新居レポート - 2009 第6戦 モナコGP

モナコGP 新居レポート

2009年5月25日

いつもご声援ありがとうございます。今年のF1グランプリも早いもので、3分の1が消化されました。6戦目の舞台となったのは、世界で2番目に国土が小さいモナコ。モナコGPが初めて開催されたのは1929年というF1の中でも屈指の伝統をもつグランプリです。それでは、さっそく今年で80年目を迎えたモナコGPの報告をいたしましょう。

スペインでの課題、新空力パーツの性能確認が最初の目標

毎年各チームとも大胆な空力パッケージを投入する低速サーキット、モナコ。しかし今シーズンはレギュレーションの変更に伴い、適切なダウンフォースが得られるよう調整してきたので、特別な措置は必要ないと判断した。

モナコGPの舞台であるモナコ市街地サーキットは、高速コーナーがなく、長く曲がりくねっているので、空気抵抗が多少増えてもダウンフォースを稼ぐために、さまざまな空力パーツが投入されるグランプリとして有名でした。しかし、今年は空力に関するレギュレーションが大きく変更されたため、改良できるパーツも限られます。そういった理由から、奇抜なウイングやユニークな空力パーツを投入することはありませんでした。
それでもパナソニック・トヨタ・レーシングは今回も新しい空力パーツをモナコに持ち込みました。前回のスペインGPではせっかく持ち込んだニューパーツを予選とレースに投入することができませんでした。それは必ずしも開発した新パーツの性能が劣っていたわけではなく、金曜日の3時間のフリー走行の中でうまく使いこなすことができなかったからです。そこでモナコGP前に初日のフリー走行のメニューを見直し、今度こそ最新の空力パッケージで戦おうという気持ちで臨みました。幸い、週末の天候も安定するという予報へ直前になって変化してくれたので、この天候を活かしてしっかりと初日から走り込みをしようと予定を組みました。

苦しいフリー走行初日。レーススケジュールを活用しファクトリーと解決策を探す

フロントウイングなど細かな空力パーツを評価確認するなど、慌ただしく滑り出した初日。どうしてもタイヤからグリップ力を引き出すことができなかったため、休息日にもファクトリーと会議を行うなどして対策が練られた。

今回は初日の走り始めから、いつもとは異なり、ふたりのドライバーがともに、路面のグリップ力不足に悩まされました。確かに市街地サーキットであるモナコは、初日は滑りやすいという傾向にあります。また、いくつか新しい空力パーツを持ち込んでいた我々は、午前中のうちにそれらを付けたり、外したりしながらの、慌ただしい走行となったことは確かです。しかし、それを考慮しても木曜日は走り出しからとても苦労しました。
午後に入ってスーパーソフトを履いても状況に大きな変化は表れず、なかなかピリッとしたタイムを出すことができませんでした。グリップ不足は一発のスピードだけでなく、ロングラン走行時の安定性に関しても不安を残す結果となりました。一発のタイムが出なくてもロングラン走行が安定していれば、レースに向けて明るい材料となるのですが、今回は燃料を多く搭載したロングランでも決していいタイムを刻むことができず、土曜日に向けて課題を多く残す結果となりました。
幸い、モナコGPは初日の木曜日の後、2日目となる土曜日までに1日の休息日が設けられおり、モナコとファクトリーがあるドイツ・ケルンとは時差がありません。このため、サーキットのスタッフだけでなく、ファクトリーからの応援を有効に使うことができます。トップチームになるためには、このような苦しい状況をいかに上手に乗り切るかということも大切になってきますので、金曜日中にしっかりと対応するつもりでした。

さまざまなトライも実を結ばず、予想外の結果となった予選

木曜日に抱えていた不安が解消されず、これまでにない予選の結果につながってしまった。クルマは少しずつ仕上がっていったものの、2台とも十分にタイヤがグリップせず、また渋滞にひっかかるなどの不運もあり、今季初めてQ2進出を逃した。

