木下隆之連載コラム クルマ・スキ・トモニ 148LAP

2015.05.12 コラム

いざ出陣!準備はととのったのか?

いつものラウンジで最後の心の整理を…

 5月12日。ニュルブルクリンク24時間レース参戦のために渡独する日だ。まるで夜逃げか引っ越しなのではないかと疑われそうなほどかさばる荷物を抱え、先ほど空港でチェックインしたばかりだ。フライトまでの時間、いつものようにこうしてラウンジでこの原稿を書いているわけだ。書きなぐって編集担当のNさんにメールすれば、数時間後にはTOYOTA GAZOO Racingのコラムにアップされるという段取りだ。

 いまこのコラムに目を通してくれているということは、この原稿は無事に編集部に届いたということに違いない。僕は送信ボタンをクリックしてすぐに、機上の人になっているわけで、つまり、原稿が無事なのかボツなのかは、それはドイツに到着してサイトを覗いてみないとわからないというわけ。

 いつもこんな慌ただしい原稿書きが続いている。

 だがそれって、むしろ狙いなんだよね。人様に読んでもらおうとすると、どこか気取ったり脚色したり、どこかに見栄や自慢を潜ませてしまう。だけど、時間に追われて慌ただしくコラムに向かうと、気取ってなんていられないから本音になる。

 しかもフライトのラウンジだったというのがミソ。武者震いしている最中の原稿がいいと思っている。リアルなニュルブルクリンクに触れてもらうためには、本音がいいんじゃないかなぁってことで、このスタイルを続けているのだ。

あとはスタートするのみだ

 さて、これからフライトだ。VLN1で一度、VLN2で一度、今年のニュルブルクリンク24時間本番までに二度しかノルドシュライフェを走っていない。本番が6月だとその前哨戦たるVLNがもう一戦追加されるはずだし、その合間にサーキットテストもある。だが今年はかなり慌ただしく本番に突入するのである。

 そう思うと不安になる。やることやったのか?ってね。

 特に我々は、まっさらの新しいマシンで24時間に挑む。LEXUS RC、世界で初めてLEXUS RCをレーシングマシンに仕立てて走らせるわけだ。ちょっと不安が残るのはそこだよね。

 ただし、けして冒険はしていない。もっとマシンとしては追い込むべきだったとは思うけれど、基本スタンスはノーマルに限りなく近いことにこだわった改造に留めている。レーシングカーとてやり過ぎると、耐久性の確認ができない。その点が未知数だから、あえて信頼性が確認されているノーマルのパーツを多用することにしたのだ。

 まあ、マシンがもつかもたないかは、やってみなければわからないんだけど。

 チーフメカ小池がこう言っていた。

「何があっても修理して完走させます」

 力強い言葉だったけれど、誰もがマシントラブルを覚悟しているのかもね。

「エンジンを積み替えてでも、最後はチェッカーフラッグを受ける」

 覚悟はできているみたいだね。

  • 今年、僕らが走らせるLEXUS RCは、レース仕様に仕上げる過程にこだわっているんだ。
    今年、僕らが走らせるLEXUS RCは、レース仕様に仕上げる過程にこだわっているんだ。
  • 何百回も繰り返されるダンパー交換は、もはや朝飯前。作業は丁寧だ。
    何百回も繰り返されるダンパー交換は、もはや朝飯前。作業は丁寧だ。
  • マシンがピットに入ってくる。給油、タイヤ交換、マシンチェック…。緊張が走る。
    マシンがピットに入ってくる。給油、タイヤ交換、マシンチェック…。緊張が走る。
  • ピット前での作業はスピードと正確性が求められる。
    ピット前での作業はスピードと正確性が求められる。

自問自答してみる。やることはやったのか?

 問題は、メンバーの気持ちがひとつになれているか?である。

 佐藤久実とはともにTOYOTA 86を走らせた経験があるけれど、松井孝允と蒲生尚也とは初めてコンビを組むことになる。レーシングドライバーなのだから、一癖も二癖もあるに違いない。その気持ちが一本の縄になって強固なつながりになっていれば嬉しいと思う。そのために、こよりを丁寧に編むようにしてチームの雰囲気を育ててきたつもり。いや、育ててきただなんて偉そうだね。ただただ、コミュニケーションをとってきただけだ。

 メカも初仕事の仲間だ。一般的にレーシングドライバーとメカニックというのは、同じチームの仲間だし、一台のマシンを手を携えて走らせるにも関わらず、どこかに隔たりがある。

 マシンを作る側と走らせる側。活動の時間帯も異なるし、内容も異なる。だから一緒に食事する時間も少ないってことがひとつの理由かもしれないんだけど、時には、名前すら知らないままにレースを終えることも珍しくないんだ。

 それって妙だよね。僕はそれが嫌だった。

 マシンを作る側と走らせる側、ではなく、一台のマシンをともにゴールまで導く仲間のはずなのにね。コースに出るまではメカさんたちの力による。一旦コースに出れば、ピットに戻るまではドライバーが全責任を負う。でも心はひとつであるべきだと思っている。

  • 走行するたびに、まずはタイヤのチェック。タイヤの表面は、如実にマシンとドライビングのレベルを語る。
    走行するたびに、まずはタイヤのチェック。タイヤの表面は、如実にマシンとドライビングのレベルを語る。
  • 晴れた日、走行テスト中の雰囲気は穏やかだ。LFAの石浦とも、情報交換に余念がない。
    晴れた日、走行テスト中の雰囲気は穏やかだ。LFAの石浦とも、情報交換に余念がない。

気持ちはひとつになっているのだろうか?

