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スーパーフォーミュラ 2015年 第7戦(最終戦)鈴鹿 エンジニアレポート

ピット作業をするP.MU/CERUMO・INGING 38号車

RI4Aを使用する石浦宏明選手がチャンピオンを獲得!
最終戦のレース1は勝利するも、レース2は悔しい結果に トヨタ自動車株式会社 東富士研究所
モータースポーツユニット開発部 関 貴光エンジニア

4月に鈴鹿で開幕し、全国6つのサーキットを転戦してきた2015年のスーパーフォーミュラ。11月7〜8日に鈴鹿サーキットではシリーズ総決算となる最終戦が2レース制で行われました。決勝日はあいにくの雨でしたが1万6000人を超えるファンが集まり、今季のチャンピオンが決まる2つのレースを見守りました。レース1ではランキング3位につけていたアンドレ・ロッテラー選手が見事なポール・トゥ・ウインを達成。レース2では4番手グリッドから素晴らしいスタートでジャンプアップした中嶋一貴選手が2位表彰台を獲得しました。またレース1で2位、レース2で4位と上位入賞を果たした石浦宏明選手が、2015年のドライバーズチャンピオンに輝きました。この最終戦鈴鹿サーキットの状況を、トヨタエンジンの開発とサーキットサービスを通じて彼らの活躍を支えてきた東富士研究所の関貴光エンジニアに振り返っていただきました。

最終戦のエンジンは基本的に前戦と同じ仕様
タイトル争いに影響しないよう慎重を期した

トヨタ自動車株式会社 東富士研究所 モータースポーツユニット開発部 関 貴光エンジニア
トヨタ自動車株式会社 東富士研究所
モータースポーツユニット開発部 関 貴光エンジニア
 今シーズンのスーパーフォーミュラでは、TOYOTA GAZOO Racingのドライバーたちに熱い応援をしていただき、ありがとうございます。トヨタのスーパーフォーミュラ用エンジン"RI4A"の開発を担当する東富士研究所の関です。鈴鹿サーキットにおいて2レース制で行われたシリーズ最終戦を、技術的な立場から振り返ってみたいと思います。

 レース2でアンドレ・ロッテラー選手がスタートで伸びを欠いたのは、エンジン側のデータからみると、彼が普段と違うスタートのやり方を試したのか、上手くいかなかったようですね。でもレース中に突然ストップしてしまったのは、研究所で詳しく分析する必要がありますが、エンジン側に問題があった可能性がありますね。一方、中嶋一貴選手が土曜日の公式練習からなかなかタイムを詰め切ることができなかった件に関してですが、一貴選手のコメントからは、特にエンジン側に問題があったとは聞いていません。もちろん、エンジンに対するリクエストがまったくない訳ではなく、いつものように「もっとパワーを」とは要求されましたが(苦笑)。
 これまで自分たちは(エンジンの開発に関して)ギリギリのところまで攻めてきました。今回も、それはまったく変わりありませんでした。同時に(トラブルによって)エンジンがドライバーやチームの足を引っ張ることがあってはならない、とも心掛けてきました。今回は特に最終戦で4人のドライバーがタイトルを争っていました。だから普段以上に今回は、エンジンが(トラブルなどで)タイトル争いに影響しないようにと慎重を期しました。
 今回の仕様は、前回のSUGOで投入した仕様とあまり変わっていません。と言うより、最終戦で投入する技術を、ひと足早くSUGOから導入していたんです。ただ、SUGOと鈴鹿ではコースのキャラクターが違うため、SUGOでは一部合わない(サーキットごとに要求される条件(※1)に適合できない)ところもありました。例えば、鈴鹿は(SUGOと比較し)グリップレベルが高いんです。その面では、鈴鹿に合った仕様でした。実際、土曜日の公式練習を走ってみて、鈴鹿では上手く合っていたことが確認できました。

※1「サーキットごとに要求される条件」 基本的にエンジンはハイパワーで高いドライバビリティを持つことが要求されますが、サーキットのキャラクター(高速コースか低速テクニカルコースか、回り込むコーナーが多いか少ないかなど)によって、トルク特性、エンジンのパワーの出し方などが違ってきます。

