“フライング・フィン”クロストーク
前編:ヤリスWRCとLC500を互いに体験
WRCで初勝利を挙げた新鋭のラッピ選手。そしてF1で活躍し、2016年にはSUPER GTで王者となったコバライネン選手。カテゴリーも世代も異なる2人のフィンランド人ドライバーが語り合います。まずは、多くの"フライング・フィン"を輩出するフィンランドのモータースポーツ事情をお聞きしました。そしてコバライネン選手がヤリスWRCを、ラッピ選手がLC500を体験し、感想を語っていただきます。
僕が小さい頃にヘイキにサインしてもらった
F1の帽子をまだ持っていますよ
エサペッカ・ラッピ
―― 2017年のWRCでは、ラッピ選手がヤリスWRCで初優勝を掴みました。フィンランド人ドライバーとしては先輩のコバライネン選手は、その活躍を注目していましたか?
ヘイキ・コバライネン(以下、コバライネン) はい。エサペッカ(ラッピ)のことは、前からよく知っていました。彼はカートの時代からフィンランドでは名の知れた存在でしたし、その後ラリードライバーとしても大きな成功を収めましたね。
エサペッカ・ラッピ(以下、ラッピ) ヘイキ(コバライネン)に初めて会ったのは、僕がまだ小さい頃で、彼はルノーF1チームのテストドライバーでした。その時、彼に書いてもらったサインが入ったルノーの帽子をまだ持っていますよ(笑)。だから、今こうしてふたりで話すのは、何だかとても不思議な感じがします。
―― フィンランドは、おふたりをはじめ著名なモータースポーツ選手を多く輩出していますね。フィンランドではモータースポーツの人気は高いのですか?
コバライネン ええ。昔はWRCがもっとも人気のあるカテゴリーでした。でも、1980年代にフィンランド人のケケ・ロズベルグがF1でチャンピオンになり、それからはF1の人気が急上昇し、ミカ・ハッキネンが出てきてからはWRCとF1は同じくらいポピュラーになったと思います。
ラッピ 僕たちの国では、アイスホッケーがもっとも人気のあるスポーツなのですが、モータースポーツはその次に人気がありますね。そしてF1よりもWRCのほうがポピュラーだと思います。なぜなら、TOYOTA GAZOO Racing WRTとして、フィンランド人選手がフィンランドを本拠とするチームで活躍しているわけですから。
コバライネン TOYOTA GAZOO Racing WRTのチーム代表もやはりフィンランド人の元WRC王者トミ・マキネンで、2017年は3人のフィンランド人選手が戦い、そしてラリー・フィンランドではエサペッカが優勝したのですから、とても盛り上がっていますよ。フィンランド人はTOYOTA GAZOO Racing WRTを、自分たちのチームと思っているような感じがします(笑)。
フィンランドにあるトミ・マキネンレーシングのガレージ
ラッピ 地元のラリー・フィンランドにヤリスWRCで出るだけでも素晴らしい経験だったのに、優勝できたのですから、嬉しいことがふたついっぺんに起こったわけです。勝った直後は「やったぞ!」という気持ちでしたが、それからしばらくして喜びがどんどんと込み上げてきました。そして、ラリー・フィンランド後の4戦で苦戦し、改めて自分が成し遂げたことの大きさを実感しました。
ラリーは本当におもしろくて大好きです。
ラリー・フィンランドも各SSをチェックしていました
ヘイキ・コバライネン
コバライネン 2017年のTOYOTA GAZOO Racing WRTの活躍は僕もフォローしていました。ラリー・フィンランドのSS1でエサペッカはあまり良いスタートではありませんでしたが、SS2以降は調子が上がり、ベストタイムも出しましたね。
ラッピ そんなに細かくチェックしていたんですね(笑)。
コバライネン
もちろんですよ(笑)。他のラリーでもSSのスプリット(区間)タイムを見るなど、できる限り追っていました。ラリーは本当におもしろくて大好きです。僕は昔F1に出ていて、もちろんF1は素晴らしいと思いますが、それでもラリーにより強く惹かれます。
