発揮。第9戦ラリー・エストニアから第12戦ラリー・チリ・ビオビオにかけての4戦では、彼らが表彰台の最上段に立ち続けた。とくにパヤリは、エストニアでのWRC初優勝から3戦連続で勝利を収めるなど、歴代の偉大なる世界王者たちに勝るとも劣らない圧巻の強さを示し、ドライバーズタイトル獲得の可能性を自力でたぐり寄せた。
第5戦ラリー・イスラス・カナリアスでドライバー選手権首位に立ったエルフィン・エバンスは、第8戦から延々と続いたグラベルラリーで不利な出走順トップを担い続けた。ルースグラベルを掃き飛ばしながらの非常に厳しい戦いが多かったにも関わらず、持ち前の粘り強さで着実にポイントを積み重ね、首位の座をしっかり守り続けたのは流石である。一方、エストニアでWRC初優勝を果たしたパヤリも、第10戦フィンランドでは3番手、第11戦ラリー・デル・パラグアイでは2番手と、選手権ランキングが上がるにつれ出走順も早く、厳しくなっていった。それでも彼は、母国イベントのフィンランドで優勝。かつて同郷のカッレ・ロバンペラが、トップカテゴリーでの5回目の挑戦でようやく手にした母国優勝を、3回目のチャレンジで達成してしまったのだ。
フィンランドでのパヤリは、金曜日が終了した時点で総合3位につけていた。しかし、土曜日にまず総合2位エバンスが横転し、その後首位のオジエが激しいコースオフを喫してリタイアするなど、チームメイトの脱落によって順位をふたつ上げた。だからといって、単にラッキーだったわけではない。エバンスとオジエという、攻略がもっとも難しいチームメイトふたりと序盤から互角に戦い、後方からプレッシャーをかけ続けたからこそ、順位を上げることができたのだ。前戦エストニアで知らしめたパヤリの底知れぬスピードが、経験豊かなオジエとエバンスのミスを誘ったと言っても間違いではあるまい。
続く第11戦パラグアイでは、チームメイトを含む多くのドライバーがタイヤのトラブルやアクシデントに見舞われる中、スピードと確実性を上手くバランスさせた走りで勝機を掴んだ。赤土の路面が特徴的なパラグアイのステージは、一見するとそれほどトリッキーには感じられないのだが、所々でまるでアイスバーンのように滑り、タイヤへの攻撃性も想像以上に高い。さらに、ドライバーたちが「コンプレッション」と呼ぶ、路面の窪みに勢いよく突入すると下からクルマが強く突き上げられる難所も多くあり、その衝撃でタイヤやサスペンションが壊れてしまうことも少なくない。赤土の路面は非常に硬質なところが多く、まるで石のようにカチカチになるため、突き上げの強さが半端ではないのだ。それもあって、パラグアイは初日から脱落者続出のサバイバルラリーとなった。パヤリも午前中に冷却水が漏れるトラブルに見舞われたが、動揺することなく切り抜け首位に立った。スピードもさることながら、この冷静さもまた、彼の強みである。結局、パヤリはデイ2と最終日のデイ3でもリードを守り続け、エストニアから3戦連続で優勝。初優勝からの3連勝は、WRCの長い歴史の中でパヤリが初めて成し遂げた偉業である。
24歳という年齢以上に、パヤリは若く見える。ステアリングを握っていない時などは、高校生だと言われたら信じてしまいそうになるくらい、まだあどけない。そして、自分がWRCのトップドライバーであることを、少しも鼻にかけない清々しさがある。絵に描いたような好青年だが、発する言葉の端々には、自分自身の速さに対する確固たる自信と、ポジティブな姿勢が強く感じられる。クルマにトラブルが起きても、小さなミスを犯しても、そうそうは動じない。そのようなメンタルの強さは、頂点に立つアスリート全員に共通するもの。ロバンペラがそうであったように、パヤリもまた、ワールドチャンピオンとなるに相応しい資質を備えている。
