4 years of GRMN86

- ニュルブルクリンクで鍛えた4年間の軌跡 -

2015.01.08 東京オートサロン2015

かつて、レクサスLFAは正式発売前の2008/2009年のニュル24時間耐久レースに参戦している。それはプロモーションでも話題作りでもなく、純粋な開発テストであった。「走りにこだわるクルマはニュルで鍛え、育てないとダメです。テストコースの中でNVHを見ているだけではダメです。クルマはもちろん、エンジニアの意識改革もしないといけないと思いました」。レーシングドライバー“モリゾウ”ことトヨタ自動車社長の豊田章男もこう語っている。

2011開発車両FT86、ニュルブルクリンクVLN9に参戦

【2011】開発車両FT86、ニュルブルクリンクVLN9に参戦

2011年10月、VLN(ニュルブルクリンク耐久選手権)第9戦に、発売前のあるスポーツカーが開発テストで参戦を行なった。エントリーリストには「FT-86」と記載されていた…。そう、11月に行なわれる東京モーターショー2011での市販モデルの正式発表を控えたトヨタ86だったのである。
マッドブラックに開発テスト車らしい唐草模様による軽偽装が施されていたFT-86は、他の参戦マシンに比べると、車高やエアロパーツ、様々なパーツを見る限り、明らかにノーマル然とした印象を受けた。

戦いの場で鍛える、
新車開発は極秘という常識を覆した

戦いの場で鍛える、新車開発は極秘という常識を覆した 86の開発責任者は、「このクルマは市販車に安全装備やレースに最低限必要な装備をプラスしただけです。もちろん参戦のも気的は開発テストの一つで、“極限状態”の状況を試すのが目的です。ここで得られたノウハウはチューニングショップやユーザーに情報提供していきたい。みんなで86を育てていけるような環境作りをしたいと思っています」と語った。

FT-86は4時間のレースをノントラブルかつタイヤ無交換で走り切り、総合120位、SP3クラス3位を獲得している。極限状態での走りの「バランスの良さは」はもちろん、「耐久性」にも問題がないことが証明された。新車開発は極秘というのが常識だったのだが、戦いの場に出て鍛える…これまでとは180度違う考えである。開発陣はここで生まれた不満や問題をフィードバックしていくわけだが、そういう意味ではGRMN86開発の原点になったモデル…と言ってもいいのかもしれない。

2012TOYOTA86ニュルブルクリンク24Hデビュー、
そしてクラス優勝

【2012】TOYOTA86ニュルブルクリンク24Hデビュー、そしてクラス優勝

2011年の東京モーターショーで発表された86は、翌年2月に発売を開始。その年のニュルブルクリンク24時間に“TOYOTA86”として2台(165号車 /166号車)がエントリーした。白/赤/黒のGAZOO Racingカラーで見ためはレーシングカーらしくなったものの、基本コンセプトは「市販車へのフィードバック」であるため、ノーマルに限りなく 近い状態だ。

エンジン/トランスミッションは完全なノーマル、ボディはスポット溶接とロールケージにより剛性アップ。内装は不必要なものは取り除いたが、レーシ ングカーのような軽量化は施されていないため、レギュレーションで決められている最低重量よりも約200kg重かった。セットアップもスプリング/ダン パー減衰力/ファイナルギアなど極めて限られた中での戦いとなった。

「サスペンションストローク」を改善し、
ブレーキ&コーナリング性能の高さを確認

「サスペンションストローク」を改善し、ブレーキ&コーナリング性能の高さを確認 ちなみに、前回のVLN9での課題「サスペンションストローク」を改善したのと、2カーエントリーのメリットを活かし、両車で異なるセットアップを試していた。

実はニュル24時間のレギュレーションではトップ勢とのスピード差を少なくする狙いから200ps以上のクルマしか参戦できない。つまり、86はボーダーラインギリギリなのだが、ブレーキ&コーナリング性能の高さから、ストレートで抜かれてもコーナーが連続するセクションではクラス上のマシンを追いまわすほどのポテンシャルが確認できた。

結果は2台共に完走し、166号車が総合46位、SP3クラスクラス優勝を獲得。ちなみにクラス2位だったルノークリオRSとの差は24時間走って数十秒という僅差。過酷な戦いであった。165号車は総合65位で、SP3クラス6位であった。ドライバーは高いシャシー性能を実感した半面、次のステップ(=速さ)を期待していたのも事実だった。

2013ニュル24H、激しい雨と霧の中でも
ハンドリングバランスの良さを見せつけ完走

【2013】ニュル24H、激しい雨と霧の中でもハンドリングバランスの良さを見せつけ完走

2013年のニュルブルクリンク24時間耐久レースも86は2台エントリー(135号車/136号車)。しかし135号車が予選でコンクリートウォールに激突しクラッシュ。ドライバーは無事だったが、フロントの損傷が激しいこともあり、安全面を考慮してリタイヤ。全てを136号車に託し、決勝を迎えた。

