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WRC 2019年 第2戦 ラリー・スウェーデン

サマリーレポート

WRC Rd.2 ラリー・スウェーデン サマリーレポート

シリーズタイトル獲得のため「絶対に負けられない1戦」で
オィット・タナックがラリー・スウェーデン初優勝を飾る

 開幕戦ラリー・モンテカルロでオィット・タナックが総合3位に入り、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamは堅実にシーズンをスタートした。昨年よりもイベント数が1戦増え、今季は14のラリーが年間カレンダーに並ぶ。シーズンはまだ始まったばかり、長く過酷な戦いの日々が11月の最終戦ラリー・オーストラリアまで続く。しかし、GAZOO Racing Companyの友山茂樹プレジデントは予感していた。第2戦ラリー・スウェーデンが、今シーズンのタイトル争いにおいて重要な意味を持つ1戦になるだろうと。このラリーで勝てるか勝てないかが、これからのシーズンに大きく影響する。そう友山は感じていた。

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必勝を期すタナックが友山に現地指揮を依頼

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 友山と同じ感覚を、タナックも持っていた。ハイレベルなトップドライバーがしのぎを削るWRCで世界王者となるためには、全てのラリーで優勝争いに加わらなければならない。特に、自分のドライビングとクルマに合っているラリーは絶対に落とせない。ラリー・スウェーデンは、まさにその1戦だった。2017年、ヤリスWRCは最初の優勝をヤリ-マティ・ラトバラと共にスウェーデンで飾った。フルスノーラリーながら、SS(スペシャルステージ)の平均速度はWRCで2、3番目に高い。先進的な空力設計がなされハイスピードなステージで特に強さを発揮するヤリスWRCと、特に相性の良いラリーだといえる。



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 しかし、大雪に見舞われた昨年は、不利な出走順によりヤリスWRCは翼を広げきれなかった。開幕戦モンテカルロで表彰台に立った3選手は出走順が早く、序盤は積もった新雪の「掃除役」を担い大きくタイムロス。モンテカルロ2位のタナック、3位のラトバラは必勝を期して臨んだスウェーデンでそれぞれ9位と7位という不本意な結果に終わった。それだけに、今年こそスウェーデンで勝ち、その後のラリーに勢いをつけようと彼らは心に誓っていた。そのためには、チームの力を最大限に発揮させなければならない。現場の士気を最高潮に高めるためには友山の鼓舞が必要だとタナックは考え、事前テストの現場からビデオメッセージを送った。「オマチシテオリマス」と、かたことの日本語を交えて。そして、選手直々の要請に心打たれた友山は、日本での多忙な業務を調整してスウェーデンに向かった。「自分が勝利の一助となれば」という気持ちを胸に。



あらゆる走行条件に対応すべくヤリスWRCをさらに改善

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 チームはヤリスWRCにさらなる改善を施し、万全を期した。昨年のような新雪に覆われた路面コンディションでは、クルマの開口部に雪が詰まり、それが重量増や空力性能の低下に繋がる可能性がある。そのため昨年は、リヤフェンダー後方に刻まれた細かいフィンの目詰まりを防ぐため、全面をカバーで覆った。しかし、その状態ではヤリスWRCのストロングポイントである空力性能をフルには活かせない。そのため開発チームは、雪や泥が詰まりにくい、間隔の広いフィン形状を新たにデザイン。事前のテストでも十分な効果が確認できたことから、採用に踏み切った。また、フロントの開口部に関しても、雪が詰まらないような工夫を盛り込み、安定した冷却性能の確保に努めた。かくして、現時点で考えられるあらゆる対策を施し、チームはヤリスWRCをスウェーデンに送り出した。



高い気温で雪が解けステージコンディションが激変

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 本来ならば美しい雪景色が広がるスウェーデンのステージは、例年とは雰囲気が大きく違った。ラリーウィークに入ると気温が上昇し、森は雪化粧を失い緑色の面積が広がった。そして、十分な降雪により比較的良い状態を保っていた森の中の雪道も、表面の氷が日に日に解けて薄くなり、一部路面では下から茶色い土や砂利が露出した。日中の気温は5度を越えることも多く、最低気温も氷点下に下がらない日々が増えた。ドライバー達は「今年は大変なコンディションになりそうだ」と警戒感を抱きながら、ラリーのスタートを切った。



