チームはすべてトヨタ社員で構成、
レースについては素人同然のチームであった。
いいクルマとはどんなものか、机で議論するのではなく、
皆でレースに出て現場で話そうと考えたのだ。
1周約25km、高低差約300m、
バリエーション豊かなコーナーが170以上もあるニュルは、
世界屈指の難コースで“新車開発の聖地”としても知られていた。
過酷なレースに挑み、
どんなアクシデントが起きるかわからない“生きた道”を走ることで、
“強いクルマ”を作る感覚を磨いた。
よりよいクルマづくりを行うことができる人材を育てる、
それこそがニュル参戦の目的であった。
2年目からの活動は「発売前の開発車両LF-Aを耐久レースを通じて鍛え上げる」がテーマとなった。
モリゾウ選手やマスタードライバーの成瀬弘、トヨタの評価ドライバーもドライバーとして参戦。
市販車開発のための数々のデータを残した。
もちろん予期せぬトラブルも発生する。
ニュルはそう簡単に微笑んではくれない。
レース中に夜を徹してエンジン交換まで行なった年もあった。
通常ならリタイヤを選択するチームも多いのだが、
「何とかマシンをゴールまで送り届けたい」と言うメカニックの想いが
そうさせたのである。その結果、突然のトラブルにも対処できるチカラも生まれた。
「人がクルマを鍛える」のはもちろん、「クルマも人を鍛える」のである。
普段は車両開発を行なうスタッフのため、レースに関しては素人同然である。
参戦当初はルーティーンのピット作業でタイムロスを喫することも多かったが、
レースが進むにつれ、予定の給油作業時間内にタイヤ交換、ブレーキローター、
パッドの交換を悠々と終えられるようになり、大きな成長を感じられた。
トラブルに見舞われても冷静かつ迅速に対処ができるようになった。
その姿に、他のチームのプロのメカニックからも賞賛の拍手が上がったという。
ニュル24時間という極限状態での経験は、通常業務に戻った時にも
しっかりと活かされるに違いない。
LFA、86に加えて、新たに開発実験車両である
LFA Code Xが加わった2014年。
予選、決勝共にトラブルフリーの展開で、
初めて3クラス制覇を達成した。
数年前の素人集団は、チーム力や技術力もアップし、
多少のトラブルなら通常のピットストップの時間内に
修復可能な俊敏な動きを見せた。
ただ、ここがゴールではなく
“いいクルマづくり”へのスタートなのである。
2016年はLEXUS RCに初参戦の車両TOYOTA C-HR Racing、LEXUS RC Fを加えた3台体制で参戦。
よりよいクルマづくりを行うことができる人材を育てるために、新たな挑戦へと走り出す。
技術を伝承し、人材を育成する場としてレースは最高の舞台。大事なことは、
言葉やデータでクルマづくりを議論するのではなく、
実際にモノを置いて、手で触れ、目で議論すること。
いいクルマ作りにゴールはないからこそ、TOYOTA GAZOO Racingの活動はこれからも続いていく。