ラリーで使用するコースの大半は一般公道です。
それだけにラリーを開催するのは
容易なことではありません。
今回は、WRCイベントがどのような環境や条件のもとで
開催されているのかをご紹介します。
ラリーのコースは、10分の1秒単位で速さを競い合うスペシャルステージ(SS)と、スペシャルステージやサービスの間を移動するリエゾンという2種類の区間から成り立っています。そして、ラリーカーも一般交通の中を走って移動していくリエゾン区間はもとより、ラリーカーが単独走行により全開アタックを行うスペシャルステージ区間もその大半は普段は一般車両が行き交っている公道を使用しています。
- PHOTO2018年WRC第12戦ラリー・スペイン
スペシャルステージであれリエゾンであれラリーのコースとして一般公道を使用するためには、そのように道路を使うことに対する許可を自治体や警察から得なければなりません。特にスペシャルステージとなれば競技で使用する時間だけとはいえ一般交通を遮断する必要があることから、その道路を普段から利用している人々や近隣住民の人々のラリーに対する理解を得ることが不可欠。それは一朝一夕にできることではありません。そうしたこともあって、WRCイベントのほとんどはラリー開催の実績が長年にわたって積み上げられてきた特定の地域で行われています。
その端的な例がラリー・フィンランドです。1951年に第1回大会が行われたこのラリーは、約70年もの長い歴史において、大会の拠点をフィンランド中部の学園都市 ユヴァスキュラに置き、その周辺の森林地帯に切り開かれたグラベルロードを駆け巡る、という形態で一貫して行われてきました。ユヴァスキュラでは、ラリー・フィンランドは町の財産と見なされ、住民はラリー開催によって不便なことがあっても多少は目をつぶってくれるだけの理解が醸成されています。ヘンリ・トイボネン、ユハ・カンクネン、トミ・マキネンといった数々のトップラリードライバーがユヴァスキュラの出身であり、現在のTOYOTA GAZOO Racing WRTがこの町に開発拠点を置いていることも、決して偶然によるものではないのです。
- PHOTO 2018年WRC第8戦ラリー・フィンランド
WRCイベントともなれば、メカニックなどのチームスタッフを含めた参加者の数や、観戦に訪れるファンの数は膨大なものになります。宿泊や食事などの施設についても、そうした人々を受け入れられる規模がWRC開催地域には求められます。また、大会期間中は各出場チームの拠点となり、特に競技中はラリーカーの整備を行う場所となるサービスパークに適したスペースを確保できることも重要です。
かつてのWRCでは、競技中にラリーカーにサービスを行う場所や回数に制限はなく、使用するタイヤの本数や種類も無制限でした。そのため、自動車メーカーのワークスチームは各スペシャルステージの入口と出口にサービス隊を配置していました。入口ではそのスペシャルステージ専用のタイヤを装着し、出口では必要に応じて修理作業を行う、といったことが繰り広げられていたのです。
- PHOTO 1990年WRC第4戦ツール・ド・コルス
しかし、そうした自由なサービスは多大なコストを要するものであり、やがて禁じられるようになっていきました。そして、競技中のラリーカーの整備は指定された場所と時間に行うようにする「集中サービス制」が1990年代後半からWRCのスタンダードとなり、全出場チームのサービススペースを基本的に1カ所にまとめた「サービスパーク」が各WRCイベントで設けられるようになっていきます。やがてそれはWRC開催における約束事となり、利便性と安全性を備えながらも広大であることが求められるサービスパークに適した用地を確保することもWRCイベント開催のための条件のひとつとなったのでした。
- PHOTO 2018年WRC第7戦ラリー・イタリア
なお、伝統のラリー・モンテカルロでは、集中サービス制となった1990年代後半以降はモナコのヨットハーバーにサービスパークを設けていました。ですが、そもそも狭い場所であり、全出場チームのサービススペースを集中的にまとめることが困難なことから、2017年大会からモナコを基点とするラリー最終日はサービスなしで同日の全スペシャルステージをこなす内容とされました。
- PHOTO 2002年WRC第1戦ラリー・モンテカルロ