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スーパーフォーミュラ 2015年 第6戦 SUGO エンジニアレポート

ピットアウトするアンドレ・ロッテラー

コースの特性を考え、パーシャルのコントロールも配慮
最終戦鈴鹿は、4人が好バトルできるようミスなく臨みたい トヨタ自動車株式会社 東富士研究所
モータースポーツユニット開発部 関 貴光エンジニア

毎戦のように好バトルが繰り広げられている2015年のスーパーフォーミュラ。10月17、18日にはスポーツランドSUGOでシリーズ第6戦が行われました。アンドレ・ロッテラー選手がポールポジションからスタート。その直後に一度はトップの座を奪われたもののレース序盤に抜き返すと、その後は圧倒的な速さを見せつて開幕戦以来となる今季2勝目を獲得しました。この勝利で、トヨタエンジンとしても昨年の最終戦から7大会/8レース連続へと連勝記録を伸ばしています。今回もトヨタエンジンの開発・調整を通じて彼らの活躍を支える東富士研究所の関貴光エンジニアに、第6戦スポーツランドSUGOの戦いを振り返っていただきました。

結果としてはロッテラー選手の圧勝に終わったが
やはりパワーも燃費もライバルと大差はなかった

トヨタ自動車株式会社 東富士研究所 モータースポーツユニット開発部 関 貴光エンジニア
トヨタ自動車株式会社 東富士研究所
モータースポーツユニット開発部 関 貴光エンジニア
 スーパーフォーミュラでは、トヨタエンジンを搭載するドライバー、チームを応援していただき、ありがとうございます。トヨタのスーパーフォーミュラ用エンジン"RI4A"の開発を担当する東富士研究所の関です。スポーツランドSUGOで行われた第6戦を、技術的な立場から振り返ってみたいと思います。

 今日は、アンドレ・ロッテラー選手の圧勝になりました。一方、ここ最近はトヨタエンジンのユーザーが上位を独占する傾向が続いていましたが、今回は走り始めの段階からTEAM 無限さん(No.16 山本尚貴選手)とかDOCOMO TEAM DONDELION RACINGさん(No.40 野尻智紀選手)、あとDRAGO CORSEさん(No.34 小暮卓史選手)などホンダ勢が速かった印象があります。
 元々ホンダ勢は、前回のオートポリス、今回のスポーツランドSUGOを得意としていたようでしたから、そのことだけで今回、エンジンに関する勢力図が大きく塗り替えられたとは思っていません。基本的にエンジン自体のポテンシャルに大きな違いがある訳ではない、と私たちは分析していますし、「(これまでの結果は)我々はラッキーだった」とも思っています。そして、ホンダ勢が(結果的に)上位に来ないのはチームの戦略的な部分も含めて、レース展開など他の要因で予想外に遅れてしまうからだろう、と思っていました。
 開幕戦からずっと思ってきましたが、ライバルと比べても、パワーの差はないだろう、と分析しています。ドライバビリティに関しては、クルマのセットアップを進めて行くためにドライバビリティを高めて行く、という考え方でやってきています。したがって、クルマのセットアップが進んでいれば、ドライバビリティも高いだろうな、と考えているので、やはりそれほどの差はないと思っています。
 あと燃費ですか。これも単純に評価するのは難しいですね。クルマのセッティングによって(空気抵抗が違えば)燃費も変わってくる。だから評価としては、(ライバルと)あまり差がないのじゃないか? そう分析するしかないですね。

チームで違ったピットインのタイミング
燃費だけでなくタイヤの事情も関係している

ルーティンのピットインを最後まで引っ張った中山雄一選手
ルーティンのピットインを最後まで引っ張った中山雄一選手
 今回、トヨタ勢では中山雄一選手がルーティンのピットインを最後まで引っ張っていて、あれは無給油でレースを走りきる作戦ではと推測される方がいましたが、そうではありません。確かに、レースを無給油で走りきることは不可能ではありません。エンジンを調整して燃費重視ににシフト(※1)していくと、途中でガソリンを補給することなくレースを走りきることができます。
 ただし、無給油で走りきろうとすると、ラップタイムの落ち幅が大き過ぎるので、それは決して納得できる作戦とはならないのです。タイムの落ち幅ですか? クルマのセッティングによっても違うし、もちろんサーキットによっても違うから一概には言えませんが、今回のSUGOで言うなら約2秒前後、といったところでしょうか。1周2秒として68周...2周も周回遅れになってしまいますよね。だから技術的には可能でも、各チームは(無給油で走りきる作戦は)決して選ばないと思います。中山選手も、できるだけ引っ張って、最後にスプラッシュ&ゴー(※2)で行こうという作戦だったのだと思います。
 ホンダ勢ではTEAM 無限さんのピット作業が速くて「あれは相当に燃費が良いのでは?」との声も聞かれましたが、確かにピットインしてからリグ(※3)を挿すまで、そしてリグを抜いてからピットアウトしていくまではとても速かった。ドライバーだけでなく、チームの作業が素晴らしかったと思いました。ただしリグを挿している時間は、短いとは思いましたが想定の範囲内で、ピット作業全体が速かったから、燃費が良いのでは、という分析/評価にはなっていませんでした。
 中山選手がルーティンのピットインを引っ張ったことに関しては、燃料(燃費)だけでなくタイヤの影響も見逃せないと思います。スタート時の燃料搭載量や序盤のタイムなど、正確にはまだ分析できていませんが、一般論で言うなら現在では、タイヤのライフが長くなってきていて、タイヤがタレるよりもフューエル・エフェクト(※4)というもので、クルマが軽くなった分だけ終盤に速くなるんです。だから燃料補給のみ、タイヤは無交換で走りきる作戦を執るチームが増えてきているのだと思います。

