開発者インタビュー

2000GT SOLAR EV

TOYOTA自動車同好会

2名乗車、時速200km/hで走るソーラーカー。新しいスーパースポーツEVの世界を提示する1台

TOYOTA自動車同好会
開発者
開発者 齋藤 尚彦氏の写真
齋藤 尚彦氏
TOYOTA自動車同好会
「CRAZY CAR PROJECT」
現在の愛車はカローラレビンAE86で、次は「86(ハチロク)」を絶対に買うと宣言する齋藤さん。いじるのが好きで、今から86(ハチロク)をどのようにいじるか、どこまでいじれるか構想を練っているという。

トヨタが世界に誇る名車「2000GT」を、日本が誇る匠の技と先進技術でレストアし、究極のゼロエミッション、ソーラー EVをパワーユニットに搭載した新しいスーパースポーツEVがこの「2000GT SOLAR EV」である。外観もさることながら、その中身も気になるこのクルマ。開発したのはTOYOTA自動車同好会の「CRAZY CAR PROJECT」だ。

──2000GTの車体をそのまま使った「2000GT SOLAR EV」。これを開発したのはTOYOTA自動車同好会の「CRAZY CAR PROJECT」ですが、これはどのような組織なのでしょうか。

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齋藤 尚彦氏(以下齋藤):

TOYOTA自動車同好会を立ち上げた理由は大学に自動車部があるのに、なぜトヨタには自動車部が無いのか、というところから始まります。トヨタに入社してくる人の中には自分でいじるのが好き、クルマの趣味が高じてトヨタに入った、という人が大勢います。また、モータースポーツで活躍している人、中にはカートやラリーで全日本選手権に出場する腕を持った猛者もいます。みんな仕事以外の時間でも、寝ても覚めてもクルマの事ばかり考えている。いわゆる「クルマ好き」いや、「クルマおたく」ですね(笑)。しかし、彼らの活動は個々のものになっており、もしこれがまとまればもの凄いパワーになるのでは、と考えました。そこで、自動車部を作ることで彼らの活動を後押しつつ、みんなで楽しく面白い事ができるようになるのではないか、と考えてまずはその前組織としてこのTOYOTA自動車同好会を作りました。
そしてこれは他の会社でも同じでTOYOTA自動車同好会には「CRAZY CAR PROJECT」の名の下に販売店さん、部品メーカーさん、車体メーカーさんからもクルマ好きのエンジニアが続々と集まり、50名以上の大所帯となりつつあります。また、トヨタやその関係先の中には他にも沢山のクルマ好きのグループが存在しますので、将来は一緒になって活動したいと思っております。

──なるほど、そういった背景があったのですね。ところで齋藤さんは「自分でいじるのが好き」みたいですが、どんなクルマに乗ってこられたのでしょうか。

齋藤:

ライトウェイトで自分が扱いやすいクルマを乗り継いできました。最初のクルマはカローラFXで、大学時代にラリーが流行っていたので、ラリー仕様にして楽しんでいました。その後はカローラSEに乗り、今は念願のAE86を手に入れて箱根を走りに行ったりして楽しんでいます。またスキーやサーフィンに行く時に使うアルファードはデコレーションして遊んでいます。ちなみに今度の「86(ハチロク)」は絶対買います。顔なじみの販売店にも「一番に欲しい」と言い続けていますので。次の86(ハチロク)はどんなことができるのか、どういじれるのか。今からワクワクしています。若い頃はお金が無くてできないことも多かったので、今度は少しお金を掛けて楽しみたいと思っています。

──さて、本題に入りたいのですが「2000GT SOLAR EV」はどのような仕組みになっているのでしょうか。

齋藤:

簡単に言うと、ソーラーパネルで作った電気を専用開発された高性能リチウムイオンバッテリーに充電し、モーターを駆動して走らせています。皆さんがイメージするソーラーカーは1人乗りで寝そべるようにして運転するソーラーカーレース車両をイメージする人が多いと思います。我々は2人で乗れて、時速200キロ出せるソーラーカーを作りたい。そうして開発したのがこの「2000GT SOLAR EV」です。

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──でも、なぜ2000GTをベースに使っているのですか。

齋藤:

2000GTは言わずと知れた名車であり、私たちの新しい考えを形にするにはシンボリックなクルマだと思ったからです。2000GTを知る世代に加え、将来クルマに乗る若者、特に子供たちにクルマに乗ること、走ることは「カッコいい」「楽しい」と注目してもらいたかったのです。この崇高なクルマをベースにする事には否定的な意見がありましたが、逆に注目度は非常に高いなと感じ、誰も思いつかないような、思いついても実行しないような今回のクレージーな発想にたどり着きました。
それと、普通のEVコンバートですと「WELL TO WHEEL」で考えるとCO2排出量は完全な”0(ゼロ)”と言えません。しかし、この「2000GT SOLAR EV」は、太陽光にこだわり、ソーラーカーとすることで究極のゼロエミッションを実現して2000GTに相応しい環境性能となっております。
モーターはLSハイブリッドのモーターを流用して、ハウジングを付けて搭載しています。海外製品、他社製品で良いモーターは売っていますが、トヨタのエンジニアとしてそれは2000GTに失礼。トヨタで最高のモーターは何かを考えて、フラッグシップカーLSハイブリッドのモーターを使っています。