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 森林地帯での本格的なステージが始まった2月15日金曜日、隣国ノルウェーの道も含むSSは、午前中比較的良好なコンディションが保たれた。出走順が3番目だったタナックは、硬く締まった氷の路面で2本のSSベストタイムを記録して首位に。また、ラトバラも総合3位につけるなど、チームにとっては良いスタートとなった。



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 しかし、午後のステージが始まると路面は一変した。気温の上昇により雪や氷が解け、時間が経って崩れたかき氷のような状態に。また、多くのクルマが走行したことで深いわだちが刻まれ、氷の下からは水分を含んだ泥の路面が露出した。特に、最新のWRカーやR5カーよりも小柄な、ヒストリックラリーカーが刻んだわだちは幅が狭く、それによってWRカーは進路を大きく乱され、出走順が前方の選手達は荒れた路面の「地ならし」役を強いられることになった。モンテカルロで表彰台に立ったトップドライバー3人は、昨年のスウェーデンとはまた違う理由で、大きなハンデを負うことになったのだ。



巧みなリスクマネージメントでタナックが僅差の総合2位に

 同様のシチュエーションは、翌日土曜日の午後のステージでも予想された。土曜日を有利な出走順で走るためには、何としてでも上位で金曜日を終えなければならない。解けた雪と、泥と、深いわだちが刻まれた劣悪なコンディションのステージを、選手権上位のドライバー達はリスクを背負って攻めた。タナックよりも前にスタートしたふたりはいずれもトリッキーな路面でクルマのコントロールを失い、コースを外れ大きく順位を落とした。しかし、タナックは首位の座こそ失うも巧みなリスクマネージメントで難局を切り抜け、総合1位と2秒差の2位で金曜日のステージを走破。土曜日は、後方13番手スタートという、有利な条件の出走順を獲得したのだった。

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 チームがスウェーデンに向けたテストを行なった際はロードコンディションが良く、硬く締まった雪道でヤリスWRCは素晴らしいハンドリング性能を示した。しかし、雪が解けた状態でテストをするチャンスは訪れず、そのような条件にセッティングを合わせるのはチームにとって大きなチャレンジだった。以前は想定外の状況に遭遇すると、経験不足からセッティングを外してしまうことも少なくなかった。しかし2年間の実戦で多くの経験を積み、いかなるコンディションに対しても的確なセッティングを施せるようになった。それ故、午前中と状況が大きく異なった午後のステージでも、ヤリスWRCはタナックの期待を裏切らなかった。「瞬間的な速さ」だけでなく、いかなる条件に対しても対応できる「強さ」を、クルマとチームは備えつつある。

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優勝に王手、パワーステージを見据えてタイヤをセーブ

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 土曜日の午前中は良好な路面状態が保たれ、タナックは後方の出走順ながら連続でセカンドベストタイムを記録。首位のライバルを抜かし、総合トップに立った。そして、事前の予想に違わず午後の再走ステージは非常にトリッキーなコンディションと化し、出走順が後方のドライバーが有利な状況となった。タナックはその時点で2位に約34秒差をつけていたが、スムーズな走りで3本のベストタイムを記録。差がさらに大きく広がったことを確認すると、ペースを落としてタイヤに負担をかけない運転に切り替えた。その時点で彼の頭の中にあったのは、翌日、日曜日の最終ステージをどう戦うかということ。ボーナスの選手権ポイントがかかる最後のパワーステージでベストタイムを記すために、良い状態のタイヤをできるだけ多く残しておこうと既に考えていたのである。



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 2位に約55秒という大差をつけて迎えた最終日、タナックは最初の2本のSSを5番手、9番手というタイムで終えた。そして、温存していたタイヤのパフォーマンスを最終のパワーステージで存分に発揮し、全長8.93kmという短いSSながら2番手に3.5秒の大差をつけるベストタイムを記録。狙い通りパワーステージを制し、優勝の25ポイントにボーナスの5ポイントを加えた計30ポイントを獲得してドライバーズ選手権トップに立った。