以前、趣味でフィンランド国内のラリーや、日本のラリーにも出ましたが、とても楽しかった。ただし、真剣にやるとなると本当に難しいことだと理解しているので、あくまでも趣味に留めています。今は、SUPER GTに全力で臨むことが私の仕事なので。
2016年の全日本ラリー第4戦 福島でデモランを行うヘイキ・コバライネン
ラッピ たしかヘイキは、昔コ・ドライバーとしてラリーに初めて出たのでは? そして1ステージ(タイムアタック区間)だけ、ドライバーとしてステアリングを握った......。
コバライネン よく知っていますね(笑)。まさにその通りです。お世話になっていたスポンサーの人がドライバーで、僕はコ・ドライバーでした。
ラッピ ヘイキが日本のSUPER GTで活躍し、チャンピオンになったことで、フィンランドではSUPER GTの知名度が上がっていると思います。僕もSNSなどで、ヘイキの活躍やSUPER GTの結果をチェックしています。
2016年のSUPER GTでシリーズチャンピオンを獲得したヘイキ・コバライネン
コバライネン 正直に言うと、フィンランドではWRCとF1の人気がとても高くて、それ以外のカテゴリーのモータースポーツはなかなか注目されないんです。そしてフィンランドのファンはかなりシビアで、活躍しない限りはあまり興味を持ってもらえない。目が肥えているというか、かなり見方が厳しいんですよね(笑)。
ラッピ そうなんです。例えば、素晴らしい活躍をしたり、優勝すれば一緒に盛り上がってくれますが、結果が出ないとまったく評価してくれません(笑)。
コバライネン 話題にすら、してくれないのですよ。
ヤリスWRCのドライブは良い経験でした。
でも、間違えてワイパーを動かしてしまいました(苦笑)
ヘイキ・コバライネン
―― この対談の前に、おふたりにはヤリスWRCとGT500クラスのLC500に乗っていただきました。その感想を聞かせてください。
コバライネン
今日初めてヤリスWRCをドライブしましたが、とても良い経験でした。マニュファクチャラーがきちんと製作したクルマなのでクオリティが高く、まず見た目からして素晴らしかった。
今日はハイスピードなコースで乗ったわけではないのであまり多くを語れませんが、クルマの反応がとてもシャープなことに感動しました。エンジンやステアリングなどのレスポンスが鋭く、クルマの反応がとにかく素早いことは低い速度でも十分に感じ取れました。以前に海外で乗ったラリーカーとは別モノでしたね。新しい時代のWRカー、ヤリスWRCは見た目も走りもとても印象的でした。
ラッピ さすが、初めてなのにとても素晴らしいドライビングでしたね!
コバライネン ただし、乗った直後に3速から2速にギアをダウンしようとした際、間違えてワイパーを動かしてしまいました(苦笑)。 というのも、僕がSUPER GTで乗っているLC500はギアを変えるためのパドルシフトがステアリングの両側についていて、右側がシフトアップ、左側がシフトダウンなのです。でもヤリスWRCはパドルが右側にしかなくて、左側にあるレバーはパドルではなくワイパーなので、自分ではシフトダウンしたつもりが、ワイパーをオンにしてしまった! いったい何が起こったのだろうかと思いましたよ(笑)。
LC500はカーボンパーツがたくさんあって、
とても高そうだなぁ(笑)
今度はぜひ運転させてください
エサペッカ・ラッピ
ラッピ
今日は狭いコースでの試乗でしたが、ラリーのSSで使うようなコースで乗れば、きっとさらに楽しめると思いますよ。
僕はGT500クラスのLC500のシートに"座り"ました。残念ながら時間の都合で走らせることはできなかったのですが、カーボンパーツがたくさんあって、とても高そうだなぁと(笑)。エアコンまでついていて、快適に走れそうですね。次の機会があれば、今度はぜひ運転させてくださいね。
コバライネン エサペッカだったら、まったく問題ないと思いますよ。いっそ、レースに出てみたらどうかな?
ラッピ そう言ってもらえるのは嬉しいのですが、今すぐサーキットレースに転向したいとは思いません。WRCでのキャリアはまだ始まったばかりですし、まだ止めたくはないので(笑)。