ヤリスWRCはターマックラリーでもトップを競えるクルマに進化。
難関ラリー・ドイチェランドでユホ・ハンニネンが4位に入る。
ハイライト動画
今シーズン3回目のターマック(舗装路)イベントとなったラリー・ドイチェランドは、クルマとドライバーの総合力が求められる1戦となった。ドイツのコースはバリエーションに富み、本格的にSSがスタートした8月18日(金)のデイ2は、モーゼル河畔に広がるブドウ畑のコースがハイライトに。本来農作業のために設けられたブドウ畑内の道は幅が狭く、何台かのクルマが走るとコーナー内側の泥や砂利がタイヤでかき出され、道はまるでグラベル(未舗装路)のようになる。そして、雨が降ると畑の濡れた泥がコース内に流れ込み、路面コンディションはさらに悪化。状況は刻々と変化していくため、コーナーの先がどのような路面状態なのかをドライバーが予想することは難しい。
ブドウ畑内のSSでは多くの選手がコースオフを喫したが、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamのユホ・ハンニネンもそのひとり。幸いにしてヤリスWRCに大きなダメージはなく、ハンニネンはその後も問題なくラリーを続けたが、改めてドイツの道の難しさを知った。ラリー・ドイチェランドには2011年に1度出たことがあるが、この特殊なコースでの経験は圧倒的に不足している。そのためハンニネンはコースオフ後は安定性重視の走りを続け、経験値を高めながら徐々にペースを上げていった。降雨により格段に難易度を増した路面コンディションでハンニネンのアプローチは奏功し、彼は総合6位でデイ2を終えた。
ラリー最長のSSでハンニネンがベストタイムを記録
デイ3はバウムホールダー軍事演習場が戦いの主舞台となり、前日のブドウ畑の道とはまた大きく異なる、特殊なターマックコースが選手たちの前にはだかった。演習場内の道はその多くがコンクリートによって固められており、ドライコンディションでは通常の舗装路よりもタイヤのグリップが高くなることもある。しかし雨で濡れると途端に滑りやすくなり、クルマのコントロールが一気に難しくなる。さらに、道のすぐ脇には、戦車が道を外れることを防ぐための「ヒンケルシュタイン」と呼ばれるコンクリート製の大きなブロックが点在し、運悪くそのブロックに当たるとクルマは大きなダメージを受ける。過去に多くの選手がヒンケルシュタインの「餌食」となり、リタイアを余儀なくされた。そのため、バウムホールダーのステージに苦手意識を持つ選手は少なくない。
ハンニネンにとってもバウムホールダーのステージは限りなく未知に近い領域だったが、彼は今大会最長となったバウムホールダー内のSS「パンツァープラッテ」を、他の誰よりも速く駆け抜けた。タイヤ選択がうまくいったこともあったが、それでもハンニネンのスピードは圧巻だった。彼はヤリスWRCをスタートからフィニッシュまでスムーズに走らせ、全長41.97kmのステージを24分39.7秒という好タイムで走破。このコースでの経験が豊かなライバルを抑え、ベストタイムを記録した。パンツァープラッテでのベストタイムにより、ハンニネンはヤリスWRCの舗装路でのパフォーマンスを確信し、その後もスピードと安定性を両立させたクレバーな走りを続けた。
ハンニネンは午後のステージでも好調を維持していたが、午前中最速だったパンツァープラッテの再走SSでは、何かしらの衝撃でダンパーが破損しペースを落とさざるを得なかった。ハンニネンは、その後の2本のSSもダンパーに問題を抱えたまま走ることになり、大きくタイムを失った。それでも前日よりもひとつ上の総合5位でデイ3を走りきり、最終日デイ4でのさらなるポジションアップに照準を合わせた。
全開アタックでハンニネンが総合4位を勝ち取る。
デイ4はSSの本数、走行距離とも短く、ハンニネンに残された上位浮上のチャンスは多くなかった。しかしヤリスWRCの走りに全幅の信頼を置くハンニネンは、デイ4最初のSS18で渾身のアタックを行ないベストタイムを記録。4・2秒あった4位の選手との差を一気に挽回し、4位に順位を上げた。そして彼は、ターマックラリーでのキャリアベストリザルトとなる4位でフィニッシュ。「デイ2でのコースオフを除けば、とても満足できるラリーになった。ヤリスWRCはターマックでもコントロールしやすく、自信を持って難しいコースを走ることができた。ドイツのようにトリッキーな道が続くラリーでは、どれだけクルマを信頼して走れるかが鍵になる。ヤリスWRCはひとつ前のターマックラリーだったツール・ド・コルス(フランス)から大きく進化し、特にハンドリングが良くなった。今やターマックでもトップ争いができるクルマに成長したと思う」と、ハンニネンは充実の表情でラリーを総括した。
困難な状況を乗り越え、大きく前進したラッピ
ヤリ-マティ・ラトバラもクルマの仕上がりには満足し、一時は総合5位につけていた。しかし点火系のトラブルで遅れ、さらにデイ3でパンクを喫したことで上位争いから遠ざかり7位で戦いを終えた。チーム代表のトミ・マキネンは「3戦連続で彼のクルマにトラブルが起こってしまい、申し訳なく思う。問題はすべて異なるが、原因を徹底的に追及し再発を防止しなければならない。もしトラブルが起こらなければ、ヤリ-マティは表彰台に上がれていたはずだから、とても残念だ。それでも、ヤリスWRCがターマックラリーでも高い競争力を備えていることが分かったのは、チームにとって非常にポジティブなことだと思う」と述べ、残る3戦に向けて信頼性と性能の両方に磨きをかけることを誓った。