レース2の山本選手の走りには驚きがあった
パワーでの差はないが、改善の余地も自覚

レース1のポールポジションを獲得したアンドレ・ロッテラー選手
レース1のポールポジションを獲得したアンドレ・ロッテラー選手
 土曜日の公式練習では意外にグリップ感が低かったようです。それでもセッションを重ねていくうちにコースにラバーが乗ってコンディションが上がっていった。それで最終的にはホンダエンジンの山本尚貴選手が1分37秒台に入れてきました。これは正直ビックリしました。ただしこれはエンジンがどうこうではなかった、と分析しています。
 それは最高速においてレベルが違うくらい速かったから、例えばウイングの寝かせ方(※2)だとか、シャシーで何か発見と言うか進化があったのだろうな、と思っています。エンジンだけでは決してあそこまでは行けない。エンジン開発者としては悔しいけれど、そう思っています。でも、そんなセッティングをしたクルマでもちゃんと走れるだけの、例えばドライバビリティを備えるなど(最高速やラップタイムの向上に)エンジンが貢献しているところはあると思っています。もともとホンダエンジンのクルマはセクター1とセクター2が速いイメージがあったのですが、今回の山本選手は、それに加えてセクター3とセクター4も上手くまとめてきていました。これはクルマのセットアップで大きく進化したのだろうと分析していて、それにエンジンも大きく貢献しているのだろうな、と。我々も、そう言ったところではまだまだ改善の余地があると思っています。
 鈴鹿では、開幕戦でもポールポジションを獲られていて、最終戦の今回も、レース1のポールはロッテラー選手が獲ってくれましたが、今大会においてのトップタイムになるレース2のポールポジションを獲られてしまいました。もちろん今年も、鈴鹿でポールポジションが獲れるようがんばって来たのですが......。来シーズンも、その辺りの改善が大きなテーマになりましたね。フォーミュラカーのレースは大半を予選が決めてしまうこともあって、何よりも純粋に速いクルマを決めるのは予選(※3)だ、と思っています。それだけに今回は優勝を逃したことよりも、ポールポジションを獲られたことの方が悔しい。これは我々エンジン開発者だけでなく、車体(シャシーのセットアップ)を担当するチームのエンジニアさんでも同じようです。最近のレースでは、いくら速くても、前を行くクルマは簡単には抜くことができませんから(予選でのスタート位置が重要になる)。

※2「ウイングの寝かせ方」 基本的にウイングは寝かせれば空気抵抗が少なくなってダウンフォースが減ります。起こすとダウンフォースが増え、空気抵抗は大きくなります。エンジンのパワーがあれば、ウイングの角度が同じでもライバルより直線スピードが上回ります。今回はそうではなく、寝かせてスピードを出した。ただし、寝かせればダウンフォースが減った分、扱いにくいクルマになってしまいます。そこを山本選手ががんばったか、車体側の手法で安定させた、と考えられます。
※3「速いクルマを決めるのは予選」 予選にも作戦はありますが、基本的には単純な速さ、ラップタイムの競争です。一方、決勝ではスターティンググリッドの良し悪しやタイヤ交換の成功失敗、燃料搭載量、天候の変化など、運の要素やレース戦略によって結果が左右されます。このため、予選の方がクルマの優劣が出やすいと考えられます。一般的には 予選では"速さ"を、決勝では"強さ"を競うとも言われます。

よりドライバビリティを高めた2シーズン目のRI4A
来季は新体制に移行し、さらに進化をさせていく

ドライバーズチャンピオンに輝いた石浦宏明選手とチームスタッフ
ドライバーズチャンピオンに輝いた石浦宏明選手とチームスタッフ
 2シーズンを戦ってきて、我々のエンジン"RI4A"は最初から狙っていたコンセプト通りに仕上がって来たな、と思います。デビューシーズンとなった去年から、エンジンも"SF14"というパッケージで求められたライト(軽い)&クイック(素早い)を達成し、さらにエンジンとしてはパワフルでした。
 2シーズン目となった今年は、去年の特性に加えてドライバビリティの追求、つまり扱い易さを改善して行きました。これはホンダさんも同じだったと思いますが、そんな中で2年連続して良い結果を残すことができました。でも我々もドライバーと同じで"これで納得"しては止まってしまうわけで、やはり満足することはないですね。『もっと先へ、もっと高く...』。常にこう思い続けてエンジンを進化させてきたつもりですし、これからも変わらないですね。
 来シーズンに向けては、レギュレーションにおいては大きく変わるところがないので、進化・改善の方向性としては今年の方向をキープしたまま"正常進化させる"、それを目指していくことになると思います。
 ただし開発の体制は大きく変わります。これまでは開発からサーキットサービスまで、すべて東富士研究所で担当してきましたが、来シーズンはそのすべてをTRD(トヨタテクノクラフト株式会社 TRD)に移管することになっています。
 我々がエンジンを担当する最後のレースでライバルである山本選手にポール・トゥ・ウインを許してしまったのは、ちょっと悔しいのですが(苦笑)、でも2年連続してドライバーズタイトルとチームタイトルを手に入れることができました。応援していただいたファンの皆さまの、期待に応えることができて良かったです。
 本当にシーズンを通じて、TOYOTA GAZOO Racingのドライバー、チームへの、そしてトヨタのエンジンへのご声援、ありがとうございました。励みになりました。トヨタとしては、今後も皆さまの期待に応えられるよう、レーシングカーも含め"いいクルマづくり"に努力してまいります。