開発者インタビュー

TES-ERA EV

トヨタ技術会

大人も子供もワクワクするガルウイングスポーツEV

トヨタ技術会
開発チーム
開発チーム硲文彦氏の写真
硲 文彦氏
第1ボデー設計部
ボデー設計室 主任
スポーツカーとRVカーを交互に乗り継いできた車歴を持つ。今はジムニーを所有し時にはオフロード走行を楽しんでいるが、「86(ハチロク)」の登場に心揺れているという。「TES-ERA EV」ではパッケージ・ボデーを担当
開発チーム加地雅哉氏の写真
加地 雅哉氏
第2電子開発部
第26電子開発室 主任
(‘11/12現在)
大学生の時に3万円で買ったレビンを直しながら、自宅から少し遠回りしてワインディングを楽しみながら大学に通っていたという。現在はトヨタ車とは違うクルマの味付けを求めアルファ147に乗る。ユニット・制御を担当
開発チーム大場浩明氏の写真
大場 浩明氏
プレス生技部
第1プレス技術室 主任
トヨタ入社2年目に購入したプラドを現在も愛用し、スノーボードやゴルフに出掛けている。その距離は14万キロを超えているが、いつかはレクサスLX570に乗り替えることを目標にしている。外形意匠・外装を担当
開発チーム大竹秀明氏の写真
大竹 秀明氏
内外装生技部
技術管理室 主任
以前はバイクなども楽しんでいたが、今は通勤用に購入したエッセが意外に楽しく、お気に入りだという。しかし、歳とともにクラウンへの興味が増し、「いつかはクラウン」が目標となっている。内装・操作系を担当

近未来的なスタイル、そしてゼロエミッションのEVシステムをパワーユニットに採用した電気自動車「TES-ERA EV」。この開発にあたったのはトヨタ自動車に勤務する社員が任意で加入する団体、トヨタ技術会(TES:Toyota Engineering Society)である。2011年3月から企画構想を開始し、約20名のメンバーの協力の元に設計・開発・実車製作が行われ、10月には電気自動車で行われる「JEVRA EV50kmレース」にも出場、総合8位完走を果たしている。その開発の中心を担った企画委員4人に、この「TES-ERA EV」の魅力を聞いてみた。
開発チームのメンバー写真

──今回は「TES-ERA EV」の開発に携わった4人に集まっていただき、その開発秘話をお伺いすることにしましょう。この「TES-ERA EV」はトヨタ技術会に所属する4人が企画委員を務め、2011年の特別企画として実車製作が行われたそうですが、そもそもトヨタ技術会とはどんな組織なのでしょうか。

加地 雅哉氏(以下加地):

トヨタ技術会は社員が任意で加入する団体で、一般的にはクラブ活動のようなものです。ですから、普段の活動は日常の業務が終わってから実施しています。今回は我々4人が企画委員となって企画構想を練り「TES-ERA EV」の製作を行うことになりました。製作にあたってはボデー・外装・内装・ユニットの4つのチームに分け、私たち企画委員がそれぞれのチームのリーダーとなり、総勢20名のメンバーと共に活動しました。

──いわゆるクラブ活動の一環として製作された「TES-ERA EV」ですが、それだけにクルマ好きな人たちが集まって作られた、と印象を受けます。みなさんはどんなクルマに乗ってきたのですか。

開発チーム硲文彦氏のインタビュー写真

硲 文彦氏(以下硲):

実は最初に乗ったクルマは「TES-ERA EV」のベースとなったSERAです。中学生の頃に見て興味を持ち、中古で購入して乗っていました。その後はWill VS、ジムニー、MR2、なんて具合にクーペとクロカンを交互に乗り継ぎ、MR2ではワインディングを楽しみ、ジムニーでは猿投アドベンチャーフィールドで泥だらけになって遊んでいました。特徴あるクルマを買って、それぞれのカテゴリーに合った楽しみ方をしているという感じです。

大場 浩明氏(以下大場):

廃棄予定だった中古のスプリンターを譲ってもらったのが初めてのクルマでした。1.5Lの4速MTで、100km/hを超えるとハンドルがガタガタと揺れ始める年季の入ったものでしたが、初めての自分のクルマということもあり、愛着が湧いていたのを覚えています。その後はスノーボードやゴルフ、アウトドアへと出かけられるようにプラドを購入し、今も大切に乗っています。大きく高級感のあるクルマが好きなので、いつかはレクサスLX570に乗ってみたい。そんな事を夢見ながらプラドが走れなくなるまで、まだまだずっと乗り続けるつもりです。

大竹 秀明氏(以下大竹):

