2014年3月27日(木)配信

FIA世界耐久選手権(WEC) LMP1ハイブリッド新時代へ
トヨタ・レーシング、2014年シーズンを戦う新型TS040 HYBRIDを発表

3月27日(木)、トヨタ・レーシングは、2014年シーズンのFIA世界耐久選手権(WEC)を戦う新型ハイブリッド・レーシングカー、TS040 HYBRIDを初めて披露すると共に、ドライバー編成の変更を発表した。

南フランスのポールリカール・サーキットで発表されたTS040 HYBRIDは、自然吸気のV型8気筒3.7リットルガソリンエンジンによる520馬力に、ハイブリッド・パワーによる480馬力が加えられ、1000馬力が4輪駆動で路面へと伝えられる、世界で最も進化したハイブリッド・レーシングカーである。

ドライバーの編成は、昨シーズンから若干変更となり、#7がアレックス・ブルツ、ステファン・サラザンと中嶋一貴、#8がアンソニー・デビッドソンとニコラス・ラピエール、セバスチャン・ブエミというチーム編成となる。

新たなトヨタ・ハイブリッド・システム・レーシング(THS-R)は、特に燃料消費量を規制するWEC新技術規則に合わせて開発された。また、動力系統や空力、ドライビングスタイルも多岐にわたって見直され、燃料消費量は2013年シーズンのTS030に比べて25%の削減を目標としている。

今シーズンは流量計により燃料の消費量がモニターされ、レース中、3ラップの平均燃料消費量が規定を上回った場合には、ペナルティが科せられる。1ラップあたりの燃料消費量は、各チームの申告したハイブリッド使用率によって決まるが、トヨタ・レーシングはルマン1ラップあたり6MJ(注)のハイブリッドシステムを採用することに決定した。

また、油脂類に関するチームのオフィシャルパートナーであるトタル社(仏)との共同作業により、トヨタ・レーシングのエンジニアは、さらなる効率とパフォーマンスを見いだした。

新たな規則により、トヨタ・レーシングはより多くのハイブリッド・パワーを得ることとなった。減速時には、モーターを兼ねる発電機(モーター・ジェネレーター・ユニット:略称MGU)と従来型ブレーキの組合せにより減速すると共に、MGUにより回生されたエネルギーはインバータを介して日清紡製のスーパーキャパシタに蓄えられる。一方、加速時には、回生エネルギーが逆方向に移動し、前後のMGUから、合計で480馬力のパワーアシストが得られる。(フロント用MGUとインバータはAISIN AW製、リア用MGUとインバータはDENSO製。)

4輪駆動のハイブリッド・パワーは、自然吸気V型8気筒エンジンと組み合わされ、このどちらも新世代の市販車向け技術を開発しているトヨタ自動車東富士技術研究所のモータースポーツユニット開発部で生み出された。

既にTS030 HYBRIDの開発で得られた技術は、トヨタの市販ハイブリッド車へ活かされている。このようにWECでの技術開発は市販車に直結しており、サーキットから一般道へと技術がフィードバックされることが期待されている。トヨタは1997年のプリウス発売開始以来、これまでに600万台を超えるハイブリッド市販車を販売してきた。

TS040 HYBRIDの車体の設計・開発・製造および参戦活動の全てをドイツ・ケルンのトヨタ・モータースポーツ有限会社(TMG)が行っている。TS030 HYBRIDの進化版となるTS040 HYBRIDは、車両規則変更に合わせて全幅が10cm縮められると共に、一連の安全装備が備え付けられた。

TS040 HYBRIDの車体デザインについては、特に空力的な面で多くの努力が払われ、空気抵抗の低減は燃費向上に寄与している。また2013年シーズンに比べて5cm細くなるタイヤにより低下する路面グリップを補うべく、ダウンフォースも増加している。

TMGが持つ最新鋭の風洞による大規模な開発により、空力効率の高いデザインがなされた。また、最新の複合素材を用いた設計および製造工程により、シャシーは非常に軽量なものとなっている。

さらに、TMGにおける集中的なシミュレーションとコンピュータ解析によりTS040 HYBRIDのデザインは最適化され、実際のコースデータと高性能なコンピュータの計算を元に各要素のテストが行われている。

このような最新技術により、コースでの実走テストよりもさらに効率的な開発が可能となり、エンジニアは、より長い時間をかけて、TS040 HYBRIDのシャシーやレイアウトなど全ての面で最適化を進めることが出来た。