──2000GTを使ったこだわりが端々で伝わってきますが、この「2000GT SOLAR EV」はバッテリーを搭載していますが、そのスペースの確保は難しかったのではないでしょうか。

齋藤:

2000GTはその流麗なスタイル、圧倒的な存在感にも関わらず、絶妙なバランスを持った小さなクルマです。しかもモノコックでなく、フレーム構造を採用しており、バッテリー用のスペースの確保が難しかったです。当初、バッテリーはエンジンコンパートメントに大部分を搭載しようとしましたが、重心が高くなってしまうため、最終的にはフロア下に積みました。

──今回、ベースとなった2000GTはボロボロの車体をいちからレストアしたそうですね。レストアでも色々苦労があったのではないでしょうか。

齋藤:

「2000GT SOLAR EV」で使った2000GTのボディーは、手造りで最高級車センチュリーを生産している高い技能を持った匠のエンジニアに協力してもらいレストアをしました。2000GTの造形は手作りで無ければできないのです。
また、販売店さんからはサービスエンジニアが参加して、匠から技を伝授してもらいながらレストア作業を続けてきました。正に販売店、メーカー一体となった活動で、幅広く技術力が底上げできればと思います。しかも、現代最高水準の技術でレストアしたため、ボディーがオリジナルよりもきれいになってしまいました(笑)。
また内装に関しては、2000GTは鉄板にカーペットをそのまま接着していたので、経年変化でそれが剥がれませんでした。そのため、みんなでヘラを使いながら粉じんに耐えて剥がしていきました。新たに施した内装は、素材はバイオ素材、アルカンターラ等最新素材で再現し高級感を演出しています。新しい2000GTに恥ずかしくない内装だと思っています。さらに、木目のパネルは加賀漆の職人さんにお願いして金銀の蒔絵をあしらった本漆を塗ってもらいました。正に現代技術と伝統工芸で新しく蘇った内装です。オートサロンに展示されている際にはぜひ内装も見て欲しいですね。
メーターは2000GTの7眼メーターの雰囲気をそのままに新しくしています。見た目はオリジナル2000GTのアナログメーターなんですが、良く見ると「バッテリー残量計」等EV専用メーターになっています。

──ところで「2000GT SOLAR EV」は太陽光で蓄電して走行しますが、どれぐらい蓄電に時間が掛り、どれぐらい走れるのですか。

齋藤:

太陽光パネルはエンジンフードとリアガラスに搭載しています。エンジンフードには単結晶シリコンを使用、リアガラスには色素増感型の透過型パネルを使用し、後方視界も確保した上で太陽電池パネルの面積を広げる事に成功しました。それでも1日充電して走行4キロ分しか充電できません。EVレースは約50km強走行しますので、充電完了までに2週間となります。長い時間かかってしまいますが、じっくりエネルギーを貯めて走った時の喜びを感じながら使うのも車の楽しみ方の1つです。
将来は世界中を走行する車の屋根にソーラーパネルを搭載したいですね。真夏の駐車場を見て下さい。あれだけ広大な面積の鉄板がただ熱くなるだけで何も「仕事」をしていない。一台では小さな面積ですが、集まれば「メガソーラー」になります。もの凄いエネルギーになりますよ。近い将来、実現できるようにこの2000GT SOLAR EVで世の中に訴えていきたいと思います。

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──このクルマには「HALO SONIC」システムを搭載していますが、このシステムはどのようなモノなのですか。

齋藤:

HALO SONICは、サウンドマネジメント疑似走行音システムで、ピッチと周波数を変化させることでアクセルの操作に応じてリニアに音が変化するシステムです。
以前EVレースを観戦しに行った時、もう少し迫力が欲しいなって感じました。何が欲しいのかなと他のモータースポーツと比較してみた所、「音」だと気づきました。そこでこのシステムを採用し、馬の蹄鉄音、オリジナルのガソリンエンジン音でも良いし、近未来映画の電気自動車を思わせる甲高い金属音なようなものでも良いと思いますが、「2000GT SOLAR EV」は走行音を出しながらレースに出場したいと思っています。そして、ゆくゆくはそれがEVカーレースのスタンダードになってもいいじゃないか、と考えています。
また、「Advanced Electronic Mirror」を採用しており、これは後部に取り付けたバックモニターの映像をミラーに映し出すこともできるものです。

──最後にこの「2000GT SOLAR EV」のPRをお願いします。

齋藤:

「2000GT SOLAR EV」は2000GTを知っている世代から子供たちまで、幅広い世代に見て欲しいクルマですし、自信をもってワクワクしてもらうことができるクルマに仕上がっています。単純なEVコンバートではなく、先進技術も取り入れて究極のゼロエミッションを達成した、新しいクルマです。今後はEVレース等で活躍する「2000GT SOLAR EV」を楽しんで頂けたらと思っています。
また、2000GTのような名車は今後100年先も残ると思います。しかし、もしガソリンが枯渇した時にじゃあどうするか。「2000GT SOLAR EV」はそれの一つの解決策にもなるかと考えています。
クルマに乗るというのは単純な移動手段ではなく、乗ること自体が「カッコ良く」「楽しいもの」であり、それがクルマ本来の持つ存在価値だと思うのです。環境に配慮することを突き詰めるのと同時にその「カッコ良く、楽しいもの」というクルマの本質も突き詰めていきたい。僕らがずっと持ち続けているそんな熱い思いを形にしたのが、今回のクレージーな企画なんです。

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