結婚直後はbBに乗っていたのですが、今はアイシスに乗っています。一時はバイクを乗り継いでいたのですが、子供ができたのを機に通勤用でエッセを購入しました。エッセは車重が軽く、パワーも限られているので、街中でもそれなりにアクセルを踏んで走れるところが楽しいですね。意外と乗っていて楽しいクルマですよ。
でも、トヨタの社員としては、いつかはクラウンに乗ってみたいですね。以前はあまり興味が無かったのですが、あのどっしりとしたデザインが良いのか、歳とともに興味が湧いてきました。エッセからクラウンへ。一度は所有してみたいですね。

開発チーム加地雅哉氏のインタビュー写真

加地:

ワインディングが好きで、学生の頃には大学へ通うのに、3万円のレビンを直しながら遠回りして峠道を走って通っていました。今は子供を連れて実家に帰る時には山道を選んで「楽しいだろう」なんて話しながら子供との峠道のドライブを楽しんでいます。
レビン以降もMT車を中心に乗り継ぎ、2ZZ-GEエンジンが気持ちいいと聞いて次はセリカを購入し、その後はパッソTRD、ロードスターと乗ってきました。今はMT車で今までに乗ったことが無いクルマ、トヨタと違う乗り味のクルマに乗りたいとアルファ147に乗っています。

──そんな皆さんが中心となって製作した「TES-ERA EV」ですが、斬新なデザインとEVの組み合わせは近未来的な開発コンセプトを連想させます。まず、この「TES-ERA EV」の開発コンセプトを教えてください。

加地:

まず、開発コンセプトは「楽しい」「速い」「先進」をキーワードとしており、大人から子供までワクワクするクルマを提案することにあります。車名の「TES-ERA」なんですが、TESはトヨタ技術会を表し、ERAは直感で感じる楽しさ「Enjoyable」、ワクワクする速さ「Rapid」、そして未来を感じる先進感「Advanced」の頭文字を取っています。特に、20年後にクルマを所有するであろう、今の子供たちにカッコいいクルマを見てクルマに興味をもって欲しいという狙いがあります。

──なるほど。ところで「TES-ERA EV」の特徴のひとつが「ガルウィング」ですが、これはセラのキャビン部分を使ったそうですね。ガルウィングを採用した狙いはどんなところにあるのですか。

硲:

大人も子供もわくわくするようなクルマを作りたい、というコンセプトの中で、まずは視覚的に目に留まるスタイルを考えたら、ガルウィングが目を引くのではないかと考えました。特に今の子供はガルウィングに馴染みが無いので、見た目のインパクトでまずは興味を引けるのではないかと考えて採用しました。実際に展示したら子供たちが注目してくれるので、セラのキャビンを使ったのは狙い通りだったと言えます。

──この「TES-ERA EV」はモーターが動力源となりますが、そのモーターは既存のクルマ、ハイブリッド車のユニットを流用したものですか。そして、EV車の走りとはどんな感じなのでしょうか。

開発チーム硲文彦氏・加地雅哉氏のインタビュー写真

加地:

モーター・インバータはレクサスRXのハイブリッドシステムからエンジンを取り去って流用し、リチウムイオン電池は制御を含めて新設しています(EVシステムそのものも新設)。電池を新設した理由は容量の確保のためで、ハイブリッド車で使われている電池は容量が少なく、EVには向かないからです。この新設した電池だけで50kW、キャパシタで25kW、最大75kWを出力するよう制御しています。しかし、モーターの出力容量はもっとありますので、現状では余力が残っている状態です。
実際の試走では電源出力を先ほどの値に制限して130km/hまでテストしています。なお、モーターは1つでは無く、トランスアクスル内部を改造し発電機(ジェネレーター)用モーターも駆動用に転換したツインモーターにしています。また、レース用のキャパシタを搭載して、F1の「KERS」のような回生ターボを実現し、「速い」EV車にしています。そのため、そのポテンシャルをフルに発揮できれば200km/hは可能だと考えています。

──キャビン部分はセラを使用していますが、それ以外のフレーム部分や足まわりはどのような構成になっているのですか。

硲:

フレームはセラのキャビン部分を使いながら、前後は全てフレームを専用設計しています。中古車でセラを調達し、ボデーをバッサリ切ってしまって、真ん中のキャビンだけの状態から作り始めました。パッケージでは、ホイールベースもセラから伸ばして、リアに電池・インバータ・モーターを積むなど全くの新設計です。さらに、セラのキャビン部分にもアンダーブレースを入れたりして、ボデー剛性もかなりUPしています。サスペンションはスープラのダブルウィッシュボーンを使っています。これで、走りの性能も大きくレベルアップしていて、サーキットを走っても安心して運転できるような仕様になっています。

──この「TES-ERA EV」は外装の製作に大きな時間を費やした、とお伺いしましたが、どんな苦労があったのでしょうか。

開発チーム大場浩明氏のインタビュー写真

大場:

