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WRC 2017 第8戦 ラリー・ポーランド

サマリーレポート

WRC Rd.8 ポーランド  サマリーレポート

劣悪な走行条件のハイスピードグラベルラリーで
証明されたパフォーマンスと、克服すべき課題

ハイライト動画

 ターマック(舗装路)、グラベル(未舗装路)、そしてスノー(雪道)。WRCには大きく分けて3種類のラリーが存在する。一般道を走る感覚からすると、ターマックが1番平均速度が高く、路面のグリップレベルが低いグラベルやスノーは平均速度が遅いようなイメージを持ちやすい。しかし、2016年のWRCで勝者の平均速度がもっとも高かったのは、グラベルのラリー・フィンランドだった。2番目は、やはりグラベルのラリー・ポーランド。スノーのラリー・スウェーデンが3番目という、意外にも感じられる順番だった。これらのラリーの平均速度が高い理由としては、ヘアピンコーナーのように速度が大きく落ちるコーナーが少なく、緩やかで直線的な高速コーナーが多いということが挙げられる。そして、ラリー用に開発された専用タイヤは、未舗装路や雪道で想像以上の高いグリップ力を発揮するのだ。


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 フィンランドとポーランドは、いずれもWRCを代表する超高速グラベルラリーだが、コースのキャラクターはやや異なる。フィンランドはリズミカルで流れるようなコーナーが続く森の中の道が多く、路面も全体的に硬質。一方、ポーランドは草原の中を通るやや幅の狭い道が中心となり、砂状で軟らかい路面が多い。そして、雨が降ると両コースの違いはさらに浮き彫りとなる。フィンランドの未舗装路は比較的水はけが良いため、雨が降っても路面はある程度の硬さを保つ。少量の雨ならば、むしろグリップ力が高まるほどだ。しかし、ポーランドの路面は水を含みやすい土質で、加えて排水性があまり良くないため泥状になり、深い轍(わだち)が刻まれやすい。そして、今年のラリー・ポーランドはラリーウイークに入り雨が降る日が多く、コースは泥と水に覆われ非常に滑りやすいコンディションとなった。


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雨で泥状となった路面でラトバラが連続ベストタイムを記録

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 ハイスピードでなおかつ滑りやすいという、例年より難易度が高まったコースには、多くのドライバーが驚きを隠さなかった。「これほど滑る道は初めて」「タイヤがまったくグリップせずまともに走れない」という声が多く聞かれ、アクセルを全開にできない選手も少なくなかった。しかし、ハイスピードなラリーを得意とするTOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamのヤリ-マティ・ラトバラは、ラリー序盤SS3、SS4と連続してベストタイムを記録。その素晴らしいアタックを、ハイスピードラリー用にセッティングを最適化したヤリスWRCがしっかりと支えた。
 ヤリスWRCは、クルマ全体でエアロダイナミクス効果を得られるように、細部まで拘った空力設計がなされている。大型のリヤウイングだけでなく、前後フェンダーや、フロントのバンパーやボンネットも、すべて空力性能に気を配ってデザインされている。そして、その空力効果は高速スノーイベントである第2戦ラリー・スウェーデンでの勝利により既に確認されていたが、ポーランドでは改めて空力性能の高さが証明された。また、足まわりやエンジンも、高速コースでしっかりと力を発揮し、ラトバラはSS3から7にかけて首位を快走した。




