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マイク・ガスコインに聞く2006.01.14

新型“TF106”は、昨年までのTF105と比較してどこが新しくなったのですか?

「車体前部は、ポテンシャルを非常に高めて昨年終盤に投入した“TF105B”を踏襲している。そして、既に次のモデルとなる“TF106B”はそれ以上の性能を果たすべく開発に入っている。また、車体後部のレイアウトは大きく異なっている。ギアボックスは基本的に変わらないが、より強度を高め、軽量化を推し進めている。それ以上に大きく変わっているのは、過去2年に渡って採用してきた、リアサスペンションのロータリー式ダンパーのコンセプトを取りやめ、リニアダンパーにしたことである。過去2年間に渡って我々を悩ませてきたダンパーの問題がそこにあったことを認識し、正しい方向へと修正した。“TF105B”を走らせたとき、全てのドライバーのコメントは、この車体前部は非常に良いが、車体後部に限界がある、というものであった。彼らは車体後部の不安定な挙動が落ち着くのを待つしかなかったんだ。我々はリニアダンパーを“TF106”のリアサスペンションに採用し、そしてテストにおいて、有意義な改良であることを確認した。新たな車体後部は、より車体前部にマッチし、車体全体のバランスが向上した」

V型8気筒エンジンは、V型10気筒エンジンに比べて10cmほど短くなるそうですが、それに伴うシャシー面での影響は?

「その程度の長さの違いは、大きな影響とはならなかった。今年も、予選と決勝が同じ燃料搭載量で戦われると知った時点で、確実を取って、燃料タンクの前部と後部を、同じ場所にする事を決めた。ブリヂストンからのデータで予測していた限りでは、これまでよりも、重量配分は後に移る。このため、モノコックの長さを増し、ギアボックスの長さは今まで同様に維持した。また、V型8気筒エンジンになることで、ラジエターのレイアウトもやや容易になり、ラジエター自体も小型化できる。これによって、排気管のレイアウトも容易になる。もちろん、排気管が2本減ることも大きな要因だ」

V型8気筒エンジンならではの特徴的な違いによる影響は?

「明らかにV型8気筒エンジンは振動のレベルが大きくなる。それは、実際に車体に搭載する前のベンチテストの時点で分かっていた。しかし、エンジン単体でのテストと、実際に車体に搭載する時点では、マウント方式が異なり、実際に搭載してみないとわからない事も多い。実際に搭載してみると、やはりエンジン単体でのベンチテストとは大きく異なることが分かった。車体に搭載して実際に起きた問題は、予想していたよりも少なかった。しかし、その逆もあり得た。実際にF1カーに乗って走り始めるまで、何が壊れ始めるのかはわからない。我々の優位性は、距離を重ねられることで、より多くの問題を見つけ出せたということだ。ドライバビリティは非常に良く、ドライバーは皆驚いていた。ルカ・マルモリーニと彼のチームは素晴らしい仕事をやり遂げた。V型10気筒エンジンと比較して一番大きく違うと感じる点は、発進時と低回転域のトルクだろう」

タイヤ供給メーカーが変わったことの影響は?

「ブリヂストンは非常に良い仕事をしている。シーズン終了後から冬季テスト開始までの短い期間に多くの情報を与えてくれ、そのお蔭で、我々はどの程度まで期待すべきか、だいたい知ることが出来た。そして、比較的早く“TF106”とのバランスを納得いくレベルに出来た。しかし、もちろんこれからも、タイヤがセットアップに与える影響などについて学んで行かなくてはならない。これまでと違うメーカーなのだから、当然仕事のやり方も多少異なる。それが今年の開幕戦バーレーンGPへ向けて、昨年11月と12月に全く新しいメカニカルパッケージである“TF106”を投入した理由である。我々は、全く異なる“TF106”で、再び一から学び直すことに時間を費やすのを望まなかった。我々は順序立てて取り組むことで、慎重にセットアップのデータを収集し、それが実際にタイヤがどう反応し、影響するのかを学ぶことが出来た。そしてかなり早く“TF106”のバランスを見出すことが出来、嬉しい驚きを感じている」

エンジン面での規則変更は、シャシー面から見て影響がありますか?

「エンジンの規則変更は、車体前部において若干の空力の修正をもたらし、車体後部のクラッシュテストの結果も、車体前部と同程度まで向上した。リアウィングとエンドプレートのサイズが増加させられたことで、クラッシュストラクチャーの長さを増すことが出来た。これによって、より速い速度でのクラッシュにも対応出来るようになった」

ルカ・マルモリーニに聞く2006.01.14

V型8気筒エンジンのプロジェクトをスタートしたのはいつですか?

「V型8気筒エンジンに対する計画を決定しなくてはならなかった時点では、2005年の夏の休暇までに実際に車体にエンジンを搭載してテスト出来ればと思っていた。それが目標であった。通常のエンジン開発においては、デザインと製造に約8ヶ月、そして、テストベンチでの開発にさらに4ヶ月を必要とする。このため、最初のベンチテストの予定である2005年2月の8ヶ月前にデザインが開始された。この間に、FIAはいくつかのサイズに対する制約を規則に加え、このため、我々はボア間やクランクシャフト高など、その他いくつかに変更を加えなくてはならなかった。そして再びデザインを開始した我々は、予定を3月へと延期し、3月21日、エンジンに火入れを行った」

初めてのサーキットでの実走テストはどうでしたか?

