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WRC 2018 第8戦 ラリー・フィンランド

サマリーレポート

WRC Rd.8 フィンランド サマリーレポート

WRC屈指の高速グラベルラリーでタナックがシーズン2勝目を記録
ラトバラも長く続いた不振を脱し総合3位でポディウムに立つ

 ラリー・フィンランドのレッキ(コースの下見走行)を終えた選手達は、その多くが「今年のステージは例年とは違う」という感想を述べた。昨年と比べるとステージ全体の約65%が更新され、以前と同じ名前のステージであっても、ルートを一部変更したり、全長を変えるなどして変化をつけようという主催者の意思が感じられた。全体的には、道幅が狭くツイスティなセクションが増えたのが、今年のラリー・フィンランドの大きな特徴である。

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 フィンランドでは多くのグラベル(未舗装路)ロードが、人々の生活道路として使われており、ラリーではそれを一時的に閉鎖しSSとして使用する。そのような道は普段から交通量が多く、良く整備されているため比較的砂利が少なく走りやすい。しかし、今年新たに加えられた道幅の狭いコースは、普段あまり交通量が多くないため砂利が多く、路面も軟らかい。加えて今夏のフィンランドは酷暑の日が続き、からからに乾いた路面は例年以上に砂利が表面に浮きやすく、「ルーズグラベル」と呼ばれる、その滑りやすい砂利を掃いて走らなければならない。出走順が早い選手にとっては、いつになく厳しい条件のコース設定となっていた。

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「確かに、今年のステージは出走順が早い自分達にとっては不利かもしれない。しかしクルマの仕上がりはとても良いし、直前にヤリスWRCで出たラリー・エストニアでも勝てたので、準備はしっかりとできている。後は自分の力を出しきるだけだ」

 ラリーのスタートを前に、オット・タナックはそう語り、その落ち着ついた表情からは余裕すら感じられた。元々ハイスピードラリーを得意とし、特に道幅が狭くミスが許されない高速コースでの速さは現役ドライバーの中で1番と言われている。ドライバーズ選手権3番手につけていたタナックは、森の中を駆け抜ける本格的なグラベルステージが始まるデイ2で3番手スタートとなり、やはりルーズグラベルの影響は免れられない。それでも、ヤリスWRCと完全に一体化すれば、いかなる条件でも勝てるという自信が、タナックにはあった。

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不利な3番手スタートながら圧巻の速さでタナックがトップに

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 サービスパークが置かれるユバスキュラ市街地でのオープニングステージ、SS1でタナックはベストタイムを刻みデイ1のラリーリーダーとなった。そして、森林グラベルステージに舞台を移してのデイ2でも、SS2でベストタイムを記録。その約20kmのステージで、タナックより早い出走順の二人のドライバーは15~20秒と大きく遅れた事からも、タナックが滑りやすい路面で健闘した事が分かる。続くSS3では、カーナンバー7のヤリスWRCを駆るヤリ-マティ・ラトバラがトップタイム。駆動コントロールを司るセンターデフにトラブルを抱えた昨年の覇者、エサペッカ・ラッピの遅れを別とすれば、ヤリスWRCは非常に良いスタートを切った。



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 しかし、SS4からは9番手スタートのマッズ・オストベルグがペースを上げ、タナックを抜き総合トップに。以降、ベストタイムの応酬による僅差の首位攻防戦がオストベルグとタナックの間で続いた。ノルウェー出身のオストベルグもまたハイスピードグラベルラリーを得意としており、前走者達によってクリーニングされた道を力強く走行。タナックは渾身のアタックを続け、厳しい走行条件ながらデイ2の10本のSSのうち、5本のSSでベストタイムを記録した。そしてついにSS9で首位に返り咲き、2位のオストベルトと5.8秒差の総合1位としてデイ2を締めくくった。選手権トップを争う、タナックよりも出走順が早かった二人のドライバーは、ドライビングミスもいくつかありデイ2で59秒、1分58秒という大きな遅れをとった。早い出走順がいかに不利であったかがそのタイムからも計れるが、同時にタナックの路面状況にあまり影響されない速さも浮き彫りとなった。



路面の掃除役から開放されたタナックが真の速さを発揮

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 デイ3でのタナックはSSの出走順が11番手と、ようやくルーズグラベルの「掃除役」から開放された。クリーンな道を走れるようになったタナックは本来の速さを最大限に発揮し、SS12から16にかけて5ステージ連続でベストタイムを記録。その時点で2位オストベルグとの差は32秒に拡大しており、タイム差は充分であると判断したタナックはそれ以降ややペースを緩めた。「デイ3で有利なスタート順が得られるように、デイ2ではかなり頑張って走った。しかし、デイ3ではあまりプッシュしなくても良いタイムが出た。すべて順調に進んでいる」と、タナック。デイ3終了時点で2位との差は39秒にまで広がり、優勝はほぼ確実な状況となった。



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 競技最終日、デイ4はSSが4本と少なく、タナックは抑えた走りで最初の3本のSSを走行。優勝を確実なものにするならば、最終SSも抑えて走るのが正しい。しかしSSでトップ5タイムを記したドライバーに、選手権のボーナスポイントが与えられる「パワーステージ」に指定された最終SSで、タナックは攻めの走りを敢行。大会12本目となるベストタイムを記し優勝を決めた。SSのフィニッシュ地点は、タナックの母国であるエストニアの国旗と、TOYOTA GAZOO Racingフラッグに埋め尽くされ、会場は祝勝のムードに包まれた。そして最終SSを走り終え、ヤリスWRCを停めたタナックは、コ・ドライバーのマルティン・ヤルヴェオヤと共にクルマのルーフ上に立ち、さらにトミ・マキネンチーム代表、豊田章男チーム総代表もヤリスWRCの上に立った。