パヤリよりも2カ月ほど生まれ月が早いソルベルグは、パヤリとは異なるアプローチで結果を残してきた。彼の強みは、ナチュラルスピードの高さと、リスクを過度に恐れない思いきりの良さ。父親であるペター・ソルベルグさんから受け継いだ「ゼンカイ」のコールは、ソルベルグのキャラクターにマッチしている。昨年のエストニアでは、初めてドライブしたGR YARIS Rally1でいきなり優勝し、とんでもない才能を備えていることを改めて証明した。さらに、今年の開幕戦ラリー・モンテカルロでも、初日から圧倒的な速さを発揮し、父親がついぞ成し遂げられなかったモンテカルロ優勝を達成。舗装路面を溶けかけの雪が覆う特有のコンディションは、これまでセバスチャン・オジエが誰よりも得意としてきたものだが、そのオジエを唖然とさせる速さでアルプス山中を駆け抜けた。1998年以降に行われたWRC開催のラリー・モンテカルロで優勝したドライバーたちは、全員がワールドチャンピオンになっている。ソルベルグも世界王者となる資格アリということだ。
彼の強みは、路面のグリップを得にくかったり、安定しない難しいコンディションでもしっかりとタイヤの性能を引き出せること。昨年のエストニアも、今年のモンテカルロもそうだった。やや柔らか目のサスペンションセッティングを好み、とにかくトラクションを引き出す能力に優れている。柔らか目の足は、とくに高速セクションで車両姿勢を安定させることが難しく、嫌がるドライバーも少なくない。ロールやピッチ方向にやや大きく動くボディを御しながら、クルマの性能を引き出せるのはセンスによる部分が大きい。父親のペターさんもそういう走りを得意としていたから、これはソルベルグ家の宝刀ともいえるものなのだろう。
そのソルベルグの強みは、第12戦ラリー・チリ・ビオビオでもしっかりと発揮された。チリの初日、金曜日の午前中は雨で路面がマディになっているセクションが多く、珍しく出走順が早いドライバーたちが有利なコンディションになった。金曜日の出走順は選手権ランキング順で、トップ3はエバンス、パヤリ、ソルベルグというオーダー。泥道の表面がまだ崩れていない状態で走れるエバンスが、もっとも有利な状況だった。そして金曜日の午前のループでは、そのエバンスとソルベルグが僅差の首位争いを繰り広げ、ソルベルグがトップに立った。午後は路面が乾き始め、午前中とは異なるコンディションになったが、それでもソルベルグは首位を守り抜き、2位エバンスとの差を10.1秒に拡げた。
非常に印象的だったのはデイ2、土曜日の戦い方だ。土曜日のステージはドライコンディションとなり、ステージが行われるエリアも金曜日とは大きく異なった。土曜日のステージの路面は全体的にタイヤに厳しく、午前3本、午後3本のステージでいかにタイヤを持たせるかが大きなポイントだった。そこでソルベルグは、午前、午後のループとも非常にクレバーな走りを見せた。最初の2本のステージではタイヤをケアして確実性の高い走りに徹し、最後の1本でベストタイムを刻みアドバンテージを得るというアプローチだ。チームメイトを含むライバルがタイムを縮める中、最初の2本のステージを我慢して走るのは不安だったに違いないが、ソルベルグはよく耐えた。そして午後の最後のステージでは温存していたタイヤを武器にスピードを解き放ち、ベストタイムで一気にリードを拡大。デイ2でもソルベルグは首位を守り、2位エバンスとの差を19.1秒まで拡げ、そこで勝利をほぼ確実なものとしたのだった。そして、最終日も安定の走りで優勝を飾っただけでなく、ボーナスポイントがかかるパワーステージも制覇。ソルベルグは開幕戦以来となる今シーズン2勝目を獲得し、TGR-WRTはソルベルグと2位に入ったセバスチャン・オジエが獲得したポイントにより、6年連続となるマニュファクチャラーズタイトルを決めたのだった。