TS040 HYBRIDは今年1月21日にフランスのポールリカール・サーキットで実走テストを開始し、その後ヨーロッパ内で12日間、計18,000kmにおよぶテストをこなした。ポールリカール・サーキットで明日から行われるWEC合同テストの後、チームは開幕戦のシルバーストーン6時間レース(4月20日決勝)へ向けてさらに1回のテストを予定しているが、この開幕戦で、トヨタ・レーシングはライバルのアウディ、ポルシェと初めてレースを戦うこととなる。

木下美明 チーム代表:
我々の夢であるル・マン24時間レースでの勝利と世界チャンピオン獲得へ向け、FIA世界選手権で3年目のシーズンを戦うのを非常に楽しみにしている。チャレンジングな新規則により、もっとも市販車に近い技術を必要とするトップレベルのモータースポーツとして、この耐久レースシリーズの存在価値は高まっている。また、ポルシェという新たなライバルを迎え、この2年間戦ってきたアウディと同様に、共に戦うのを楽しみにしている。我々はWECに参戦してきたこの2年間、非常に多くのことを学んでおり、その全てを新しいTS040 HYBRIDに注ぎ込んだ。TS040 HYBRIDはトヨタがこれまでにサーキットで戦ってきたレーシングカーの中で最も技術的に進んだ車両といえる。我々のレースプログラムから得られたデータや知識、技術の進化が、将来的に素晴らしい市販車両開発に活かされ、トヨタの様々な活動の中で貢献出来ることが非常に重要だと考えている。

村田久武 ハイブリッド・プロジェクト・リーダー
兼モータースポーツユニット開発部部長:

我々のトヨタ・ハイブリッド・システム・レーシング(THS-R)は、規則変更に伴い、大幅に強化された。新規則では大幅な燃費向上を迫られたが、戦闘力維持のためには、我々はもちろん、エンジンパワーを維持していきたい。燃料消費を抑えるために出力を抑えることは、あり得ない。我々はさまざまな可能性を検討したが、最適な解決方法はハイブリッドシステムの性能向上をしながら、エンジン排気量を上げて熱効率を更に改善することだった。我々はエネルギー回生でのハイブリッドシステムを6MJ以上とするのは、重量増によってラップタイプへの影響を受けるというマイナス面があると考えた。減速時のエネルギー量を、全てリアのみで回生するのは十分ではない。このため、規則によってハイブリッドの使用が前/後どちらか1軸に限定される以前の、2007年から2011年まで開発を進めていた4輪回生・力行のハイブリッドシステム概念に還ったのだ。
我々は今や、1000馬力もの強力なパワーを手に入れ、かつ、システムは目標重量に収めることもできた。これがライバル相手にどんな戦いを見せてくれるのか、楽しみだ。

パスカル・バセロン テクニカルディレクター:
我々は、ACOが2012年央に新規則概要を発表した時から、すぐに初期開発とシミュレーションを始め、昨年はできる限りリソーセスを、このTS040 HYBRIDの開発に充てた。空力とシャシー設計のコンセプトとしては、TS040 HYBRIDは新規則で規定される車両寸法を考慮し、WEC参戦後の2年間で学んだものを反映したTS030 HYBRIDの進化型である。新しい規則は、常に挑戦を生み、シャシーと駆動系に関する大幅な規則変更で、2014年に向けては、同時にたくさんのものを変えなければいけないというのが、一大チャレンジであったと思う。主要な変更点は、更に強力なハイブリッドシステムを作ると同時に、最低重量の45kg削減に伴う大幅な軽量化も成し遂げなければいけないという、非常に厄介なものだった。実際それは本当に悩みの種だったが、軽量素材の活用と効率的設計を最大限に取り入れ、我々は目標を達成した。

(注):昨年のル・マン24時間レースでは、1周での回生量は約3.5MJ。今年は6MJまで回生可能となり、昨年比で約2倍となった。

2014年FIA世界耐久選手権 スケジュール
第1戦 4月20日 シルバーストーン6時間(イギリス)
第2戦 5月3日 スパ・フランコルシャン6時間(ベルギー)
第3戦 6月14日 ル・マン24時間(フランス)
第4戦 9月20日 サーキット・オブ・ジ・アメリカ6時間(アメリカ)
第5戦 10月12日 富士6時間(日本)
第6戦 11月2日 上海6時間(中国)
第7戦 11月15日 バーレーン6時間(バーレーン)
第8戦 11月30日 サンパウロ6時間(ブラジル)