チームの本拠地、「母国」とも呼べる場所での特別な勝利

 世界選手権での優勝をラリー・フィンランドで初めて経験した豊田チーム総代表は、その喜びを次のように語った。「チームの本拠地で母国とも呼べる、ここフィンランドでの勝利が、これほど嬉しいものとは思いませんでした。この感動をもたらしてくれたチームのみんなにお礼を言いたいと思います。この場に一緒にいさせてくれて、そして、その一番高いところからの景色を見させてくれて本当にありがとう」

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 第5戦ラリー・アルゼンティーナ以来となる今季2勝目を飾ったタナックは「自分が思い描いていたようにすべてが上手く進み、完璧な週末になった。素晴らしいクルマを用意してくれたチーム、そして応援してくれたファンに感謝している」と、穏やかな笑顔でコメント。惜しくも僅か3.2秒差で3位となったラトバラと共にポディウムに立ち、心からの感謝をファンに伝えた。TOYOTA GAZOO Racing WRTのホームイベントであるラリー・フィンランドで勝利するために、タナックを始めとする選手たち、そしてチームのスタッフは入念な準備を進めてきた。チーフ・エンジニアのトム・フォウラーは「我々のクルマはハイスピードなラリーで既に充分なパフォーマンスを示していたが、それをさらに高めるため地道なファインチューニングを続けてきた。今回のクルマの最大の変更点は改良エンジンの搭載で、それが勝利の要因のひとつだと思う」と、ラリー終了後に述べた。

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トルク増したTMG製改良エンジンも勝利に貢献

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 ドイツのTMG(トヨタモータスポーツGmbH)が手がける1.6リッター直列4気筒直噴ターボは、これまでも高い性能を発揮してきた。しかし、ドライバーからの「更にトルクを上げて欲しい」という要望に応え、従来同様の高い出力を保ちながら、最大トルクおよび低中回転域の出力を向上させた改良エンジンを開発。それをラリー・フィンランドで投じた。低中回転域での力が増した事でコーナーからの立上がりが速くなっただけでなく、アクセラレーションによるコーナリング中の姿勢コントロールも容易になった。つまり、ハンドリング性能にとってもプラスに働く改良がなされた。さらに、低中回転域が力強くなった事で、以前よりも1段高いギヤでもコーナーを回れるようになりシフトチェンジの機会が減り、パワーが無駄なく路面に伝わるようになった。エンジンの進化もまた、ラリー・フィンランドでの勝利に大きく貢献したのである。



フィンランド2年連続優勝達成も、課題はまだいくつか残る

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 ただし、すべてが完璧だったわけではない。デイ2の序盤、ラッピはセンターデフの不調によりハンドリングが万全ではなく、貴重なタイムを失った。昨年WRC初優勝を遂げたフィンランドで、ラッピは連覇を狙っていた。しかしトラブルもあってデイ2では総合8位に沈んでしまった。エンジニアによって問題はすぐに解決され、ラッピは2本のベストタイムを刻むなど速さを取り戻し、デイ3ではさらに3本のSSベストタイムで総合4位に浮上。しかし、デイ4最初のSSでクラッシュしリタイアでラリーを終える事になった。本来は3人のドライバー全員がポディウムに立つ事が目標だっただけに、トラブルとクラッシュでそれを実現できなかったのは残念である。今後に向けて、トラブルをさらに少なくする事、そしてドライバーが最後までクリーンに走り続ける事が、課題として残った。



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 次戦は、ターマック(舗装路)イベントのラリー・ドイチェランド。ドイツは、エンジン開発を担当するTMGにとってはホームラリーである。フィンランドとはキャラクターが大きく異なるラリーだが、タナックは昨年このラリーで優勝している。また、ヤリスWRCもいくつかのステージで高い競争力を示した。今季2勝目、そしてターマックラリー初優勝という次なる目標に向けて、チームとドライバーは一丸となってさらに前へと進む。



RESULT
WRC 2018年 第8戦 ラリー・フィンランド

順位 ドライバー コ・ドライバー 車両 タイム
1 オット・タナック マルティン・ヤルヴェオヤ トヨタ ヤリスWRC 2h35m18.1s
2 マッズ・オストベルグ トシュテン・エリクソン シトロエン C3 WRC +32.7s
3 ヤリ-マティ・ラトバラ ミーカ・アンティラ トヨタ ヤリス WRC +35.5s
4 ヘイデン・パッドン セバスチャン・マーシャル ヒュンダイ i20 クーペ WRC +1m35.6s
5 セバスチャン・オジエ ジュリアン・イングラシア フォード フィエスタ WRC +2m15.0s
6 テーム・スニネン ミッコ・マルックラ フォード フィエスタ WRC +2m19.2s
7 エルフィン・エバンス ダニエル・バリット フォード フィエスタ WRC +2m29.5s
8 クレイグ・ブリーン スコット・マーティン シトロエン C3 WRC +3m08.4s
9 ティエリー・ヌービル ニコラス・ジルソー ヒュンダイ i20 クーペ WRC +3m51.8s
10 アンドレアス・ミケルセン アンダース・ジーガー ヒュンダイ i20 クーペ WRC +8m37.4s
R エサペッカ・ラッピ ヤンネ・フェルム トヨタ ヤリス WRC)