新居レポート - 2009 第15戦 日本GP
日本GP 新居レポート
2009年10月5日
いつもご声援ありがとうございます。15戦目の舞台は我々の地元、日本。昨年までの富士スピードウェイから、鈴鹿サーキットに場所を移しての開催となりました。鈴鹿での日本GPは2006年以来3年ぶり。さらに鈴鹿サーキットはリニューアルしたばかりで、日本GPはリニューアル後の初開催です。それでは、さっそく新生・鈴鹿での模様を報告しましょう。
レース直前までアップデートされた8代目“鈴鹿スペシャル”
TF109はエアロダイナミクスの効率を追及、鈴鹿やスパ・フランコルシャンなどを得意とする。シンガポールで前倒し導入した、新空力パッケージに加え、前後に専用ウイングを装着し、8基目となる新エンジンを積んだのが“鈴鹿スペシャル”。
前戦シンガポールGPで、日本GP用にアップデートしたパーツを前倒しで投入し、ティモ(グロック)が表彰台を獲得したことは、鈴鹿への自信につながったことは確かです。シーズン当初から開発を続けてきたクルマで、表彰台獲得という結果を出せたので、今回はそのクルマで表彰台の真ん中を狙うつもりで鈴鹿入りしました。
とはいっても、木曜日の時点で完全な鈴鹿スペシャルは、まだガレージに存在していませんでした。鈴鹿スペシャルの最終版は日本GP開幕直前にTMGで製作され、ドイツから金曜日の午後に到着することになったからです。それ以外の鈴鹿仕様のパーツはすでに揃っているので、フリー走行1回目は暫定仕様で走ることになり、午後のフリー走行2回目から最新型の鈴鹿スペシャルを投入する予定でした。
クルマに関しては、TF109の素性がそもそもシルバーストーンやスパ・フランコルシャンなど中高速コーナーが多いサーキットに適しており、鈴鹿のコース特性もこれらのサーキットに近いこと、さらにクルマをアップデートしていることもあって、今シーズン一番いいレースができると期待していました。心配だったのは、空模様。金曜日が下り坂で土曜日から回復してくると予報されていました。つまり、レースに向けての走行データがほとんど取れないまま、予選とレースを戦わなければならない可能性があったのです。
ただし、条件はみんな一緒。地元グランプリに向けて、自分たちの持てる力を100%引き出すつもりで金曜日に臨みました。
病気のティモは金曜日を休養に。可夢偉がヤルノとともに鈴鹿仕様TF109をチェック
体調を崩したティモに変わり、急遽金曜日のフリー走行を担当することになった可夢偉。雨天にも見舞われた状況下でしっかりとした走りを見せ、ヤルノとともに的確な情報収集を行い、チームからの信頼をより一層高めた。
金曜日は朝8時前にサーキットに到着しました。ところが、しばらくしたら、突然「(小林)可夢偉を呼んでほしい」と頼まれ、「ヤルノ(トゥルーリ)の体調がまた悪くなったのかな……」と心配していたら、「ティモが体調を崩した」と聞いて、本当に驚きました。前日夕方まで一緒に仕事をして、特に変わった様子は感じられませんでした。ところが木曜日の深夜1時ごろに熱が出て、一時は39度にまで達したということでした。そこでチームは雨が予想されている金曜日に無理に走らせるよりも、しっかりと1日休んで土曜日から参加したほうが良いと判断、FIAに金曜日のフリー走行のみをリザーブドライバーの可夢偉に変更する手続きを取りました。
突然の変更にも関わらず、可夢偉は用意したプログラムをそつなくこなし、しかもフィードバックもヤルノとほとんど同じでした。これまで何度もテストで我々のクルマをドライブしていて、すでにチームから高い評価を受けていましたが、今回しっかりとティモの代役を務めてくれて、改めてチームスタッフからの信頼を得ることができたようです。
金曜日は予想通りの雨模様だったので、行えたことはウエットタイヤの交換のタイミングを確認しておくことと、タイヤの内圧のチェックでした。ウエット路面ということで、“鈴鹿スペシャル”の目玉である新しいフロントウイングは投入しませんでしたが、その状況でもクルマのバランスは良かったので、ドライでそれを投入できれば、さらに良い走りができると手応えをつかみつつ、初日を終えました。
