WRC

2017シーズン インタビュー Vol.1

Tommi Mäkinen

TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team
代表トミ・マキネン

“大胆に一歩一歩”
世界制覇を目指す闘将トミ・マキネンのチーム哲学

「豊富な経験と新しい考え方が融合し、多くの新鮮なアイデアが生まれた」

- ヤリスWRCで得た手応え -

 若きチームがつくり上げたヤリスWRCは、緒戦となるモンテカルロで2位という上々のスタートを切った。

 「モンテカルロでは、スタートのカジノ広場と フィニッシュ後の表彰台の両方でヤリスWRCを 見ることができて、すごく感動的だった」

と振り返るマキネンは、その後のシーズンの成り行きにも大きな手応えを感じている。

 「すべてが初めて尽くしだったからすごくタフだったし、開幕前に考えていた通りの学びの一年だったように思う。でも、シーズンを通して多くの走行を重ねたことで、情報収集が飛躍的に進んだ。全体的としてはすごくいいシーズンだった。進めてきた準備は、ほとんどが見事に活かされた。もちろん、いろんなレベルで思うところはあるし、常にハッピーだったわけじゃないけど、基本的には満足の行く一年だった。チームスピリットもすぐに感じられたしね。もっとも印象的だったのはスウェーデンだ。ヤリスWRCの初勝利だからね。ヤリ‐マティ(ラトバラ)の走りは、本当に素晴らしかった。特に最終ステージは、まさに激走だった。そしてもちろん、フィンランドもね。地元だから、最初から自信はあったんだ」

 フィンランドでトヨタが圧倒的な強さを見せたのは、ヤリスWRCに装着された“堂々とした”空力デバイスがフィンランドの高速コーナーで見事に適応していたから、という見方も多いが、マキネンはそれほど単純な話ではないと言う。

 「高速安定性はサスペンションジオメトリーやトランスミッションのセッティング、そして空力によって生み出されるダウンフォースで得るグリップの繊細な組み合わせによるものだ。コクピット内での反応がどうだったかはわからないが、外から見たヤリスWRCは“制御しやすい”ように見えた。このバランスに到達するには多くのディテールを詰めていく必要がある。重要なのは開発作業、テストチームの反応、テストドライバーとエンジニアの専門知識と技能を組み合わせることだ。研究開発と、あらゆる条件下でセッティングを詰めるためのテストを分けて考えることはできない。それらは常にお互いに影響し合う。ラリーでのクルマづくりは、ある程度の妥協の産物だ。それでもヤリスWRCはあらゆるコンディションに素早く適合しなくてはならない。アクティブセンターデフの再導入がコトをより複雑にしたと思う。プログラミングが少し異なるだけで、ドライバーの自信に影響する可能性があり、それによってパフォーマンスに大きな差が出るんだ。この調整には終わりはないよ。常に改善の余地がある」

 そのフィンランドではエサペッカ・ラッピが初優勝したものの、首位を走っていたラトバラはリタイアした。マキネンはこの不運をまだ忘れていない。

 「ECUにささやかな電子系トラブルが発生した。それまで、一度も表れなかった症状が突然起きたんだ。内部パーツの一部が、突然壊れた。これは防ぎようのないこと。それなのに自分たちのマシンは信頼性がないのではという噂がすぐに広まった。これにはがっかりしたね。自分たちでどうにかできることではなかったし、トヨタは信頼性において最も優れているメーカーのひとつだ。それなのに、信頼性がないと言われるのは正直、腹が立った。ヤリスWRCのパーツはどれも最高のサプライヤーから仕入れている。ヤリ‐マティが止まった後、ECUとその周辺パーツを検査のためにサプライヤーに送った。技術者たちが2日間かけてトラブルの原因を探ってくれて、非常に小さなパーツにヒビが入っていたことがわかった。それはこれまで起こったことがなかったし、これからはもう起こらないだろう」

 その後のヤリスWRCはラリーによって好不調の波はありつつも、技術面での大きなトラブルはなくシーズンを全うした。ドライバーズ選手権では最上位のラトバラが4位、マニュファクチャラーズ選手権では2位。マキネンは現時点でもライバルとの差は僅差だと分析している。

 「それぞれのマシンにそれぞれ得意なコンディションがあり、ラリーごとに挙動の違いがそれぞれにある。非常に繊細だ。シーズンを通して、我々が素晴らしいスピードを見せたラリーもあれば、サスペンションをわずかに調整して対応したことで、あっという間にパフォーマンスが落ちてしまったこともある。でも、ほんのわずかなことで間違ってしまうということは、わずかな違いでパフォーマンスにつながるということを示している。それを知ることができたのはよかったと思う」

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