前戦ラリー・フィンランドで優勝し、大きく成長したエサペッカ・ラッピは、初めてWRカーで走るドイツの道で予想以上に苦しんだ。彼は去年、WRカーよりも性能が抑えられたR5カーでラリー・ドイチェランドに出場し、WRC 2クラス優勝を果たした。しかし、R5カーよりもはるかにスピード域が高いWRカーに序盤は戸惑い、デイ2でコースオフを喫しクルマの足まわりを破損してデイリタイアとなった。さらに、クルマを修復して再出走したデイ3では思うようにタイムが伸びず「全開でアタックしているのにタイムが出ない。なぜなのか理由が分からず困っている」と、苦しい胸の内を吐露した。しかし何とか少しでも前に進むべく、デイ3の晩にラッピはチームのエンジニアと徹底的に走行データを分析。その努力の結果解決策が見つかり、ラッピはラリー最終日にベストタイム1本と、セカンドベストタイム1本を記録。良い形でラリーを締めくくった。
「タイトなコーナーの立ち上がりで、アクセルを急激に開けていたのが、タイムが出ない原因だった。ヤリスWRCはエンジンの低回転域でのトルクがとても大きいため、ホイールスピンをしてしまっていたことがデータでわかった。そこで、デイ4ではもっと優しく繊細にアクセルを踏み込むように運転を変えたら、しっかりと駆動力がかかるようになりタイムが上がった。協力してくれたエンジニアのお陰で悩みが解消されたよ」と、ラッピはエンジニアに感謝の言葉を述べた。
ヤリスWRCのエンジン開発を手がけるTMGを訪問
今回のラリー・ドイチェランドの開催地は、ヤリスWRCのエンジン開発を担うドイツ・ケルンのTMG(トヨタ・モータースポーツGmbH)からも近く、ラリー期間中には大勢のTMGスタッフがコースやサービスパークを訪れ声援を送った。そして、ラリーが終わった翌日、選手をはじめとするTOYOTA GAZOO Racing World Rally TeamのメンバーはTMGを訪問し、普段はなかなか会うことができないTMGのスタッフとの交流を深めた。TMGはヤリスWRCのエンジン開発だけでなく、WRCと同じく世界選手権である、WEC(FIA世界耐久選手権)を戦うTOYOTA TS050 HYBRIDの開発拠点でもある。そのファクトリー内を案内された選手たちは、ラリーとはまた違うレース用車両の開発過程をじっくりと見学し、とても有意義な1日を過ごした。
ラリー・ドイチェランドで好結果を残したハンニネンは、TMG訪問を終え、次のように述べた。
「エンジン開発のスタッフ以外とは、普段なかなか会うことができない。だから、こうしてラリー以外の仕事に携わるTMGの人々と、実際に会って話すことができて本当に良かった。また、ヤリスWRCのエンジンの製作現場を見て、さらにモチベーションが高まったよ。ラリー・フィンランドから投入された新しいエンジンは、さらに使いやすく強力になった。今回のドイツでも、低〜中回転域での力強さやアクセルに対するレスポンスが上がり、劣悪な路面コンディションでも本当に扱いやすかった。素晴らしいエンジンを開発してくれた、ケルンの人々にありがとうと言いたい」
いにしえのラリーカーと出会いラトバラは気持ちを新たに。
ラトバラは他の誰よりも熱心にファクトリー内を見学し、各部門のエンジニアを質問攻めにした。そして、ファクトリー内に展示されていた古(いにしえ)のラリーカーを、時間を忘れて隅々まで観察。特に、彼自身も所有する初代セリカGT-Fourに関しては、ボンネットを開け使われている細かなパーツまで入念にチェックしていた。
「今日は僕にとって本当に素晴らしい1日だった。TMGのスタッフとたくさん話をし、素晴らしい設備を見学することができた。そして、トヨタの歴史を作り上げてきた多くのラリーカーにも出会い、自分が今トヨタの一員としてWRCを戦っていることに改めて誇りを感じたよ」と、ラトバラ。彼はフィンランド行きの飛行機の出発時間を気にしながらも、ぎりぎりまでTMGのスタッフとラリー談義に花を咲かせ、名残惜しそうにTMGを後にした。
RESULT
WRC 2017年 第10戦 ラリー・ドイチェランド
順位 | ドライバー | コ・ドライバー | 車両 | タイム |
---|---|---|---|---|
1 | オット・タナック | マルティン・ヤルヴェオヤ | フォード フィエスタ WRC | 2h57m31.7s |
2 | アンドレアス・ミケルセン | アンダース・ジーガー | シトロエン C3 WRC | +16.4s |
3 | セバスチャン・オジエ | ジュリアン・イングラシア | フォード フィエスタ WRC | +30.4s |
4 | ユホ・ハンニネン | カイ・リンドストローム | トヨタ ヤリス WRC | +1m49.2s |
5 | クレイグ・ブリーン | スコット・マーティン | シトロエン C3 WRC | +2m01.5s |
6 | エルフィン・エバンス | ダニエル・バリット | フォード フィエスタ WRC | +2m03.4s |
7 | ヤリ-マティ・ラトバラ | ミーカ・アンティラ | トヨタ ヤリス WRC | +3m58.2s |
8 | ヘイデン・パッドン | セバスチャン・マーシャル | ヒュンダイ i20 クーペ WRC | +4m32.4s |
9 | アルミン・クレマー | ピルミン・ヴィンクルホーファー | フォード フィエスタ WRC | +10m19.4s |
10 | エリック・カミリ | ベンジャミン・ヴァイラス | フォード フィエスタ R5 | +10m44.3s |
21 | エサペッカ・ラッピ | ヤンネ・フェルム | トヨタ ヤリス WRC | +18m05.2s |