WRC

WRC 2017 第7戦 ラリー・イタリア サルディニア

サマリーレポート

WRC Rd.7 イタリア  サマリーレポート

一戦一戦地道に改善を重ねてきたヤリスWRCが
灼熱のグラベルラリーで示した「成長の証」

ハイライト動画

 WRC第7戦ラリー・イタリア サルディニアのコースについて、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team代表のトミ・マキネンは次のように述べる。
「サルディニアを最後まで無事に走り切る事は簡単ではない。すべてのステージを全開で攻め続けたら、タイヤもクルマも持たないだろう。コースの状況次第では、かなりペースを落として走る必要がある。その見極めが、このラリーでは特に難しい」
 2017年シーズン、4回目のグラベル(未舗装路)ラリーとなるサルディニア島のコースは、他のグラベルラリーとはまた違う難しさを含んでいる。1本のSSの中に軟らかい砂地と硬い岩盤状の路面が入り混じり、砂の中に鋭利な石が隠れている事も少なくない。そして全体的には幅が狭くツイスティな道が多いが、ワイドなハイスピードコーナーも時々現れる。そのため、走りのリズムを適宜変化させる必要があり、選手は柔軟な対応力が求められる。


WRC Rd.7 イタリア  サマリーレポート


出走順のハンデをはねのけ、ラトバラは上位を走行した。

WRC Rd.7 イタリア  サマリーレポート

 ドライバーズ選手権3位のヤリ-マティ・ラトバラは、本格的なグラベルSSの初日となるデイ2で、SSを3番目にスタートした。ドライコンディションのグラベルは、道の表面が「ルーズグラベル」と呼ばれる砂や砂利で覆われており、出走順が早い選手は、そのルーズグラベルによってタイヤのグリップ力が十分に得られず、大幅なタイムロスを余儀なくされる。しかし、何台かのラリーカーが走ると走行ライン上のルーズグラベルはどんどんとはけていき、タイヤのグリップ力は上がっていく。つまり、走行順が早い選手権上位の選手は、大きなハンデを負って戦わなければならないのだ。そのためラトバラはラリー序盤苦しい戦いを強いられたが、それでもデイ2終了時点で首位と9・8秒差の4位という好位置につけた。




2速ギヤを失いながらもラッピがベストタイムを記録。

WRC Rd.7 イタリア  サマリーレポート

 一方、出走順が後方のユホ・ハンニネンとエサペッカ・ラッピは、遅めの出走順のアドバンテージを活かし、ハンニネンが1本、ラッピが3本のベストタイムを記録。ハンニネンは一時ラリーをリードし、1日の最後のSSでスピンして壁に当たり、遅れをとるまでは2位の座を守っていた。そしてラッピは、今回がヤリスWRCでの2戦目ながら、3本連続で最速タイムを刻むなど、経験の少なさを感じさせない切れ味鋭い走りを披露。前戦のラリー・ポルトガルで見せたスピードが、一時的なものではない事を証明した。
 圧巻だったのは、SS5でのラッピの走りだ。ラッピはSS2で、6速ある前進ギヤのうち、使用頻度が高い2速ギヤを失ってしまった。そのためSS3とSS4では大きな遅れをとったが、SS5では何とトップタイムを記録。通常では考えられないような出来事だが、「ヤリスWRCは、6速ではなく5速ギヤでも十分に戦えるよ」と、冗談を口にするほどラッピは至って冷静だった。



改善を重ねヤリスWRCはウイークポイントをついに克服した。

 3名のドライバーはそれぞれ異なる条件下で持てる力を発揮したが、ヤリスWRCも彼らの走りをしっかりと支えた。今年のサルディニアは晴天続きで気温がかなり上昇。そして、コースは低速でツイスティなコーナーが多いため、ラジエーターに当たる風が少なく、エンジン温度が上がりやすい状況だった。ヤリスWRCはグラベルラリーの初戦だった第3戦ラリー・メキシコで熱問題に直面し、以降様々な対策を施してきた。その結果、問題は着実に解決方向に向かっていたが、灼熱のサルディニアでも熱によるトラブルは発生せず、エンジニアとメカニックの努力はついに結実。ドライバーはエンジン温度を気にする事なく、アクセルを踏み続けた。ハンニネン車に関してはスピンして壁に当たった際フロントセクションが破損し、ラジエーターの冷却水が流れ出た。しかし、その状態でもエンジンは音を上げず、改めてエンジン本体の強さが証明されることになった。


WRC Rd.7 イタリア  サマリーレポート


グラベルラリーにおける成長をタイムと結果で証明。

 高い気温や、タイヤに厳しい路面コンディションが続いた今回のサルディニアでは、多くの選手がマシントラブルやアクシデントで戦列を去った。しかしラトバラ、ハンニネン、ラッピの3選手は巧みに難局を乗り越え、良い位置でラリー最終日を迎えた。2位につけていたラトバラはリスクと得られる結果のバランスを冷静に見極め、攻めの姿勢を貫きながらもしっかりと順位を堅守。ラッピは、若さ溢れる力強い走りでSSベストタイムの獲得回数を「6」に増やし、ボーナスの選手権ポイントがかかる最終のパワーステージも制すなど、非凡な速さを示した。そして、最終的にはキャリアベストリザルトとなる4位でラリーを締めくくった。ハンニネンはパワーステアリングのトラブルに遭遇し、パワーアシストが得られずタイムを落としたが、それでも遅れを最小限に抑え6位でフィニッシュ。いずれも前戦ポルトガル以上の結果を残し、グラベルラリーにおけるヒトとクルマの成長を、結果で示したのである。


WRC Rd.7 イタリア  サマリーレポート

RESULT
WRC 2017年 第7戦 ラリー・イタリア サルディニア

順位ドライバーコ・ドライバー車両タイム
1オット・タナックマルティン・ヤルヴェオヤフォード フィエスタ WRC3h25m15.1s
2ヤリ-マティ・ラトバラミーカ・アンティラトヨタ ヤリス WRC+12.3s
3ティエリー・ヌービルニコラス・ジルソーヒュンダイ i20 クーペ WRC+1m07.7s
4エサペッカ・ラッピヤンネ・フェルムトヨタ ヤリス WRC+2m12.9s
5セバスチャン・オジエジュリアン・イングラシアフォード フィエスタ WRC+3m25.3s
6ユホ・ハンニネンカイ・リンドストロームトヨタ ヤリス WRC+3m38.5s
7マッズ・オストベルグオーラ・フローネフォード フィエスタ WRC+6m31.8s
8アンドレアス・ミケルセンアンダース・ジーガーシトロエン C3 WRC+8m07.8s
9エリック・カミリベンジャミン・ベイラスフォード フィエスタ R5+11m15.8s
10ヤン・コペツキパヴェル・ドレスラーシュコダ ファビア R5+11m21.4s