ニュルブルクリンクへの挑戦 2007
インタビュー

2014.03.18 ニュルブルクリンクへの挑戦2007

すでにGAZOO RacingのBBSなどでご存知のように、Team GAZOOのドライバーおよびメカニックのみなさんは、5月21日に日本を旅立ち、レースが開催されるドイツに入国しました。そんな出国前のメンバーを編集部が直撃インタビュー。ニュルにかける想いについてお聞きしました。

出演者

監督ボス
監督ボス
(サポートスタッフ)
キャップ
キャップ
(ドライバー)
ギッチー
ギッチー
(ドライバー)
E2ゥ~
E2ゥ~
(メカニック)
かなぶん
かなぶん
(チームマネジャー)
司会:編集部
日時:2007年5月18日(金)
場所:某自動車メーカーの会議室

評価ドライバーって何?

編集部:今日は出発前のお忙しいところお集まりいただきましてありがとうございます。いろいろとお聞きしたいことはたくさんあるのですが、なにぶん、レース終了までは秘密のことが多いんですよね。

監督ボス:みなさんには「いったい誰なんだろう?」と想像を膨らませていただき、それも合わせて楽しんでいただければと思います。

編集部:とはいえ、岡山チャレンジカップの記事とか、BBSの書き込みをみてみると、ドライバーやメカニックの皆さんが某自動車メーカーの評価ドライバーの仕事をされていることは判明しているようですが……。

監督ボス:そうですね。あくまで某自動車メーカーのね(笑)

編集部:わかりました。では、某自動車メーカーのみなさんにお聞きしたいのですが、評価ドライバーとレーシングドライバーというのはどう違うのですか?

キャップ:同じドライバーでもぜんぜん違うものです。評価ドライバーの仕事は、簡単に説明すれば、開発中の車に乗って、自分の感性でその性能を確認し、開発にフィードバックしていく仕事です。そのために、時速40キロくらいでちょろちょろ走ることからレーシングドライバーのような走りまで、老若男女のいろいろな人の走りを再現することができないといけない。一方、レーシングドライバーはとにかく速く走ることが求められていて、それに徹する仕事です。こんな顔をしていますが、評価ドライバーっていうのはとても繊細なんです(笑)

編集部:いわゆるテストドライバーとは違うのですか?

キャップ:ちょっと違います。テストドライバーというのは性能を数値で計測するために車を走らす仕事です。決められたスピードや条件で走らすことが求められます。一方、評価ドライバーというのは、車に乗ってみて、その走りや操作性を評価し、そして、車に味付けをする仕事です。ですから、私たち評価ドライバーには、むしろ数値には出ないところ、機械で計測できないところを自分の研ぎ澄まされた感性で読み取り、それを言葉にして表現することが求められます。車は家電製品などとは違い、人間が運転するものですから、乗り心地など数値では表せないことがたくさんあるのです。

編集部:いわゆる、ドライビングプレジャーってやつもその一つですね。いってみれば、車のソムリエみたいなものですか?

キャップ:私たちのチームが目指しているのはソムリエというより、ドクター(医者)です。患者である車を診察して、症状を確認し、適切な治療を施すドライブ・ドクターになることが私たちの目標です。もちろん、やぶ医者じゃあダメです(笑)、腕利きの町医者にならないとね。ですから、私たちは「運転ができる」ことはもちろん、「現象がわかる」、それを「言葉で説明できる」、さらには、それを改良するために「モノが作れる」ことが必要なんです。

人材育成の集大成

編集部:では、そんな評価ドライバー(ドライブ・ドクター)のみなさんが今回、なぜ、ニュルの24時間耐久レースに挑戦するのですか?

キャップ:私が社内で評価ドライバーの育成を開始したのは40歳の時ですから、もう4半世紀も前のことです。今回、ニュルに出場するドライバーやメカニックはみんなそうした教え子たちです。彼らには日常の業務や訓練の中で、評価ドライバーとして必要なことはすべて教えてきました。そして、それがレースという特別な環境でもそれが発揮できるようになる。それが今回、ニュルに参戦する目的です。

編集部:ニュルのレースが卒業検定のようなものなんですね。

キャップ:ニュルの本戦では200台以上の車が走ります。その中にあって、ドライバーは冷静に自分の走りをすることができるかどうか? 確実に、万全の状態で次のドライバーにバトンタッチすることができるかどうか? もちろんレースですから、それでもマシンの性能をぎりぎりのところまで引きだして走らなければいけないのですが、壊すまでやってはいけない。レーシングドライバーは100分の1秒を争っているわけですから、とことんまでいっちゃっていいわけですが、評価ドライバーのレースはそれではいけない。壊れる寸前で止める。ガードレールにぶつかる寸前まで攻めるけど、寸前で止める。スピンする寸前で止める。それが評価ドライバーのレースです。

