開発者インタビュー

86 TRD Performance Line プロトタイプモデル

TRD

ステアリングを操作した瞬間から、官能が走り始める

TRD
開発者
開発者清水 一之氏の写真
清水 一之氏
トヨタテクノクラフト株式会社
製品企画室 主査

2011年のオートサロンで登場した「オーリス TRD パフォーマンスライン」に続く第2弾。86(ハチロク)をベースにした「86 TRD Performance Line プロトタイプモデル」が登場。86(ハチロク)各部に手が加えられ、ベース車とは一味も二味も違った味つけがされたカスタマイズモデルのコンセプトカーであるが、果たしてTRDはどのような味つけを行っているのか、開発担当者に聞いてみた。

開発者清水 一之氏のインタビュー写真

──まずは開発を担当された清水さんのことをお伺いしたいのですが、清水さんの車歴(レビン、MR2、カリーナED、ユーノスロードスターなど)を拝見するとほとんどがスポーツ系のクルマですね。

清水 一之氏(以下清水):

結果としてスポーツ系ばかりになっていますね。今も所有しているアルテッツァ以外はマニュアル車を乗り継いできました。アルテッツァは4気筒マニュアルの設定があったのですが、僕自身は6気筒に乗りたかったので、やむなくオートマにしました(後にマイナーチェンジでマニュアルが設定された)。
アルテッツァは10年以上所有しており、14万キロほど走っています。たいして乗っていないよね(笑)。主に週末のドライブに使って楽しんでいます。
乗り物は全般に好きで、飛行機や船なども好きですが「所有する」歓び、「操れる」歓び、そして「いじれる」歓びがクルマにはあるから好きですね。
クルマは運転することはもちろん好きですが、クルマを手に入れることはメカニズムを手にすることでもあると思うのです。例えるなら腕時計と同じで、そのデザインはもちろんのことメカニズムも所有できる。クルマも同じことが言えるのではないでしょうか。

──清水さんはエンジニアと紹介していいと思いますが、特に専門分野というのはあるのですか。

清水:

入社当初はモーターショーで展示される『コンセプトカー』の製作現場に配属され『モノづくり』を経験、その後異動し設計を長く担当していましたが、TRDの会社の特性上、ありとあらゆるところを担当してきました。『WRCのラリー車』の開発から『コンセプトカー』『量産車両』『特装車両』分野もエンジン、シャシー、ボディー、電装と幅広く経験を積んできました。もっとも『広く浅く』ですが(笑)。会社も最近はエンジニアも増えて専門的な部署に分かれつつありますが、『何でもヤル』スピリッツは今も続いていますよ。

──カスタマイズを行う上で、常に清水さんが留意されることは何ですか。

清水:

まずはベース車を知るところから始めなければいけません。ベース車の味を知った上でTRDのやり方で料理をしていく。その味がどんなものか、まずは知ること、実走することが前提です。そのため、いつも苦労するのはクルマの確保で、特に今回はスバルとの共同開発という事で普段と勝手が違い苦労しました。結果的には関係者の尽力によりクルマを確保し短い期間ながら集中し、ベース車両を理解した上で我々の味に料理できたと思っています。

──清水さんは今回、86(ハチロク)のカスタマイズを担当されたわけですが、苦労した点はどんなところですか。

清水:

ベース車両の基本性能が高いこと、つまり『カスタマイズ』の余地の少ないという事です。車体の剛性からサスペンションのチューニングまで高次元にバランスがとれている素性ですから、我々としては料理する余地が少ないのです、これはクルマのデザインも同様で、初めてあのアグレッシブな姿を見た時に、デザイン担当の方から『我々は何をすればいいの?』といった具合でした。
しかし、結果的にはベースの材料が良かったのでTRDの味をしっかり出せました。
又、実際の開発にあたっては、普段見慣れぬ『スバル車』を借りて理解することから始めましたが、同じ自動車部品でも名称やパーツ番号も両社では異なり普段と勝手が違う事も苦労のひとつです。

