スペインのハイスピードターマックSSで見えた、
ヤリスWRCとハンニネンの確実なる進化
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ラリー・スペインは、WRC唯一の「ミックスサーフェス・ラリー」である。グラベル(未舗装路)とターマック(舗装路)という、2種類のサーフェス(路面)を走行することから、ミックスサーフェス・ラリーと呼ばれている。1月の開幕戦ラリー・モンテカルロも雪道とターマックの両路面を走行するが、ラリー・モンテカルロはターマックラリーに分類される。なぜなら降雪がまったくない年もあり、その場合は純粋にターマックラリーとして行われるからだ。そして、クルマは一貫してターマック仕様のままである。
対して、ラリー・スペインは初日のデイ1がグラベルラリー、デイ2およびデイ3はターマックラリーと、明確に分かれている。デイ1は他のグラベルラリーと同じようにグラベル仕様のクルマで走行し、デイ1の夜にチームはサービスでクルマをターマック仕様に変更する。ダンパー、スプリング、ブレーキ、デファレンシャル、そしてタイヤ&ホイールなど、多くの部品が75分間という短い作業時間で一気に交換されるのだ。そして、デイ2からの2日間はターマックラリーとして競技が行われる。
ターマックでの走りをテストでさらに磨き上げて
ラリー・スペインで勝利を得るためには、グラベルとターマックの両路面で戦闘力の高いクルマを用意しなければならない。そのため、ラリー前のテストでは、グラベルとターマックの両路面で開発が進められる。ヤリスWRCは第9戦ラリー・フィンランドで優勝するなど、グラベルでのパフォーマンスはかなり高いレベルに達した。しかし、ターマックに関しては実戦での経験が少ないこともあり、開発は決して十分ではなかった。そこでチームは、ターマックでの競争力を大幅に高めるべく、舗装路での開発に注力。その成果は前戦ラリー・ドイチェランドで表れ、ユホ・ハンニネンが難関のロングステージでSSベストタイムを刻むなど、開発が正しい方向に向かっていることが確認された。そしてさらに、ラリー・ドイチェランドとラリー・スペインの間の約1カ月のインターバルを利用し、チームはターマック仕様の開発をさらに推進。ドライバーたちはテストで十分な手応えを感じ、ラリー・スペインのスタートを心待ちにしていた。
デイ1のグラベルSSで予想外の苦戦を強いられる
グラベルラリーとして行なわれたラリー・スペインのデイ1は、チームの予想を下まわるスタートとなってしまった。フィンランドの道とは特性が異なるスペインのグラベルで、ヤリスWRCは駆動力が不足し、ハンドリングは安定性を欠いた。そのため3名のドライバーはデイ1午前中のSSで遅れをとることになった。しかし、サービスで施したセッティング変更が奏功しハンドリングは好転。ヤリ-マティ・ラトバラがSS4でベストタイムを刻むなど、正しい方向に向かったように思われた。が、好事魔多し。ラトバラはSS5でクルマの下まわりを強くヒットし、その衝撃で潤滑系が破損。走行不能となってしまった。
チームはクルマを回収しサービスで破損状況を精査したが、ダメージは予想以上に大きく、ラリー続行を諦めざるを得なかった。そのためラトバラはデイ2以降のターマックSSを走ることなくラリーを終えることに。「ヤリスWRCのターマックでの走りには自信があった。チームがハードワークを続けた結果、とても速いクルマに仕上がっていたから本当に残念だ」と、ラトバラは唇を強く噛んだ。
ハンニネンがターマックで2 本のSSベストタイムを記録
ラトバラが自信を持っていた、ヤリスWRCのターマックでのパフォーマンスは、デイ2開始早々ハンニネンによって証明された。ハンニネンが最後にラリー・スペインに出場したのは2011年。その時のクルマはWRカーよりもスピード域が低いS2000だった。ライバルと比較するとハンニネンのスペインでの経験は圧倒的に少なかったが、彼はデイ2最初のSS7で3番手タイムを記録。そしてSS8、SS9と2ステージ連続でベストタイムをマークした。SS8とSS9は去年のラリーでは使われなかったSSであり、ハンニネンにとっては他のSSよりもハンデが少なかった。イーブンな条件のSSならばライバルと互角以上に戦えることを、ハンニネンは2本のSSベストタイムで証明したのである。
ハンニネンは「ターマックSSを走るのが楽しくてしょうがない。クルマが自分の思ったように動くから安心して走れるし、大きなリスクを負わなくとも良いタイムが出る。これほど走りが楽しいと思ったのは、初めてかもしれない」と、目を輝かせた。そして、午前中の走行を終えサービスに戻ると「何もセッティングを変える必要はない。それぐらい今のクルマに満足している」と、エンジニアに伝達。午後のSSではベストタイムこそ出なかったが、安定した走りを続け総合4位でデイ2を終了。1日の最後のサービスでも、大きなセッティング変更は行わなかった。
