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='ラリーとレース、それぞれの難しさ

“フライング・フィン”クロストーク
後編:ラリーとレース、それぞれの難しさ

WRCを中心にモータースポーツ人気の高いフィンランド出身で、WRCで活躍するラッピ選手とF1、SUPER GTで結果を残しているコバライネン選手。彼らも最初に始めたモータースポーツは、レーシングカートだったそうです。そして、コバライネン選手は趣味がラリーだと言います。そのふたりに、ラリーとレースの異なる点と同じ点、競技の特徴を聞いてみました。そして、期待高まる2018年シーズンへの抱負を語っていただきました。

エサペッカ・ラッピ

やはりWRCは憧れでした。
今、自分がそのチームの一員であるのは不思議な気分ですね
エサペッカ・ラッピ

―― 先ほどフィンランドのモータースポーツ事情をお聞きしましたが、おふたりがモータースポーツを始めたきっかけは?

エサペッカ・ラッピ(以下、ラッピ) やはりWRCは憧れで、中でもトヨタの活躍は、子供の頃からチェックしていました。それだけに、自分がそのチームの一員であるのは不思議な気分ですね。

ヘイキ・コバライネン(以下、コバライネン) 僕も、ひとりのファンとして1990年ごろ何度もWRCを見に行きましたよ。

1990年に活躍したWRC CELICA GT-FOUR ST165
1990年に活躍したWRC CELICA GT-FOUR ST165

ラッピ 1990年だと、僕はまだ生まれていなかったですね(笑)。

コバライネン サービスパークではコリン・マクレー、ユハ・カンクネン、アリ・バタネン、マルク・アレンといったスーパースターたちと一緒に写真を撮ったり、サインをもらったりしました。
それ以前からフィンランドでラリーの人気はとても高く、僕が初めて興味を持ったモータースポーツはラリーでした。ただ、レーシングカートでモータースポーツの世界に入ったので、結果的にレースの道に進むことになりました。

ラッピ 僕は、子供の頃F1ドライバーになりたいと思って、ヘイキと同じようにレーシングカートを始めました。10年くらい活動を続けたのですが、シングルシーターのフォーミュラカーにステップアップするための資金が足らず、レースを断念してラリーに転向したのです。ラリーのほうが、当時はまだお金がかからなかったので。

2017年のラリー・フィンランドで走行するヤリスWRC 12号車
ヘイキ・コバライネン

ラリーのコースはサーキットよりも狭く、
いとも簡単に限界を超える。
そこを全開で走るのが難しい
ヘイキ・コバライネン

―― つまりおふたりともラリーもレースも体験し、よく理解されているわけですね。どちらもモータースポーツであるラリーとレース。この違いとそれぞれの難しさを教えてください。

コバライネン ラリーとレース、それぞれに違う難しさがあります。ラリーのコースはサーキットよりも狭く、いとも簡単に限界を超えてしまいます。そのようなコースを、たった2回のレッキだけで全開で走らなければならないのが、ラリーの難しさです。そして、レッキで良いペースノートを作ることも重要です。同じコースを何度も走れば、きっとどんどん速く走れるようにはなるでしょう。しかし、WRCレベルでは最初から速いスピードでアタックしなければならない。しかも、そのコースを何度も走ったことがあるベテランと戦わなければならないですから、大変です。
F1やSUPER GTと比べるとラリーカーはそれほどパワフルではありませんが、それを狭くて刻々とコンディションが変わる道で走らせるのは本当に難しいですね。

2017年のラリー・フィンランドで走行するヤリスWRC 12号車

ラッピ サーキットは基本的に同じコースを何周も走るため、同じようなラップを刻むことができます。たとえ雨が降っても、それほど大きく条件は変わりません。しかし、ラリーでは道や路面など、あらゆる条件がどんどんと変化するので、それに対応しなくてはならないのが難しい部分です。

コバライネン サーキットレースの難しさは、1周1周のマージンがとても小さいことです。1/1000秒単位の小さなマージンを積み重ね、大きな差にしなければいけない。だから、クルマやタイヤのセットアップをチームと一緒になって追求し、コンスタントに毎周同じようなタイムを刻み続けなければならないのです。
しかしラリーは一定ではないコンディションに即座に反応し、ドリフトやジャンプなども交えながら走る対応力が求められます。それがサーキットレースとは大きく異なる部分だと僕は思います。

2017年 SUPER GT 第4戦SUGOで大接戦を制して優勝したLEXUS TEAM SARD 1号車

ラッピ サーキットレースでは、他のドライバーと直接戦わなければならず、自分としてはそこが少し苦手なところです。競争すること自体は良いのですが、競い合いの中でライバルと接触することもあり、高価なクルマが壊れてしまうことに抵抗を感じるのです。しかし、ラリーでは戦うべき相手はコースなので、そこが自分としては好きですね。