曇り空でスタートした決勝だが、夜間走行になる頃に激しい雨と霧が発生。コースアウトやクラッシュが続出したこともあり、約9時間の中断があったが、86はそんな悪条件の中でもハンドリングバランスの良さを見せつけ走行を続けた。 

結果は総合64位、SP3クラス2位とクラス連覇は叶わなかったものの、86の優れたフットワークは、ライバルチームからも賞賛された。

軽量化によりアベレージスピードが向上
一方でクルマと格闘するシビアなドライビングを必要とした

軽量化によりアベレージスピードが向上、一方でクルマと格闘するシビアなドライビングを必要とした 2012年の課題をフィードバックし、マシンは約60kgの軽量化を行った。更にエンジンの調整を含む各部のブラッシュアップも行い、これまでのコーナリングスピードの高さに加えて、アベレージスピードの向上も期待された。結果、そのパフォーマンスは、昨年のモデルよりも約7秒を上回るタイムを記録した。 

とはいえ、ドライバーからは「軽量化によりアベレージスピードが高くなった一方でシビアな特性になっており、クルマと格闘するドライビングになっていた。そういう意味では2012年モデルのほうが乗りやすかった」と課題も残した。

2014ニュル24時間参戦レースカーのロードバージョン
GRMN86コンセプトモデルを発表

【2014】ニュル24時間参戦レースカーのロードバージョンGRMN86コンセプトモデルを発表

【2014】ニュル24時間参戦レースカーのロードバージョンGRMN86コンセプトモデルを発表

2014年の東京オートサロンに、一台の86コンセプトカーが登場。「GRMN86コンセプト」と名付けられたモデルは、「ニュル24時間参戦レースカーのロードバージョン」と言うコンセプトを掲げていた。それは単純なレーサーレプリカではなく、「コントローラブルなFR」、「NAエンジンの気持ちよさ」といった86の持つ“素性の良さ”をより引き上げる考え方をフィードバックさせた出来となっていた。

【2014】ニュル24時間参戦レースカーのロードバージョンGRMN86コンセプトモデルを発表

ニュル24H、念願のゼッケン#86を掲げクラス優勝
「何もないことが怖いくらい」という安定感ある走りでゴール

そして2014年のニュル24時間耐久レース。今年は1台エントリーとなった86だが、念願のゼッケン「86」をゲットした。昨年の経験を元にアップデートされたマシンは、GRMN86コンセプトと並行して開発を進め、レースカーと市販車の情報を共有しながらアップデート。昨年モデルから更に40kgの軽量化と合わせてボディ剛性の最適化も行い、速くて乗りやすい上にコントロールもしやすい“懐の深い”乗り味に進化した。

また、参戦当初から待望されていたパワートレインにもメスを入れ、レブリミットのアップ(7500→8000rpm)や低中速トルクの増強、そしてブリヂストン製ニュータイヤの採用なども行なっている。

速くて乗りやすい上にコントロールもしやすい
“懐の深い”乗り味に進化・熟成

速くて乗りやすい上にコントロールもしやすい“懐の深い”乗り味に進化・熟成 86開発責任者は「走る/曲がる/止まるのバランスに優れたクルマが出来ました。まさに“究極の86”と言ってもいいと思います」と語っている。 

実際にドライバーからも「今年は直線もイケる」、「レース中なのにドライビングが楽しい」と言うコメントがでるほど。速さとFunのバランスを高い次元で両立させたモデルに仕上がった。 

予選/決勝共に小さなトラブルや接触があったものの、「何もないことが怖いくらい」という安定感ある走りでゴール。総合54位、そしてSP3クラス優勝を飾った。ちなみに2014年はSP8クラスのLEXUS LFA、SP-PROクラスのLEXUS LFA Code Xもクラス優勝を獲得しており、GAZOO Racingは3クラス制覇を達成することができた。

2015東京オートサロンで
「GRMN 86 prototype」を発表

【2015】東京オートサロンで「GRMN 86 prototype」を発表

【2015】東京オートサロンで「GRMN 86 prototype」を発表

これまでのレース参戦で培った技術やノウハウを
走らせた瞬間から実感できるクルマに

世界一過酷といわれるサーキットで人とクルマを鍛えるというGAZOO Racingのニュル24時間耐久レースへの挑戦は、「レースに勝つこと」が目的ではなく「いいクルマを作ろう」という活動の一つである。そんな活動を色濃くフィードバックさせたのが今回東京オートサロンで登場した「GRMN86プロトタイプ」である。このクルマは近い将来限定発売を検討している。これまでのレース参戦で培った技術やノウハウは、走らせた瞬間から実感することができるに違いない。