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平手、小林がF1テストに参加2006.12.19

平手、小林がF1テストに参加

12月上旬、TDP(トヨタ・ドライバーズ・プログラム)の平手晃平、小林可夢偉の両ドライバーが、スペイン・ヘレスサーキットでのF1合同テストに参加した。小林はすでに前週のバルセロナで、本格的なF1走行を一足先に体験済み。それに対して平手は、今回が初めてのテスト参加となった。

平手が走ったのは、テスト初日の6日だった。前夜に降り続いた雨のため、午前中の時点では路面はまだ濡れている。セッション開始直後の午前9時7分、平手はレインタイヤを装着したTF106Bに乗り込み、コースへと向かった。

ヘレスサーキット自体は、すでにGP2などで走行経験がある。とはいえF1で走るのは、初めて。「まずはクルマに慣れようと、できるだけ慎重に走りました」と、テスト終了後、本人は語っている。その言葉通り、1分28秒前後のゆっくりしたペースで、4~5周の短いランを繰り返す。それでも路面が完全に乾いた午後からは、本格的な周回を開始した。

この段階の平手は、1分23秒台のタイムをコンスタントにたたき出し、すっかりF1マシンに習熟したように見えた。

「GP2のテストを何回かしたことが、ずいぶん役立ってますね。F3から初めてGP2に乗った時は、加速の凄さとかに圧倒されましたからね。ブレーキを踏んだ時も、前に放り出されるかと思った(笑)。それぐらい、違う乗り物でした。それに比べるとGP2からF1の方が、ギャップはずっと少ないですね。でもそうは言ってもF1はやっぱり、減速も加速もコーナリングの速さも、ケタ違いに凄かったです。GP2ではスロットルを戻すところが、F1だと全開で行けたし。挙動も安定してるから、コーナリング中に暴れることもない。最初は、おおって感じでした」。

それでも20周も走るうちに、「そのうち慣れて、こんなものかなと思うようになった」という。走るたびにペースは上がり、スピンもコースオフもせずに73周を走り切って、17人中15番手のポジションに付けた。63周目には自己ベストの1分21秒424のタイムを出している。これはこの日トップのフェリペ・マッサ(フェラーリ)に比べ、ほぼ2秒落ちだった。

このタイムについて平手本人は、「まだ高速コーナーとか最終コーナーのブレーキングで、十分に攻め切れてない。もうちょっと経験を積めば、1秒程度のタイムアップは可能ですね」と、十分な手応えを感じているようだった。

すでにチームに十分溶け込んでいるようで、スタッフからは晃平を縮めて、「ココ」という愛称で呼ばれている。テスト担当エンジニアのジアンビート・アミーコは、「ココは非常に適応の速いドライバーだ」と、高い評価を与えていた。

「ミスのない走りで、とにかく安心して見ていられた。エンジニアに対しても、積極的に話しかけてくる。(同じ日に走った)フランク・モンタニーのデータと突き合わせても、ブレーキングでわずかに負けている以外、基本的な走りは違ってなかった。本人もそれを確認できて、自信を持ったようだったね。新人の場合、2日目にどんとタイムを伸ばすことが多いんだ。ココも2日続けて走らせば、ずいぶん速くなったはずだよ」。

翌7日、平手に代わって2日間の予定で参加した小林は、初日からさまざまなトラブルやハプニングに見舞われた。そのため、この日の周回数は53周。ちょっと物足りない、テスト初日となってしまった。とはいえバルセロナに続いてF1に乗ったことで、クルマへの理解、習熟は進んだと本人は語る。

「今日なりの収穫はありました。高速コーナーの走り方とか、ちょっとずつクルマに慣れてきましたね。何よりノーミスで1日終えられたのが、一番良かったかな」。

そして翌日は、朝のうちかなり強い雨が降り続いた。午前10時頃には止んだものの、路面はびしょ濡れ。昼過ぎまでは、レインタイヤでの走行を余儀なくされた。午後には雲ひとつない快晴となったが、風が弱いせいか路面はなかなか乾き切らない。当然この日は小林に限らず、各ドライバーのペースが伸び悩んだ。

そんな中セッション終盤には、小林のタイムは1分21秒台まで伸びて行く。そして最後に履いたニュータイヤで、1分20秒978の自己ベストをマーク。全17人中11番手に付けた。

「昨日は、高速コーナーで思ったように走れなかった。ラルフ(シューマッハ)のデータを見ると、最初はコーナリングスピードが30km/hも違ってました。その後10kmまで縮まりましたけど、マズイと思いましたよ。それが今日は、ほとんど遜色ないところまで行けました」。

この日総合4番手だったラルフとは、コンマ6秒差。それは、「あちこちでまだ、細かいミスをしている。データ上でいいタイムだけつないでいったら、かなり速い。でもそこまでは、まだまとめ切れなかったから」だと自己分析する。

「可夢偉くんはじっくり感触を確かめながら、タイムを上げて行くドライバーなんです」と技術コーディネーション担当ディレクターの新居章年は語っていた。まさにその通りの進化曲線を描いた、小林の2日間だった。

今回のテストを終えて、平手はこんな感想を語ってくれた。

「F1に乗ることを夢見て来て、そのテストができた。その意味では、すごくうれしいです。ただここ何年かヨーロッパで生活して、F1を身近に感じてきてたんですね。だから、『わあっ、F1だ』、みたいな想いではない。でもとにかく、楽しかったですねえ。毎回コースに出て行くごとに、新しい何かをチャレンジしようと思って、ワクワクしてました」。

そして小林は、こう語る。「僕は基本的に、とにかく踏んで行けというタイプ。コーナリング中に万一何かあっても、自分がこのクルマをコントロールできると思えば、行けてしまう。でも今はまだ、F1カーに対してそこまでの自信がない。欲をかけば、もうちょっと行きたい。でも今回自分で学んだことは、これでいいんじゃないかな。これからひとつひとつ、しっかりやっていこうと思ってます」。

来シーズン、平手はGP2、小林はユーロF3が主戦場となる。とはいえ「二人にはチャンスを見つけて、これからもどんどんF1テストの機会を与えたい」と、新居は言う。そして若手二人に、こんなふうにエールを送るのだった。

「もちろん自分たちのレースで結果を出すのが、来季の一番の目的です。でもF1に乗ることで、さらに多くのことを学んでほしい。そしていつ走っても今回のように、自分本来の実力を出せることを期待していますよ」。

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