2019 Rd.11 RALLY TURKEY

WRC 2019年 第11戦 ラリー・トルコ

    WRC Rd.11 ラリー・トルコ サマリーレポート

    サマリーレポート

    十分な準備をして臨んだラリー・トルコで厳しい現実に直面
    さらなるパフォーマンスと信頼性向上の必要性を痛感する

     スムーズでハイスピードなグラベル(未舗装路)のラリー・フィンランド、ターマック(舗装路)のラリー・ドイチェランド、そして荒れたグラベル路面のラリー・トルコ。昨シーズン中盤、ヤリスWRCとオィット・タナックはタイプが大きく異なるラリーで3連勝を飾った。特にトルコに関しては、ヤリ-マティ・ラトバラも2位に入り、1-2フィニッシュを飾るなど、チームにとってはシーズン最良のリザルトとなった。しかし、実際のところトルコでは絶対的なスピードでライバルに敵わなかったのも事実であった。荒れた路面でクルマを壊さないように、パンクをしないようにとクレバーな戦いを続けた結果、優勝を手にする事ができたのだ。そのためチームは、トルコでの大幅なパフォーマンス向上は必須であると認識し、今シーズンのトルコに向けて長期的に開発を続けてきた。

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    テストを続けてきた新サスペンションを投入

     昨年のトルコは全13戦の中でも最悪といえるくらい路面が荒れ、上下動によりクルマの前後と下まわりを打たないようにと、足まわりのセッティングを硬くして臨んだ。しかし、サスペンションを固めるとどうしてもトラクション(駆動力)がかかりにくくなる。それが昨年トルコでスピードが足らなかった原因のひとつであるとチームは考え、サスペンションの改善を進めた。また、ダンパーを含むマクファーソンストラットに関しては、軽量化も実施し総合的な運動性能の向上に努めた。

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     開発テストではパフォーマンスの向上が確認できたが、テストはテストでしかない。そこでチームは第8戦ラリー・イタリア サルディニアに4台目のヤリスWRCを投じ、開発ドライバーであるユホ・ハンニネンがそれをドライブ。サルディニアのグラベル路面で新しいサスペンションの実戦テストを行ない、性能と耐久性を確認した。

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     ハードとしての完成度は大きく向上し、そのセッティングをトルコの路面に最適化するため、チームはギリシアのグラベルロードでプレイベントテストを実施した。ギリシアでは、かつて「アクロポリスラリー」という名でWRCイベントが開催され、シーズンきってのラフな路面のラリーとして知られていた。トルコに向けたテストの場としては最適であると、チームはギリシアを新サスペンションのセッティングを詰める場に選んだのだ。そして、満を持してトルコのラリー・ウイークを迎えた。

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    タイヤトラブルと突然の降雨で大きくタイムロス

     しかし、結果的にはヤリ-マティ・ラトバラの総合6位が最上位で、クリス・ミークは総合7位に、タナックは総合16位に終わった。惨敗ともいえるリザルトだが、敗因としてはパンク、トラブル、パフォーマンス不足という、3つの大きな要素が浮かび上がる。昨年、タナックは注意深いドライビングでパンクと無縁なままラリーを走り切った。今年はドライバー選手権のリーダーとして、フルデイ初日のデイ2では1番手スタートを担った。路面はルーズグラベルに覆われ、タナックにとっては非常に不利な滑りやすい路面コンディションだったが、それでもトップと25.3秒差の総合5位につけ、さらなるポジションアップを狙っていた。しかし、SS6で右フロントタイヤがリムから外れ、大きな遅れをとってしまった。また、その1本手前のSS5ではラトバラが右フロントタイヤにダメージを負うなど、タイヤのトラブルが続いてしまった。両ドライバーとも集中力を極限まで高めて走行していたが、トルコの道で全ての石や凹凸を避けることは不可能に近い。タイヤのダメージに関しては、運に左右された部分も大きいといえる。

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     SS6では、タナックだけでなくラトバラとミークも大きな遅れをとった。午後のループステージでは、最後に天気が崩れ雨が降るという予報だった。そのためドライバー達はデイ2最終のSS7に良いコンディションのタイヤを残し、降雨に備える作戦をとった。しかし雨は予想よりも早く、SS6の終盤から激しく降り始めた。結果、摩耗が進んでいたタイヤで走っていたラトバラとミークは大幅にタイムをロス。上位フィニッシュの可能性を失った。SS5、SS6という僅か2本のステージで、3選手はいずれも勝機を逸したのである。

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    テストコースとは違った路面コンディションに苦戦

     パフォーマンスに関しても、予想していた程ではなかった。全ドライバー合計で6本のベストタイムを刻むなど、いくつかのステージでは速さを示した。しかし、それ以外では十分なトラクションが得られず、思うようにタイムが伸びなかった。入念にテストを重ねてきたにも関わらず、新しいサスペンションの効果はフルに発揮されなかった。その理由としては、今年のトルコの路面と、プレイベントテストを行なったギリシアの路面のコンディションに違いがあった事が考えられる。どちらも同じく路面は荒れていたが、トルコの路面はベッドロック(根石)が多く露出し、その硬い岩盤でタイヤのグリップが十分に得られなかった。それがトラクション不足に繋がり、タイヤの摩耗にも悪影響を及ぼした。