深い轍の中でのハンドリングに苦戦し解決策を模索

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 ポーランドの道では、しかし新たなる課題も浮き彫りとなった。雨で軟化し深い轍が刻まれた泥道で、ラトバラとユホ・ハンニネンは、轍の中でのクルマの動きに満足できず、思うようにペースが上がらなかった。車高を上げれば問題は解決方向に向かうが、高速ラリーゆえに上げすぎると高速安定性が損なわれる。また、ただ単に車高だけの問題だけでなく、様々な要素が複合的に絡み合っていることもあり、ドライバーとチームは対処に頭を悩ませ、知恵を絞った。
 エンジニアとの共同作業を続ける中で、ラトバラは正しい解決方法を見つけ、ふたたびスピードを取り戻した。そして3位という好位置で優勝を見据えた戦いを続けていたが、小さなマシントラブルが彼から表彰台フィニッシュのチャンスを奪った。ラトバラは走行中止を余儀なくされ、競技3日目デイ3で上位争いの権利を失ったのだ。ラリー序盤のデイ2で、エサペッカ・ラッピが車両破損によりリタイアしていたこともあり、ラトバラの戦線離脱はチームにとって大きな痛手となった。しかし、ハンニネンが粘り強い走りを続けたことで、高速ラリーでの多くの実戦データが蓄積されていった。



スピード勝負のパワーステージで記した圧巻のベストタイム

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 迎えたラリー最終日、ラトバラはメカニックとエンジニアの努力によって完璧に修復されたヤリスWRCを駆り、競技に復帰。既にタイム差が大きく広がっていたため、上位フィニッシュはもはや望めなかったが、ボーナスポイントがかかる最終SSのパワーステージ制覇を目標に定め、集中力を高めた。そして、ラトバラは全長18.68kmというそれほど長くないコースで、2位に4・9秒という大差をつける圧巻のベストタイムを記録。貴重なボーナス選手権ポイント5点を、手にすることに成功した。



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 「確かにトラブルは残念だったし、多くのポイントを失ったのは選手権争いを考えるとマイナスです。しかし、クルマのパフォーマンスという点では、ポーランドはとてもポジティブなラリーでした。ハイスピードなコースでヤリスWRCは非常に安定しており、自信を持ってアタックすることができました。また、泥で滑りやすいセクションでも、しっかりとタイヤのグリップが感じられました。次のフィンランドに繋がる戦いができたと思います」とラトバラは、最後は笑顔でラリー・ポーランドを締めくくった。また、ハンニネンも堅実な走りを最後まで続けて10位でフィニッシュし、ポイント獲得を果たした。
 WRC次戦は、選手6名とチームにとってのホームイベントであるラリー・フィンランド。シーズン最速のグラベルラリーは、また新たなる挑戦となる。ポーランドで得られたハイスピードコースでの自信を、いかに結果につなげるか。チームは約1カ月のインターバルの間に、ヤリスWRCのさらなるパフォーマンスアップと信頼性の向上に努める。


RESULT
WRC 2017年 第8戦 ラリー・ポーランド

順位ドライバーコ・ドライバー車両タイム
1ティエリー・ヌービルニコラス・ジルソーヒュンダイ i20 クーペ WRC2h40m46.1s
2ヘイデン・パッドンセバスチャン・マーシャルヒュンダイ i20 クーペ WRC+1m23.9s
3セバスチャン・オジエジュリアン・イングラシアフォード フィエスタ WRC+2m20.8s
4ダニ・ソルドマルク・マルティヒュンダイ i20 クーペ WRC+2m47.4s
5ステファン・ルフェーブルギャバン・モローシトロエン C3 WRC+3m11.8s
6テーム・スニネンミッコ・マルックラフォード フィエスタ WRC+3m16.8s
7マッズ・オストベルグオーラ・フローネフォード フィエスタ WRC+3m39.6s
8エルフィン・エバンスダニエル・バリットフォード フィエスタ WRC+4m39.1s
9アンドレアス・ミケルセンアンダース・ジーガーシトロエン C3 WRC+4m43.5s
10ユホ・ハンニネンカイ・リンドストロームトヨタ ヤリス WRC+4m53.7s
20ヤリ-マティ・ラトバラミーカ・アンティラトヨタ ヤリス WRC+28m01.0s
Rエサペッカ・ラッピヤンネ・フェルムトヨタ ヤリス WRC