今回の予選は、モナコGP最低の結果というだけでなく、パナソニック・トヨタ・レーシングが02年にF1に参戦して以来、最悪の結果となりました。我々チームスタッフも大きく落胆しましたが、それ以上に深夜にもかかわらず、日本で応援してくださっている多くの方々、世界中のパナソニック・トヨタ・レーシングのファンに対して、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。これまでも予選順位が悪いことはありましたが、今回は予選だけでなく、フリー走行でも光る走りがまったくできず、グランプリがスタートしてコースインした直後から1周も満足の行く走行ができなかったという意味で、我々開発者にとって厳しい週末となりました。
このような結果に終わりましたが、ただ指をくわえていたわけではありません。予選前日の金曜日にテレビ会議でTMGとミーティングを行い、さまざまな打開策を練って土曜日のフリー走行3回目に臨みました。ふたりのドライバーでメニューを変えて、さまざまなセットアップをトライしましたが、どちらのドライバーもグリップ力が向上することはありませんでした。クルマのバランスにも問題なく、単純にタイヤの路面への食いつき感がまったくないという不思議な症状を抱えたまま予選に臨まなくてはならず、チームにとって苦しい予選となりました。
振り返ってみると、前戦スペインGPでも低速区間である第3セクターで苦しみました。カタロニア・サーキットでは低速区間は全体の3分の1でしたが、モナコはコースすべてが低速区間ということで、クルマの短所が顕著に表れたのだと思います。確かに今回、モナコの路面にクルマのセットアップを合わせきることはできなかったわけですが、2台とも第1ピリオドで脱落するようなクルマだとは思っていません。ヤルノ(トゥルーリ)はセクター2までコンマ5秒ほど自己ベストより速かったのですが、最終コーナーで他車に引っかかるなど、不運な面もありました。
いずれにしても、最後尾からスタートすることになったので、思い切った作戦を敷いてレースに臨みました。

異なる仕様の2台から得たデータを収穫に、次戦トルコで雪辱を期す

予選不調の原因を特定できないまま、ティモはセットアップを変更、ヤルノは予選から変更することなく決勝に臨んだ。しかし状況が変化することはなく、2台とも大きな見せ場をつくることなくモナコGPを完走するにとどまった。

日曜日のレースでティモ(グロック)をピットレーンからスタートさせたのは、不調に終わった予選のセッティングでそのままレースを行っても、あまり成果が得られないと判断したからです。とはいえ、予選までの不調の原因を解明できていたわけではなかったので、日曜日の路面コンディションでクルマの状態がどのように変化するかも確認したかったため、ヤルノのセッティングはそのままにしてグリッドにつきました。
スタートで我々は2台ともにソフトタイヤを装着させましたが、これに関してはラップタイムを見る限り、土曜日よりグリップ不足の症状はかなり回復していたと言ってもいいでしょう。ただし、スーパーソフトはドライバーそれぞれで異なる症状が出ていました。ティモは「走り込むにしたがってグリップ力が出る」という評価を下したのに対して、ヤルノは「やっぱり昨日までと同じでグリップがない」という状態でした。ティモがスーパーソフト装着時にベストタイムを記録したのに対して、ヤルノは2セット目のソフトタイヤでマークしたこともふたりの証言を裏付けています。
ティモが最後のスティントでタイヤのパフォーマンスダウンが大きいだろうと予測されていたスーパーソフトを装着して、ほとんどタイムを落とすことなく、安定した周回を刻むことができたことは今後のクルマの開発に向けて大きな収穫となりました。ただ、そのペースもブラウンGP勢やアロンソ(ルノー)のペースと比較すると、まだまだ改善しなければならない課題は残っています。
今回はグリップ不足という問題とともに、木曜日に投入した新しいフロントウイングにトラブルが発生して、土曜日以降に使用することを断念しました。このようにモナコGPは出だしでのつまずきが大きく、力を出し切れないままレースが終わったというグランプリになってしまいました。トルコではこのような事態に陥らないよう、万全を期してサーキットに戻ってきたいと思っていますので、ご声援よろしくお願いします。


モンテカルロでの新居章年。グリップ不足や新空力パーツのトラブルに悩まされ、力を出し切れないまま今回のレースを終える。次戦トルコGPでは再び上位争いが出来るよう、全力でレースに臨む。

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2009 チャンピオンシップポイント

ヤルノ・トゥルーリ
32.5pt / 8th
ティモ・グロック
24pt / 10th
小林 可夢偉
3pt / 18th
59.5pt / 5th

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