苦労した部分は2点あります。1点はセラのキャビン部と前後の新設部をいかに上手くデザインし、取り付けるかでした。メンバーのデザイナーには、セラとは分からないように、かつ未来のスポーツカーを表現するという難しい課題に取り組んでもらいました。そこから生まれたデザインを元に1/4スケールのクレイモデルを製作。その測定データから実物大の型加工データを作成し、発砲スチロールを削り込んで型を製作しています。そこにガラス繊維樹脂(FRP)を貼り込んでパーツを作り、ドアとの隙を測りながらキャビン部との接合部の造り込みに苦心しました。
2点目はFRPの表面仕上げです。通常FRP用の型は硬質樹脂で製作するため、脱型後の表面は綺麗に出来上がります。しかし、今回自主活動で予算が限られていることから安価な発泡スチロールで作ったため、表面の凹凸が激しく、到底塗装が出来る状態ではありませんでした。そこで社内を探してみるとFRPで船の製作経験をお持ちの技能員の方がおり、匠の技によるご指導をいただきながら、夏場の2ヶ月間ひたすら磨き込みました。

──そんな苦労があったのですね。完成したボデーに施したカラーリングは誰が考えたものなのですか。

大場:

将来クルマを持つことになる子供達にデザインを募集し、最優秀作品を実車に採用しました。豊田市が主催する「とよたものづくりフェスタ」と、トヨタ技術会が主催する「TESフェスティバル」が共同で開催する「わくわくワールド」というイベントで、豊田市内の小学6年生の皆さんにプリウスのペーパークラフトを配り、思い思いのカラーリングを施してもらいました。最優秀賞のお子さんは実車になった姿を見てとても喜んでくれて、「頑張ればよい結果がついてくるんだね。」とお話してくれた事がとても印象的でした。自分達だけでなく、地域の皆さんにも参加してもらって作ることができたクルマです。

──外観はもちろん「先進」的ですが、内装もかなり「先進」的なものになっていると聞きましたが、どのような内装なのでしょうか。

開発チーム大竹秀明氏のインタビュー写真

大竹:

未来の操作系を表現するために、タッチパネルを活用したスイッチレスの操作系としています。スイッチレスにすることでセラのインパネから一新し、シンプルな運転席まわりとなっています。ステアリングにタッチパネルを設置して、シフトやランプ類の操作をこのタッチパネル上で行えるようにしたのです。また、従来のセンターメーターの位置にもモニターを配置し、速度だけでなくユニットの状態も表示できるようにしています。最近の子供たちはゲームなどでタッチパネルに触れていますし、大人もタッチパネルになじんでいますので採用したのですが、ゲーム感覚で操作できる「楽しさ」があるのではないでしょうか。
なお、メーターは3つのモードをデザインしており、ステアリングのタッチパネル上でメーター表示などの色やデザインを変更することもできます。また運転席まわりにはLEDを配置して、キャパシタの蓄電量の表示を行える工夫も施しています。なお、内装は白が未来的なイメージという意見が多かったため、白で統一しています。

──EVの乗り味は今までのエンジン車と大きく違うようですが、どんな点が違うのでしょうか。また、「TES-ERA EV」は楽しいクルマですか。

加地:

排気音が無いなどEVはエンジン車との違いがありますが、エンジンでは実現できない鋭い加速感があります。エンジンでは最大トルクを出すために回転数を上げないといけませんが、EVはモーターがゼロ回転から最大トルクを引き出せるので、走り始めから背中をぐっと押されるような加速感があり、エンジンと異なるシームレスな加速が味わえます。さらに、「TES-ERA EV」には回生ターボもついていますのでアクセルを踏み込んだときの鋭い加速感がより楽しめます。スポーツカー好きの方にもEVの加速感をぜひ体感して欲しいですね。

硲:

「TES-ERA EV」はアクセルを離すと強いエンジンブレーキが掛ったように、グーっと減速する味つけにしています。今までのクルマではサーキットなどを走るとマニュアル車の場合、アクセル・ブレーキ・クラッチの3ペダルでコントロールしていましたが、EVは1ペダルで加減速をコントロールすることができ、今までとは違う走り方ができます。
EVレースは電池の残量との戦いでもあります。速いだけでなく残量も考えながら、そして回生も行いながら走る必要があるのです。それは本来、ドライバーにしか分からない面ですが、例えばそれらを観戦している人にモニターなどで表示できるようになれば、ドライバーの戦略なども楽しめるようになるのではないでしょうか。今までのレースとは違った面白さが、EVレースにはあると思います。
トヨタ技術会の2011年度プロジェクト、「TES-ERA EV」のプロジェクトは一応ここまでとなります。でも、可能であれば2012年もEVレースに出場したいという意欲はあります。少しでも多くのお子さんにこの「TES-ERA EV」を見てもらい、「大人になったらこんなクルマに乗りたい」と思ってもらえればうれしいですね。

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