 TOYOTA GAZOO Racingのフロントも気持ちは一緒。だから頻繁に食事会を開いたり、伊勢神宮に観光バスで参拝に行ったり企画してくれた。遠足気分だったけど、その遠足気分の中に一体感が芽生えるのだと思う。

 僕はみんなとLINEでコミュニティを仕立ててつながることにした。だってメカさんたちは3月からずっとレース本番が終るまでドイツで合宿生活だ。僕らドライバーはレースのたびに渡独する。ドイツと日本の間には12時間の距離がある。だから日曜日に食事をするなんてことは不可能。その点、国境のないLINEは都合が良かった。

 みんなの名前も覚えたよ。個性も考え方もなんとなくわかってきた。心ひとつになれていれば嬉しいね。

 LINEを通じて、僕も思いを伝えたつもりだ。

 VLN2での僕はちょっとしたミスをした。でもそれも、正直に語ったよ。謝った。大切なマシンを傷つけたこと、ちゃんと謝ったつもり。

 コース上のドライバーとチーム監督がつながる無線システムも、みんなに公開することにした。コース上で何が起っていて、ドライバーはどんな気持ちでいるかを知ってもらいたかったからね。そうすることで、メカさんたちも先手先手で自発的に動けるようになる。チームメカに指示されて初めて、指示されたことだけをするんではなくて、自分の考えで迅速な行動をしてもらいたかったからね。

 僕の無線、良くしゃべるって言われているのは、別におしゃべりだからってことではなく、コース上で起ったことを逐一伝えたかったからなんだ。しゃべりすぎって笑っていたヤツもいたけれどね。笑われてもいいけどね。

 これから羽田を発ってドイツに向かう。ドイツに着いてメカさんの元に顔を出す。その時の表情は、不安半分、期待半分。いい表情をしていたら、レースは成功したようなものだね。

 ちなみに、彼らと気持ちをひとつにするために、僕はお土産を持っていくことにした。夜逃げに間違われそうに荷物がかさばったのは、それが理由。旅行ケースの中にビッシリと…。

 お土産はなにって?

 スタートの直前に配るつもりだから、いまは内緒にしておく。レース後のレポートで紹介するよ。

 では…。

 応援、お願いします。

  • ピットで走行開始を待つ。僕のヘルメットをルーフに、最後まで確認作業は続く。
    ピットで走行開始を待つ。僕のヘルメットをルーフに、最後まで確認作業は続く。
  • 「LINEにメンバーの写真を送ってね」って送信したら、こんな囚人みたいな写真を送ってきやがった!(笑)。
    「LINEにメンバーの写真を送ってね」って送信したら、こんな囚人みたいな写真を送ってきやがった!(笑)。

キノシタの近況

キノシタの近況写真

ニュルブルクリンク24時間渡独直前が僕の誕生日。例年だと現地で祝ってくれるのだけれど、今年はタイミング的に日本でのパーティになった。F4を戦う後輩の佐藤駿介からは、かつて僕が走らせたスカイラインGT-Rのレアものレジントップをプレゼントにいただいた。ゼッケンがいかしているよね。僕が初めてニュルに挑戦したのがR32型スカイラインGT-Rだった。あれから25年目の今年を祝ってくれたよ。ありがとう。

木下 隆之 ⁄ レーシングドライバー

木下 隆之 / レーシングドライバー

1983年レース活動開始。全日本ツーリングカー選手権(スカイラインGT-Rほか)、全日本F3選手権、スーパーGT(GT500スープラほか)で優勝多数。スーパー耐久では最多勝記録更新中。海外レースにも参戦経験が豊富で、スパフランコルシャン、シャモニー、1992年から参戦を開始したニュルブルクリンク24時間レースでは、日本人として最多出場、最高位(総合5位)を記録。 一方で、数々の雑誌に寄稿。連載コラムなど多数。ヒューマニズム溢れる独特の文体が好評だ。代表作に、短編小説「ジェイズな奴ら」、ビジネス書「豊田章男の人間力」。テレビや講演会出演も積極的に活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本ボート・オブ・ザ・イヤー選考委員。「第一回ジュノンボーイグランプリ(ウソ)」

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