リタイアに終わるも、ラッピは貴重な経験を積んだ
一方、WRカーでのラリー・スペイン出場は今回が初めてとなるエサペッカ・ラッピは、デイ2開始直後タイムが奮わなかった。スペインのターマックSSは「サーキットのようなコース」と言われるほど、速度が高いコーナーが連続する。WRCでもっとも平均速度が高いラリー・フィンランドで優勝したことからも分かるように、ラッピはハイスピードなラリーを得意としている。しかし、スペインのターマックSSは、グリップ性能が非常に高いターマック専用タイヤで走行することもあり、コーナリング速度はとても高い。そしてラッピがスペインに向けたターマックテストを行なった時は雨で路面が濡れており、ドライでの走りを経験できなかったのだ。そのためラッピは自信を持てずデイ2の序盤でやや遅れたが、3本目のSS9では2番手タイムを記録。その後もSS3番手タイムを2回刻むなど調子を上げていき、前日の10位から6位に大きく順位を上げた。
残念ながら、ラッピはデイ3のSS15でガードレールにマシンを当ててリタイアとなったが、デイ2で見せた格段の進歩は明るい材料といえる。WRカー1年目のラッピは、成功と失敗を繰り返しながら、1戦ごとに着実に成長している。
チームの期待に応えたハンニネンが4位でフィニッシュ
総合4位でラリー最終日のデイ3を迎えたハンニネンは、彼のキャップを被って応援の気持ちを表現したスタッフたちに見送られ、SSへと向かった。総合3位の選手とはタイム差が開いてしまっていたが、ハンニネンはスピードと安定性を両立させた走りを続け、SS 3番手タイムを2回記録。そして、表彰台にはあと1歩及ばなかったが、価値ある総合4位でラリーを終えた。
ハンニネンはヤリスWRCの開発黎明期からステアリングを握り、メインテストドライバーとしてクルマを育ててきた。彼のフィードバックは非常に正確で、エンジニアはハンニネンの能力を高く評価していた。しかしWRカーでの実戦経験があまりないことから、今シーズンの序盤はドライビングミスが少なくなく、スピードも十分とはいえなかった。しかし、ヤリスWRCの進化と並行する形でハンニネンもどんどんと力を蓄え、速さと安定性の両方が向上。グラベルの第9戦ラリー・フィンランドで3位に入り、ターマックの第10戦ラリー・ドイチェランドでは4位フィニッシュを果たした。そして今回のラリー・スペインでも4位に入るなど、ハンニネンはベテランでありながら急角度の成長曲線を描いている。クルマと共にヒトも成長し、能力を高めたヒトがさらに良いクルマを作る。今シーズンのハンニネンの戦いは、トヨタが目指す「もっといいクルマづくり」のフィロソフィーを、まさに象徴するものである。
RESULT
WRC 2017年 第11戦 ラリー・スペイン
順位 | ドライバー | コ・ドライバー | 車両 | タイム |
---|---|---|---|---|
1 | クリス・ミーク | ポール・ネーグル | シトロエン C3 WRC | 3h01m21.1s |
2 | セバスチャン・オジエ | ジュリアン・イングラシア | フォード フィエスタ WRC | +28.0s |
3 | オット・タナック | マルティン・ヤルヴェオヤ | フォード フィエスタ WRC | +33.0s |
4 | ユホ・ハンニネン | カイ・リンドストローム | トヨタ ヤリス WRC | +54.1s |
5 | マッズ・オストベルグ | トースタイン・エリクソン | フォード フィエスタ WRC | +2m26.2s |
6 | ステファン・ルフェーブル | ギャバン・モロー | シトロエン C3 WRC | +2m43.0s |
7 | エルフィン・エバンス | ダニエル・バリット | フォード フィエスタ WRC | +4m37.4s |
8 | テーム・スニネン | ミッコ・マルックラ | フォード フィエスタ R5 | +8m22.7s |
9 | ヤン・コペツキ | パヴェル・ドレスラー | シュコダ ファビア R5 | +8m54.5s |
10 | オーレ・クリスチャン・ヴェイビー | スティグ・ルンネ・スクヤルモエン | シュコダ ファビア R5 | +9m04.8s |
R | エサペッカ・ラッピ | ヤンネ・フェルム | トヨタ ヤリス WRC | |
R | ヤリ-マティ・ラトバラ | ミーカ・アンティラ | トヨタ ヤリス WRC |