ミークは総合6位でマニュファクチャラー選手権首位浮上に貢献

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 ヤリスWRCで初めてフルスノーラリーを戦ったクリス・ミークは、テスト時とは大きく異なる緩んだ路面で最初はなかなか自信が持てず、本来のスピードを発揮し切れなかった。出走順も理想的とはいえず週末を通して厳しい戦いが続いたが、それでも最後まで集中力を失うことなくクレバーな走りを続け、総合6位でフィニッシュ。彼が獲得した貴重なポイントは、チームをマニュファクチャラー選手権首位に導いた。限られた条件で、ミークは素晴らしい仕事を成し遂げたのだ。



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 ラトバラは、金曜日の最終ステージでコースを外れてスタックし、総合2位のポジションを失った。翌日はラリー2規定によりペナルティタイムを受けて再出走を果たしたが、総合21位という最終結果はもちろん彼が望んでいたものではない。ベストタイムを2回記録するなど、速さは十分にあった。それだけに残念なリザルトであるが、あとひとつ、ピースがカチリとはまれば表彰台の良い位置に立てるはずだ。次戦に向けて、ラトバラは素早く気持ちを切り替えた。



表彰式に参加することなく、スタッフは次戦の準備を開始した

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 ラリー・スウェーデン初優勝を遂げたタナックは、パワーステージ終了直後のフィニッシュランプで、コ・ドライバーのマルティン・ヤルヴェオヤと共にヤリスWRCのルーフ上に立ち空を見上げた。やがて、彼の勝利を支えたスタッフが笑顔で次々と集結。その中には、最後まで仲間達の戦いを見守り続けた友山の姿もあった。友山はマニュファクチャラーの代表として表彰台に立ち、自分をこの地に呼び寄せたタナックらと喜びを分かちあった。特別な意味を持つ1戦であると、肝に銘じて戦ったスウェーデン。優勝という目標は達成したが、それは長い旅路の最初のステップに過ぎない事を、友山もタナックも理解している。次なる目標は、2年連続で苦汁を味わった第3戦ラリー・メキシコで結果を残すこと。チームにとっては、シーズン最大の難関イベントである。



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 歓喜の表彰式に、チームの主要なエンジニアとメカニックの姿はなかった。彼らは日曜日の朝クルマをステージに送り出すと、勝利の瞬間に立ち会うことなくスウェーデンを離れた。約2週間後にスタートする、ラリー・メキシコに向けたテストの準備をすぐに始めるためである。優勝の喜びを現場で共有できなかった彼らに、タナックは感謝のメッセージを送った。「みんな、ありがとう」と。



RESULT
WRC 2019年 第2戦 ラリー・スウェーデン

順位 ドライバー コ・ドライバー 車両 タイム
1 オィット・タナック マルティン・ヤルヴェオヤ トヨタ ヤリス WRC 2h47m30.0s
2 エサペッカ・ラッピ ヤンネ・フェルム シトロエン C3 WRC +53.7s
3 ティエリー・ヌービル ニコラス・ジルソー ヒュンダイ i20クーペ WRC +56.7s
4 アンドレアス・ミケルセン アンダース・ジーガー ヒュンダイ i20クーペ WRC +1m05.4s
5 エルフィン・エバンス スコット・マーティン フォード フィエスタ WRC +1m08.2s
6 クリス・ミーク セブ・マーシャル トヨタ ヤリス WRC +1m38.8s
7 セバスチャン・ローブ ダニエル・エレナ ヒュンダイ i20クーペWRC +1m49.7s
8 ポントゥス・ティディマンド オーラ・フローネ フォード フィエスタ WRC +3m37.7s
9 オーレ・クリスチャン・ヴェイビー ヨナス・アンダーソン フォルクスワーゲン ポロ GTI R5 +6m34.0s
10 ヤンネ・トゥオヒノ ミッコ・マルックラ フォード フィエスタ WRC +8m21.4s
21 ヤリ-マティ・ラトバラ ミーカ・アンティラ トヨタ ヤリス WRC +14m44.4s