シーズン中盤、ソルベルグは速さがありながらもミスも少なくなく、結果がまったく出ないラリーが続いた。恐れを知らぬ走りが仇となったこともあったが、非常に気をつけて走っていたにも関わらず、ミスを犯してしまうラリーもあるなど、何をやっても上手くいかない状況に本人はとても苦しんでいた。ほぼ同い年のパヤリが安定して表彰台に立ち続けたのとは対照的に、ソルベルグは負のループからなかなか抜け出せずにいたのだ。しかし、昨年衝撃的な優勝を飾った第9戦エストニアで2位に入ったことでついにスランプから抜け出し、続くフィンランドでも2位でフィニッシュ。パラグアイでは速さがありながらもエンジンがストップするトラブルと、その後のパンクで5位に終わったが、チリでは彼ならではの強さを発揮し、WRC通算3勝目を手にした。
今年、ソルベルグは速さがなかなか結果に繋がらず「ゼンカイ」のマインドが空回りしていた。僕がラリージャパンで彼と話をしていた時も、「日本のファンにゼンカイの走りを見せたい」と意気込んでいたが、その横にいたオジエが笑いながら「そんな事を言っていると、またやらかすぞ」と突っ込んでいた。信頼関係がある間柄だからこそ言える言葉だが、実際、ソルベルグは2位を走りながらもクラッシュでデイリタイアとなってしまった。オジエが伝えたかったのは、ステージの結果に一喜一憂せず、ラリー全体を見据え落ち着いて走れということだったのだろう。優勝したチリでのソルベルグの走りは、緩急のつけかたが天才的に上手い、オジエを彷彿とさせるものだった。あのような走りを今後も続けられるようであれば、オジエを含む歴代のモンテカルロ・ウイナーたちのように、ソルベルグもワールドチャンピオンの仲間入りをすることができるはずだ。もともと持っているナチュラルスピードは、とんでもなく素晴らしいのだから。
最終戦として予定されていた、第14戦ラリー・サウジアラビアが諸般の事情により中止となったことで、第13戦ラリー・イタリア サルディニアが2026年シーズンのファイナルラウンドとなり、ドライバーズおよびコ・ドライバーズ・タイトル決定の場になる。絶好調なラリーが続いていた選手権2位のパヤリと3位のソルベルグにとっては、首位エバンスとのポイント差を縮めるチャンスが1戦減ったことで、ワールドチャンピオン獲得に向けてのチャンスはやや減ることになった。エバンスとパヤリは17ポイント差、ソルベルグは21ポイント差。めったに大きなミスをしないエバンスが非常に有利な状況にあることは間違いない。しかし、2020年にエバンスがシーズンをリードしながらも、最終戦のモンツァでまさかのクラッシュを喫しデイリタイア。優勝したオジエが逆転でチャンピオンになったように、最後まで何が起こるか分からないのがWRCの面白いところであり、怖いところでもある。サルディニアはパンクのリスクが高いラリーでもあるから、選手権を大きくリードしていたとしても決して安心できない。ベテランとふたりの若武者たちの、初タイトルを懸けた最後の戦いは、2026年のWRCを締めくくるに相応しい、エキサイティングなものになるだろう。
古賀敬介の近況
最終戦のサウジアラビアがキャンセルとなったのは、不安定な世界情勢を考えればしかたのないことです。その結果サルディニアがタイトル決定戦の大役を担うことになりました。そのサルディニアがWRCとして開催されるのは今年が最後とも言われており、個人的には少し寂しく思いますが、この原稿をWEC富士の現場で書き終えたら僕もサルディニアに飛び、しっかり取材したいと思います。その模様は次回のコラムでしっかりレポートします。あと、よろしければ「WRCな日々 番外編 こがっちeyes 2026WRC Rd8 ラリー・フィンランド」で映像レポートもお楽しみください。