「最初のV型8気筒エンジンの実走テストは、7月のヘレス合同テストとなった。しかし、1チーム2台以上は同時に走ることが出来ないという協約を守らなくてはならず、V型10気筒エンジン搭載車の一台が止まっている間の走行に限られた。それはあまり長い時間ではなかったが、我々がいくつかのテストを行い、学ぶには十分であった。数日間で1000km近くを走破した。それはかなり短時間のテストだったが、続く8月のテスト禁止期間内に、既にいくつかの改良も施すことが出来、9月の末には最初のステップとなる2日間のテストを行った。そして10月のテスト禁止期間のあと、11月末には、レースバージョンと呼べるエンジンの用意が出来ていた」

V型10気筒エンジンから引き継いだものはどのくらいありますか?

「明らかな性能向上が伴うか、重要な変更でもない限り、エンジン内部のパーツのほとんどは変更しないと決めていた。2.4リッターの8気筒ということで、気筒当たりの容積は同じであり、エンジン内部のパーツのほとんどはそのまま移行することとなった。いくつかのパーツに至っては、V型10気筒用のものと同じ設計のままである。これによって、我々は新たなV型8気筒エンジン開発にあたり、全く未知の部分、つまり動的な問題に焦点を合わせることが出来た。トヨタは北米のCARTとIRLで、既にV型8気筒エンジンの経験を多く積んで来ていたが、回転数は19000回転までには至っていなかった。このため、それが新たな挑戦となった。これは正しい判断だったと思っている。あの時点で、他に未知の問題を数多く持ったままであれば、本来なら避け得た問題もそこに含まれてしまい、開発進行の妨げになっていたかも知れない。もしV型8気筒エンジンと、V型10気筒エンジンを分解して見ることが出来たとしたら、それらが非常によく似ており、同じグループの人間と、同じノウハウから生み出されたと分かるだろう」

2005年7月の初テストから、何が最も変更されましたか?

「油圧系の全てだ。実車への搭載作業はV型10気筒エンジンの経験を基にして進めた。7月の一番最初のテストでは新エンジンの振動のために大きな問題を抱えていた。もし油圧系が上手く働かなければ、スロットルが使えないことになるため、全てを修正した。V型10気筒エンジンも振動はあったが、我々のシステムは、、そのレベルには耐えられるように作られていた。しかしV型8気筒エンジンの振動は異なり、マウントやその他を調整せねばならなかった。しかし、11月に“TF106”を走らせた時には、エンジンの初期チェックにおいて一度も止まることはなかった。そして我々は、エンジンの信頼性と性能向上に焦点を当てることが出来るようになった。7月にテストしたエンジンは、2006年型の“TF106”に合わせたものでは無かったため、新しいギアボックスに合わせていくつかの小さな修正を行った。しかし、鍵となる構成要素と内部部品に関しては同じエンジンである」

エンジンの最低重量が95kgという規則が初めて採用されますが、どのようにしてこの規則に順応したのでしょうか?

「こう言い換えてみよう。2005年3月に、初めてテストベンチでエンジンを始動した時の重量を計ったなら、それは現在我々がF1で使っているエンジンよりもずっと軽かったはずだ。内部部品は同じだったが、2005年3月時点でのものは、2005年の技術で製造されており、エンジン外側を構成する鋳造部品の厚さや、その他は非常に薄く、非常に軽かった。例を挙げれば、2005年シーズンを戦ったV型10気筒エンジンですら、新しいV型8気筒エンジンの規則よりも軽く、ウェイトを付ける必要があったのだ。鋳造パーツの上におもりを付けることになった時点で、必要以上に薄い部分を持った鋳造パーツを作る必要はなくなった。それと同時に、我々はエンジンの機能統合を進めており、それによって、機能部品の重量を集中させることが出来た」

シャシー開発チームとはどの程度密接に作業をしているのですか?

「F1においてエンジンは車体の一部だ。エンジンが上手く導入されなければ良いF1カーは作れず、絶対に勝つことは出来ないだろう。新しいエンジンを開発する際には、シャシー部門のスタッフとミーティングを行い、新しいエンジンの仕様の多くがシャシー部門からも要求される。シャシーデザインはまた、エンジンの使用される状況を考慮しなくてはならない。性能改善のためにエンジンにも多くの変更を試さなくてはならない。しかし、エンジンは巨大なスペースを必要とし、排気管も同様に大きなボリュームを取る。それを、空力担当のスタッフが、良いF1カーを作るためにデザインしなくてはならない。だから、我々は常に連絡を取り合い、良いF1カーをデザインするために協力し合っている。そして、同時に十分な冷却性能も得られるようにデザインしなくてはならない。全てがひとつ屋根の下で動くことは絶大な利益を生む」

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