ニュルブルクリンクへの挑戦 2007
ニュルについて

2014.03.24 ニュルブルクリンクへの挑戦2007

世界一の草レース「ニュルブルクリンク24時間レース」

『世界三大珍味』は、ご存じキャビア、フォアグラ、トリュフ。では『世界三大レース』とは? ・・・・・・そう、F1モナコGP、インディ500、ル・マン24時間レース。これらは世界的に知名度が高く、多くのファンが注目している。そして、この中で最も走行時間が長いのは? ル・マン24時間レースである。現在、世界で開催されている24時間レースのビッグイベントは、ル・マン24時間レース(フランス)、スパ24時間レース(ベルギー)、ニュルブルクリンク24時間レース(ドイツ)の3つ。
国内では、北海道の十勝で24時間レースが開催されているが、日本のモータースポーツ黎明期(1960年代後半)には、富士スピードウェイでも24時間レースが開催され、67年の大会では、名車トヨタ2000GTが総合優勝を飾っている。さて、24時間レースはレース前の準備やゴール後の片づけなどを入れると30時間は起き続けることになる。体力的に非常に辛いレースである。ドライバーは交替して運転するので仮眠をとることも出来るが、近年は休憩中に栄養補給のために点滴を打ったり、スポーツマッサージを受けたり、ドライバーのポテンシャルを最大限に引き出す工夫が取り入れられている。24時間レースはマシンに高い性能と耐久性が求められるが、人間にとってもそれは同じ。まさに体力勝負の戦いなのである。
マシンにとってはさらに過酷とも言える。ドライバーとは違い、ピットに戻っての給油やタイヤ交換時以外は常にサーキットを走り続ける。エンジン、トランスミッション、ブレーキ、タイヤ・・・・・・その負担はすさまじい。自動車メーカーや部品メーカーが開発の一環として24時間レースをとらえ、“走る実験室”として参加の意義を見出している所以である。

“聖地”ニュルに根付く、過酷さと温かみ

ドイツのニュルブルクリンク24時間レースは、全長20.8kmの北コース(=ノルドシュライフェ)が舞台。ニュルブルクリンクといえば、自動車メーカーがスポーツモデルの開発車両などをテスト走行する“聖地”として知られ、世界に名だたる数々のスポーツカーがそのポテンシャルを磨いてきた。近い将来デビューするトヨタの次世代スポーツカーも、ここで最終段階のテストが実施されるに違いない。
山間部に位置するために起伏に富み、コース幅は狭く、路面には凸凹もあってお世辞にもコンディションが良いとは言えない。さらに、先の見通せないブラインドコーナーが多く、ドライバーには卓越したテクニックはもちろんのこと強靭な精神力が要求される。一周のラップタイムは市販車の場合9分~10分。これでも充分すぎるほど速いのだが、8分台に突入するとスポーツ性が高いマシンとして評価される。レーシングカーでは6分台というレコードタイムが記録されている。その速さがどれほどのものか、想像するだけで身震いをおぼえる。
昨今のエントリーは200台を超え、DTM(ドイツツーリングカー選手権)顔負けのモンスターマシンやGTマシンといった本格的なレーシングカーを筆頭に、レース参戦用に安全装備を取り付けただけというレベルのマシンが混在。それらを見ているだけでも楽しく、観客は20万人を数える。

ニュルブルクリンク24時間レースは“偉大なる草レース”と言われている。参戦条件が比較的緩く、国際ライセンスとルールに沿ったマシン、情熱があれば、基本的には誰にでも参戦するチャンスが与えられる。トップランナーのレベルは高いが、各国のトップドライバーと一緒にアマチュアも奮闘することができるのもニュルブルクリンク24時間レースの魅力。
観客はキャンピングカーやワゴンでサーキットにやって来て、キャンプやバーベキューなど思い思いのスタイルで24時間を楽しむ。コースサイドでレースの運営を支えるオフィシャルスタッフが親子2代にわたって活躍するなど、それぞれが愛着を持って24時間レースに参加する。あるドライバーは「焼き肉の香りがするコーナーで眠気が覚めた」、「毎年、同じコーナーで同じファミリーが振ってくれる国旗が励み」と語る。ファンがドライバーを支え、ドライバーがファンにこたえ、地元のオフィシャルがレースを盛り立てる、好循環の地域密着型イベントである。
「箱根駅伝」や先日開催された「東京マラソン」のレース版と言っても過言ではない、人の心を打つ過酷さと温かみがそこにある。

夜を徹して疾走するマシン。ギャラリーは、キャンピングカーやテントから、夜を徹して楽しむ。

一丸となって戦うチームスタッフに支えられてこそ、ドライバーもマシンも輝くことが出来る。

スタート前のピットロードは、国際モーターショーさながら。これぞ百花鏡乱。

米国のマッスルカーが、英国のスモールカーを優しく抜き去っていく。

2005年にはトヨタ・ハリアーハイブリッド(レクサスRX400h)が参戦。ハイブリッド車として初めての24時間レース参戦で話題を呼んだ。耐久レースも確実に新時代へと向かっている。

ニュルブルクリンクの楽しみ方

ニュルブルクリンクでのレース観戦の楽しみ方

240台ものクルマが順番にスタートするのですから、最初はまずグランドスタンドで見物。それからコース沿いのあちこちで、通過するクルマを眺めることになります。ほとんど全域が深い森に囲まれたニュルブルクリンクでは、ちょっと見通しのいい木立の間から金網に張りついて眺めるのが普通。そんな場所を探しながら歩くのは、ちょっとしたトレッキングみたいなので、歩きやすい靴も必要です。夜は9時ごろまで新聞が読めるほど明るいけれど、高原だけに深夜や明け方はとても冷え込みます。濃霧が出ることもあれば雨の心配もあるので、雨具も忘れないこと。
それにしても24時間レースは長丁場。とても全部ずっと見ているわけには行きません。しばらく応援したら、クルマでサーキット周辺の風景を楽しみに行くのもいいでしょう。アデナウやマイエンといった地元の小さな村でコーヒーを楽しんだり、近在の古いお城を見物したり、普通の名所巡りとは違う楽しみもあります。ドイツ名物のホワイトアスパラガスも、まだシーズンは終わっていません。また敷地内のサーキットホテルや小さな博物館では、レースの歴史の香りが漂うグッズの売店もあります。
そんな24時間レース観戦、もし予算に余裕があったら、ぜひとも薦めたいのがキャンピングカー。ちゃんと専用の駐車スペースもあって、地元のファンは3日も4日も前から滞在して盛り上がっています。森の中にはソーセージを焼く美味しそうな煙が漂っていたり、とても羨ましいバカンスです。
もちろんレンタルのキャンピングカーもありますから、途中のスーパーマーケットで食料を買い込んで、ゆったりヨーロッパ式の夏休み気分など、味わってみたいものです。ドイツですからビールも忘れずに。そんな時は大きな横断幕も作って、日本から挑戦しているチームやドライバーにも声援を送りましょう。戦うコクピットからも、応援の旗などはしっかり確認できて、とても嬉しいそうです。

熊倉 重春
熊倉 重春
1946年(昭和21年)、東京生まれ。現在60歳。
クルマ大好き少年がそのまま育ってしまい、1970年に自動車雑誌カーグラフィックに入り、1995年まで在籍。
その後フリーランスのライターとして現在に至る