編集部:今回、メカニックを担当するのも評価ドライバーのみなさんですよね。

キャップ:はい。評価ドライバーは、走ることではなく、車を作るのが仕事ですから、全員、メカニックに必要な知識と技術を持っています。普段、会社では決められた時間の中で確実な作業をしています。しかし、レースは何が起こるかわかりません。緊急ピットインもあるでしょう。その雰囲気の中で、メカニックは普段、会社でやっているような作業がケガをすることなく安全・確実にできるのかが試されるわけです。もちろん、かすり傷ひとつしてはいけない。ニュルは長年取り組んできた評価ドライバーの人材育成の集大成なのです。

ギッチー:私はキャップのもとで、もう20年くらい教えてもらっています。スムーズに走る、セルフコントロールすることなど、キャップからは、私たちの習得状況に応じて段階的に、長い時間をかけていろいろなことを教わってきました。それらをすべて、レースという短期間で出しきれるのか?本番ではゆっくり考えて思いだしている余裕はありません。キャップのいまのお話は「いままでいっぱい習ってきたはずだから、それを引き出しからすぐにとりだして使えるように準備しておけよ!」といわれているのだと理解しています。

E2ゥ~:僕はキャップのところでお世話になるようになって、10年ちょっとになります。いま、40歳ですが、評価ドライバーの世界ではまだまだヒヨコといわれています(笑)。岡山のレースで、初めてメカニックとしてレースに参加しました。日常の業務の中で、車の整備や異常を察知して改良することにはなれているつもりでしたが、いざ、レースとなると、焦りましたね。実際に、岡山では整備的なことでミスはなかったのですが、最後に燃費計算を間違えてしまい、2時間耐久レースでキャップの車がゴール後にピットに戻ってこれなかった。しっかりやっていたつもりだったのに、基本的なところでいきなりつまづいてしまった。猛反省です。レースの後、メカニック全員でミーティングを行い、本番に向けて、同じようなミスをしないように再確認しました。

編集部:なるほど、よくわかりました。レースが人を育てるわけですね。

キャップ:そうです。レースが人を育て、車を作るのです。欧州の車はみんなそうやって作られている。日本の自動車メーカーも魅力ある車を作るためにはおおいにそれを見習わなくてはいけない。

ニュルのスタートラインに立つ時が来た

編集部:いよいよ来週にはドイツ入りをされるわけですが、いまの心境をお聞かせください。

ギッチー:レース本番という先のことの不安より、いまは、目の前のことで精一杯の状態です。目の前にあることを一つ一つ確実にこなしていくだけです。それを積み重ねていけば、自ずとゴールできると確信しています。これまでもいくつかの国内レースを走らさせてもらい、それを経験として積み上げてきました。ローリングスタートなんて知らなかったけど、岡山で経験して、どういうものかわかった。こうした経験によって、不安が一つ一つ解消されていきます。4月のニュルでの練習走行では、車によってものすごく速度差がある中で走行するという経験をしました。これもとてもいい経験でした。いままで、「きっと、こうだろう」と予測していたことが、経験によって、自分の中で、“事実”になってきています。とはいえ、まだ、見えていないことがたくさんあります。本番までにこれをどれだけ埋められるのかが大切だと思っています。

E2ゥ~:僕はヨーロッパにいるとき、1回、ヤリス(国内ではヴィッツ)ワンメークの草レースに出場したことがあります。向こうではモータースポーツの人気がすごく高い。それこそ、ニュルといえば、世界最高峰の草レース。ものすごく多くの人たちが観戦に集まってきますから、その雰囲気に飲まれないようにしないといけない。とくに、メカニックとしてドライバーの命を預かっている立場ですから、なおさら気持ちを引き締めなければいけないと思っています。

かなぶん:私の会社での仕事は評価ドライバーではなく、エンジニアですから、運転については全くの素人です。いまは、チームマネジャーとして、とにかく全員が安全に完走できることを祈っています。運転については、みなさん十分に技術をお持ちですから心配はしていません。むしろ、心配なのはアクシデント。夜中も走るわけですから、何が起こるかわからない。それから、なにぶん、初めての経験でさらに海外のレースですから、書類や手続きの不備で失格とならないように、サポートスタッフのみんなが気を引き締めて取り組んでいます。

キャップ:レースは何が起こるかわからないからこそ、事前に予測することが大事なんです。予測しておけば、準備ができ、いざというときに対応できる。レース中も、ドライバーは相手のドライバーがどんな走りをするのか、もしかしたら、ここでスピンするかもしれないと観察して、予測しておく。また、自分の車についても、状況をつねに確認して、タイヤがやばいのではないかとか、エンジンは大丈夫かと、すべての部品に対して注意を払い、万一のことを予測しておく。だからこそ、ぎりぎりの走りが可能になるわけです。ピットにいるメカニックやスタッフも同様ですね。レースは評価ドライバーにとって、最高の修練の場になります。