開発者清水 一之氏のインタビュー写真

──この「86 TRD Performance Line プロトタイプモデル」の開発にあたり、TRDとして掲げてコンセプトはどのようなものですか。

清水:

「軽快さ」「旋回性」「ステアフィール」を重視した味つけで、高次元でのトータルバランスを狙いとしました。また、トータルでの性能はもちろん、個々のパーツも高いスペックを持ちお客様に作り上げる「楽しみ」も提供できるようにしました。
また、『TRD=サーキット』と捉えられるかもしれませんが、今回の我々のターゲットユーザーは40代以上の年齢層を想定しており、実際お客様のほとんどが日常での使用が前提となり、残りの数パーセントで走りを楽しむような使い方になると思います。そのため、走りを楽しむシーンではしっかり楽しめる事はもちろん、日常での市街地走行においても乗り心地を確保しつつ、低速から操る楽しさを感じられる走行性能も追求しております。
つまり、乗り心地からは想像出来ない高い限界性能を持ち合わせたところが特徴です。

──実際のカスタマイズはどのような段階を経て行われたのですか。

清水:

TRDの味をつくるうえでまずは下ごしらえとしてボディーに手を加え土台をつくり、ブレースやFRタワーバーを追加します。それに新たに装着するドアスタビライザーや、鍛造アルミホイール&タイヤなどが材料となります。これはただやみくもにパーツをつけていくわけではありません。今回の『86(ハチロク)』を例にとると、我々はRRタワーバーも試作しトライしましたが、我々の味つけには合わなかったので設定しませんでした。つまり吟味するわけです。
土台作りのポイントはバランスです。強すぎてもいけません適度なたわみも必要です。それと、並行してエアロパーツでデザインも進めていき、レース活動やCFD解析における知見を考慮しながら、何十枚ものスケッチからデータへとまとめていきます。試作品が出来ると土台つくりの準備を終えた車両に組み付け土台と共に調整し、車高、ばね、スタビ、アブソーバーとサスペンションチューニングをして仕上げていきます。このとき大事なのは前後のバランスです。やみくもに固めるわけではなく『ステアリングを操作した瞬間から官能が走り始める』には非常に大事な部分です。又、『TRD=レース=乗り心地が悪い』と思っていらっしゃるならそのイメージも捨ててください。決して『乗り心地』を犠牲にはしません。『乗り心地』も大事な性能のひとつです。
今回の「86 TRD Performance Line プロトタイプモデル」は最近の作品にしてはやや固めのセッティングですが『乗り心地』もしっかり確保しています。

開発者清水 一之氏のインタビュー写真

──この「86 TRD Performance Line プロトタイプモデル」に装着されているパーツは色々気になるのですが、特にドアスタビライザーというものはあまり聞いたことが無いパーツですね。どんなパーツなのでしょうか。

清水:

クルマのドアにはドアとボディーとの間に隙間がありますよね。ステアリングを操作した瞬間、この隙間があることでほんのわずかですが、ボディーがねじれクルマの反応が遅れます。そこでこの隙間に『クサビ』状のスペーサーを入れることで隙間を『ゼロ』にします。こうすることでステアリングを操作した瞬間からクルマが反応し、クイックなレスポンスを得ることができ『スッキリ』とした仕上げが出来ます。

──イベント会場ではTRD渾身の「86 TRD Performance Line プロトタイプモデル」を見ることができるわけですね。

清水:

はい、自信を持ってお見せできると思っております。ぜひ会場で実物をご覧になって下さい。今回「86 TRD Performance Line プロトタイプモデル」はパッケージでカスタマイズし提案をしてはおりますが、個々のパーツも高いスペックを持っていますので、パーツ単体での販売も行っていきます。
我々は『カスタマイズ』の本来の姿は、お客様が『自由にいじって楽しんでいただく事』だと考えております。よって『カスタマイズ』に正解も不正解もありません。
ですから「86 TRD Performance Line プロトタイプモデル」のパーツをお客様が組み合わせて文字通り『MyCar』創って頂くことも結構と考えております。
ぜひこのクルマをお客様と共に一緒に育てていきたいと思います。

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