開発者インタビュー

LEXUS IS F CCS-R(Circuit Club Sport Racer)

LEXUS

ドライビングスキルに関係なく、サーキットを安心して楽しむことのできる新しいレーシングモデル

LEXUS
開発者
開発者矢口幸彦氏の写真
矢口 幸彦氏
トヨタ自動車株式会社
レクサス本部製品企画主査 スポーツ車両統括部 LEXUS Fグループ グループ長
LEXUS IS Fの生みの親であり開発責任者である。CCS-Rの開発も担当しているが、その仕事はクルマの開発者に留まらず、クルマを楽しめる環境づくりにも尽力している。

ニュル耐久選手権参戦などで開発が進められている「LEXUS IS F CCS-R(サーキットクラブスポーツレーサー)」が登場。レーシングマシンでありながら、誰もがサーキットを安心して楽しむことができるクルマであるという。果たして「LEXUS IS F CCS-R」はどんなクルマなのだろうか。

開発者矢口幸彦氏のインタビュー写真

──LEXUS IS Fの生みの親として知られている矢口さんですが、若い頃はどんなクルマに乗っていたのですか。

矢口 幸彦氏(以下矢口):

初めてのクルマは2気筒リアエンジンのスバルR2で、中古で購入したクルマだったね。買うと同時にスプレー缶で色を塗り、ラリーサスを組んで当時は学生ラリーを楽しんでいました。でも、R2のパワーが不満になると、当時はまだ2サイクルの軽自動車なんていっぱいありましたから、ダイハツのフェローマックスハードトップに乗り替えたんだけど、360ccで40馬力を発生するとんでもないクルマだった。それを学校の内燃機関の研究室に持ち込んでエンジンをバラしてエンジンのチューニングをしていましたね。
トヨタに入社する時には、そのクルマで会社の面接に来たんだけど、停めるところが分からなくて空いているところに停めたら、業務用車のセンチュリー置き場だったというのを後で知りました(笑)。

──トヨタ入社時にそんな武勇伝があったのですね。ところで今現在乗られているクルマは何ですか。また普段はどんな楽しみ方をしているのですか。

矢口:

IS Fの開発を担当していますので、ずっとIS Fに乗っています。ただ、プライベートでは最近クルマを楽しんでいる暇がないですね(笑)。理想としてはIS Fのシチュエーションでもいっているように、休みの日にサーキットに行って、思いっきり走りを楽しめると良いと思いますね。

──ところで「LEXUS IS F CCS-R」はどんなクルマなのでしょうか。

矢口:

「LEXUS IS F CCS-R」はIS Fをベースに、免許を取った直後の人でも本格的なレーシングカーを運転できる、というのが1つのコンセプトといえます。公道でスポーツカーを思いっきり楽しむことは今では難しい環境になりつつあると思います。それなら、安全にクルマを楽しめるところはサーキットであり、サーキットを思いっきり楽しんでもらって、公道ではエコで安全な運転で楽しんでもらうことが良いと考えたのです。
本格的なレーシングカーを色んな人が楽しめる。それは単にスキルが無い人が簡単に速く走れるということではなく、プロが乗っても楽しく、そしてスキルがまだ無い人でも楽しめることを意味します。そのようなクルマであれば、スキルがまだ無い人でも楽しめ、徐々にスキルアップすることで、違う楽しみ方が見えてくるようになる、それが理想ですね。

──IS Fの開発責任者でもある矢口さんはこのCCS-Rの開発にも取り組まれていますが、どのようなコンセプトで開発に取り組んでいるのでしょうか。

矢口:

CCS(サーキットクラブスポーツ)とは、サーキットは「安全に走れる究極の場所」であり、クラブと言っているのは1人で楽しむのではなく「みんなで楽しもうよ」という意味、そしてスポーツは「楽しく走ろう」を意味しています。これがCCSのコンセプトでもあり、私の考えでもあるのです。
サーキットはクローズされていて、特に富士スピードウェイはランオフエリアも広く、失敗してもリカバリーすることができ、限界が楽しめるところです。ドライバーは限界を知ることで普段の運転の中で余裕が生まれると思うのです。例えば時速100キロでしか走ったことが無い人にとって、100キロは目一杯の速度になります。しかし、それが時速200キロで走ったことがある人にとっては100キロで走ることは、余裕を持って運転することができる速度であり、その体験で公道の運転も安全になると思うのです。サーキットのような場所で、限界で思いっきり走ることができれば、公道では法定速度を守って安全に走ってもストレスも溜まらないでしょう。

開発者矢口幸彦氏のインタビュー写真

──レーシングカーというとどうしてもマニュアル車、というイメージが強いのですが、「LEXUS IS F CCS-R」はAT車ですよね。

矢口:

今の高性能なスポーツカーの世界はマニュアルミッション車でも、2ペダルになりつつあります。なんでそうなるかというと、もちろんマニュアル車にはシフトチェンジするという楽しみもあるが、ある程度スピードが速くなると人間の手で追い付けなくなる。それとパドルでシフトするという新しい楽しみ方もできるようになってきた。そういった背景もあります。ベースとなったクルマであるIS Fもこの考えでATをベースにスポーツシフト制御を開発しましたので、CCS-Rでも当然これを生かして、ATをパドルでシフトするレーシングカーという新しい楽しみ方を提案する狙いもあるのです。ニュルブルクリンクの耐久レースに参戦している CCS-RももちろんATパドルシフトのままです。

実はレーシングカーで一番辛いのは発進なんですよ。極論ですけど、レーシングカーは発進さえしてしまえば普通に運転できます。でも発進する時はエンジンもピーキーで難しいし、メタルクラッチだと普通の人はクラッチ操作が難しくなります。発進できずにエンストするなんて、僕らでも最初は良くあることです。それがATであれば何の不安もない、敷居が低くなるのですよ。免許取りたての人でも、そして女性でもパッとサーキットに来て運転できる。敷居を下げるためには2ペダルのATで無ければいけないのです。

──「LEXUS IS F CCS-R」はベース車からどのような変更が施されているのでしょうか。

矢口:

ベースのIS Fが元々サーキットを楽しめるスペックを持っていますから、安全装備や冷却系の強化や、サーキット走行にふさわしいボディー補強を施しています。一番大きな変化点はこれらのレーシング装備をしながらもカーボンパーツ等での300キロのボディーの軽量化をしたことだと思います。エンジンやトランスミッションはノーマルのままで、基本的なサスペンション構造を踏襲し、VDIM(総合車両姿勢安定制御システム)もチューニングを施しています。基本的には生産車部品を使うことで、ランニングコストも消耗品だけで良いという手軽さも兼ね備えているのです。

──幅広いドライバーに合せたハンドリングにするのは逆に難しいのでは

矢口:

特定のドライバーだけがチューニングするのではなく、IS Fの開発ドライバーも加わっていますし、スーパーGTドライバーにも乗ってもらっています。いろいろなスキルの多くの人に乗ってもらうことで、どのドライバーからも同じコメントが出るようなセッティングを狙ったからです。特定の運転スタイルで無ければ楽しめないクルマではなく、どんな運転の仕方をしても楽しめるクルマに仕上げているのです。
スーパーGTドライバーはみんな「走りやすいね」とコメントしてくれます。走りやすいということは疲れにくく、長い時間運転できることになります。ピーキーなクルマだと一瞬で疲れてしまうが、これなら休みながら1日楽しめ、仲間と交代しながらでも楽しむこともできる。疲れないということは安全に走るためには重要なポイントだと考えているのです。この状態でニュルの耐久レースに出場することを想定しているので、疲れるクルマではドライバーがミスをしやすくなる。そのようなことが無いように走りやすいクルマにしているのです。

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──「LEXUS IS F CCS-R」をハードとすると、当然次はソフトも求められると思うのですが。

矢口:

台数が揃えばサーキットを楽しむためのプログラムも考えています。サーキットのライセンスを持っていない人のために、ライセンス取得からサポートして、サーキット走行を楽しんでもらい、その次はステップアップしてレースに出場する。さらにはニュルに走りに行く、なんてプログラムが作れれば面白いと思いますね。
ゴルフをやる人ならゴルフ場の予約の取り方は知っているが、サーキットってどうやって走るの、という人も結構多い。そういった人をサポートすることも必要でしょう。これからはハードとソフトをセットにして提供することが必要ではないでしょうか。
本当はワンメイクレースもやりたいですね。ただ、速さを追求するワンメイクレースはお金が掛ってしまうので、年に何回かレースを楽しめる人と年1回ぐらいしかサーキットを走れない人が一緒になって楽しめるようなレースにしたい。もしこのクルマでワンメイクレースをやるなら、このクルマは120リットルタンクを積んでいるので、例えば4時間の耐久レースをやって4時間の中で燃費計算をしながら、いかに速く走るかを考えるようなレースができれば面白いかなぁ。

──最後に、「LEXUS IS F CCS-R」はこれからどう進化していくのでしょうか。

矢口:

今後は欧州のレーシングチームにこの「LEXUS IS F CCS-R」を貸し出して、ニュルの全戦に出てもらうなどを考えています。我々の手から離れて、実際にレースなどで使ってもらって問題点などを検証していきたいのです。そして我々もノウハウを蓄積して、一般のお客様にお渡しできる状態にしていきたいと考えています。将来的には是非、これを使ってサーキットに来て楽しんでほしい。サーキットで目一杯楽しんで欲しい。それがCCSのコンセプトであり、願いでもあるのです。

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