監督ボス:私はこのプロジェクトに参加して3年になります。それこそ、キャップたちの中ではもう10年以上前から、ニュルに参戦する構想はあったわけですが、ここまで来るのに、何回も「もうダメだ!」と思いました。なぜならこのプロジェクトは前例がなく、これまで担当してやる部署や人はいなかったわけです。「そんなこと、やったことがないよ!」ということが毎日のように降ってくる。ほんとうに、ここまでみんなの力でよくやってこれたと思っています。実際に、それはいまも続いていますし、きっとレースが終わるまでその連続だと覚悟しています。

キャップ:私たちの長年の夢だったニュル参戦が実現できたのは、かなぶんさんや監督ボスたちが社内を駆け回って、本当に粘り強く調整していただけたからこそと感謝しています。私たちはそれに結果で報いなければいけない。

かなぶん:まさか社員がレースに参戦するなんて、正直なところ最初は、できるとは思っていなかった。そして、普通の人では経験できないことをやらせてもらった。いまは、それがなによりもうれしいし、感謝しています。

編集部:そんな大変なことがあったとは知りませんでした。皆さんの強い思いがあったからこそ、実現できたのでしょうね。じゃないと、普通なら自然消滅するところですよね。

キャップ:みんなに熱い想いがあった。一人だけの想いでは実現はできません。

監督ボス:自然と社内からそういう想いを持った人が集まってきて、輪ができたのだと思います。

いよいよ夢が実現する

編集部:最後に本番に向けての抱負をお聞かせください。

ギッチー:先ほども申し上げたように、必要な知識や技術はすべて教えてもらっていると思っています。また、ニュルのコースは、評価ドライバーとして、いままで1000ラップ近く走っている。けっして、知らない道を走るわけではありません。あとは、いま見えていないことを予測して、それを少しずつ埋めていく。その延長線上に完走があり、そして、感動があると思っています。本番では、車と上手くつきあっていくことが大事。たとえば、何か変な音がして、これはやばいな?と感じて、ピットに戻ったら、ホイルナットが飛んでいた。それを事前に予測して対処できたとしたら、評価ドライバーとしてきっと感動すると思います。もちろん、壊れないに越したことはありませんけど、何も起らないのもね……(笑)

E2ゥ~:僕たちはステアリングこそ握りませんが、外から車の音を聞いたり、外観の状態から車の状況は判断できるし、ドライバーに対してアドバイスしたり、対話して、いっしょに走ることができます。メカニックとして、チームの一員として、最大限のサポートをしていきたい。また、ニュルには若いメンバーも連れていきます。彼らにとっても、とてもいい経験になると思います。

かなぶん:きっと、スタートラインに立った車を見るだけで、私は感動で胸が一杯になると思います。そして、本当に完走を果たして、無事、日本に帰ってこれたら、何よりもうれしい。応援していただいているみなさんにもそんな背景や私たちの想いを知っていただき、一緒に感動を分かち合えたら最高だと思います。

監督ボス:私はもう育成されるような年齢じゃあないかもしれませんが(笑)、やったことのないチーム運営という仕事を経験し、何度も「もうダメだ!」を乗り越えてきて、すごく育成されたような気がします。自分で考え、自分で対処していく。それが自信になり、経験知もできる。これが仕事や育成の本質だと今回、体験してみて感じました。ぜひ、最後に、いいカタチで終わりたいと思っています。

キャップ:多くの人たちが苦労して用意してくれた最高の舞台。そして、私たちの長年の夢が実現する。それだけに完走を果たしたら、歓びはひとしおだと思います。たとえ、リタイアになっても、悔いの残らないカタチで終わりたい。ドライバーが自分勝手に突っ込んでいって、車を壊してリタイアするようなことがあってはいけない。それでは、何のためにやって来たのかわからない。車が壊れるのは仕方ない。でも、絶対に壊してはいけないし、壊れないように運転しなければいけない。メカニックも然り。燃費計算もしっかりやってほしい(笑) みんな苦労した分、きっと最後は抱きあって歓びを分かち合えると信じています。

編集部:みなさんの想いや背負っているものがよく理解できました。応援する私たちとしても、単純に「順位が何位だった」とか「完走できてよかった」といったこと以上に、関心をもってレースを見守ることができ、きっと一緒に感動できると思います。多くのGAZOO会員がみなさんの健闘をお祈りしています。その気持ちも一緒にドイツに持っていって、ぜひ、完走を果たしてください。本日はありがとうございました。