―― レースとラリーでは、クルマはどう違うのでしょうか? おふたりが乗るヤリスWRCとLC500、それぞれの特徴や長所を教えてください。

コバライネン 僕がSUPER GTで乗っているクルマは、レクサスLC500です。僕らのLEXUS TEAM SARD以外にも5台のLC500が走っていますが、基本的には同じです。ただしタイヤのメーカーが異なるチームもいますね。タイヤを上手く使うのが大事で、僕らのクルマは摩耗具合がとても安定していて、前後が同じように減っていくのが強みです。予選では自分たちよりも速いクルマもありますが、僕らのクルマはレースで強いクルマだと思います。

ラッピ ヤリスWRCのライバルに対するアドバンテージは、アグレッシブなデザインのエアロパッケージです。空力的にとても安定していて、2018年のクルマはさらに良くなるはずです。そして、強力なエンジンもまたヤリスWRCの強みですね。パワーレンジが幅広く、パワー、トルク、ドライバビリティとすべてが高いレベルにあります。

  • LEXUS TEAM SARD LC500 1号車
  • サービスパークで作業を行うヤリスWRCの3台

ヤリスWRCはアグレッシブなデザインの
エアロパッケージを持つ。
そして、強力なエンジンもまた強みになっている
エサペッカ・ラッピ

コバライネン モータースポーツではただ単にクルマの速さだけでなく、チームとの関係も重要です。例えば、いろいろと問題がある時に何がもっとも大きな原因なのかを正しく見極め、それをエンジニアにうまく伝えることもドライバーに求められる重要な能力です。そして、エンジニアと話し合いをして問題解決に努めます。小さな問題をすべて一度に直そうとするのではなく、もっとも重要な問題から解決していくことが大事なのです。

ラッピ 僕は、正直に自分が感じたことをチームに伝えることが大切だと思っています。例えばテストで新しいパーツをいくつかテストする時、エンジニアはきっと良くなるはずだと期待して僕の意見を聞きます。しかし、もし自分がそう思わなかった場合は、例え相手が残念な気持ちになったとしても、素直にそう伝えるべきでしょう。
良いチームというのは、ボス(代表や監督)が自分のするべき仕事をよく理解していて、良いエンジニアとメカニックがいて、皆が高いモチベーションを持っていることです。そういった条件が揃っていれば「特別」なチームになると思います。例えば僕たちのTOYOTA GAZOO Racing WRTのチーム代表は、元WRC王者のトミ・マキネンですが、彼はいろいろなことをよく知っていて、ドライバーとしての意見も述べてくれます。仮に僕らが大きなミスをしたとしても、それを責め立てるようなことはせず、どうしたら良いか解決方法をドライバーの立場になって考えてくれます。トミがチーム代表であるということは、間違いなく大きなアドバンテージだと思います。また、ドライバーとメカニックがとても良い関係にあることも、自分たちのチームの良い部分ですね。さらに、僕のチームにはヤリ-マティ・ラトバラという経験豊かなドライバーがいますが、彼は自分本意ではなく、誰にでも本当に親切な人なんです。

トミ・マキネン チーム代表
トミ・マキネン チーム代表

モータースポーツにおいて、
チームワークは本当に重要だ。
彼のチームも僕のチームも
そういう意味で良いチームだと思う
ヘイキ・コバライネン

コバライネン ヤリ-マティには何度か会ったことがありますが、正直彼のことはそれほど良くは知りません。しかし、経験豊かな速い選手がいるのはチームとエサペッカにとってもきっと良いことでしょうね。僕は、モータースポーツにおいて、チームワークは本当に重要だと思います。SUPER GTはひとりではなくふたりで戦い、ドライバーだけでなくチームも一体となって戦うレースなので、チームワークは特に大切です。そして、僕のチーム、LEXUS TEAM SARDもそういう意味でも良いチームだと思います。

2017年 SUPER GT 第4戦SUGOで優勝を喜ぶヘイキ・コバライネン
2017年 SUPER GT 第4戦SUGOで優勝を喜ぶヘイキ・コバライネン

―― さて、最後におふたりの2018年に向けての抱負をお聞かせください。

コバライネン 2017年はいろいろなことが重なってタイトルを逃してしまいましたが、2018年はふたたびチャンピオンになれるようにがんばりたいと思います。

ラッピ 2018年は僕にとって、WRカーでフルシーズンを戦う最初の年になります。2017年はシーズン途中からの参戦だったので、まずはWRカーのスピードに慣れることを重視していました。それだけに、2018年はより安定して速く走れるようになりたいですね。メキシコやアルゼンチンなど今までに出たことがないラリーもありますが、すべてのラリーで良い結果を残せるようにがんばります。

フライング・フィンのエサペッカ・ラッピ(左)とヘイキ・コバライネン(右)

いかがだったでしょうか? WRCとSUPER GT、それぞれで結果を出したふたりによる"フライング・フィン"対談。ラリーとレースのおもしろさや違いを知っていただき、さらに楽しんで観戦していただけたらと思います。TOYOTA GAZOO Racingでは、彼らをはじめモータースポーツで競う選手が存分に力を発揮できる"もっといいクルマづくり"に努力してまいります。これからもTOYOTA GAZOO Racingで戦うドライバー、チームへのご声援をよろしくお願いします。