木下隆之連載コラム クルマ・スキ・トモニ 122LAP

2014.06.10 コラム

最後は神頼み!

すべては神の思し召しだから…

 こんな危険で不安定な職業をしていると、とどのつまりそれは自分の実力などはあまり関係なく、神様の思し召しなのではないかと思うことがある。

 努力はしてきたつもりだ。ささやかながら才能と呼ばれるものも、あるいは他人よりちょっとは備わっていたのかもしれない。だけど、それだけでここまでこの世界で生きてこられた理由を説明するのには限界がある。

 才能豊かなドライバーは沢山いる。だがチャンスに恵まれずに業界から去ったドライバーは少なくないのに、僕はまだここにいる。

 それは、自分ではコントロールしきれない人との出逢いが根底にある。こうして、僕がライフワークにしているニュルブルクリンク24時間をレクサスLFAで参戦する機会を得たのも、GAZOO  Racingとの偶然の出逢いだったし、その後の僕を支えてくださっているスタッフとの出逢いも偶然に近い。それを運だとか運命だとかという言葉で納得させきれないのだ。たぶん、神様の掌の中でコントロールされているのだ。そう思いたくもなる。

僕らの聖地に願いをこめて…

 だから先日、「2014年のニュルブルクリンク24時間耐久レース」の無事故成功を祈って、伊勢神宮にお参りに行った。

 GAZOO Racingチームの企画だったのだが、あいにくメンバー全員の都合が合わず、影山兄ィと僕と、それからGAZOO RacingのHさんOさんの4名。他のメンバーは後日参拝となった。

雨の参道も趣がある。濡れた石畳を踏みしめて、内宮に向かううちに気持ちが清められていくのがわかる。場合によっては命すら落としかねないニュルブルクリンクで戦うには、最後は神にすべてを委ねることになるのだ。

お伊勢参り…

 伊勢神宮は近代、全国神社の頂点として位置づけられている。天皇陛下や総理大臣も参拝する。天照大神を祀る皇大神宮(内宮)と、衣食住の守り神を祀る豊受大神宮(外宮)からなる。

 「お伊勢参り」の言葉が有名なように、全国から多くの参拝者が集まる。江戸時代には数百万人が全国から徒歩で集まったというから、まさに神道の総本山である。

「式年遷宮」が、およそ20年に一度行われる。これは、内宮と外宮の社殿を造りかえてうつすことだ。その理由は諸説あるものの、建物を綺麗に保つには20年はちょうど都合のいい周期であることだけでなく、宮大工を含めた職人の技術を後世に伝達する意味もある。10代で見習いとして働いたものが20年後に棟梁となりカンナや金槌を振るう。さらに20年後には後見人となる。技術が伝承されるのである。

 立て替えのために使われる1万本のヒノキ材も、伊勢神宮が管理する山から運ばれる。森林管理上も20年というと年月は都合がいいのである。

技術の伝承

 実は伊勢神宮は、我々と無関係ではない。今年僕が乗るレクサスLFAは、式年遷宮に似たコンセプトで生誕した。トヨタには2000GTという名車があり、その20年後にスープラというスポーツカーが誕生した。さらにそれから約20年後にLFAがデビュー。スーパースポーツの技術伝承を託しているのだ、まさに式年遷宮である。

  • この橋を境に、神聖な場所になる。ヒノキ作りのこの橋にも、技術の伝承が宿る。
    この橋を境に、神聖な場所になる。ヒノキ作りのこの橋にも、技術の伝承が宿る。

不浄な自分の体を清めてもらいました

 参拝当日は、雨だった。

 あいにくの雨だとがっかりしていると「雨は体を清めるという意味でいいことなのですよ」と教えられた。

「日頃の不浄を清めてもらおうよ」と笑い合っていると、他のメンバーが集まった後日参拝日も雨だったという。みんな不浄で汚れていると笑ってみたものの、これで清められればなおいい。

 伊勢神宮の参道には、おかげ横町がある。諸説あるものの、無事に物事が進んだことの感謝を「おかげさまで…」になぞらえてまたお参りに来る場所らしい。そこで宿泊をし、食事をし、酒を呑み、感謝を表すのだ。

 ニュルブルクリンク24時間は6月21日。清められた体で挑む。帰国後に全員無事で、おかげ参りすることになればいい。

  • おかげ横町で食事をするのも習わしだ。江戸時代は参拝客が宿泊、遊郭もあったという。全国各地から集まり、時には羽目をはずす人達も多かったらしい。もちろん僕らは大人しく帰りました!(笑)。
    おかげ横町で食事をするのも習わしだ。江戸時代は参拝客が宿泊、遊郭もあったという。全国各地から集まり、時には羽目をはずす人達も多かったらしい。もちろん僕らは大人しく帰りました!(笑)。
  • GAZOO Racingの不浄なベテランでご祈祷をしてきた。当日は恵みの雨。雨はお清めを意味し、幸運だという。木下「兄ぃ、日頃の行いの悪さを清めてくよね(笑)」影山「そっちもねっ(笑)」。気がつけば、他のドライバーが参拝した日も雨だった。みんな汚れてる?(笑) 。
    GAZOO Racingの不浄なベテランでご祈祷をしてきた。当日は恵みの雨。雨はお清めを意味し、幸運だという。木下「兄ぃ、日頃の行いの悪さを清めてくよね(笑)」影山「そっちもねっ(笑)」。気がつけば、他のドライバーが参拝した日も雨だった。みんな汚れてる?(笑) 。

 基本的に無神論者である。幼稚園から大学まで、安定してキリスト教に触れてきた。だが一方で、神道派でもある。つまり、結婚式はチャペルで賛美歌を歌うのに、葬式では仏壇に手を合わせ、年末年始は神社でお賽銭を包む。タキシードでキャンドルサービスをした直後に、お色直しして羽織袴に着替えるというのだから、慶弔行事では典型的な無宗教派なのである。

キノシタの近況

キノシタの近況写真1

スーパーGT第3戦「オートポリス」スタート直前のGAZOOドライバー達。今回はレクサスRC Fの調子がイマイチで諦め気味。大嶋のマシンはグリッドにすらつけなかった。そのストレスをニュルで晴らしてくれ!

木下 隆之 ⁄ レーシングドライバー

木下 隆之 / レーシングドライバー

1983年レース活動開始。全日本ツーリングカー選手権(スカイラインGT-Rほか)、全日本F3選手権、スーパーGT(GT500スープラほか)で優勝多数。スーパー耐久では最多勝記録更新中。海外レースにも参戦経験が豊富で、スパフランコルシャン、シャモニー、1992年から参戦を開始したニュルブルクリンク24時間レースでは、日本人として最多出場、最高位(総合5位)を記録。 一方で、数々の雑誌に寄稿。連載コラムなど多数。ヒューマニズム溢れる独特の文体が好評だ。代表作に、短編小説「ジェイズな奴ら」、ビジネス書「豊田章男の人間力」。テレビや講演会出演も積極的に活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本ボート・オブ・ザ・イヤー選考委員。「第一回ジュノンボーイグランプリ(ウソ)」

>> 木下隆之オフィシャルサイト