※1「燃費方向にシフト」 一般的にエンジンは、燃料を濃く(リッチ)していくと燃費は悪くなりますがパワーが出て、反対に薄く(リーン)していくとパワーは抑えられますが燃費が良くなります。
※2「スプラッシュ&ゴー」 ルーティンのピットインを遅らせ、最後の最後、ガス欠寸前でピットインして燃料補給。残り周回数を走りきるのに必要なだけの少量のガソリンを補給し、そのままピットアウトしていく作戦のことです。
※3「リグ」 スーパーフォーミュラでは燃料補給に、給油口に差し込むだけで燃料が出て、抜くと止まる補給装置を使用しています。そのクルマの給油口に差し込む部分を"リグ"と呼んでいます。瞬時に確実に差し込み、燃料を漏らすことなく終えるもメカニックの技量であし、しかも素早い作業がピットタイムの短縮に繋がります。
※4「フューエル・エフェクト」 直訳すると"燃料効果"となりますが、レース進行とともに搭載した燃料が減ってクルマの全体の重量が軽くなることで、結果的にラップタイムが上がりやすくなることをこう呼びます。

目指しているドライバビリティが圧勝に貢献
最終戦では速さの証、ポールポジションを狙う

自然吸気のようなドライバビリティを目指してきたのが、ロッテラー選手の圧勝に繋がったと感じています
自然吸気のようなドライバビリティを目指してきたのが、
ロッテラー選手の圧勝に繋がったと感じています
 今回のスポーツランドSUGOと前回のオートポリスはコースのキャラクターも比較的似ているので、エンジンの仕様としても大きな違いはありません。ただ一つ、オートポリスでは(アクセルペダルを)踏み直す箇所はないのですが、SUGOではSPコーナーで踏み直しています。どういうことかと言うと、SPコーナーの1個目などではアクセル(ペダル)を踏んでいて、一度パーシャル(※5)に戻して、また踏み直して(フルスロットルにして)行く。つまりアクセルのオンオフだけでなくパーシャルにコントロールするところが多くて、その適合を進めてきました。

 もちろんパワー(正確にはトルク)の出方はドライバーの好みも影響していて、それを幾つかのモードで選択できるようにしていますが、その大元のところで特性を調整してきました。例えて言うなら自然吸気のようなドライバビリティ(※6)を目指してきましたが、それがロッテラー選手の圧勝に繋がったのだと、今はホッとしています。

最終戦鈴鹿は、4人が好バトルできるようミスなく臨みたい
最終戦鈴鹿は、4人が好バトルできるようミスなく臨みたい
 次回は最終戦の鈴鹿です。今回の結果からドライバーズランキングで1、2位の石浦宏明選手と中嶋一貴選手はポジションを変わらず。ロッテラー選手は3番手に進出し、ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ選手がロッテラー選手と同ポイントのシリーズ4位で続いています。最終戦を残した段階で、チャンピオンの権利を残しているのはこの4人に絞られ、チーム部門では中嶋選手とロッテラー選手を擁するPETRONAS TEAM TOM'Sのシリーズ3連覇が決定しています。
 つまりTOYOTA GAZOO Racing勢がドライバーズタイトルとチームタイトルの両方を獲得することは決定しています。でも、4人のドライバーには鈴鹿で素晴らしいチャンピオン争い、バトルを演じてほしいです。そのためにも、我々の目標としてはミスなく、トラブルなく、公平に各ドライバーをサポートしていきたい、と思っています。
 鈴鹿サーキットはドライバビリティが重要なサーキットなので、これまでの方向性を、さらに追求していきたいと思います。ただし、2レース制となっていて(レース距離が)短いので、あまり大きなアイテム(向上の仕組み)を入れる余地はないかもしれませんが、具体的には2つのポールポジションと2レース連覇。何よりも速さの証明でもあるポールポジションは獲りたいと思っています。
 どういう結果になっても、ファンの皆さんがいいシーズンだったと納得して、喜んでもらえるよう、努力を続けます。皆さんには引き続き、トヨタエンジンのユーザー、TOYOTA GAZOO Racingのドライバーたちへの声援をお願いします。

※5「パーシャル」 直訳すると"中途半端"となりますが、スロットル(アクセル)をオン(全開)とオフ(全閉)でなく、その中間的な位置で留め、加速も減速もない状態にすることです。レースのアクセレーションでは加減速が激しいですが、コーナリング中などスピードを必要以上に落とさないためなどに使われます。
※6「自然吸気のような」 ターボエンジンはその仕組みから、ドライバーのアクセル操作から出力変化が起こるまでわずかに時間が掛かります。これに対し、ターボや過給器のない自然吸気エンジンは、その時間がほとんどなくドライバーのアクセル感覚にほぼ比例します。なので、ターボでもドライバーが理想とするドライバビリティ、自然吸気のようなフィーリングに近づけるような改良が研究・開発されています。