木下隆之連載コラム クルマ・スキ・トモニ 129LAP

2014.09.24 コラム

まさかの世界ギネス挑戦!

軽い気持ちで挑んだけれど…

 けっこう気軽な気持ちで挑んだ「世界ギネス」挑戦なのだが、いざトライしてみると、さすがに世界一というだけあって気の抜けないイベントとなった。

 GT-Rマガジンが創刊20周年を記念して挑んだ企画は「世界ギネス挑戦」だった。GT-Rマガジンはかれこれ5年連続で読者をお呼びした一大イベント「R’sミーティング」を開催しており、今年の目玉はなんと「世界ギネス」挑戦。そこにちょいノリというわけ。
 いまではすっかりGAZOO Racingドライバーに変身してしまっているけれど、元々はGT-Rドライバーなのだよ。R32型GT-Rがデビューしたのが1989年。その5年ほど前から日産にお世話になった関係もあって、GT-RデビューとともにGT-Rのステアリングを握ってきたのだ。そのご縁で、いまでもGT-Rマガジンでは「R’s百景」というコラムを連載しているし、今年もR’sミーティングでトークショーをさせていただいている。

 実をいうと、何の下調べもせず、イベントに顔を出したついでに「世界ギネス」とやらに挑戦してしまおうか、といった安易な気持ちだった。ただ、それが大変で大変で…。

  • 478台に対して僕ひとり。ギネス挑戦直前の貴重なカットだ。この写真を撮っただけで、もはや本望を達成されたも同様だ。
    478台に対して僕ひとり。ギネス挑戦直前の貴重なカットだ。この写真を撮っただけで、もはや本望を達成されたも同様だ。
  • 富士スピードウェイのストレートに478台を並べたの図。並べるのに約1時間。壮観だったね。今後もう二度と、ないかもしれないね。
    富士スピードウェイのストレートに478台を並べたの図。並べるのに約1時間。壮観だったね。今後もう二度と、ないかもしれないね。

そんなに難しくもないはずだった

 先日、「流しそうめん最速ギネス」挑戦が新聞に報道されていた。それと比較すれば「楽勝楽勝~」。そんな楽観視ムードが漂っていたのも事実。

 実は10年ほど前のニュルブルクリンク24時間耐久レースでも、ギネスに挑戦している。「一度のレースに250台オーバー参戦」というのが世界ギネスのお題目だったはず。そしてそれは達成されたはずだから、つまり、ギネスブックのどこかに華々しく僕の名前も記されているに違いない。

 全員集合の写真も撮影したから、それはたしかだろう。

 ということは、2度目の世界一挑戦。「世界一」なんて肩書きにはめっぽう弱いキノシタのことだから、ギネス挑戦という甘い言葉についつい腰の力が抜けてへロヘロとなってしまうわけだ。

お題目は壮大なものだった…

 今回の題目は「日産車による世界最大パレードラン」となる。GT-Rマガジン編集部が主催だから、狙いはGT-Rに限定したかったはず。だが実際には、車種やグレード限定は認められないらしく、日産車という大括りになった。

 そりゃそうだ。「ヴィッツUタイプ・カッパーマイカメタリックを3台集めました」なんてマイナーものでいちいち世界ギネスを受理していたら、ギネスブックが、それこそギネスに申請できるほどぶ厚い書籍になってしまう。という弊害を避ける意味なのか、「GT-Rによる世界最大パレードラン」ではなく「日産車による世界最大パレードラン」となったのは裏話。

 ただし実際には、GT-Rマガジン編集部にも意地があるからGT-Rだけを集めた。

 ハコスカGT-RからケンメリGT-Rを筆頭に、R32型、R33型、R34型、そして最新のR35型までのすべてが勢揃い。ニスモ400Rや4ドアGT-Rなんていうレアものまで混じって、総勢478台。エントリー時点では527台だったけれど、当日ドタキャンがあって「478台」に落ち着いた。

 もっともそれだってスゴい数字だ。過去の日産車の記録が、2010年4月11日にイギリスシルバーストンで達成された「225台」だというから、ブッチギリの記録なのだ。

  • ビカビカのケンメリGT-Rはオーナーズクラブ会長のクルマ。レアなオリジナルカラーのハコスカGT-Rもビカビカだ。先頭集団を走った。
    ビカビカのケンメリGT-Rはオーナーズクラブ会長のクルマ。レアなオリジナルカラーのハコスカGT-Rもビカビカだ。先頭集団を走った。

豪華ゲストもマイカーで挑戦

 しかもである。GT-R開発のお歴々がパレードに加わった。R32型の生みの親である伊藤修令さんをはじめ、R32型実験主担であり、R33型、R34型商品主管の渡邉衡三さん、日産自動車・車両実験部 テクニカルマイスターの加藤博義さんをゲストに迎えてのパレードである。その末席に、GT-Rでレースを戦った僕も小さく加わった。ミスターGT-Rともいえるお三方にはそれぞれの愛車でこのパレードに挑戦していただいたというから、中身は濃いのである。

