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WRC 2017年 第3戦 ラリー・メキシコ

サマリーレポート

WRC Rd.3 メキシコ サマリーレポート

メキシコ特有の「暑さ」と「薄い空気」がもたらした試練
難局を乗り越える努力と工夫がヒトとクルマをさらに進化させる

ハイライト動画

ラリー・メキシコは、もしかしたらWRCでもっとも「過酷」なラリーかもしれない。2004年に初めてWRCの1戦として開催されたラリー・メキシコは、メキシコ中部のグアナファト州レオンが大会の中心となる。WRCが開催される3月の最高気温の平均値は約28度で、日中はかなり暑くなる。また、標高はレオン市街地で1815mと、温泉地として名高い群馬県万座と同じぐらいの高さだ。ただし、SS(スペシャルステージ)が行われる山岳地帯の標高は2000m以上となり、最高地点は2800mを超える。富士山の七〜八合目に相当する標高2800m地点での空気中の酸素濃度は、平地の7割程度となるため、人間と同様クルマのエンジンにとっても息がかなり苦しい状態となる。「暑さ」と「薄い空気」というふたつの難題に直面するラリー・メキシコは、それゆえエンジン技術者にとってシーズン最難関のラリーなのだ。

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「暑さ」と「薄い空気」というふたつの難題に直面するラリー・メキシコ

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エンジニアリングチームは去年からメキシコを想定したテストを行なってきた

今シーズンよりWRC参戦を開始したTOYOTA GAZOO Racing WRTは、4マニュファクチャラーの中で唯一ラリー・メキシコの出場経験がない。そのため過去のデータを開発に生かすことができず、出場前からもっともチャレンジングなラリーになるだろうと、チームは覚悟をしていた。経験値の差を知恵と工夫で補うため、エンジニアリングチームは去年からメキシコを想定したテストを行なってきた。高い気温については南ヨーロッパでテストを実施し、30度をはるかに超える高温下でのパフォーマンスと耐久性を確認した。そして、高い標高への対策としては、スペインの山岳地帯で高地テストを行ない、空気が薄い状態でのセッティングの最適化を行なった。もちろん、それに先立ちエンジン開発の拠点であるTMG(Toyota Motorsport GmbH)のエンジンベンチでも、高い標高に条件を合わせた状態でテストを続けるなど、可能な限りの準備をしてラリー本番に備えた。



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ヤリスWRCはエンジンのセッティングを切り替える必要に迫られた

ただし、スペインでの高地テストではなかなか天候に恵まれず、高い標高と高い気温という条件下での試験は残念ながら行うことができなかった。それがTOYOTA GAZOO Racing WRTにとっては唯一の懸案事項だったが、ラリー・メキシコ本戦では、まさにその部分が最大の問題となってしまった。競技2日目の3月10日、大会最長となる全長54.90kmのグラベルコースで、2台のヤリスWRCにエンジン温度の上昇という問題が発生。エンジンにダメージが及ばないようにするため、SSを走行する際に使用する「ステージモード」から、一般道走行用にパフォーマンスやレスポンスを下げた「ロードセクションモード」にエンジンのセッティングを切り替える必要に迫られた。その結果、選手たちは本来よりもかなり低いパフォーマンスのエンジンセッティングで走る事になり、大きくタイムをロスしてしまった。もっとも、熱問題に直面したのはヤリスWRCだけでなく、他のマニュファクチャラーのクルマにも同様のトラブルは起こった。ラリー・メキシコのSSは、経験豊かなトップチームであっても攻略が難しい、極めて困難なコースなのである。



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2台のヤリスWRCは揃って完走を果たした

ラリー・メキシコの実際の走行データを初めて収集できたことにより、TOYOTA GAZOO Racing WRTのエンジニアとメカニックは、トラブルが発生したその日の夜までに問題を解明し対策を実施。ソフトとハードの両面で最適化作業を進め、翌日の競技3日目に臨んだ。その結果、熱問題は解消され、2台のヤリスWRCはスピードアップに成功。その後は特に大きな問題は発生せず、ヤリ-マティ・ラトバラ/ミーカ・アンティラ組(#10号車)と、ユホ・ハンニネン/カイ・リンドストローム組(#11号車)は、揃って完走を果たした。ラトバラはトラブルによる遅れをクレバーな走りで取り戻し、最終的には6位まで順位を上げた。そして、初日首位につけたハンニネンはラリー期間中体調不良に悩まされ続けたが、大きなドライビングミスを冒すことなく、今季初めて用意されたすべてのSSを走りきり7位でシーズン初のシングル入賞を実現した。ラリー・メキシコではクルマだけでなく、選手も大きな進化を遂げたのだ。

開幕戦2位、そして第2戦1位と順調に序盤戦を戦ってきたTOYOTA GAZOO Racing WRTにとって、メキシコは初めて直面する困難なラリーとなった。しかし、予想を超える難しいコンディションの道を走破したからこそ、得られたものは大きかった。標高2800mを超える地域でも、その土地に住む人々は普段の生活でクルマを使っている。いかなる状況でも最高の性能を発揮する理想のクルマを作るために、WRCほど多くを得られるモータースポーツは他にない。困難に立ち向かい、それを克服することが大きな力となるからだ。初のラリー・メキシコ出場でTOYOTA GAZOO Racing WRTは様々な事を学び、それを今後のラリーに生かすとともに、将来のトヨタのクルマづくりにもフィードバックする。苦しい戦いとなったラリー・メキシコは、実に収穫の多い1戦であった。

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苦しい戦いとなったラリー・メキシコは、実に収穫の多い1戦であった

RESULT
WRC 2017年 第3戦 ラリー・メキシコ

順位ドライバーコ・ドライバー車両タイム
1クリス・ミークポール・ネーグルシトロエン C3 WRC3h22m04.6s
2セバスチャン・オジエジュリアン・イングラシアフォード フィエスタ WRC+13.8s
3ティエリー・ヌービルニコラス・ジルソーヒュンダイ i20 クーペ WRC+59.7s
4オット・タナックマルティン・ヤルヴェオヤフォード フィエスタ WRC+2m18.3s
5ヘイデン・パッドンジョン・ケナードヒュンダイ i20 クーペ WRC+3m32.9s
6ヤリ-マティ・ラトバラミーカ・アンティラトヨタ ヤリス WRC+4m40.3s
7 ユホ・ハンニネンカイ・リンドストロームトヨタ ヤリス WRC+5m06.2s
8ダニ・ソルドマルク・マルティヒュンダイ i20 クーペ WRC+5m22.7s
9エルフィン・エバンスダニエル・バリットフォード フィエスタ WRC+8m41.8s
10ポントゥス・ティディマンドヨナス・アンダーソンシュコダ ファビア R5+10m51.9s