ヤルノがアタックでフロントローを獲得。ティモは力走中のクラッシュで負傷
鈴鹿仕様TF109でコースインを待つティモ。予選Q2で非常に速いラップを刻んでいたが、最終コーナーでクラッシュし、決勝は欠場となってしまった。一方、ヤルノの予選はトップから0.06秒差の1分32秒220で2番手を獲得した。
土曜日は予報どおり朝からドライコンディションとなったので、満を持して新しいフロントウイングをフリー走行3回目に投入しました。ヤルノとティモがそれぞれ従来型と新型を試して、ともに新型のフィーリングのほうが良いという意見で、セッションの後半からは完全な鈴鹿スペシャルパッケージで、予選へ向けての最終調整を行いました。その中でヤルノがトップタイムをマーク。順調に準備を進めていました。
予選ではQ1を2台揃って突破したところまでは良かったのですが、Q2でティモがクラッシュ。途中まで自己ベストを更新し、タイム的にも期待できそうなラップの最後の最後だっただけに残念なアクシデントでした。なかなかコクピットから脱出できなかったので心配しましたが、救出されたときの映像でティモが手を振っていたので無事を確認することができました。とにかく大事には至らなかったことは、不幸中の幸いでした。ただし、かなりの速度でタイヤバリアにクラッシュしていたため、土曜日はFIA指定の病院で一夜を過ごし、決勝レースに出られるかの判断は日曜日になってから下されることになりました。
そんなアクシデントがあったにも関わらず、チームメートのヤルノは非常に高い集中力を保って、予選2番手を獲得しました。鈴鹿でのレースは非常にタフな戦いになることが予想されましたが、ここは母国グランプリ。熱い声援を送ってくれる日本のファンの皆さんの応援にこたえるためにも、日曜日はいいレースを披露しようと誓って決勝レースに備えました。
戦略、ドライビング、ピット作業――チーム一丸となって獲得した母国初表彰台
前を走るハミルトンとの差を縮めるため、毎周ベストラップを叩き出すつもりで集中したと話すヤルノ。前年度チャンピオンを攻め続けるのは容易なものではないが、とても楽しんで戦っていたという。チームの日本GPでの最高位、2位を獲得した。
土曜日の予選でクラッシュしたティモは、四日市の病院で検査を受け、一夜明けた日曜日、レース出場の意欲を見せていました。しかし、ブレーキを踏む左足を負傷したことと、背中にも痛みを感じていたので、レースへの出場は断念。次戦ブラジルGPに向けて休養を取る決断をしました。
出場できないティモのためにも、チームが一丸となって戦った今年の決勝レースは、過去7度の日本GPでは達成できなかった素晴らしいレースを作りあげられたと思います。まずスタートですが、KERSの持つパワーをフルに使ったルイス・ハミルトン(マクラーレン)にはかわされましたが、ニック・ハイドフェルド(BMWザウバー)はしっかりと押さえて、3番手をキープしたあたりはヤルノの技術力の高さが発揮されていたと思います。スタートで一時順位を落としてしましたが、チームでも事前に立てていた戦略から、順位を挽回するためのシナリオへ変更する決断を下して、見事に2回目のピットストップで逆転を成功させました。
この逆転の背景にはヤルノがハミルトンとのギャップを、我々が2度目のピットストップで逆転するための条件としていた、3秒以内にとどめる走りをしてくれたことがあります。そしてハミルトンがピットインしてから、ヤルノ自身のピットインまでの2周は 素晴らしいプッシュを見せてくれました。またピットストップでのクルーの完璧な仕事も忘れてはなりません。このように2位表彰台は、チームが立てた戦略、それを実行したドライバー、そしてピットクルーのミスない作業、すべてが揃ったことで成し遂げられた結果だと思います。これまで獲得した表彰台もすべて素晴らしいものでしたが、やはり母国GPでの初めての表彰台は格別なもの。パナソニック・トヨタ・レーシングの歴史の中でも、ベストレースのひとつになったと思います。
しかしながら我々は、まだ表彰台の頂点に立ったわけではありません。今シーズンはあと2戦残っています。念願の初優勝を目指して全力で戦いたいと思いますので、ご声援よろしくお願いします。