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    タナックがECUのトラブルによりデイリタイア

     デイ2が終了した時点で、3人のドライバーは総合7~9位に並び、いずれもトップから1分30秒以上の遅れをとっていた。それでも彼らは、ひとつでも順位を上げようとモチベーションを高く保ち、デイ3をスタートした。しかし、1本目のSS8を走り終えたタナックは、リエゾン(移動区間)で停車をした際に、エンジンが始動しなくなってしまった。タナックはチームと連絡をとりながらあらゆる解決方法を探ったが、結局クルマは目覚めることなく、デイリタイアとなってしまった。

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     エンジンが始動しなくなった理由はECU(電子制御ユニット)のトラブルであるが、なぜ問題が起きてしまったのか、その真相解明のためにはさらなる調査が必要である。チームの担当エンジニアは、ラリー終了後すぐにECUのサプライヤーを訪ね、原因の探求を開始した。そして、残る3戦では絶対にトラブルを起こさないように、サプライヤーと力を合わせ全力で改善に取り組むことを誓った。

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    背水の陣で臨んだタナックがパワーステージを制覇

     デイリタイアにより大量のペナルティタイムを課せられたタナックは、パワーステージでのボーナスポイント獲得に目標を絞り最終日に臨んだ。総合順位によるポイント獲得は事実上不可能な状況で、ならばパワーステージに全てを賭けるしかないと、タナックは思い切った戦略に出た。最大2本まで搭載可能なスペアタイヤを、1本も積まずに走る事にしたのだ。最終日は4本計38.62kmと、SSの走行距離は短い。また、路面も前日までと比べれば荒れていない。それでも日中サービスの設定はなく、朝装着した4本のタイヤだけで走るのは、摩耗とパンクの可能性を考えると極めてリスキーである。しかしタナックは「失うものは何もない」と、まったく躊躇しなかった。

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     オープニングのSS14「マルマリス1」で、タナックは不利な早い出走順ながらもベストタイムを刻んだ。パワーステージはそのマルマリスの再走ステージとなるため、タナックは1本目を練習走行の機会と位置づけ、ペースノートやセッティングのチェックを行なった。続く2本のステージはタイヤをセーブし、また燃料も必要最低限の量しか搭載していなかったため、可能な限りペースを落として走行した。そして、最後のパワーステージ「マルマリス2」では渾身のフルアタックを敢行。全長約7kmのショートステージながら、2番手タイムのライバルに2.6秒差をつける圧巻のベストタイムでパワーステージ優勝を果たし、最大となるボーナスの5ポイントを獲得した。

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    残る3戦、タイトル争いは天王山を迎える

     最終リザルトは総合16位に留まったが、タナックはドライバー選手権首位の座を堅守。今回優勝した、選手権2位のライバルとの差は17ポイントに縮まった。しかし、もしパワーステージでの5ポイント獲得がなかったら、さらに大きく詰め寄られていたことになる。大きなアドバンテージは失ったが、それでもタナックはリーダーとして依然シリーズを牽引する立場にある。これからの残る3戦が、ドライバーズタイトル争いの天王山である。

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     ラトバラとミークは、マニュファクチャラーポイントを確実に獲得するため、堅実な走りで最終日を走り切った。そして、彼らが総合6位と総合7位でフィニッシュした事により、チームはマニュファクチャラー選手権2位の座を守った。1位のチームとの差は19ポイントと広がってしまったが、残る3戦の結果次第ではまだ挽回可能な差である。タナックのドライバーズタイトル獲得と、マニュファクチャラーズタイトル防衛というふたつの大きな目標実現に向けて、チームは残る3戦に一致団結して臨む決意を新たにした。

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    WRC 2019年 第11戦 ラリー・トルコ 結果
    順位 ドライバー コ・ドライバー 車両 タイム
    1 セバスチャン・オジエ ジュリアン・イングラシア シトロエン C3 WRC 3h50m12.1s
    2 エサペッカ・ラッピ ヤンネ・フェルム シトロエン C3 WRC +34.7s
    3 アンドレアス・ミケルセン アンダース・ジーガー ヒュンダイ i20 クーペ WRC +1m04.5s
    4 テーム・スニネン ヤルモ・レーティネン フォード フィエスタ WRC +1m35.1s
    5 ダニ・ソルド カルロス・デル・バリオ ヒュンダイ i20 クーペ WRC +2m25.9s
    6 ヤリ-マティ・ラトバラ ミーカ・アンティラ トヨタ ヤリス WRC +2m59.1s
    7 クリス・ミーク セブ・マーシャル トヨタ ヤリス WRC +3m53.3s
    8 ティエリー・ヌービル ニコラス・ジルソー ヒュンダイ i20クーペ WRC +5m34.8s
    9 ポントゥス・ティディマンド オーラ・フローネ フォード フィエスタ WRC +7m22.9s
    10 ガス・グリーンスミス エリオット・エドモンドソン フォード フィエスタR5 +15m18.7s
    16 オィット・タナック マルティン・ヤルヴェオヤ トヨタ ヤリス WRC +39m10.2s

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