  • 第二世代R32型GT-Rの生みの親である伊藤修令さんと野田編集長。GT-R談義になると話が尽きない。心の底からGT-Rを愛している。
    第二世代R32型GT-Rの生みの親である伊藤修令さんと野田編集長。GT-R談義になると話が尽きない。心の底からGT-Rを愛している。
  • 渡邉衡三さんは、R32型の実験主担であり、R33型とR34型では商品主管をつとめた。ミスターGT-Rのひとりである。
    渡邉衡三さんは、R32型の実験主担であり、R33型とR34型では商品主管をつとめた。ミスターGT-Rのひとりである。
  • 加藤博義さんは日産のトップガン。現在は車両実験部 テクニカルマイスター。歴代のGT-Rをドライブし、育て上げた人。
    加藤博義さんは日産のトップガン。現在は車両実験部 テクニカルマイスター。歴代のGT-Rをドライブし、育て上げた人。

世界一は簡単ではないぞ

 ちなみに、世界ギネスというからには、ただぼーっとクルマを並べてモゴモゴやっていればいいのではない。これは現場ではじめて知ったのだが、「最低3.2km以上の距離」を「車間距離2台分以下で走行すること」が申請の条件だという。

 これが意外に難しい。478台もいると、先頭から最後尾までは、会場となった富士スピードウェイのほぼ5分の4周に及んでしまうのだ。先頭が動き出してから最後尾が動くまで、15分ほどかかる。モタモタしていると、全車がひとつの輪になってしまうという数なのだ。

 全車が「せ~のせ!」で動くわけにもいかない。それでいて、誰かが減速すれば、それが連鎖してどこかが停止してしまう。渋滞の原理だ。そんなだから、478台を整然とパレードさせるのは至難の業なのである。

 さらに厄介なのは、ギネス審査員の方々が厳しくチェックしていることだ。

 スタート前に、全ドライバーの免許証チェックがあり、全車の車検証を確認するのだ。すべてが日産車であることを、しっかりと公式的に検査するのである。そんなの見りゃわかるだろ~、は通じない。

 世界ギネス公式ユニフォームに身を包んだ審査員が、笑顔ひとつ浮かべずに審査している様子を見てはじめてことの重大さに気がついた。いざパレードが始まる段になると、ギネス側のスタッフが全コーナに別れて、厳しい目で確認。判定用のビデオまで設置するというものものしさである。

  • R32型を先頭に、全車が2列に分かれてパレード。直前まで降っていた雨が突然やんだ。向かって左列3台目のブルーのR33型に木下が乗車。
    R32型を先頭に、全車が2列に分かれてパレード。直前まで降っていた雨が突然やんだ。向かって左列3台目のブルーのR33型に木下が乗車。
  • コース上がこんなだから、駐車場もこんな。日本各地からGT-Rファンが集結した。
    コース上がこんなだから、駐車場もこんな。日本各地からGT-Rファンが集結した。

で、結果はいかに…

 まっ、ギネス申請が受理されたのかどうかの詳細は、次号のGT-Rマガジン(10月1日発売)と「GT-R OWNERS FILE IV(イベントDVD付き 11月1日発売)をご覧いただくとして、結果なんて二の次だ。478台ものGT-Rがその場に集まったことだけでも壮観だった (と言うあたりが結果を語っている?) 。

 ちょっと昔に僕は、GAZOOで「世界ギネス挑戦」を提案したことがある。あえなくボツ企画になったようだけど、ぜひどこかで実現させたいもの。86ユーザーを集めれば、ギネス記録も夢ではないかもしれない。GAZOOならではのユーザーとの一体感はハンパじゃないからね。

キノシタの近況

キノシタの近況写真

レクサスRC/RC Fをドライブしてきたぞ。ニューヨーク近郊のサーキットでの試乗です。クルマとしての完成度では、もしかしたらドイツ車を超えた部分も少なくないぞ。本当にそう思った逸品でした。スポーツクーペの時代がやってくるかも…。

木下 隆之 ⁄ レーシングドライバー

木下 隆之 / レーシングドライバー

1983年レース活動開始。全日本ツーリングカー選手権(スカイラインGT-Rほか)、全日本F3選手権、スーパーGT(GT500スープラほか)で優勝多数。スーパー耐久では最多勝記録更新中。海外レースにも参戦経験が豊富で、スパフランコルシャン、シャモニー、1992年から参戦を開始したニュルブルクリンク24時間レースでは、日本人として最多出場、最高位(総合5位)を記録。 一方で、数々の雑誌に寄稿。連載コラムなど多数。ヒューマニズム溢れる独特の文体が好評だ。代表作に、短編小説「ジェイズな奴ら」、ビジネス書「豊田章男の人間力」。テレビや講演会出演も積極的に活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本ボート・オブ・ザ・イヤー選考委員。「第一回ジュノンボーイグランプリ(ウソ)」

>> 木下隆之オフィシャルサイト